二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第二十幕 焦香《こがれこう》 ( No.30 )
- 日時: 2012/07/15 22:58
- 名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)
「月詠姐!」
見回りに行こうとしていた月詠は幼い子供の声に呼び止められた。
首だけを後ろに向ければ、鳶色の髪をした少年が襖の影から顔をのぞかせている。
「どうしたんじゃ晴太。」
鳶色の髪の少年———晴太は隠れていた手を露わにし、そこに持っていたものを月詠に見せた。
「電話だよ!」
———あ、月詠さんですか?新八です。
受話器の奥から聞こえてきたのは月詠のよく知る地味な少年の声だった。
「よお、何か用でもありんすか。」
そう返すと新八はすいません突然、と謝罪し声のトーンを少し落とした。
———あの、銀さん来てませんか?もう三日近く万事屋に戻ってきてなくて……。
「三日もか?」
坂田銀時という男はダメな大人の見本のような人物である。
しかし、今まで朝帰りすることはあっても二日以上家を空けることはなかった。
もちろん仕事の時は別だが。
月詠は嫌な予感がして、知らず知らずのうちに電話のコードを握りしめていた。
「わっちの知る限り銀時は吉原に来ておらん。もし見かけたら連絡しよう。」
平静を装いつつも、月詠の声には抑えきれない緊張が含まれていた。
***
新八は受話器を置いた。
カチャリ、という安っぽいプラスチックの音が耳につく。いつもなら気にも留めない音がよく聞こえるのは、この店の主人が不在であるためだ。
「ツッキーのとこもダメだったアルか。」
いつもは彼と共に大騒ぎしている神楽も、今はソファーの上で膝を抱えている。
新八はそんな彼女の向かい側のソファーに座った。
「どこふらついてるアルかあの天パ。三日も帰らないなんて、そんな子に育てた覚えはないネ。だからいつまでたってもマダオなんだヨ。」
その毒舌にもいつものような覇気がない。
新八は膝に顔を埋める神楽を見て、意を決したように口を開いた。
「神楽ちゃん、明日真選組に行こう」
「!本気アルか!?嫌ヨ、あんなチンピラ共頼るなんて!」
真選組、という単語を訊いた途端、神楽は早口でまくしたてる。しかし新八は毅然とした態度を崩さない。
「神楽ちゃん、」
いつになく静かな声音に、神楽の口からこぼれていた不平不満がピタリと止まる。
「銀さんを見つけるには真選組に相談するのが一番だと思うんだ。」
そう言うと、新八は弱々しく微笑んだ。
「銀さんをぶん殴るんでしょ?」
神楽は顔を伏せ、わずかに首を縦に動かした。
それを見た新八はソファーから立ち上がり、まっすぐに台所へと向かう。
置いておったエプロンを身に着け、未だ膝を抱えたままの神楽に明るい笑顔を向けた。
「さ、夕ご飯作ろっか。神楽ちゃんも手伝って!」
そしてすぐに台所の奥に引っ込む。
残された神楽は、目じりに浮かんだ液体を拭うと新八の後を追った。
やっとこさツッキー登場。長かった……。