二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 桂小太郎誕生日小説 胡蝶と青花【弐】 ( No.7 )
- 日時: 2012/07/08 22:57
- 名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)
*先生の目の色捏造。
夜が更けた。
今日中に医学書を写本してしまおうと、俺は蝋燭の火を頼りに筆を動かしていた。
だが、流石に三刻以上も紙面を見ている目が疲れる。
一休みしようと筆をおいた時、部屋の襖がスッと開いた。
「おや、遅くまで大変ですね。」
入ってきたのは松陽先生だった。髪が少し濡れているところを見るに、風呂上りか。
「先生、それは……?」
先生の手元を見ると、そこには陶器の小鉢に入れられた青い紫陽花があった。
先生はクスリと微笑すると、それを蝋燭の隣に置く。花の表面に付いた水滴が炎に閃き、
ゆらゆらと光を反射した。
「あまりに綺麗だったもので。つい摘んでしまいました。」
確かに花屋のもの程ほど立派ではないが、小さな花が幾重にもかさなり、とても美しい。
「小太郎。」
花に見惚れていた俺は、ハッと我に返る。
俺を現実に引き戻した張本人は蜂蜜色の瞳を優しく細めていた。
と、その時。
唐突に視界が歪んだ。
周りの景色がぼやけ、霞がかかり徐々に黒に侵食されていく。
目の前が暗くなる直前、先生の口が
『 。』
と、動くのを俺は確かに見た。
***
「・・・・、・・せい。桂先生!」
意識が浮上する。
目をかすかに開くと、見慣れた顔がそこにあった。
「全く、根詰めすぎですよ。」
呆れたように嘆息する緒方をぼんやり見つめていると、麻痺していた脳が活動を開始する。
そうか、さっきまでのは———
「夢、か。」
「?何か見たんですか?」
そう言いつつ、緒方は部屋に散らばった紙片を拾い集め始めた。
どうやら俺は、手紙を書いているうちに眠ってしまっていたらしい。
それにしてもリアルな夢だった。
胡蝶の夢とはよく言ったものだ。
「……ん?」
ふと、文机に視線を移すと青い花が目に留まった。
白い小鉢に入れられたそれは形も、付いている水滴の位置さえも全く同じだった。
「それはさっき坂田隊長が持ってきたんですよ。」
紙を集め終わったらしい緒方が、俺のそばにやってくる。
俺は花を手に取り、様々な角度から眺めた。水滴が日光を反射して銀色に閃く。
「あ、そうだ。」
今思い出した、という風に声を上げ、緒方は白衣の内ポケットをまさぐり始めた。
「これ、坂本隊長と高杉総督から。」
やがて出てきたのは、あのぬいぐるみと細長い箱。箱の方には青いリボンがかかっている。
「……なるほど、それでか。」
緒方が怪訝な表情を作るが、俺は口元に浮かんだ笑みを消すことができなかった。
やっとわかった。閃が夢の中で笑っていたわけが。
あの箱は閃からではなく晋助からのものだったのだ。
ひねくれ者の奴のことだから俺に箱を渡すよう、閃に頼んだのだろう。
真相を知らずに箱を受け取った俺は、彼からしてみればひどく滑稽だったに違いない。
「……先生?」
おっと、こいつのことを忘れていた。
長時間同じ姿勢でいたせいか、固まっている体を無理やり動かし立ち上がる。
青い花を小鉢に戻し、緒方から紙の束を受け取った。
「行くぞ。」
どこに、とは言わない。緒方も尋ねはしない。
今日見た夢を正夢とするために俺は進む。進まなければならない。
もう一度、先生からあの言葉を引き出すために。
「桂先生、」
後ろにいる緒方が口を開く。俺は立ち止まらずに何だ、とだけ返す。
「『誕生日おめでとうございます。』」
俺は口元が緩むのを感じながら、部屋の戸を閉めた。
閉まりきる直前、どこからか吹いてきた風が、青い紫陽花を揺らした。
胡蝶と青花
(来年のこの日に、)
(あなたの『おめでとう』が聴きたい。)
・無理矢理終わらせた感が否めない。
とにもかくにもおめでとうヅラ!!