二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第24話 思いが届きますように。 ( No.118 )
日時: 2013/06/01 03:53
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

鬼道「サッカーには管理する者が必要だ」

夜の街並みを見つめながら、真剣な声色で鬼道は言った。
話をしよう、と呼び出したのは鬼道だった。
彼はフィフスセクターの存在を肯定する決定的な一言を放ち、円堂と春奈は困惑の表情を浮かべる。

鬼道「時代は変わった……サッカーも変わったんだ」
円堂「変わってなんかいない! サッカーはサッカー、楽しく、自由に、そして真剣にやるものだろ!」
鬼道「ならば聞く。フィフスセクターが存在する前のサッカーは楽しかったか」

フィフスセクターが存在する前。
サッカーが社会的地位を決めてしまうものだった時代。
それを築いたイナズマジャパンの選手や関係者が止めるより早く、その波は日本中を呑み込んでしまった。
それを理解しながらも、円堂は怯まない。

円堂「サッカーの勝ち負けはフィールドで決める。どんな理由があっても、最初から勝負が決まってるサッカーなんて間違ってる!」

お前に分からないわけが無いだろ、とかつての仲間だからこそ円堂は言う。
円堂の相変わらずの熱さに鬼道は口角を上げ、円堂は目を見開く。
その笑みを消した鬼道は、だが熱さだけでは何も変えらない、と言い放った。
そして2人に背を向ける。

鬼道「お前のサッカーが正しいというなら、フィールドで証明してみろ。もっとも、雷門が我が帝国に太刀打ちできるとは思えんがな」
春奈「……ッ、待って、兄さ——」

妹の声に、鬼道は足を止め、振りかえらずに再び口を開く。

鬼道「……時に円堂、お前、魁渡を見舞ったそうだな」
円堂「え、ああ、春奈と一緒に……」
鬼道「魁渡は、お前を見てどんな反応をした?」

険しい声で尋ねる鬼道に、円堂は戸惑いながら記憶をたどる。

円堂「——泣きそうだった」

小さな体で、自分を抱きしめた少年を思い出す。
鬼道は溜息をついて、見舞いに“行ってしまった”2人を振り返る。

鬼道「魁渡は10年間昏睡状態だった。目が覚めて親しかったお前が、大人になったお前が突然目の前に現れたら、精神的なダメージを受けるはずだ。発狂しても不思議ではなかった」
春奈「だから兄さんは見舞いに行ってないって言うの!?」

鬼道の拳は震えていた。
彼らが見舞いに行った、というのは冬花からメールを貰って知っていた。
魁渡がサッカーをしている少年めがけて飛び降りたのを見て、春奈が気絶してしまったという話も。
10年前の魁渡なら、飛び降りたって平気だと彼と親しい者は思うだろう。
だが、今は違う。春奈の様に魁渡の病室から別れを告げて飛び降り、姿を眩ました彼の姉・瑠璃花を思い出す者もいれば、看護師である冬花の様にまだ回復途中の体を心配する者もいる。
鬼道も、怖かったのだ。
そして自分と会って、魁渡はどう感じるのかと想像するのも怖かった。
彼が“生きられなかった10年間”を生きた友を、すんなりと受け入れてくれるだろうかと。

円堂「……確かに、俺はそう考えもしなかった。だけど鬼道、俺だったら会いに来てほしい。友達がいなかったら、会ってショックを受けるよりつらいと思う」

鬼道は『面会を謝絶してくれ』と冬花へ伝えていた。
魁渡が壊れないように。仲間が傷つかないように。

円堂「それに、魁渡だったら乗り越えられるって、俺は思う」
鬼道「だが瑠璃花もいないんだぞ!」
春奈「!」
鬼道「あいつが1番会いたい姉はいない。目覚めてまだ数日の魁渡に、真実を伝えられるか?」

自嘲的な笑みに、春奈は言葉を失くした。
瑠璃花が姿を眩ましてから、10年が過ぎた。
鬼道財閥も、仲の良かったクラリス家も全力を挙げて捜索しているが、情報は1つとして手に入らない。
大人になった冬花を見た魁渡が、真っ先に問いかけた姉の存在。
円堂は、言葉に詰まって口を閉じる。
携帯電話が震えている事に気付いた鬼道は我に返り、歩き始める。
そして、再び立ち止まることはなかった。

鬼道「フィールドで会おう」



美咲「オラちゃん。なーんにも出てこなかった、ってどういうこと?」

卓袱台を囲むのは、A級天使3人。
どこにでもあるような、安いマンションの1室。ここは橘が住んでいる家だ。
自分らしさを追求してみると、狭いのも相まって足の踏み場がなかなか無くなってしまったが、周りからは、綺麗だとらしくないからいいんじゃないか、というプラスの意見が多い。

オラージュ「言葉のままだ。月乃杏樹という存在は、神童拓人の家の前に突然現れた」
美咲「人間は、お母さんから生まれるんだよ? 空気からは生まれないんだよ?」
オラージュ「それはさすがの僕でも知ってる。でも記録があるのは神童拓人の家の前に現れた、って所から。どんなに探してもそれ以前のはない」

クローチェは美咲に出された牛乳を一口飲んで、顔をしかめる。
まずい、と心の中で呟いて、頭を掻く美咲と目が合ってしまったため自分の報告をするべく口を開いた。

クローチェ「聖霊は、任務で下りているのしかいない。一応全員にコンタクトを取ったけど、誰も東京には近付いてなかった」
美咲「えーっ!?」
クローチェ「……居場所の分からない例外なら1人いる」

美咲は一瞬顔を輝かせるが、名前を聞くなり嫌悪に顔を歪めた。

美咲「興味無いよ。関係ないだろうし。じゃあ、それはソフィアに報告して……」
クローチェ・オラージュ「もうした」
美咲「……うん、優秀で何よりだよ」

相変わらずの無能指揮官振り。
自分のコップに入った牛乳を飲みほして、美咲は息を吐いた。

美咲「つきのんはあたしに任せて、2人には今すぐ剣城君のお兄さんのことを調べてほしいの」
オラージュ「2人も必要なほど偉大な人物なのか?」
クローチェ「絶対要らない。オラージュ、じゃんけんしよう」
美咲「カッコイイ風に言ったのに!」

ショックから若干日本語がおかしいことにも気付かない美咲。
そういる間にも、じゃんけんで負けたオラージュが剣城の兄・優一のデータを入手する。
ちなみに、聖力を突然使うと、天界で天使を管理している方が驚いたり、混乱してしまう。
だから彼女は、報告という名目で人間界に来ている2人に調べさせるのだ。

オラージュ「出たけど」
美咲「早っ! ありがと!」

美咲は空間ディスプレイに現れたデータに、真剣に目を通す。

美咲(脚を怪我……剣城君をかばったのかぁ)

一般家庭には払えない程の多額な手術費のかかる怪我。
美咲は優一の顔を思い出し、考えを巡らせながらディスプレイを閉じる。

美咲「よしっ、明日優一さんの所に行ってこよう!」
クローチェ「月乃杏樹は」
美咲「ついでに調べてくるよ。同じ病院に通院してるし」

忘れなければね☆
部下2人は、忘れるな、という意味を込めて美咲の頭を軽くはたいた。