二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第15話 Are we friends? ( No.70 )
- 日時: 2013/03/25 11:25
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
快晴の空の下、暖かさが心地いい日和。
花やコンビニの物を持って病院を訪れた数名の二十歳前後の男女を、受付の女性は笑顔で挨拶をして、通した。
稲妻総合病院の、関係者以外立ち入り禁止の階へ向かう彼ら。
その階の奥の奥——彼らの友人の病室へと。
鈴音「集まったのは久し振りだな」
しん、と静まっている病室に全員が入ったのを確認して、南沢鈴音が沈黙を破った。
風香「鈴音から電話来た時はホントビックリしたよ、見慣れないケー番だったから電話切ろうかと思った」
蓮「僕も同意」
泰斗「俺もだな」
迷「…その日の占いで懐かしい友達から電話が来るでしょう、って言ってたからもしかして、とは思った」
奏太「その占いすごいな」
鈴音の言葉をに、数年振りに会ったとは思えないほどテンポ良く会話する彼らの空気を壊したのは、特に個性の強い男たち。
玲央「それよりシュークリーム食おうぜ」
龍羽「1つ魁渡にお供え〜!」
風香「……2人共、そんな事言ったら」
時すでに遅し。
スパァン、とキレの良いハリセンの音が響いた。
鈴音「ナイスだ、里愛」
里愛「魁渡は死んでないっ!」
龍羽「冗談だよ?」
奏太「そのハリセン、何センチあるの?」
里愛「50。次、魁渡を死んだ風に扱ったら斧出すからな」
風香「斧持ってるの!?」
南沢鈴音、荒木風香、広野蓮、渚輪泰斗、黒羽迷、本田奏太、市護玲央、赤木龍羽、神多里愛。
そして病室の主——流星魁渡。
彼等はかつて、小学生の頂点に立ったサッカーチームの選手たち。
今でこそ和気あいあいと話す事が出来るが、10年前のFFI決勝直後は、一時期話も出来ないほどだった。
迷「……テレビ点けないと。始まる」
奏太「あ、そうだった」
今日ここに集まった目的は、ホーリーロード2回戦を視聴するためだ。
鈴音の弟がどうたらこうたら、と理由があった気がするが、彼女自身はそれどころではないらしい。
蓮「玲央は相変わらず、イチゴミルク好きだね」
玲央「そういう蓮は背伸びたな」
龍羽「鈴ちゃん越したね! 告った?(ニコッ★」
蓮「なっ……!!//」
奏太「蓮、顔赤いぞ? 窓開けるか?」
蓮「え、いえっ、大丈夫ですっ!」
玲央「龍羽、そこまでにしないと鈴音が気付くと思うが」
猫耳の付いたフードが、開いた窓から吹く風にさらわれる。
龍羽は玲央の言葉に、またいたずらっ子のような笑顔を浮かべるも、素直に口を閉じた。
鈴音(……こうしていると、あの時を思い出す)
個性はあまり変わらないが、やはり全員があのころとは少しだけ違う。
10年前とはずれた音だが、それでも心地よい、しかし音の足りない和音。
視線は魁渡にありながら、鈴音は黙ってそれを感じていた。
すると隣に里愛が現れて、気遣うような声で尋ねる。
里愛「やっぱり、つらい?」
目の前だったもんね、槍が刺さったの——。
彼女の言葉で、鈴音はもう一度、あのシーンを頭の中で再生していた。
円堂『魁渡!もう表彰式始まるぞ?!』
魁渡『あっ…鈴音、後でな!』
その“後で”がいつなのかと、何度も何度も語りかけた質問を、また、無意識の内に繰り返す。
1人だけ10年前と変わらない、幼い容姿の流星魁渡。
彼は今も、目を覚ます気配が無かった。
奏太「あ、まだ前半2ふ……え?」
風香「……これ、雷門大丈夫?」
テレビを点けた奏太が、目を丸くした。
前半2分で、すでに雷門は先制されていた。
*
