二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第23話 立ち入り禁止の病室 ( No.109 )
- 日時: 2013/05/28 15:13
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
準決勝の対戦相手が変わった。
雷門とは、円堂監督が伝説を作り上げる前から因縁のある相手“帝国学園”。
フィフスセクターの言いなりで、今は化身使いが何人もいる
……それよりも、ランスロット様に会いたいよ!
霧野「それよりも、はないだろ」
美咲「いたっ」
隣に座る霧野先輩に、でこピンを食らった。
呆れたように溜息をつく霧野先輩。ユニフォーム姿、久し振りな気がするなぁ。
脚はもう大丈夫みたい。
美咲「それよりも、です! カモン剣城君ッ! このままじゃあたし、不登校になりそうっ!」
神童「不登校!?」
そう、ここ最近シードの彼が部活に来てない。
あたしのライフが……ランスロット様ぁぁ!!
浜野「まあ、シードなのにフィフスセクターに逆らっちゃったから、色々まずいことになっちゃってるんでしょ」
美咲「むー。あれ、じゃあ次の試合って11人いないってことに……」
天馬「え!?」
後ろで葵たちと一緒に座ってるつきのんに、視線が集まる。
神童「脚はまだ……もうしばらくかかるそうです」
三国「いや、月乃に頼るようじゃダメだ、そうだろう」
三国先輩が見渡しながら言うと、天城先輩が頷きながら気になる発言を。
天城「元々女子は出場禁止だド」
美咲「え、霧野先輩はー?」
霧野「復活した脚力を味わうか? 橘」
わーこわーい((
ふと上を見上げると、つきのんがじっとこっちを見つめていた。
霧野先輩を無視して笑顔を向けると、視線を逸らされちゃったけど。
そんなあたしに黒い笑顔で微笑む霧野先輩を鎮めたのは、キャプテンだった。
す、と立ち上がって、場を真剣な空気に戻しながら、円堂監督を見据えた。
神童「……提案があります」
・
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美咲「終局の雷、かぁ」
先輩たちが練習しだしたのは、“アルティメットサンダー”というタクティクス。
4人で自陣の方へ回してエネルギーをためたボールを、相手ディフェンスのど真ん中に蹴り込んでディフェンダーを蹴散らすっていうすごく有効そうなやつ。
前任の監督と編み出したにもかかわらず、こうして練習するには理由が……。
倉間「うわぁぁっ!!」
天馬「倉間先輩っ!」
神童「倉間!」
現在雷門唯一のFW、倉間先輩が蹴り返せない程のエネルギーがボールにたまっちゃうのです。
つまりは、並みはずれたキック力のある選手じゃないと蹴り返せないから、お蔵入りだったタクティクス。
……う〜ん。
葵「どうしたの、美咲?」
美咲「あれ、蹴ってみたい……」
水鳥「……え?」
ちょっとうずうずする。
あたしだったら……でもあたしは、マネージャーだからなぁ。
悔しがる倉間先輩を、三国先輩がフォローする。
三国「神童も倉間も、パワーよりテクニックで決めるタイプだからな」
天馬「……月乃さんだったら」
倉間「やめろ!」
びくり、とつきのんが肩を震わせた。
悲しそうな顔で、包帯が巻かれて固定された脚を見つめてる。
ああもうっ、6月のバカ!
神童「——剣城。剣城なら、あのボールを蹴る事が出来るかもしれない」
美咲「!」
倉間先輩はそれを認めながら、でも来ない、と意見そのものを否定する。
でも、剣城君なら……ランスロット様のシュートを思い出して、彼なら出来るってあたしも思った。
でも良く考えてみたら、剣城君の中には悪魔がいる。
つきのんの聖力騒ぎでソフィアの頭から抜け落ちちゃってたみたいだけど、こっちも大事。
そうと分かれば——!
美咲「かんと——」
え?
何で、監督と目が合ったの?
監督は一瞬きょとんとしてから、何だ? といつも通りの笑顔で尋ねて来た。
美咲「あ、ええと……剣城君捜してこようかなって」
円堂「そうか、じゃあ剣城の事は橘に任せるぞ」
美咲「任されましたっ!」
多分この会話は、フィールドの皆には聞こえてない。
先輩たち刺激しちゃ大変だからなぁ。
つきのんの様子も気にはなったけど、顔色良いからきっと大丈夫。
うん……喉に手を当ててるのが、1つだけ引っ掛かるけど。
音無先生が監督に帝国のデータを見せているのをちらりと見てから、あたしは部室棟を抜け出した。
*
冬花「もー、また抜け出したのね」
星也「太陽ですか?」
輝姫「またサッカーかな」
病室の入り口に立ち、もぬけの殻となっているベッドを見るなり冬花が溜息をついた。
丁度、太陽の検温に行こうかという時間帯にやってきた見舞客2人が背中からひょっこり顔を出す。
輝姫の車いすを押している真木星也は、幼馴染のサッカー好きは相変わらずだ、と苦笑した。
冬花「いえ……多分、彼の所よ」
輝姫「彼?」
冬花「5階にいる、小学生なんだけど……彼もすごいサッカー好きなの」
星也「でも5階って、立ち入り禁止ですよね?」
立ち入り禁止の階に入院中の小学生。
興味がわくのは当然だった。2人は冬花について行く。
輝姫「もしかして、この前4階から落ちてきたカイト君ですか?」
冬花「ええ。怪我は……リハビリの計画には少し響いたらしいけど、大事には至らなかったわ」
星也「その子って自殺志願者なのか?」
冬花「むしろその逆、毎日リハビリがんばってるわ」
エレベーターを使い4階に上がる。
空気が静まり返った廊下を、とある病室から聞こえる声だけが彩っている。
輝姫「あ、太陽の声」
すごく明るい声で、話が弾んでいるのだと少ししか聞かなくても分かった。
冬花が唐突に、無言でドアを開けると冷や水を打ったように静まり返ったが。
魁渡「……よ、冬花」
冬花たちが部屋を覗くと、あたかも1人で読書してましたよという雰囲気の魁渡しか見えなかった。
冬花「太陽君、隠れたって、髪が見えてるわ」
魁渡「だってさ、太陽」
太陽「あはは……」
輝姫(冬香さん、透視!?)
冬花「鎌かけただけだったのに」
太陽「ええ!?」
ぶはっ、と魁渡は吹き出した。
カイト君笑わないで、と太陽が少し顔を赤くしながら言っても、止まりはしなかった。
輝姫は改めて、まじまじと魁渡を見つめる。
笑顔が眩しい少年は、顔つきのわりに異常に背が低い。
そしてオレンジの髪に緑の目。それは太陽と同じで、傍から見ると兄弟のようだ。
手にしたサッカー雑誌は太陽の物で、おもしろいページを見つけたのか、魁渡が笑顔である部分を指さし、それを見た太陽が笑っている。
輝姫(やっぱりあの子、何か見覚えが……)
ふとベッド脇の棚に目をやると、枯れた花が花瓶にささっていて、思わず目を見開いた。
魁渡「えーっと、輝姫だっけ。大丈夫か?」
輝姫「え!?」
魁渡「……あ、花? 冬花捨ててきてくれよ」
冬花「お見舞いに来た人、に……」
頼んで下さい。そう続けようとして、冬花は続きを声にしようとはしなかった。
魁渡は窓の外を眺めながら、力のこもっていない声で言った。らしくない、さらりとした声で。
魁渡「鬼道も来ないんだぜ?」
*
鬼道「しばらくだな、円堂——」
夜の鉄塔広場。
少年の義理の兄は、不敵な笑みで“親友”を迎えた。