二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 黒子のバスケ〜二人で一つ〜 ( No.324 )
日時: 2012/10/21 15:35
名前: このみ (ID: cSy8Cn7x)

第25Q 「その言葉の意味」


黄瀬side


赤司っちの命令で、なつきっちと1on1をすることになった。
なつきっちは絶対無理!という泣きそうな顔をしている。
しかも赤司っちは、なつきっちに勝てと言った。
それはつまり、俺が負けるということで。
俺だって、体力作りも何もしていない女子に負けるつもりは毛頭無い。なつきっちには悪いけど、勝たせてもらう。
先に5点した方が、勝ち。
余裕だ。
俺は軽くアップをして、審判の赤司っちの前に立った。
なつきっちは泣きそうな顔のまま、更衣室に向かっていく途中だった。
それをぼんやりと見つめていると、黄瀬、と赤司っちに呼ばれた。
なんだろうと横を見ると、赤司っちは真剣な顔で言った。

「なつきに勝て」
「そんなの当たり前っスよ」
「甘く見るな」
「……?相手は体力なんて全然無い女子っスよ?」
「……ハァ。甘く見るな、と言ったんだ。あいつは、体力なんて無くてもお前に勝てる。それに、体力がないという訳ではないだろう」
「は?俺に勝てる?無理っスよそんなの。てか、見た目から筋肉なんてどこにも……」
「あいつは毎日一人でこのバスケ部の雑用をこなしている。雑用の量は半端じゃない。自然に体力はつくものだ」
「……だからって、俺には勝てねぇっスよ」

そうだ。いくら体力があったとしても、バスケの技術はどうなる?
桃っちによるとなつきっちは、もう一年くらいはバスケをしてないという。
対して俺は、二年になってから毎日バスケットボールに触れている。青峰っちと1on1もしている。勝てたことはないけど。
その俺が、負ける?あり得ない。

「いいか、黄瀬。確かに1on1ではなく普通の試合だったらお前が勝つだろう。だが、これは1on1だ。それを忘れるな」
「……」
「もう一つ言っておいてやる」
「……?なんスか?」
「なつきに、ボールを渡すな」
「……は?」

そう言ったとき、なつきっちが更衣室から出てきた。
黒子っちのを借りたのか、Tシャツ、短パンだった。ぶかぶかだけど。
いつものパーカーは桃っちが抱えていた。
なつきっちはうっすらと汗をかいていて、アップをしたことがうかがえる。
なつきっちは俺の前に立つと、俺を見上げながら、困ったように笑いながら、それでいて真剣な声で、言った。

『涼ちゃん、私……勝てるか、わからないけど……。頑張る、から……』

『お手柔らかに』

目をうっすらと開け、眉を八の字にするのをやめ、唇の端を同じ高さまで上げて笑った彼女はとても綺麗だった。
だけど、それ以前に、その目が怖かった。
その表情から目がはなせなくて、固まっていると、なつきっちは笑うのを、やめた。
口は軽く開き、すう、と息を吸い込み、目は俺を睨み付けるような感じ。
無表情。
いつものなつきっちはそこにはいなかった。
怖かった。怖かったけれど、俺は負けるわけにはいかない。
だから俺は、それでも自分が勝つと信じて、ホイッスルが鳴るのを待った。

赤司っちが言った、その言葉の意味もわからずに。