二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第19話 護るための聖歌 ( No.86 )
- 日時: 2013/04/13 14:51
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
玲央「……一匹オオカミが集団行動をした」
奏太「どんな例えだ」
静かなツッコミに表情を変えず、玲央はテレビをじっと見ていた。
——その背後で行われる、シュークリーム投げ合戦から逃避するように。
奏太「せっかくの人気店のシュークリームが、ぐちょぐちょになってそうだ」
迷「……龍羽は、潰さないようにしてる」
玲央「里愛は気にしないだろうな」
はぁぁ、と溜息をつく玲央。
テレビに映るのは、よろけながら立ち上がる雷門のキーパー。
迷「……かわいそう」
同じポジションだった迷が、表情を陰らせながらぽつりと呟く。
そんな後ろ姿をベッド脇の椅子に座りながら眺めている鈴音は、小学生時代を思い出してふと隣の少年を見下ろした。
そして。
ぴくり、と動いた小さな手に、目を見開く。
鈴音「なっ……」
僅かに空気を震わせるのみの声は、シュークリーム投げ合戦の音にかき消される。
小さな少年——流星魁渡の中で、時が動き始めた。
ちょうど、額に手を当てて顔をしかめる雷門のエースストライカーが、ベンチを睨みつけた時だった。
*
水鳥「お前らっ! あいつ等のサッカー見て、何も感じないのかよ!!」
大きく息を吸いこんだ水鳥が、2,3年の試合に参加していない選手に訴える。
その大声に思わず体を揺らした選手達は、水鳥を振り返る。
シュートの嵐を浴びながらもゴールを守った三国に、神童や天馬、西園が駆け寄っていた。
水鳥「あいつらは、同じサッカー部の仲間なんじゃなかったのかよ!! 一緒に部活して、飯食って、一緒にやって来たんだろ!? その仲間が、必死に雷門サッカー守ろうとしてんだぞ!!」
ハッとして、ゴールを振り返る車田や浜野。
——忘れかけていた、仲間という意識。
水鳥の言葉が、すーっとしみ込んで行く。
水鳥「まだ雷門に来て日の浅い月乃だって、こんなフラフラなのに、ここで祈ってるんだぞ!? なのにてめえらッ、何も感じないのかよぉっ!!」
美咲「っ、水鳥先輩……」
*
体の中から湧いてくる力が、空気中にすぅっと消えていく。
そんな初めての、でも懐かしい感覚を確かめて、私は“祈り”をやめた。
水鳥先輩が、私の事をさっき皆さんに言ってくれました。
それは聞いていたから、違う、と言いたかった。私は、雷門のために祈ってる訳じゃない。
赤い目のエースストライカーと目が合った。睨まれてる……つまり、効果があったということ。
あの人から感じる黒い物が、少し弱くなってる。
月乃(だけど、疲れた……)
ぐらんぐらん揺れている感じ。疲れて疲れて、頭がおかしくなって行く気がする。
だけど、決意までは揺らがせない。
——私は、神童拓人を護る
悪魔にとり付かれた人から、絶対に護るんだ。
私はまた手と手を合わせて、強く強く握る。目を閉じて、心の中で歌を歌う。
今は、動き出した雷門の選手が注目を集めている。この間に、元の人に体の主導権を返させたい。
?『——え、どう……じゃった……ろうね?』
誰かの声が、頭の中に響く。焼かれた野原が脳裏に浮かんだ。
私の、知らない景色?
それとも……私が、知ってた景色?
?『ねえ……して……パは——』
段々クリアになっていく声、景色。
幼い少女の声。
焼け野原で、膝をついている。風が吹いて、灰と共に少女の涙をさらった。
?『ねえ……して、パパは……んじゃった……ね?』
ドクン、と心臓が跳ねた。
私はこの子を知っている。薄い桃色の髪、花柄の傷が付いたワンピース。
?『ねえ、どうして、パパは死んじゃったんだろうね?』
泣き笑いの表情で、誰にともなく尋ねる少女。
やっぱり、この子は。
この子は、過去の私だ。
*
車田「行くぞ皆! これからが本当の勝負だ!!」
オオッ、という声が合わさった。
真っ先に動いた車田は、ダッシュトレインで化身発動間際の光良からボールを奪い、反撃の狼煙を上げた。
そして今、倉間以外の全員のフィールドプレーヤーが気持ちを1つにした事を宣言したのだ。
車田が天馬へパス、敵をそよかぜステップでかわした天馬は、浜野につなぐ。
美咲「いっけー浜野せんぱーいっ!!」
浜野「よしっ、なみのりピエロ〜! よっ、ほっ」
水鳥「何だ、必殺技使えたのか!」
波が目くらましの役割を果たし、浜野はボールを足で上手く転がして敵をかわす。
それにいらついた磯崎が、すぐに奪い返してしまったが。
その後続いた一進一退の攻防に終止符を打ったのは——。
天城「ビバっ、万里の長城! ハーッハハッハ!」
光良が、その技でボールをとりこぼし、転がって行った先にいたのは、未だ一歩も動かない倉間だった。
剣城(?)「こっちだ!」
神童「倉間!!」
磯崎は光良に上がれ、と指示し、動かない倉間の足元にあるボールを奪いに駆けだす。
美咲「……倉間先輩っ、奪われたら“くらまん”って呼んじゃいますよッ!!」
霧野「Σ橘!?」
倉間「……ウゼー(ボソッ」
倉間は突然、ボールを蹴りあげた。その先にいるのは、ボールをよこせと言った剣城だ。
美咲「えーっ、くらまんって呼ばせてくれないの!?」
葵「相手、先輩だよ!?」
全員が美咲とは違う意味で驚いている間にも、剣城は上がっていく。
美咲(あれ、確かあれって中身……)
篠山「機械兵ガレウス!」
あんな奴にゴールを割らせるか、と出現させた化身。剣城は愉しそうな笑みを浮かべた。
剣城(?)「鬱憤を晴らしてやるぜ……剣聖ランスロット!」
美咲「……ラ、ランスロット様ぁぁぁ!?」
霧野「叫ぶな美咲、隣に病人がいるんだぞ!」
月乃「……(ガクッ」
葵「Σ月乃さぁん!!」
▼月乃がログアウトしました。
剣城(?)「我らが女王に捧げます(ボソッ……ロストエンジェルっ!!」
美咲「ロ、ロストエンジェル!? あああランスロット様カッコイイ!!」
円堂「……もう止まらないな、橘は;;」
篠山「ガーディアンシールドっ……うわぁぁぁ!」
剣城が化身を解除すると、同時に赤い目も元に戻り、悪魔は再び彼の心の隙間に身を潜めた。
続けて、化身を出せる体力が残っていなかった篠山からフォルテシモで神童が追加点。
興奮が収まらない美咲と、その声で限界を迎えた月乃という対照的な状態の2人で大慌てなベンチも、鳴り響くホイッスルで勝利の喜びに浸った。
VS万能坂戦
3−2、雷門の勝利
***
シリアスブレイカー美咲のおかげで、後半gdgd←