優一「まとめると、その子は試合前日事故に遭った、けれど事故に遭うのを避ける事も出来たはずだった。だからチームのマネージャーとして君は少し苛立たしく思っているけれど、怪我した子がとても心配でもあるってことかな?」
美咲「……」
優一「沈黙は肯定だね?」
青い空を背景に、剣城京介の兄・優一は黙り込む美咲に微笑んだ。
優一「昨日の夕方に来た月乃さんかな?」
美咲「えっ……」
優一「廊下を通った時見かけたんだ、脚を怪我してた。それに君と会ったのもあの後だった」
月乃を心配して病院について行った美咲は、廊下で見かけた剣城と似た後ろ姿の優一を思わず凝視してしまった。
その視線に気づいた優一が、声を掛けられて口ごもった美咲の暗い表情に気付いて、相談に乗るよ、と言ったのが知り合うきっかけとなった。
彼の中で、同年齢の弟と美咲の姿が重なったのだろう。
美咲「……月乃杏樹、編入してきたばっかりの同級生です」
優一「そっか。事故原因は、猫をかばって、だったね」
美咲「……分かってるんです、つきのんは家族みたいに猫を大事に思ってるんだって。だけ、ど、」
どうして、こんなにもやもやするんだろう。
美咲はかすむ視界を拒絶するように、目を閉じた。
優一「君は優しいから」
美咲「!?」
優一「それに、月乃さんも」
優一はサイドテーブルに置いてあったリモコンを手に取り、テレビを点けた。
前半も中盤。雷門の選手が傷ついている事に顔をしかめるも、その表情をすぐに消して美咲を振り返る。
優一「君は仲間、チームメイトを大切に思ってる。そのチームメイトに含まれて、君の友達にも含まれる月乃さんも、もちろんチームメイトと同じくらい大切だ」
美咲「あたしはつきのんのことっ、」
優一「いや、君は彼女を仲間と同じくらい大切に思ってる。それを自覚してるか無自覚かは分からないけど、友達だと思ってない、と無理やり決めつけてるんだ」
友達と思っていない。
そのはずだった、と思い返して、美咲はハッとする。
——はず、だった?
優一「だから君は苦しんでる。友達じゃないと思っていた月乃さんを心配しているのに、月乃さんなしで試合に勝てるかどうか、と命より試合を優先しているのが建前だから」
液晶の中では、天馬がボロボロの体で立ち上がり、相手が笑いながら渡してきたボールを蹴り、ドリブルを始めた。
スライディングタックルを仕掛ける相手選手をかわすも、それは明らかに脚を狙っていた。
美咲はそのラフプレーばかりをする相手との試合をぼんやりと眺めて、思う。
——どこかの病室で、彼女もこれを見ているのだろうか?
優一「それに、きっと同じように苦しんでるのは月乃さんも同じだよ」
美咲「え……?」
優一「あの病室まで車いすで移動しようとしたら、看護師さんに止められちゃったから話は聞けなかったけど」
優一が何か物知り顔で優しく微笑むのを見て、美咲は目を丸くする。
その時、階段から何かが落ちる音と、看護師の慌てた声が辺りに響いた。
美咲が耳を澄ますと、看護師の叫び声の中に聞き慣れた——。
美咲「……」
優一「今にも泣きそうだった。見舞いに来てた子も、苦しそうな顔してた」
美咲は、その声に背中を押されて病室を飛び出した。
階段の踊り場で、手すりにつかまりながらよろよろと歩いている月乃を見つけてこみ上げるものを、堪えた。
看護師「月乃さんっ、まだそんなに歩いちゃいけないわ!!」
美咲「貸して下さい」
病室の前で叫ぶ看護師が持っていた松葉杖をひったくり、美咲は階段を飛ぶように駆け降りた。
険しい表情をしていた月乃が、美咲を見てきょとん、と目を丸くする。どうして、と目が語っていた。
美咲「つきのん、無茶しちゃだめだよ!」
月乃「……」
——つきのんも雷門を大切に思ってたんだ。
松葉杖を手渡して、美咲は溢れた涙をぬぐい、笑顔で言った。
美咲「万能坂中に、一緒に行こう!」
月乃はしっかりと頷いて、松葉杖を力強く握った。
***
だけど長い"万能坂"があると知ってタクシーを頼む美咲。