二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第13話 陽気少女の回想、無声少女の行動 ( No.60 )
日時: 2013/03/17 14:57
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

淡いピンク色の髪が視界の中で揺れて、穏やかなソプラノの声が今日も聞こえる——。


『アルモニ、今日も来てくれたのね』
『はいっ!!』
『今日はどの飲み物にする?』
『レモンティー下さい!』

広く深い森の中にある、小さな花園。
そこを管理するあの人が住む木造の小屋は、あたしのお気に入りだった。
密集する花々は、けんかすることなくそれぞれの香りを風に乗せて、あたしの心を満たしてくれる。
背丈の高い木々は、慈しまれながら花を咲かせ、大きな果実を実らせてあたしを幸せにしてくれる。
何よりもあの人は、いつだってあたしを優しく見守ってくれた。

『アルモニ、ソフィアには会った?』
『……会いました、けど?』
『アルモニってそんなにソフィアが苦手なの?』

答える代りに頬を膨らませると、一瞬目を丸くしてからあの人はくすくす笑う。
綺麗で、愛らしい人。
あのドライなソフィアと同じ女神なんてことが、信じられないくらいに。

『あ、この前街で可愛いカチューシャ見つけたんですっ!』
『カチューシャ?』
『付けるから目閉じててください!』

あたしは瑠璃色の目が閉じられたのを確認して、鞄からカチューシャを取り出す。

『!』
『はい、目開けて下さい!』
『アルモニが付けるんだと思って……た……』

鏡を目の前に置いた。
……やっぱり白い猫耳似合うね。ナイスチョイスだったねあたし。

『……こーいうのはアルモニが付けるもんですっ!!』
『えええっ、そんなことない似合ってます!! もう何でそんなに可愛いんですか!!』
『アルモニの方が!!』

ああっ、猫耳付けられた!! 絶対あたしより似合ってるのに。
じっ、ぱちぱち。

『……アルモニは、どちらかと言うと犬みたいですね』
『ね、猫ですっ!!』
『私はどっちも好きですよ?』
『猫がいい!!』

ちょっと意地を張って言うと、フローラさまは楽しそうにクスクス笑った。

『そういうところは、確かに猫に似てますね』

そしてふんわりと微笑んで、あの人は頭を撫でながらこう言う。


『笑って、アルモニ』



あの人はこんなにも美しく、愛らしかった。

あの人の歌声は聞く人を幸せにする、穏やかで綺麗な声だった。


そしてあの人は、誰よりも優しかった。



『だいすき、フローラさま』


あたしは素直に、心の底からそう思えたから、いつだって笑えた。
あの人はまたびっくりして目を丸くするけど、その次には微笑んでくれる。

あたしにとってフローラさまはお姉ちゃんみたいな存在で、誰よりも何よりも大切な人なのだ。


だからあの人の笑顔は、あたしを幸せにする。

なのに。



『——き』


なのに、どうして、涙が出るの?



『——さき』


なんで、苦しいの——?



「美咲っ!!」

「!」


視界に映る物は全てぼやけて、何が何だかよく分からない。
だけど、まばたきしながら1つだけ分かったこと。
あれは、夢だったんだ。
フローラ様が“居た”頃の、幸せな頃の夢。

天馬「美咲、悪い夢でも見てたの?」

オレンジ色の空をバックに、6月が心配そうに尋ねてくる。
あたしは手の甲で涙をぬぐって、起き上がった。
そういえば、つきのん待ってる間に河川敷のベンチで横になったっけ。

美咲「ううん、むしろ良い夢だったよ」

ただ、ちょっと悲しくなっちゃっただけで。
それは心配されるし、詮索されたら誤魔化せる自信が無いから、言わないでおくけど。
6月は納得できてないみたいだったけど、それ以上は何も聞かなかった。

美咲「犬の散歩?」

さっきから鼻息の荒い犬をちらっと見ると、尻尾を振ってワウン、と吠えた。
跳びかかって来ないかな、でも年寄りみたいだから大丈夫?

天馬「そう、サスケっていうんだ」
美咲「かっこいい名前だね!」

よしよし。
ベンチから下りて背中を撫でると、サスケは体を横にして今にも寝そうな表情。
6月もしゃがんで一緒にサスケを撫でた。可愛いわんちゃん。
暫くそう撫でていると、突然サスケが目を開けて階段の方へ歩き出した。
6月も、転びそうになりながら立ち上がる。

美咲「あ、」
天馬「サスケッ!」

何がそんなに嬉しいのか、サスケは勢い良く土手を駆け上がる。
でも何となく、その先にいた人を見てあたしは納得しそうになった。
バスケットを抱えたつきのんが、おすわりしたサスケの頭を戸惑いながら、でも怖がらないで撫でていた。



月乃を中央に3人でベンチに座ったところで、月乃はバスケットを開ける。
天馬の足元に伏せるサスケも、どこか楽しげにその様子を見上げている。
美咲が真っ先に開けられたバスケットを覗き込み、ぱぁぁ、と顔を輝かせる。

