二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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絆された想い / 心霊探偵八雲
日時: 2010/04/26 21:29
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

改めまして、御伽です。

小説。(いろいろとオリ設定有)

::/序章
 >>01

::/第一章,振り返る
 >>02 >>03 >>04


*オリキャラ
・斉藤 海雲[サイトウ ミクモ]
八雲と晴香の娘。肩より少し長いくらいの髪を二つにゆる結び。左目が赤いがカラコンで隠している。
どちらかと言うと八雲似。

Page:1



Re: 絆された想い / 序章 ( No.1 )
日時: 2010/04/25 03:45
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 三柳椿は仕事が終わり、ふらふらと千鳥足で帰路を歩いていた。少し曇っているが、月はよく見える。綺麗な半月だった。
 昨年に大学を卒業して親元を離れた三柳は特にやりたいこともなく、近くの職場でなるがままに働いていた。朝早く会社に出勤し、事務職を行う。上司の怒りのはけぐちやセクハラに耐えながらも、最後は同僚と飲んで帰宅。至って普通の生活を送っていた。
 三柳は、小さな石に躓いて転んだ。アルコールが入りすぎているのか、痛みすら感じていないように見える。まるでゾンビのようにゆっくりと眼にかかる長い髪をよけながら顔を上げた。顔を思い切りぶつけたせいか、鼻血が出ている。
 そのままのろのろと立ち上がろうとすると、スッと目の前に手が差し出された。

「……誰?」

 朧な視界に映る手の主に訊ねた。だが、返答は返ってこない。相手の顔はよく判別できないが、恐らく無表情。
 誰だか知らない人間に手を差し出される? そんな哀れな女に見えるのか?
 プライド高かった三柳は手を振り払い、ふらふらと自分で立ち上がった。スカートやタイツについた砂を掃う。とんだ災難だ。酔いながらもそう思った。
 目の前の人物は、三柳の鞄を拾い手渡した。なんだ、コイツ。

「ねぇ、ちょっと。誰なわけぇ?」

 朧な視界、そしてタイミングよく曇ったせいで視界が悪い。ごしごしと目をこするが、よく見えない。

「……ぎ……き──」

「はぁ? あんだってぇ?」

 小さく絞り出すような声は、酔っている三柳には聞こえない。耳の横に手をつけて聞き返すが、それ以上は何も言ってくれなかった。
 意味のわからない相手にこれ以上構っていたら疲れるだけだ。そう感じた三柳は小さく舌打ちをした後、勝手に会釈をして再び帰路を歩こうとしたが、手を掴まれた。何だって言うんだ。
 文句を言ってやろうと、眉間に皺を寄せながら相手を睨み付けた。

「あんだって……──」

 振り返ったとき、明るい月明かりに照らされていた為に相手の顔が見えた。
 ショートカットの髪に小顔。体系から推測して恐らく女。その女の顔は真っ赤に染まっていた。前髪が未だに流れる血のせいで、べったりと顔にくっついている。そのせいか、血の流れもよく見えた。よく耳を済ませば、地面に落ちた血の池に、水音を立てながら新たな血液がその領地を広げていっていた。
 三柳は一気に酔いが覚め、血の気が引いていく。まるで掴まれている場所から、血を吸われているかのようだ。よく感覚を研ぎ澄ませば、女に触れられている手にぬめぬめとした感触を感じる。
 女は無表情のまま、ゆっくりと口を開いた。その無表情さが逆に恐怖をそそる。

「みや……なぎ、つ──ばき……」

「い……いやぁぁぁぁ!」

 再び暗くなった夜道に三柳の悲鳴が響き、手を振り払って必死に走った。殺される……!
 女は三柳の小さくなっていく背中を見て、小さく手を伸ばし、笑った。


−TO BE CONTINUED.−

Re: 絆された想い / 第一章[01] ( No.2 )
日時: 2010/04/25 03:46
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

「邪魔するぜ!」

 後藤は中心街から離れたハイツの部屋のドアを開けた。
 後藤刑事、まだ午前七時ですから、近所迷惑とも言える大きな声はやめたほうがいいと思います。石井は口にできることもなく、心の中で後藤を注意した。
 八雲はプレハブ小屋からハイツへと引っ越した。海雲は越したくないと言っていたが、学校が遠いと言われしぶしぶここに越したらしい。詳しい話は知らないが、そんな金どこに持っていやがったんだ。
 玄関で靴を脱ぎ、まるで自分の家のようにズカズカと入り込む。石井も謙虚に「お邪魔します」と家に入った。
 ホールを抜けてリビングにはいると、プレハブ小屋から勝手に持ってきたのか、机とパイプ椅子が見えた。八雲の定位置だ。知り合いに刑事がいながら盗みを働くとは不貞野郎だ。
 辺りを見回すが誰もいない。もしかしてまだ寝てるのか? 鍵もかけないで寝るとは鍵の意味がねぇ。
 海雲がいることを考慮して、奥の洋室のドアをゆっくりと開ける。そこに布団は敷いてあったが、人の姿はない。蛻の殻だ。

