二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナイレ*最強姉弟参上?!10years later- ( No.20 )
日時: 2012/12/26 02:56
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

第5話 化身の波紋


美咲「天馬っ、だいじょーぶだよ!」

青空の下、ホーリーロード地区予選の一回戦が始まろうとしていた。
雷門中のベンチでは、フィールドに整列しようと駆けだした松風天馬に、少女が声をかけている。

美咲「あたしたちマネージャーは、天馬達のこと応援してるから。」
葵「気をつけてね、天馬。」

2人は天馬にエールを送った。
美咲——。タチバナ美咲、黒髪をポニーテールにした雷門中1年サッカー部マネージャーだ。

美咲「……。」

彼女は剣城を横目で見た。表情を無意識の内に、強張らせながら。



基山「やっぱり、試合始まっちゃったか。」
歌海「幸い席は空いています。」
翔萌「問題無しだよ。」
狩屋「雷門の先制点は見逃したけど。」

得点板は1−0、雷門中は天河原中から1点を奪っていた。
遅れて会場にやって来た彼らは、歌海が見つけた席に向かう。後ろの方だからか、5つ並んで空いていた。

狩屋「置いてかれるだろ、月乃。」
月乃「!」

コートを大きく目を開いて見つめていた月乃は、狩屋の声で我に返った。
その様子を、基山は微笑んで見ていた。
昨晩遅くにお日さま園に足を運んだ基山ヒロトは、時折子供たちの顔を見たり、吉良瞳子たちと会話をすることで休息を得ている財閥の社長。
そんな基山は昨晩瞳子と話をしていて、記憶喪失の月乃の周りでサッカーを楽しむ子供が増えたと知った。

基山(刺激があれば良いんだけど……。)

通路側から基山・月乃・翔萌・狩屋・歌海の順。
基山が月乃を見ると、目の下に若干クマがある顔を引き締めて、真剣にフィールドを見つめている。
瞬間、その表情に驚きが混ざった。
基山がその変化に、視線をフィールドへ移すと。

基山「……これが、」


鳥人ファルコ。
天河原中の選手・隼総ハヤブサが繰り出した、化身。



美咲「……化身、かぁ。」

化身シュート“ファルコ・ウィング”がゴールネットを揺らした。
化身を出した隼総は、大きく肩で息をしている。その姿に、美咲は顔を曇らせた。

美咲「化身の強さの代償だね。」

化身を出して対抗しようとした神童は、奏者マエストロを出すに至らずシュートに吹き飛ばされた。
悔しそうに顔を歪める神童を、親友である霧野が支えている。

葵「あ、美咲ちゃんどこか行くの?」
美咲「うん、ちょっと……監督に会いたいっていう知り合いがいて。」
円堂「俺に?」

ハーフタイム間近だからか、そんな事を言い出す彼女は苦笑して許可を求めた。
円堂はハーフタイム中に控室へ来るように、と声をかけた。



ソフィア「鳥人ファルコ、ね……。」
美咲「うん。使用者と上手くいっててイライラするなぁ。」

金髪少女ソフィアは、パソコンのキーボードを打つ。
天使長であるソフィアは、人間界で橘美咲として行動する天使アルモニの報告を受け、急遽人間界に下りて来ていた。

ソフィア「まとめると……試合序盤、フィフスセクターの指示を無視した雷門中キャプテン神童拓人のフォルテシモにより雷門が先制。しかし化身シュートにより追いつかれて前半終了。……まさか、化身が出てくるなんて。」

ぼそりと呟かれた最後の言葉を拾った美咲が、ぐわっと立ち上がってソフィアに詰め寄る。

美咲「ホントだよ!! 何でファルコがいるの!?」
ソフィア「悪魔の仕業に決まってる。」

廊下の人通りが多くなってきた。ソフィアは控室へ向かって歩きながら話を続ける。

ソフィア「序盤の勢いなら、伸びしろのある雷門イレブンは勝てるかもしれない。でもそれが無理そうだから、貴女は私をここへ呼んだ。」
美咲「うん……それに円堂守に一度会ってみたいって言ってたじゃん、ソフィア!」

