二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜リベロ永久欠番〜 ( No.62 )
日時: 2012/11/25 19:36
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第23話 『武運を祈る!!』

あの美人、隙がなかった。
大体の女は勝負事にはあまりこだわってない傾向が強いため、どこか平和ボケして隙が出来やすい。
それか、理想を描いたり、憧れてばかりでそこまでの女で終わる。

でも、あの女—ひと—は違った。
内側から輝いていて、本当に綺麗だと思った。
外見の美しさは所詮彼女にとって仮面で、その仮面のうちに秘めている燃え尽くされるほどの情熱や誇り、高いスペックが彼女の本当の麗しさ。
選手にしか分からない百戦錬磨の風格があった。

「あの!」

放課後、廊下であの人を呼び止めた。

「あの、おれの勘違いかもしれないんすけど、もしかして——」

おれは今、とんでもないことを言おうとしている。
間違ってたら大恥だ。
でも、今は胸が高鳴って抑えられない。
鼓動が早くなる。
全身の細胞がこの人を前にして張りつめていた。

「優樹菜・オリビア・プリンスさんですか?"愛媛の三戦強"の一人で、うちの担任の幼馴染み。9年前、イナズマイレブンのDFだった」
「いかにも」

この時代劇みたいな喋り方、間違いねぇ!!

「おれのこと覚えてますか?和藁尊です!」
「無論。そなたほど特殊な選手は初めて見たからのう」
「あの時、何でおれを日本に来るように言ったんですか?」

オリビアさんの目が、かすかに細められた。

「選手が欲しいなら、他にもいたはずです。"絶対的ストライカー"のラファエル、"桃色十字"のレティシア、"ダイヤモンドGK"パトリス。なのに…パスカットとアシスト以外能がないおれを呼んだんですか?」
「…………そなたに…大輔様を見たからじゃ」
「大輔…様……?」
「"愛媛の三戦強"を存じておるなら分かるであろう。蜷川大輔殿じゃ」
「え………!?」

おれは目を見開いた。
驚愕のあまり、口が乾いてかさかさになった。

「おれに、蜷川選手を重ねた……?」
「そなたのスピードは、大輔様の"時空間ドリブル"によう似ておる。気がつけばいつの間にかそこにおって、あっという間にボールを奪い去る。試合の流れを牛耳っておるプレーじゃ」
「そんなストレートに言わないで下さい。……照れるんで」
「照れると言う割には真顔ではないか!!」

あの憧れのオリビアさんに突っ込まれた。
こりゃ、いつ死んでもいいな。
おれの13年の人生十分幸せだった。

「それと同時に、尊く感じた。そなたはチームメイトに"この者に、勝利を捧げたい"と思わせる器じゃ。“勝利の王子”たる由縁はそこにあるのであろう……」

まさか……!
おれが今まで一度も試合に負けたことがないのは、無意識の内にチームメイトを勝利へ渇望させていたからか?

「わたくしが思うに、そなたは勝利を望んでおらぬのであろう?」
「はい……」
「一度でも、負けたいと……そう申すか?」
「いや……。おれは…勝つか負けるか分からない、ギリギリのゲームがしたいんです」

オリビアさんは何も答えない。
おれも黙る。
深い紫の双眼がおれを視線で射る。
スカイグレーの目にはオリビアさんが映っている。

「ならば、ホーリーロードを勝ち進むことじゃ。このまま新雲が勝ち、準決勝まで行ったならば、雷門とぶつかる。そこに、そなたの友がおる」
「おれの……友達が…雷門に?」
「名はラファエル・アルドワン。先日フランスより参った選手じゃ」
「……わかりました」

おれは礼儀知らずだが、駆けだした。

「どこへ行く!?」
「練習ですよ。わざわざ遠い異国から客が来てるんすよ?」

いったん立ち止まって、オリビアさんに親指を立てて見せた。

「新技—茶と菓子—の一つや二つ、出してやるのが迎える側の礼儀ってもんでしょうよ!!」

オリビアさんは信じられない、とでも言いたげに驚いた。
が、すぐに静かに笑った。

「武運を祈る!!」