二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜リベロ永久欠番〜 ( No.93 )
日時: 2012/11/30 20:30
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)
参照: http://名前やっぱ戻す

ハーフタイム突入!
息抜きに短編書いていいっすか?
ダメって言われても、いいって言われなくても書く!!

・時間軸は10年前のFFIの翌年のFFI
・舞台はライオコット島
・不動とうちのオリキャラ、オリビアがベンチで話してるだけ

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Episode of Prince『君がため』

少し疲れて、一息つこうと、オリビアは秋に渡されたボトルで水分補給をしていた。
練習でいい汗をかいた後、喉を通るものは何でもうまく感じる。
しばらくすると、隣に不動も休憩に来た。

「ご苦労です」

ここだけは譲れない!と、オリビアは不動にボトルを渡した。

「サンキュ」

当たり前のように不動は差し出されたボトルに口づけた。

「優樹菜さぁ————」
「はい。何にございましょう?」
「何でDFなの?」

シーン…………となった。
オリビアはオリビアで、こんな質問が来るとは露にも思っておらず、不動に至っては彼女の無反応は全く予想の範疇になかった。

「何故、とはいかなる意にございましょうか?」
「お前のプレー見てていっつも思うんだよ。DFより守備型のMFの方が向いてんじゃねぇかって。
そもそもDFってあんまり好き好んでやる奴いねぇだろ?だから、優樹菜が何でDFやってんのか気になった」

そういうことだったか。
オリビアは合点が行った。
理由らしい理由といえば…これしかない。

「母上様の名代です。わたくしの母、プリンス加賀見京香はかつて、世間の注目を我が物としたDFでした」
「知ってる」
「しかしながら、当時はおなごがスポーツをすることへの理解が低く、日本代表に選ばれる実力と資質を兼ね備えながら、環境に恵まれなんだ母上は現役を退いたのです。
そのことを母上から拝聴した時から、わたくしは母上の夢を引き継いでDFになりたいと思い立ち、サッカーを始めました」
「ふ〜ん」

不動はベンチに寝っ転がった。

「……で?」
「あなた様が聞いたのではありませぬか!!」
「いや、おれが聞きてぇのは何で今もDF続けてんのってこと。何か理由あんの?」
「理由は………」

一つ、ある。
だがしかし、これを言ってしまってはこの男におちょくられるのが目に見えている。
どう言えばうまく丸め込める?

オリビアは無い頭を使って必死に考えた。

「ねぇの?」

不動が催促するように視線を投げかけてくるもんだから、オリビアは邪念を振り払った。

「ありまする」
「じゃぁ、言ってみ?それとも優樹菜ちゃんは幼馴染みの不動君に隠し事でもするのかな?」

ええい!この際言ってしまえ!!
行けるところまで行って暴走してやる!!

「サッカーは…戦国の世とよう似ております。FWが最も先頭に立つ軍、MFがその後に続く軍と、そしてDFが夫の帰りを待つ妻」

サッカーが合戦とは、よく言ったものだ。
不動はオリビアの喩えるセンスにはつくづく感服する。

「夫が家を留守に出来るのは、妻が家を守れる出来たおなごであるがゆえです。夫の後ろ盾となり、妻は家を守る。
サッカーで言えば、FWやMFが点を取りに行っている間、DFが攻め込まれぬようゴールを守る、と申しましょうか」
「なるほどねぇ……」

オリビアは何も考えていないようで実は結構考えているのだ、ととっくの昔に知っていることだが、今更ながら思った。
そして、バカな頭でバカなりに考えてDFをやっている。
我が幼馴染みは恐ろしく強い。
不動はそう思った。

「あ、それともう一つありまする」
「ん?」
「ディフェンスラインからはあなた様の背中が見えます」
「それが何?」
「先ほど申したように、DFは夫の留守を預かる妻のようなポジション。あなた様が案ずることなく点を取りに行けるよう、ゴールを守ることが、わたくしは何より好きなのです」

不動は、思わずにやけた。
オリビアは、不動の気持ちを察したか、上から彼をのぞき込んだ。

「不思議な物です。明王様と恋仲になる前はこの身が朽ちてもかまわぬと思うておりました。
しかし今は、これから先も、あなた様と共にあり、長く行きたいと思うておりまする」
「おい、どこで覚えた。そんなプロポーズの台詞」
「百人一首で"君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひかえるかな"」
「そうかよ…。おれも今度、正式に結婚申し込む時に覚えとくよ」
「明王様の妻になるためならば、幾年月も待ちましょう」

不動とオリビアは、いつものように拳を突き合わせた。

数日後、不動とオリビアの左手の薬指にはシルバークォーツの指輪が光っていた。

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「(懐かしや……)」

10年後、彼女の左手の薬指には、アメジストがあしらわれた指輪があった。