二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナイレ*最強姉弟参上?!*10years later... ( No.8 )
- 日時: 2012/11/26 18:15
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
第1話 雷門に吹く、2つの風
住宅街の細い道の上、少年と少女が壁にもたれていた。
少年は、今目覚めたかのように辺りを見渡し少女を見つける。困惑して少女を見つめ、眠っているのだと分かると落胆した。
次に、アスファルトの上に落ちたポーチを見つける。
黒い無地のポーチの中には何かが入っていて、少年は戸惑いながら手の中にあるそれを見つめた。開けても良いのだろうか、と。
「……ん、」
呻くような声にハッとして少女に視線を戻す。少年にはなぜこうなったのか全く分からないが、この状態だと加害者と思われかねない。
しかしうっすらと目を開けた少女は、少年を見て、安堵した様な——頬笑みを向けた。
≪……行って、≫
穏やかな、頭の中に響く声。少女の物だと、瞬時に少年は理解した。
少女は戸惑いを含む黄色い瞳の少年に小さく頷き、再び瑠璃色の瞳を閉じて、押し寄せる眠気に従った。
*
青い制服を着た少年——霧野蘭丸は、サッカー部のキャプテンであり親友である、神童拓人の家を訪れようとしていた。
気落ちした友人に、どのように話を切り出すべきかと考えながら歩いていた為、視界に入った異物の反応に遅れ、ピタリと数秒立ち止まる。否、信じられない事だったという点もあるだろう。
霧野「……え!!!?」
壁にもたれていた、入院患者が着るような服装の少女。裸足である事が、より霧野を混乱させた。
霧野「どうしたんだ、大丈夫か!?」
肩をゆするも、反応が無い。内心舌打ちをして、目の前にある神童邸のインターホンを押す。
その時少女の頭上の壁、霧野の頭と同じ位の高さにあった、何かでえぐった様な深い傷跡を見つけた。思わず背筋が凍りつく。
霧野(……何があったんだ……?)
*
円堂達イナズマジャパンが世界を制してから、10年後の中学サッカー界。
サッカー部である神童と霧野は、その悪い環境の中に居た。
練習内容や勝敗、シュートを決める選手までもが【フィフスセクター】という組織に管理されているのだ。
神童は先日の練習試合で、指示にない点を上げてしまったばかりだった。
そして組織に逆らったとして、監督だった久遠が辞めさせられた。
霧野「誰だと思う、新しい監督。」
少女はメイドによって空いた部屋に運ばれ、今は医者が診察している。その間に、霧野は本題を切り出していた。
神童「さあ…」
霧野「円堂さんだよ。」
キャプテンとして、イナズマジャパンを優勝に導いた円堂。
24歳になった彼が、雷門中のサッカー部監督に就任したのだ。神童は驚かざるを得ない。
組織に従順そうな監督しか送らないフィフスセクターが、熱血として知られる円堂を送って来るなど、前代未聞であった。
*
医者「記憶喪失だと思われます。」
神童・霧野「!!」
呼ばれた若い女医は直球に、そう伝えた。彼の後ろに、ベッドの上で上半身を起こした、虚ろな目の少女が見える。
医者「自分の名前はおろか、家の事も全く覚えていないようです。先程メイドの方に、警察に捜索願が出されている人の中に彼女に一致する人はいないか確認するよう、お願いしておきました。」
神童はその言葉に戸惑いながらも、頷いた。霧野は災難続きの友人を心配そうに見つめ、出来る限り協力していこうと心に誓う。
少女「……」
神童「?」
ふと視線を感じた2人が少女の方を向くと、彼女はじっと神童を見つめていた。
そして段々と見開かれていった深い青の瞳に、涙がにじんでいく。
ぽろり、と涙が頬を伝うと、少女は訳が分からないという風に服の袖でこすった。
医者「……もうしばらく私が様子を見ているので、」
神童「はい、お願いします……。」
霧野と神童がしっかりとしない足取りで部屋を出ていく様子を、少女は涙で霞んだ視界の中にとらえていた。
*
霧野『俺に手伝えることがあったら、何でも言ってくれ。』
霧野はそう言って、帰って行った。それから20分くらいピアノを弾いていたが、気分は晴れない。
サッカー部の事、記憶喪失の少女の事がぐるぐると頭の中を回っている。
神童(……何であの時、俺を見て、泣いたんだろう。)
その姿を思い出して、泣いてしまいたい衝動に駆られた。
——俺だって泣きたいのに。
メイド「拓人様。」
ピアノから顔を上げると同時に、ノックをしたメイドがドアを開けた。そのメイドの後ろには医者の姿がある。
俺は少女に関する話を聞いた。
医者「学習した範囲から学年、また学習の進度から学校を特定できれば、と思ったのですが……難しい事になりました。」
神童「難しい事、とは?」
医者「社会と国語以外は、ほとんど中学生の範囲を理解しているんです。」
社会と、国語以外……?
神童「国語、とは漢字ですか?」
医者「それと良く苦手としてあげられる文法ですね。それは仕方が無いのかもしれませんが、問題は社会です。」
医者は苦笑を仕舞い、真剣な表情で話を進める。
医者「歴史は1,2割理解出来ているようなのですが、地理は日本についてほとんど分からないようです。公民は1割も分かっていません。常識の範囲も、です。他の教科が出来る事から、ニュースを全く見ていなかったというのは考えづらいのですが……。」
歴史が1,2割? 小学校で習った範囲もあるだろうから、それはおかしい。
公民は馴染みが無いにしても、普通に生活していれば記憶してしまう単語が出てくる。
医者の言葉から、そう言った単語も知らなかったのだろうと推測される。
医者「とりあえず、早く記憶が戻った方が良いに越した事はないでしょう。刺激を与える事が1番良い方法ですから、警察から返答が来るまで……そうですね、声が出ないのでお喋りは無理ですから……。」
警察からの返答というのは恐らく、捜索願が出ている子供の中に、特徴が一致する人物がいないかという事だろう。
それにしても、声が出なかったのか……心因性なのかもしれない。ストレスから声が出なくなる事があると、聞いた事がある。
医者「近くを散歩でもしてきましょうか。」
私が連れて行きましょう、という医者。
脳裏に、霧野と少女が浮かぶ。霧野は、河川敷でサッカー部は練習すると言っていた。少女は——。
神童「いえ、丁度外に出る用事があったので、俺が連れて行きます。」
——何か俺に言いたげな視線を、投げかけていた。
* to be continued... *