二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 黒子のバスケ〜二人で一つ〜 ( No.421 )
日時: 2012/11/04 13:54
名前: このみ (ID: q7aY8UsS)

第33Q 「関係」



あの質問した日から、2週間が経った。
みんなは、もうもとには戻ってくれない。
私がどれだけ叫んでも、彼らは、自分の道をいく。
取り残された私とテツ君。見ていることしか出来ない私達。
もどかしくて。悲しくて。
いっそのこと、自分も変わってしまいたい。そう思ったのは数回ではない。
でも、私には楽になるために誰かを切り捨てるなんてことは出来なかった。
だから、約束した。テツ君と。

『私、高校生になったら、絶対みんなを、変えてみせる』
「はい。僕も、変えてみせます」
『だから、お願いだから』「だから、お願いですから」

『テツ君だけは、』「なつきさんだけは」


『「変わらないで」』










「なつきー。帰ろー」
『……ごめん、敦。私、今日寄る場所があるから、……先に、帰ってて』
「んー。わかったー」

ごめんね、敦。
でも、先に私から離れたのは、敦だよ。みんなだよ。
私に離れるな、なんて、言える立場じゃないよね。
ていうか、みんなはそんなこと言わないか。
うん。言わないね。
じゃあ、私……君たちから解放されても、いいよね。いい加減。
だってさ、もう…………。


疲れた。










「えぇ!?本当にいいんですか!?こんなに綺麗なのに……」
『いいんです。お願いします』
「失恋しちゃったんですか?」
『……そんなもの、です』






次の日の朝。


「おや、今日はなつきと一緒じゃないのかい、桃井」
「……なっちゃんなんて、知らないっ!」
「……?まあ、いい。遅刻しているわけではないからね。
青峰も珍しく来ているし」

その時、体育館の扉が開いた。
入ってきたのは、なつき。
昨日と全然違う、なつき。

『おはよう、黄瀬くん』
「え、あ、おはよッス……?」

『おはよう、緑間くん』
「……あぁ……。……?」

『おはよう、青峰くん』
「お前……」

『おはよう、紫原くん』
「なつき……?それ……」

『おはよう、赤司くん』
「……あぁ、おはよう」


なつきは近くにいた人から挨拶をして、一番奥にいた俺のとこまでつかつかと歩いてきた。
そして、封筒を差し出した。
俺はそれを黙って受けとる。中身は……。

退部届。

俺は顔を上げる。
そこには、髪がバッサリと切られたなつきの姿。
腰まであった髪は、肩までになっていて、軽くパーマもかかっている。
それに、呼び方。
今まではあだ名で呼んでいたのに、何故か名字にくん付け。
どういうことだ。

「どういうことだい」
『そのまま、だよ。私、辞めるから』
「……わかった」
『……バイバイ』

彼女はくるりと回って、つかつかと黒子のところまで歩いていった。
そして。

『ごめん、ごめんテツ君』
「……なつきさん」
『私、逃げる』
「……はい。わかりました」
『でも、約束は、守るよ』
「はい」
『ごめんね』

俺たちにとっては意味のわからない会話をしたあと、彼女は体育館の入り口に向かった。
しかし、その前に、桃井が立ち塞がった。

「どういうこと、なっちゃん」
『聞いてたでしょ。そのままの意味だよ』
「なんで、そんな髪まで切って、しかも辞めるって……」
『髪を切ったのは振り返りたくないから。辞めるのは、私がもうここにはいられないと思ったから』
「なんで!」
『さつきちゃんだって、気づいてるでしょ?』
「……気づいてるよ!でも辞めなくたっていいじゃない!」
『私はみんながみんなでなくなっていくのを黙ってみていられるほど強くない!!さつきちゃんと一緒にしないでよ!
それにさつきちゃんだって変わった!
みんなよりはいいけど、それでもさつきちゃんは変わったよ。
もう、私の好きなさつきちゃんじゃない』
「……っ!私が情報収集を一人でやるようになったから!?それはなっちゃんより適切だと思ったからなんでしょ!?」
『確かに、みんなの変化に気づいたのはさつきちゃんが一人で情報収集をやるようになったから。それに対しての不満はない。さつきちゃんがやった方がいいって分かってるから。
でも、それだけじゃない。
さつきちゃんは、今のみんなを、見てみぬフリをしてるでしょう!?気づいていても、どうにかしようとは思わないんでしょ!?』
「…………それは、」
『とにかく、私、辞めるから』

なつきは桃井の横を通って体育館を出た。
俺たちはただそれを見ていた。

「……なつきっち、なんで俺たちの呼び方変わってたんスか?」
「……私となっちゃん、小さい頃、大喧嘩したことあるんだよね。
その時、なっちゃんは私のことを『さつきちゃん』って言った。
呼び方が変わっただけ。それ以外はいつもと変わらなかった。
でも、どこかそっけなくて……。
仲直りしたら、呼び方は戻った。でも気になったから、なんで呼び方変えたのって聞いたら、なんて答えたと思う?

『呼び方なんて変わってた?』

って。
完全に無意識なんだよ。あの子。
一回怒鳴ったあとは、あの子はなにもしない。いつもと変わらずに接してくる。
きっと大人たちに迷惑をかけないように、我慢してたんだろうね。
そんなあの子の、唯一の抵抗っていうのかな、それがさ、呼び方を変えることなの。
呼び方を変えて、一線を引くことが、あの子なりの我慢の仕方。
みんなの呼び方が、私の呼び方が変わってたのもそれとおんなじ。
怒ってるんだよ。顔に出てなくても」
「……でも、俺たちなつきっちを怒らせるようなことなんて、してないッスよ?」
「…………」

紫原は、そんなことは俺に関係ないと思っていた。
だってなつきは自分の彼女だ。
呼び方が変わろうが、彼女だという事実は変わらない。
そう思っていた。


しかし、そんな彼は、放課後、彼女の口から告げられる言葉に固まることとなる。
その言葉は。


『別れよう、紫原くん』




(少しずつ、)
(音をたてて崩れ始める)
(俺たちの関係)