二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第12話 猫好きのわがまま ( No.54 )
- 日時: 2013/03/05 15:44
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
カチカチ、と公園のベンチで月乃は携帯電話をいじる。
イナッター。サッカー部関連の情報交換などに用いられる、部員たちの掲示板の様な存在だ。
『月乃:月乃杏樹です。転校初日で分からない事ばかりですが、がんばります』
そこまで打って、しばらく画面を見つめる。
月乃の本心を表すならば、この文章につけたさなければいけない語句がある。
考え込む月乃の視界に入りこんで来たのは、髪を結える赤いリボン。
ふと思い出したのは、およそ1時間前の出来事。
美咲『じゃあ、つきのんは正式にサッカー部に入部した方が良いんですか?』
円堂『それは月乃次第だ』
真っすぐ円堂に見つめられ、それでも不思議と緊張などは起こらなかった。
優しく明るい目に、歓迎されている様な気さえして、月乃は迷わず携帯に自分の思いを討ちこんだ。
サッカー部入部希望です、と。
それを喜ばない部員達からの視線を受けて一瞬ぞくりとする物を感じたが、それも1年組の明るい笑顔で消えて行った。
——神童は、陰りのある笑顔だったけれど。
美咲『つきのん、これから頑張ろうねっ!』
方向が正反対なため正門で別れる美咲が、鞄から出して月乃に渡したのが赤いリボン。
おそろいだよ、といつの間に結んだのか、自分のポニーテールを指差して美咲は言った。
正直月乃は急で強引な美咲についていけていない部分もある。
しかし優しい声色で話しかけてくる美咲に悪い印象は抱いていない。
——ただ、ランスロット様の部分は耳に入ったので『変わり者』というレッテルはしっかり貼ってある。
「ほら、もう帰るわよ」
「はーい!」
遊具で遊んでいた子供が、母親に呼ばれて公園から去っていく。
月乃は決定ボタンを押して、携帯電話を閉じた。
月乃(あの時、橘さんが『頑張ろうね』と言ったのは……)
夕焼け空、少し冷たい風。
ベンチから立ち上がった月乃は、目を細める。
月乃(……先輩が1人いなくなって、殆どの先輩は反フィフスセクターの人を迷惑がってて)
その中で何よりも、月乃の心に刺を刺したのは。
倉間『俺達からサッカーを奪うな!』
『サッカー部をつぶそうとしているのは剣城じゃない! お前たちだ!!』
敵意丸出しの表情と、苦しげな言葉。
月乃(私は……)
ここにいて、良いのだろうか?
一度深呼吸をして、考えを頭の中から消し去った。顔に出たら分かってしまう、目の前にいる人に。
自分以上に苦しんでいる、恩のある、支えたい人に。
神童「……帰ってて良かったんだぞ、月乃」
月乃『道を覚えてないので』
そうか、と笑った神童の顔に疲れを見つけ、月乃は心の中で誓う。
フィフスセクターを、勝敗指示を無くすんだ、と。
*
美咲「葵のケータイ、ストラップ半端ないね」
試合を明日に控えた昼休み、イナッターをチェックしている葵の携帯電話を見て美咲が言った。
打つたびにジャラジャラ音を立てるストラップたちは、どこか窮屈そうにも見える。
付けたいのいっぱいあるの、と笑った葵は、ピンクのクマを指で弾いて美咲に尋ねる。
葵「美咲は付けてたっけ?」
美咲「クリーナーと猫のちっちゃいぬいぐるみだけだよ」
ほら、とピンク色の携帯電話を取り出す。
葵のストラップを見た後だと、寂しい。
葵「美咲って猫派?」
美咲「うんっ、猫って可愛くない? あたし、将来猫飼うのが夢なの♪」
葵「へ〜、そういえば、月乃さん猫のストラップ付けてなかった?」
美咲「うそ!! つっきのーん!」
美咲はとりあえず教室内で聞こえる大きさの声で叫ぶ。
きょろきょろ辺りを見渡し、素知らぬふりをして歌音と昼食を食べる月乃を見つけて椅子から立った。
美咲「無視とか悲しいよ!」
歌音「叫ばれたら無視したくなるわよ……」
購買のクロワッサンをほおばる月乃は、肩を揺らして寄り掛かる美咲から逃れた。
歌音が何の用事なの、と尋ねる。
美咲「つきのん、ケータイのストラップ見せてよ!」
月乃「?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、月乃は携帯電話を美咲に渡す。
シンプルな携帯電話には、お腹の辺りが白い黒猫。
葵「かわいい!」
美咲「つきのん、猫好きなの?」
歌音「とりあえずケータイ返さないとダメよ?」
美咲「あ、そっか」
美咲はリアルな猫のストラップを撫でてから、携帯電話を月乃に返した。
月乃は両手を使って、驚異的なスピードで打ち込む。
月乃『猫が家にいるんです』
葵「へー!」
美咲「いーなっ! どんな猫なの?」
月乃『このストラップはその猫がモデルなので』
歌音・葵「!?」
美咲「へ〜っ、可愛いね♪」
歌音と葵が驚く中、よく意味を理解しない美咲はストラップを突っつく。
歌音(……ストラップのモデル?)
美咲「6月は犬飼ってるんでしょ?」
天馬「名前呼んでってば!」
購買から戻ってきた天馬がその言葉に反応して寄ってくる。
葵が笑いながらお帰り、と声をかけた。
美咲「あたしもペットほしいなぁ」
天馬「? 急にどうしたの?」
葵「うーんと、」
さっきね、と今までの話を葵が説明する。
美咲は頬杖をついてストラップを見つめていたが、突然爛々と目を輝かせて顔をあげた。
美咲「今日つきのんの家行っていい!?」
月乃『ダメです』
美咲「猫ちゃんさわりた……って即答!?」
歌音「家の用事があるかもしれないのに、当日はどうかと思うわ」
眉根を下げながら、美咲はそうだよね、と呟く。断念したらしい。
これ以上サッカー部に波風を立てるわけにはいけない、と月乃は決めていた。だから絶対ダメなのだ——。
月乃(……びっくり、した)
美咲「うー……猫ちゃん……名前なんて言うの?」
月乃『アリア』
美咲「きれーな名前!」
会ってみたいなぁ、と駄々をこねる美咲は、歌音に保育園に戻りなさいと一蹴され、あたし幼稚園だもん、と揚げ足を取って頭に軽くチョップを食らった。
歌音「小学校1年生に混ざれば良いわ」
天馬「それって目立つよね」
葵「意味分かってないんだ……」
その様子を見て、美咲が少し可哀想に思えたのか、月乃が妥協案を提示する。
月乃『河川敷に連れて行きましょうか』
美咲「ホント!?」
天馬「復活早!!」
歌音(……本当、小学生だわ)
単純すぎる美咲を見て、歌音は溜息を1つついた。
* to be continued *
とりあえず、イナッター参戦と言う事で。←
歌音ちゃんは帰宅部ですが、何だかんだ美咲の話相手になってくれてるので部の事情はよく知ってます。
アリアは神童家の猫で、公式で名前が決まっていたのでそれを使いました。
次回、やっと万能坂に……入れるかな((汗
時間のある方、コメ下さると嬉しいです♪