二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第21話 聖力チェッカーとロシアンルーレット ( No.92 )
- 日時: 2013/04/30 16:53
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
明らかに大き過ぎる白衣を着た、10歳前後の少女が廊下を走っていた。
手に抱えるのは、天使の翼の飾りがついた、清楚な印象を与えるチョーカー。
青い目を爛々と輝かせた少女は、建物の階段を跳ぶように駆け上がる。
そして『天使長室〜無断で立ち入った者は鎖縛りの刑〜』という板のかかった、開けるのに躊躇うべき扉のドアノブを、勢い良く回した。
「ソフィア様っ!」
しかし、その笑顔は部屋の状況を見て段々と活気を失くしていく。
アルモニ「それで、ランスロット様を照らす太陽の角度がジャストで、輝き具合がすっごく良かったの! ちょっとダークな感じもあるんだけど、それでいて天から使命を受けた剣士の真剣な顔をしてるみたいな凛々しさもあってね! ほんと、素晴らしいって言葉はランスロット様の為にあるんじゃない!? あ、それともイケメンと言うべき!? ねえソフィアはどっちだと思——」
ソフィア「あなたの話でルキーナがげんなりしてるわよ」
アルモニ「え? ルキちゃん?」
鎖がぐるぐると巻かれながらも、全く気にせず仕事をする先輩の隣で長話をしていたアルモニは、ドアに立つ少女を見て目を瞬かせた。
そして再び顔を輝かせる。
アルモニ「久し振りールキちゃん!」
ルキーナ「ど、どうも……」
ソフィア「とりあえず、そこにあるガムテープ取ってくれるかしら」
アルモニ「あ、それあたしの口ふさぐんでしょ? そんな取る時痛い奴にしてくれるなんてソフィアは思いやりが——」
ルキーナ「どうぞ、ソフィア様」
アルモニ「ルキちゃーん!」
ソフィア「全く、余計な仕事を増やさないで頂戴」
ピッ、とガムテープを伸ばしながら言うソフィアの言葉の迫力に押され、アルモニは口をつぐんだ。
大人しくなった事に満足したのか、ソフィアはガムテープを机の上に置いて、ルキーナを振り返る。
少女は用事を思い出して、チョーカーをソフィアに差し出した。
ルキーナ「これが、先日言っていた聖力チェッカーです」
ソフィア「聖力の質と量を測定できる機械ね」
ルキーナ「はい。試しにアルモニさんのを測定してみます」
ルキーナは聖霊だ。
天使に守られる存在として、天使長であるソフィアに憧れている、ごく普通の女の子。
だからこそ——特出し過ぎた“科学者の才能”をソフィアに見出され、研究を行い天使長の役に立つ、ということに並々ならぬ喜びを感じていた。
そして、ソフィアにへばりつくアルモニも、通常とは違うタイプで優秀だということを知っている。
ただ、そのタイプがルキーナには不思議でならなかった。
ルキーナ(このチェッカーで、アルモニさんの謎が少し分かる……!)
アルモニ「え、ソフィアじゃなくて良いの?」
きょとんとするアルモニを尻目に、ルキーナはチェッカーの飾りに手をかざす。
空中に現れた液晶を手早く操作すると、そこに2つのルーレットの様な物が上下に現れた。
ルキーナ「な、成程……ガッツが200でテクニックが10……」
アルモニ「Σそれゲームの表記!?」
ソフィア「アンバランスなのには突っ込まないのね」
ルキーナ「やっぱり、性格通りなんですね!」
アルモニ「ルキちゃんが天然で地味に心にくるよー!」
ソフィア「テクニックが2ケタあるとは思わなかったわ」
アルモニ「ソフィアー!!」
オラージュ「……いつも通り騒がしいな」
クローチェ「アルモニって何でこんなに元気が良いんだろう」
ドアの外では、報告に来たものの出て行くタイミングが分からない天使2人が中の様子を伺っている。
クローチェ「それより、この報告の方が大事なのにな」
怪力天使長の下にいる彼女たちの報告書は、データのほかに紙にもまとめられる。
クローチェの持っていた報告書をちらりと見て、オラージュは小さく息を吐いた。
オラージュ「アルモニの盲目な恋で見逃された、悪魔か……」
貼り付けられた写真には、剣城京介の姿。
一向に終わる気配のないコントに今度は溜息をついて、オラージュはドアをノックした。
*
『月乃さん、あなたはフィフスセクターがなぜ設立されたかご存知ですか? ではまず、少年サッカー法第五条をご存知ですか?
サッカーは、皆平等に愛されるべきであり、その価値ある勝利も平等に分け与えられるべきである。
これは3年前、フィフスセクター結成当時に定められた物です。
10年前に巻き起こったサッカーブームはやがて、社会的地位をサッカーによって決める社会を作り上げてしまいました。
大会で1回戦負けするような学校や企業が廃校、廃業することは珍しくありません。
そんな社会に歯止めをかけるべく、サッカー協会の中に出来あがったのがフィフスセクターなのです。
サッカーが好きな子供が、たった1度のミスでサッカーをする場所を奪われる。
全て管理すれば、その様な事は起こりません。
しかし雷門はどうでしょう。親の心子知らずとはまさにこの事。
ああいうことがないようにシードという存在があります。
サッカーで社会的地位が決まる世界と、平等で平穏な世界。
……月乃さん、こちらに協力してくれるでしょう?』
どういうこと?
私を眠りからさました夢は、悪夢に近かった。
ずっと、この夢の意味を考えてる。
月乃(もしかして、フィフスセクターからのメッセージ?)
“彼ら”なら、きっと他人に夢を見せることができる。
「——さん」
私はフィフスセクターが出来た経緯を知らなかった。
脳が勝手に作ったにしても辻褄が合い過ぎていて、それに確認してみたら夢で見た経緯は合っていた。
天馬「月乃さん!!」
月乃「!」
天馬「あ、やっと気付いた」
ニカ、と笑う6月。そういえば、病院の帰りに河川敷を通ったら、6月と西園さんがいて……。
必殺技の練習を、見ていた。
西園「今から休憩なんだ」
天馬「その後の練習はボーっとしてないで見ててね!」
全然見てなかった。
私の顔を見ると、2人は顔を見合わせて苦笑いをした。顔に出てたのかもしれない。
それから2人は、風呂敷に包んだおにぎりをいくつも出して、私を手招きした。
天馬「ロシアンルーレットおにぎりだよ!」
……ロシアンルーレット、って。
4個ある内の1個は、おにぎりに入れてはいけない物を詰め込んである、とのこと。
誰が作ってしまったのか。中学生って恐ろしい。
選んだ物が外れじゃありませんように。
西園「じゃあせーの、で食べよっか! せーの、」
一口目で、それは口の中に入って来た。
……これは何の味? 食感的に……プリン?
天馬「あ、梅干しだった!」
西園「僕おかか! 月乃さんは?」
……すごく不快なハーモニー。
天馬「……ねぇ、それはおかか?」
西園「こんなでろでろに溶けてるおかか、見たこと無いよ」
なるほど、これは。
月乃『プリンに、溶かされたチョコレートがかかってます』
天馬「月乃さん泣きそうな顔してるよ!?」
西園「想像するだけで気持ち悪い……」
食べ物を口内から消し去りたいと思ったのは、これが初めてです。
(みんなは食べ物で遊ばないようにしようね!by天馬)