二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 願わくばそれが、愛でありますように 《前編》 ( No.1 )
- 日時: 2012/09/23 10:16
- 名前: 花ゑ (ID: T6JGJ1Aq)
高校を卒業し、大学に通いつつ私は赤司くんといわゆる同居をしている。
大学からそれなりに近い1LDKの新築アパートである。
手を繋いだ。キスもした。それ以上のことも・・・片手で数えられる程度だがした。
高校一年生の入学式でひょんなことからお近付きになった私たちは卒業する頃には"なんとなく"流されるままそんな関係になっていた。
恋人と呼んでもさほど問題はないといっても過言ではないのだが、というのも一緒に暮らすに辺り赤司くんから直々に「これは同棲ではなく同居だ」と念を押されてしまったのだ。
では私と赤司くんのこの奇妙な関係は一体どういう名称が当てはまるのだろうか?
彼と朝の食卓を囲みながらそんなことを考えあぐねていた。
「ねえ赤司くん」
「なんだい」
こんがり焼けたトーストにバターを塗りながら話しかける。
対する赤司くんはお味噌汁に口をつけていた。そんな所作のひとつひとつすら、美しい。
作法の行き届いた立ち振る舞いからしてもしかしたら赤司くんは実はとても凄いお家柄の子供なのかも知れないと密かに思っている。直接聞いたことはないけれど。
パン派の私とご飯派の赤司くん。
机を囲んで向き合って同じように朝食に手をつけているのに、食材は全く別のもの。
なんというか、もうすっかり慣れてしまった光景ではあるのだがやっぱり奇妙だ。
そして私は先を促す彼に従って前々から薄ら思っていた疑問を口にする。
「赤司くんと私ってその、世間的にいう・・・せ、せふれってやつなの?」
性処理のためだけの、利害関係で結ばれた打算的な繋がり。
肯定されたらそれはそれで悲しいものだが恋人でもない男女が身体の関係を築いてしまったということはつまり、そういうことなのだろうか。
けれど私と赤司くんはほんの何度かしかそのような行為を致したことがないわけだし、それだけなら毎日顔を合わせなきゃいけない同居なんて面倒くさいことにしかならなそうなことをわざわざ赤司くんが持ち掛けてくるとも思えないし、そういう目的ではないのだと信じている。というか信じたい。
そして私のそんな願いが通じたのか、赤司くんはあからさまに表情を歪めた。
「心外だな。僕がそんな下劣な人間に見えるのか」
「め、滅相もないです」
醸し出される威圧に思わず萎縮してしまう。
けれど、なら尚更だ。
彼のご機嫌を更に損ねてしまうかも知れないと思ったが意を決しておずおずと私は口を開く。
「じゃあ赤司くんと私は一体どういう関係で結びついているの?」
友達、というには進みすぎている。
セフレ、ではないと彼が言ってくれた。それも嫌そうな顔して。
恋人、ではないと予め彼から教えられている。
なら・・・・・・浮気相手? 私が? 赤司くんの本命は別に!?
難しい顔して唸る私の思考回路などお見通しなのか、赤司くんは呆れたように「僕はお前以外とキスしたことすらないよ」と釘を刺されてしまった。
というかさらりと衝撃的な事実を聞いてしまった気がする。
私以外と・・・キスしたことがない・・・!?
- 願わくばそれが、愛でありますように 《後編》 ( No.2 )
- 日時: 2012/09/23 12:17
- 名前: 花ゑ (ID: T6JGJ1Aq)
「うっそだー!!」
「うるさい、静かにしろ」
「・・・・・・あい」
お灸をすえられてしまったので大人しく口を噤む。
湯気の立ったマグカップに注がれたホットミルクを喉に流し込んでいると今度は赤司くんが口を開いた。
「僕が一緒に暮らそうと言ったときのことを覚えているかい」
「勿論ですとも」
大学が離れてもお前を傍に置いておきたい。
卒業する日、確かにそう言われた。
一字一句間違いなく、憶えている。
だって赤司くんと離れ離れになってしまうことに私は少なからず寂しさを感じていたから。
別々の大学に通えば赤司くんのことだ。連絡だってそのうち絶たれてしまうだろうと思っていた。
だから純粋に嬉しかったのだ、その誘いが。
けれど次の彼の一言で私のだらしなく緩んだ頬だって固まってしまった。
「お前は僕の犬だから」
にっこりと綺麗に微笑む彼が悪魔に見えた。
つまるところ赤司くんにしてみれば私はペットであり赤司くんは飼い主であり、ペットは飼い主に飼われるのが当たり前だという。
嬉しいような、悲しいような、複雑な思い出だ。
「・・・・・・思い出した。そういえば私、赤司くんの犬だったね」
引き攣る表情を覆い隠すように苦笑いしてみるが存外虚しいものだった。
私と赤司くんの関係は飼い主とペットだった。
人間以下。対象外。
薄々分かっていたがその事実は私を凹ませるには十分すぎるものだった。
「それも訂正するよ」
「へ?」
「一緒に暮らしていくうちに分かったんだ。僕は別にお前が僕の犬だから傍に置いておきたかったわけじゃない」
それはただの独占欲の間違った表現方法だったと彼は言う。
間抜けにも口を開けてぽかんとする私にお構いなしに彼は続ける。
「月並みな言葉で言うなら、お前を好いているんだろう、僕は」
思いもよらない言葉に思わずかじりついていたトーストを落とした。
「どうかした?」なんて意地悪く笑う赤司くん。
わかってるくせに、なんてずるい人だ。
ああ、心臓がうるさい。
顔に集まる熱を隠すように手のひらで顔を覆うと赤司くんのクスクスと笑う声が聞こえた。
いつもよりも、甘い朝に目が眩んだ。