二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第7話 背番号0のプレー ( No.28 )
日時: 2013/01/23 21:22
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

最初は、ただの女子が出てどうなるんだって思った。
だけど試合が始まって、背番号0の女子のプレーを見ている内に気付く。

狩屋「杏樹っ!!」
歌海「え?」
翔萌「ほ、本当だ!!」

間違いない。
杏樹は相手チームのキャプテンをドリブルであっさりと抜いて、味方の選手にパスを出した。
最小限の動きで相手を翻弄する、何度も見て来た杏樹のプレー。
それは十分通用して、雷門の攻撃力は上がっていた。キャプテンの化身も成功して同点だ。
余計、訳が分からない。
月曜から俺達と同じ町立の中学に通い始める予定で、この大会に女子は出られないはずで。
更に背負ってるのは本来試合に出られない番号だ。

基山「困ったな。」
狩屋「ヒロトさんっ、これ、どうして……!!」

トイレからやっと帰って来たヒロトさんに問い詰める視線を送れば、ヒロトさんは頭をかいて携帯電話を開く。

基山「俺にも分からない。だけど彼女に戦う意思があるなら……止められない。」
翔萌「どういうこと……?」

翔萌の質問に答えないヒロトさんは、真剣な顔をしていた。
舌打ちをして、フィールドを振り返る。
杏樹が入った事で、パスがよく通るようになった雷門。それは、杏樹が雷門の選手を良く見ていたという事。

狩屋「……。」
歌海「マサキ君?」

“止められない”の意味が、分かった気がした。



FWらしく前線にいる月乃を見て、再会してから何度も頭をよぎる疑問が、再び浮上してくる。
彼女はフィフスセクターに従わない。キックオフ直後、倉間からパスされたボールを迷わず俺に回してきた。
彼女は俺達と協調する。俺たちの動きを見て、MFの俺か天馬にボールを回し、攻撃のリズムを生む。
結果、1つの疑問が頭に貼りついて離れなくなる。

——なぜ、彼女はフィフスセクターからの指示で雷門イレブンに入った?

天馬「月乃さんっ!」
西野空「させるかよ!」
天馬「しまったっ……キャプテン!!」
神童「!」

後輩に呼ばれて、我に返る。
パスカットをしたと思しき金髪の相手選手が、目の前にいた。
ニヤリと笑うその選手に、止めなければという思いが湧く。
考える事をやめ、試合に集中する。相手の後ろにいる天馬にアイサインをして、頷きの返事を得た。

神童「行くぞっ!」
西野空「なっ、」

油断していたらしい相手からボールを奪い、前線へ走っていた天馬へパスを出す。
ボールが放物線を描いて、最高点へ達した時——黒い影がボールを奪った。

天馬「え!?」

隼総は着地すると同時に、俺と目を合わせて来る。赤い目が、恐怖を感じさせた。
ディフェンス——言ってはみたものの、誰も動きはしない。
今までと変わらず、西園が少し走ってタイミングを伺うだけだ。

天馬「なんて速さだ、逆サイドにいたはずなのにっ……!」
神童「今度は止めるっ!!」
隼総(?)「俺が止められる確率……0,02%。」

西野空の時よりも上手くブロックを仕掛けられたと思った——のに。

隼総(?)「止める気ないんだ?」
神童「ッ!?」

俺をかわす時、隼総が加速した。くそっ……速過ぎる!!

天馬「キャプテンッ!!」
神童「気をつけ——」

言葉を失った。隼総も、ドリブルをやめる。

隼総(?)「やっとやる気になったんだ?」

彼の前に立ったのは、月乃だった。突然現れた月乃に、近くにいた霧野が戸惑いの表情で話しかける。
俺も下がらないと!

霧野「やめろ、この試合に俺たちは負けなくちゃならない。そうだろう!?」

何て言ってるのかは、遠くて聞き取れない。
ただ月乃は首を横に振って、顔をあげて隼総とにらみ合う。

隼総(?)「戦意があるようで良かっ——た、と。」
霧野・神童「!!」

月乃がボールを奪いに、動き出す。
ドリブルでかわそうとする隼総の顔が歪んだのが、遠目でも分かった。
そして——隼総は一騎打ちの勝負を捨てて、シュートの態勢に入る。

隼総(?)「く、そ!」

苦し紛れに放たれたシュートだったものの、やはり威力は十分だった。
間に合うか——そう、思った時。
月乃と視線が合う。目の下に隈があるにも拘らず光を放つ、深く青い瞳に背中を押された気がした。
そうだ、ここで勝ち越される訳にはいかない!

神童「ハァァッ! 奏者、マエストロ!」

2度目の化身、出す事に体力を使ったが迷いはない。
シュートを蹴り返そうと力を込める。

神童「ぐっ……ああ!!」
天馬「キャプテンッ! うぉぉぉっ!」

威力に負け、フィールドに転がった。悔しい。でも立ち止まってられないんだと言い聞かせ、立ち上がる。
天馬もシュートに立ち向かっていた。オーラが出ているが、力負けして俺と同じ様に吹き飛ばされる。

三国「ナイスファイトだ、2人共!!」
天馬「!?」

三国さん……今、何て?
聞き間違いかと疑ったが、間違いではなかった。

三国「バーニングキャッチ!」
隼総(?)「あーあ。」

止められちった。
その言葉をかき消すような歓声の中、三国さんはボールを蹴りあげる。

三国「神童、俺は目が覚めたよ。」

笑顔を見せる三国さんに、こみ上げるものを感じた。天馬も西園も、喜んでハイタッチをしている。
そして俺はハッとした。——ボールは?

角間「ボールは月乃のもとへ! ゴール前、倉間がボールを求めるがディフェンスでパスを出せないのか!?」
倉間「くっそ、アイツ!」

実況の言う通りでもあるが、それだけじゃない。
月乃は分かってる。フィフスセクターに従うメンバーに、パスは出さない。DFに囲まれてもだ。

天馬「月乃さんっ!!」
月乃「!」

3人に囲まれてもボールをキープしていた月乃が、天馬に気付いてパスを出し……え?

天馬「ぅわぁっ!?」

ボールは天馬のシューズにあたり、高く上がった。速過ぎるパスに、対応できなかったのだろう。
そのボールに西園が食らいつく。皆、無我夢中だった。
ヘディングされ俺に向かってきたボールを、フォルテシモでシュートした。
それは、ゴールネットを揺らして。
ホイッスルが2連続で、鳴り響いた。

天馬「やっ……やったぁぁー!!」

スコアボードの数字は3−2。俺達の、勝ちだ。
周囲の空気は重たい。負けた天河原、逆らった雷門。
しかし、俺達は確実に一歩を踏み出した。自然と浮かべた微笑みを消さずに、天馬達の方へ駆け寄る。

神童「天馬、西園、月乃。」

呼ばれて顔を上げた月乃は——勝利に相応しくない、酷く疲れた顔をしていた。

神童「!」
天馬「キャプテン、俺達——」
月乃「……。」

青い瞳と目が合って。
笑顔を一瞬にして忘れた俺と反対に、ふわりと月乃は一瞬微笑んだ。

神童「月乃っ!!」
天馬「——……え?」

倒れる体を抱きとめて名前を呼んでも、彼女は言葉を返さなかった。