二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナイレ*最強姉弟参上?!*10years later-更新 ( No.11 )
日時: 2012/11/27 16:09
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

第2話 望みのサッカーボール


医者『何かあったら、すぐに連絡下さいね!?』

新しく登録された電話番号を見ながら、神童は医者の言葉を思い出していた。少女はその携帯電話を珍しそうに眺めている。
どこの病院の物かもわからない入院着を着ていた少女は、メイドの私服である白いコート、ジーンズ、サイズが若干合っていないスニーカーというとりあえず外に出られる格好をしていた。
腰まである薄桃色の髪は、メイドが予備のゴムを持っていなかった為、くしでとかしただけだ。

「神童、来たのか。」
神童「! 霧野……。」

河川敷の鉄橋の上で肩をたたかれ、振りかえると制服姿の霧野がいた。
霧野は少女に驚いたようだったが、明るく聞き慣れない声にグラウンドへ視線を向ける。それに神童と少女も続く。

円堂「来たか剣城!」

それは円堂の声だった。3人は彼の視線を追う。紫色の改造制服を着た剣城が、圧迫感を与えるような表情で立っていた。
しかし円堂は迷う事もなく、相変わらずの笑顔で言う。

円堂「サッカーやろうぜ剣城!」
剣城「ッ……虫唾が走るぜ、お前のサッカーやろうぜにはな!」
円堂「そうか。お前達もそんな所に居ないで出てこいよ〜!」
神童(そうか、でスルー…)

どこまでも明るい円堂を内心すごいと思いつつ、神童は表情を曇らせる。

霧野「…本当にフィフスセクターから送られてきた監督なのかな…。」
少女「……。」

次々に雷門イレブンが姿を現す。円堂が笑って、皆のキック力を見せてくれ、と言った。
それに従って、倉間が思いきり力を込めたシュートを放つ。ゴールネットに突き刺さったボールに、円堂が笑顔を見せた。

円堂「良いシュートだ! さすが雷門のフォワードだな!!」
少女「……?」

その明るい真っすぐな円堂の姿に、神童の懸念が確信に変わった。
————フィフスセクターから送られてきた監督が、勝利を目指している。

円堂「最後は剣城!」
少女「……っ、」

ずるずる、と橋の柵を握り締めた彼女の手が落ちて行く。神童が我に返って隣を見ると、彼女はしゃがみこんでいた。

神童「大丈夫か?!」

力無く頷いた少女に帰ろうと提案したら、直ぐに首を横に振られた。深い青の瞳は、フィールドに転がるサッカーボールを映す。
円堂がゴールの中心に立った。

円堂「残ってるのはお前だけだ!サッカーやろうぜ剣城!!」
全員「!!」

ひゅう…と怪しげな風が吹いた。
剣城がボールを蹴りあげ、禍々しい空気が辺りを包んだ。
少女は、人知れず目を閉じる。

剣城「デスソード!!!」


少女「……。」

あ、という驚きの声が聞こえた頃、少女は目を開けた。
円堂はシュートが当たる直前に首を傾け、シュートを避けたのだった。
そして何事も無かったかのように、まるで脇で見ていたかのように笑顔でシュートを褒める。
チ、という舌打ちを残して剣城が去った。

円堂「よし、じゃあ今日の練習はここまでだ!」
倉間「は?」
天馬「え、待って下さい、学校のグラウンドでは見れなくて、河川敷に来たら見られるものって何だったんですか!?」
円堂「……それは——。」

霧野「神童。」

微笑みを浮かべてフィールドを出る円堂から、目をそらした神童。

神童「……俺は、」

俯いた神童は、言葉を紡げない。
霧野はどう声をかけたらいいのか分からず、辺りを落ちつきなく見渡す。そしてとある事に気付いた。

霧野「あれ、あいつは……?」
神童「! え、」


少女がいない。





天馬『学校のグラウンドでは見れなくて、河川敷に来たら見られるものって何だったんですか!?』
円堂『それは————勝ちたいと思ってる、仲間の顔だ!』



少女「……。」


緑色のフィールド。
黒と白のサッカーボール。


円堂「?」

少女は気付かぬ内に、走り出していた。
けれどその目的を理解して、円堂の目を避けながら、鉄橋の陰になる場所に落ちていたサッカーボールを拾い上げる。
ボールから、何かを感じた。
その何かを明確な形にするために、目を閉じて意識をボールへ集中させる。



剣城「! アイツ……。」

円堂と1対1で話す機会を狙っていたのか、帰らず近くにいた剣城が少女を見つける。
何かを念じているようにも見えた少女だが、10秒ほどでボールを落とした。その表情には、若干の落胆が見える。

少女「……。」

テンテン、とバウンドするボールを目で追っていた少女だが、草の上を滑り落ちてくる音に顔を上げた。

剣城「……何者だ。」

険しい目でそう言ってくる彼に、少女は顔をしかめる。
自分のことを知らないはずなのに、サッカーボールを持っているだけで何者かと問われる事に違和感を感じる。

少女「……?」

それに例え答えを用意していたとしても、伝える事は困難だ。少女は声が出ない。
しかし剣城はそんな事情を知るはずもなく、イライラを募らせ更に眼光は鋭くなっていく。
そこで何かを決意したのか、少女が足元に有ったボールを拾い上げた刹那、焦りを含んだ声が辺りに響いた。

「剣城っ!!」
剣城「!」

先程の剣城と同じように草の上を滑り下りてきたのは、神童だった。
次いで霧野も、橋の下に剣城と少女が2人でいた事を悟り、下りてくる。剣城は、サッカー部からすれば危険人物だ。

剣城「チ……」
神童「何のつもりだ。」

舌打ちに眉を顰めながら、神童が少女の前に出、凛とした声で問いかける。少女はそんな彼の服の裾を引っ張った。

神童「?」
霧野「“大丈夫だから出しゃばらないで下さい”?」
少女「……。」

ふざけたのだろうか、少女は霧野をたっぷり見つめて首を横に振った。
そして抱えていたサッカーボールを、 剣城の方向に転がす。
神童と霧野はその行為に驚き、これでもかという程目を見開た。

剣城「?」

真意を探る様な剣城の視線を少女は受け止める。やがて剣城は笑ってボールに足をかけた。
それを認めたと同時に、少女はかばうように前に出てくれた神童と霧野を横に誘導する。

剣城「……デスソード!」
霧野「なっ……!!」

剣城が放ったデスソードは、真っすぐ少女に向かう。少女は無表情のままそれを見つめ、やがて顔をしかめた。
神童が少女の手を握り横に移動させようと引っ張るが、彼女はピクリとも動かない。

神童「お前っ……!!」
少女「……?」

このままでは少女に当たる——焦る神童の目の前で、少女が右手を前に出した。

全員「!?」

テンテン、とボールは転がり出し、日差しを浴びる。
右手のみでデスソードを止めボールを放りだした少女は、遠い足音から逃れるように、その場を後にした。

呆然とした3人の少年達を、残して。


若干公式のセリフを変えています。ご了承ください。