二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.26 )
日時: 2012/11/16 21:52
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第十一話 『名前のない感情』

「まぁ、弟の犠牲の上に生きて、兄貴が救われるわけねぇけどな」

言いたいことだけ言って逃げた。
逃げたって言ったらあれだが、大げさな表現じゃないと思う。
剣城に背を向けて走ってきたわけだし。
病院で廊下は走っちゃいけねぇから、すぐに歩きに変えた。
剣城が優一さんの見舞いに来たように、おれも見舞いがあって来た。
そこにかけられている名前は

【雨宮 太陽】

そう。
太陽は入院生活が長い。
病気を患って激しい運動を止められている。
サッカーなど運動量が多いものはもってのほかだ。
本当は学校に行くのも医者から止められているらしいが、四月だけ、一ヶ月だけ登校許可が下りて新雲に来ていたそうだ。

「よぉ」
「あ、尊!来てくれたんだ!」
「暇つぶしだ」
「ヒド!!」

太陽は半分涙目だ。

ここ最近、どうしてだかおれは太陽にいい感情が抱けなくなってきていた。
毛嫌いするほどではないが、どうしても以前のように普通に仲のいい仲間でいられない。
皮肉混じりに話すのはおれの性分で、太陽の屈託のない明るさと相対するものと言っていい。
だが、その性格のおかげでか、互いに足りないものを補っては信頼を強くしていた。

最近は、少し太陽とおれの間に溝ができたように感じることがある。
この感情がなんなのか、自分でもよく分からない。

「なぁ、太陽」
「何?」
「お前、ホーリーロードはどうするんだよ」

太陽は真下に俯いた。
こいつは憂いた顔も綺麗だとか、頭の中でふざけたことを抜かしてるおれがいる。

「出たいよ……。今すぐ病院を飛び出して練習に行きたいくらいにね」
「……………………」
「でも、病気は一向に治らないから…イシドさんと協議中なんだ」
「そうか……」

聖帝—イシドシュウジ—……
フィフスセクターの最高権力者。
勝敗指示を通達し、学校の価値を振り分けている最悪の男。
だが、おれ達新雲学園サッカー部は聖帝の真意を知っている。
太陽の才能を買って色々と話を聞いてくれる。

「尊はホーリーロード出るんだよね?」
「あぁ。狩部監督が無理矢理スタメンに入れた」
「ははっ。監督ならやりそうだね」

太陽がまさしく日のように眩しく笑った。
普通は、このシチュエーションだと一緒に笑ったりとか、呆れるんだろう。
だけどおれは、心底いらついた。
同時に、妙に胸がざわつくことも覚えた。

くそ……!!
何なんだこの感じ。
誰でもいいからこの気持ちに名前をくれ………!!

「僕、尊と…サッカーがしたいな……」

太陽はサッカーボールを両手に持って、そいつを見つめた。
10年に一人の天才プレイヤーと、サッカー始まって以来の最弱のプレイヤーがサッカーしたって相手になるかよ。
この時おれはちょっとグレていた。

「……いっちょやるか?」

ため息混じりに言ってみた。

「え?いいの!?」
「おれじゃお前の相手にならねぇと思うけど」
「それでもいいよ!!僕は尊とサッカーがしたいんだ!!」

思わずにやける。
うちのエースはうれしいこと言ってくれるぜ。

「外出ようぜ。軽くやるだけなら大丈夫だろ」
「うん!!」

犬みてぇだな。
おれとサッカーがしたいってキャンキャン言ってる太陽を見て思った。