廊下を歩いて行く2人を桜色の少女が見つめていた事は、彼女達にとって知る由もない。



月乃「……。」
基山「どうかした?」
月乃『別に。』

そのメモ帳を見て、基山はそう、とだけ答えた。
ハーフタイム、お日さま園組は2回に分けてトイレへ行く事にした。女の子だけじゃ危ない、という基山の提案だ。
2人は2グループ目。席には狩屋たちがいるから取られる心配もないという事だ。

基山「それじゃあ待ってるから。」

もちろん、トイレから出てくるのを。

しかし——。
誰が予想しただろう。その言葉に頷いた月乃が、もう二度とあの席に戻らないという事を。



剣城「お前たちみたいなザコがフィフスセクターに逆らっても、何も変わらない、何も変えられない。雷門の敗北は決まってる事なんだよ。」

控室の空気は重さを増す。
あと1点取れば勝てる、という天馬の言葉に対する反撃は、あまりにも強力すぎた。
それでも天馬は、尚も反抗の声を上げようと声を振り絞った。勝ちたいのだ、心から。

天馬「そんな事、」
円堂「誰が決めたんだ?」

円堂の力強い言葉が、天馬の後に続けられる。

円堂「言っただろ? 誰だろうと、勝負の前に結果を決める事なんて出来ない。例え、勝利の女神でさえも。」

その言葉に、彼の隣に立っていたソフィアが微笑む。円堂の名言が、彼女の口から漏れた。

ソフィア「勝利の女神は、諦めない奴が好き。」

沈黙していた少女が発した言葉に、雷門イレブンは戸惑いながら2人を見つめる。
ソフィアは今度はしっかりと、控室を見渡しながら言葉を発した。
自分は、この為に来た。

ソフィア「本当に勝利を目指す者に、勝利の女神アテネーは微笑むわ。それに……貴方達は勝てるだけの力を持っている。」

倉間が何か反論しようとして口を閉じる。射る様な視線が、反論を許さない。

ソフィア「貴方達は勝てるだけの力を秘めている。でもその秘めている力を出すために必要な物が、欠けているの。」
天馬「足りない物?」
円堂「サッカープレイヤーの本能。」

天馬が尋ねると、円堂が歩きながら、彼等に言葉を掛けた。


どんなシュートでも、止めてみせる。
どんな相手でも、ドリブルで抜いてみせる。
誰よりも、強いシュートを打ってみせる。

そして、勝ってみせる。


剣城が、苦々しい表情で円堂を見つめる。
勝つ気の無くなったの選手達に勝利を諦めさせようとしない彼が、邪魔だった。

円堂「それが、みんなが持っているサッカープレイヤーの本能、想いだ!」

目を見開いて、ソフィアと美咲は目の前の円堂の背中を見た。
期待通り、予想通り。
ソフィアの心の中に、喜びがあふれた。彼さえいれば、雷門は絶対に大丈夫……。

ソフィア(このままなら、だけど。)



そして彼女の脳裏をかすめた予想は、現実となる。



月乃「……?」

後半開始直前、人通りの減った廊下で月乃は男から紙袋を渡され、戸惑っていた。

?「これは上からの命令でございます。」

ニコッ、と微笑む黒髪にスーツの男は、柔らかな物腰でそう言った。

?「中をご覧になればお分かり頂けるでしょう。」

視線で勧められ、月乃は大きな紙袋を開けた。
そして中に入っている物が何かを理解し、困惑の表情で男を見上げる。
彼は怪しげな笑顔で。

?「命令はお守り下さいね、月乃杏樹様。」

くるりと背を向け、男は靴の音を響かせながらその場を去っていった。



後半開始のホイッスルが、鳴り響く。