美咲「かわいーっ!」

猫は、ひょっこりと首を出した。
視線を美咲たちへ誘導しようと目の前で動く月乃の指をなめて、にゃー、と一声鳴く。

天馬「この子がアリア?」
美咲「抱っこしてい? 抱っこしていい?」

ほぼ同時に尋ねられたが戸惑う様子も見せず、月乃はただ1つ大きく頷いた。
2人共楽しそう、と客観的な感想を抱きながら。
しかし、アリアを抱いた美咲の笑顔は直後に凍る事になる。

アリア「にゃっ!!」
美咲「わーいつきのんいきなり嫌われたー」←棒読み
天馬「どんな猫に嫌われる抱き方したの!?」

シャッ、と軽やかな音がしたかと思うと、某忍者マンガの主人公の様なミミズ腫が美咲の右頬に出来ていた。

月乃『6月もどうぞ』
天馬「だから名前——」
美咲「飼い主様、無視ですか!?」
月乃(すごい……騒々しい)

神童邸の品のいい雰囲気に慣れたせいか、こういう時2人に対してマイナスの印象を抱いてしまう。
もやもやしつつ、天馬がアリアを慎重に抱きあげる姿を見守る。
アリアは機嫌よく鳴くと、肉球で天馬の手の平を押して、くすぐったい思いをさせた。

天馬「あははっ、可愛いっ……って、あ、ケータイに電話きたみたい」
アリア「ふにゃっ!?」
天馬「!! アリア痛い爪が食い込——」
美咲「はいアリアちゃん捕獲!」

着信を受けて震える携帯電話に驚いたアリアが、つま先に力を入れて今度は痛みを味わわせた。
美咲は猫を抱えて月乃に返却、月乃はアリアを撫でながら目で“大人しく可愛がられて”と訴えた。
無論猫にそれは通じず、返事はいつもの甘える鳴き声。
月乃は仕方ない、と頭を撫でて、通話を終えたらしい天馬に向き直る。

天馬「秋ねえが友達連れておいで、だって!」
美咲「ホント!?」
天馬「あ、えっと秋ねえっていうのは俺の親戚なんだ」

クッキーあるんだって、と笑顔で誘う天馬にどう返事をするべきかと戸惑っていると、美咲が月乃の手を取り。

美咲「行くよね!! 秋さんのクッキーすっごく美味しいんだよ!!」

きらきら輝く目で言い寄られ、月乃は頷いていた。

天馬「み、美咲……」
美咲「よーしっ、レッツゴ☆ ……ってあれ、アリアちゃんは?」
月乃『!!』

美咲に言われてアリアがいない事に気付いた月乃は、焦って辺りを見渡すも、見当たらない。
アリアが興味を示そうな——うっかり行ってしまいそうな場所は?
その時、電車の走る音が聞こえて月乃は振り返った。もしかして——。
背後に美咲の驚いた声を聞きながら、月乃は走り出す。

美咲「急にどーしたの!!?」
天馬「俺達も行こう!」



ガタンゴトン、ガタンゴトン……
警備員が見守り、僅かな利用客が待ち望む中、ホームに音と共に光が差し込む。

そして警備員が利用客達の方へ視線を向けた瞬間を狙って、何かが路線上に現れる。


ガタンゴトン、ガタンゴトン……
ここから減速だと改めて気を引き締める運転手は、しかしその異物に気付かない。

そして、アリアがホームに現れる。
警備員が気付き辺りを見渡すが、その存在の固有名詞を口にする者はいなかった。


ガタンゴトン、ガタンゴトン……
電車が利用者たちの前に姿を現し、運転手が減速を開始する。一際大きくなった音に何人かが耳を塞ぐ。

減速しだした運転手は、白い光の中に飛び込む猫を視認して、慌てて急ブレーキをかける。
利用者の何人かは目を見張り息をのんだ。
そして、多くの者は疑問点を脳内で考える。

“なぜ、猫は逃げない?”
“何が、猫を電車に気付かせない?”

この電車のスピードでは、飛び出して救おうと考える者はいない。
むしろ、飛び出そうとする者がいたら服を掴んでやめさせるだろう。
ただひたすらに猫の無事を、猫が逃げる事を祈るのみだ。

しかし救いたい者がいた。
構内に現れた月乃は人々の間を止めさせないスピードですり抜け、路線上に飛び込む。

——『アリア』と、何度も音にならない声で叫びながら。



————翌朝、ホーリーロード地区予選2回戦、雷門対万能坂。
 ————その会場に、月乃杏樹の姿は無い。


* to be continued *

今回は文字数オーバーですが、無理矢理1話分として投稿します!←
ちょっとお久し振りです、ここ数日パソに触らせてもらえなかった駄作者です。
今日の高校のクラス分けテストが終わったので、心おきなくパソをいじりたいと思います((←
次回から、会場以外での新たな出会いなどを加えつつ、今度こそ万能坂戦に入っていきたいと思います!←
試合内容はきっとちゃんと書かないです((

美咲「ってそれより!つきのんどうなったの!?」
死にはしないよ、主人公だから((

神童「……最近、俺の出番があまりないな」
だって原作でも主人公じゃないから((

葵「そんな作者に応援コメントよろしくね!」
天馬「来なくても何とかなるさ!」
美咲・葵「それはそうだけど」
Σ!?
ええと、葵にセリフ取られたので……それでは!