「あ、あの、後藤刑事。これは不法侵入では──」「うるせぇ! こっちは急いでんだよ!」

「ひぃぃぃぃ」

 す、すすすいません! 後藤の雄叫びの後に、石井の情けない謝罪が家に響く。以前から変わらない光景だ。

「ふぉふぁふぉーふぉふぁいふぁす……」

 うん? 石井の奴、なに言ってやがる。後藤が石井を睨み付けると、私ではありませんとでも言うように勢いよく首を横に振った。

「海雲、歯ブラシを銜えたまま喋るな」

「ごめんなさい……」

 そう言って、海雲は大きなあくびをして目をこすった。口の端から泡が垂れる。その顔は八雲そっくりだな、ほんと。後藤の心情に答えるかのように、八雲も同じ顔で大きなあくびをした。
 なんだ、こいつ等は洗面所にいたのか。

「石井さんの言うとおり、不法侵入ですよ」

 八雲は歯ブラシを銜え、まだ眠そうにしながら歯を磨く。海雲も同じ表情で歯を磨いて後藤を見据えていた。ほっとけばこの親子は一日中寝てるな。

「お前が依頼していたものを持ってきたんだろうが!」

 後藤が苛立ちをぶつけるかのように、持ってきた書類を机に投げつけた。ばらばらに散乱するが、石井が綺麗にまとめて机に置く。後藤刑事、資料は大切に扱って下さい。
 八雲は何も言わずに海雲と洗面所へ戻り、少ししてからすぐに戻ってきた。その後を海雲が追いかけて戻ってくる。
 そして寝癖も直さずにパイプ椅子に座り、資料に目を通した。相変らず欠伸をしながら、ぼりぼりと首の後ろを掻いている。
 後藤と石井には海雲がパイプ椅子をどこかからか持ってきた。お礼を言うと、海雲はふるふると首を横に振って欠伸をしながら奥の洋室に消えていった。

「お前、自分だけ椅子に座りやがって。海雲ちゃんみたいな優しさはねぇのか? 少しは見習え」

「後藤さん、四ページが抜けてるんですが」

 無視かよ。挙句に足りねぇだと? 小さく舌打ちをして、石井を睨み付けた。

「おい、石井! 四ページはどこにやった?」

「あ、は、はい! 後藤刑事に渡す前に確認しましたが、間違いはありませんでした」

 急に話を振られ、飛び跳ねて声が裏返る石井。なんだ、俺がなくしたとでも言うつもりか? 八雲は彼の言葉を聴いて、先程後藤が投げたときに飛んでいないか探すが、それらしきものはなかった。
 おもむろにため息をつき、再び報告書に目を通す。

「後藤さん、ミスですか? 報告の前にしっかり見直しをする癖をつけた方がいいですよ」

 人に頼んでおいてこいつは……! いつかぶん殴ってやる!
 以前から何度もそう心に決めていた後藤は、八雲を思い切り殴り飛ばした未来を想像して何とか怒りを静めるように努めた。しかしそれで怒りが静まるはずもなく、踵をつけたままフローリングを踏み鳴らす。それでも苛々して仕方がないのか、ポケットから煙草を出して銜えた。

「後藤さん、ここは禁煙です。健康を害する煙を発生させた瞬間に出て行ってもらいますよ」

 ライターを探している途中に、八雲が片眉を上げて言い放った。何がここは禁煙だ。お前がいると喫煙席も禁煙席になるだろうが。
 小さく舌打ちをして乱暴にケースに戻し、ポケットにしまいこんだ。ぐしゃっと嫌な音が聞こえたが、気のせいだろう。
 三十分ほど時間がたつと、奥から海雲がパタパタとやってきた。いつの間に顔を洗ったりとしたのか、いつもの海雲だ。黒いショルダーバックを肩に、後藤達に軽く会釈をする。

「お仕事頑張ってくださいね! お父さん、海雲、学校行ってくるね」

「寄り道はするなよ」

「うん。いってきます!」

 あくび交じりの八雲の言葉に元気よく返事をすると、家を出て行った。八雲も捻くれものじゃなかったら、きっとあんな感じなんだろうな。
 後藤は感慨に浸りながら海雲が出て行ったドアを見据えていた。

「や、八雲氏、何かわかりましたか?」

 未だに恐怖心が抜けないのか、石井は少し震えた声で八雲に訊ねる。いい加減慣れろってんだ。何年一緒にいると思ってる。
 しかし、八雲は石井の態度を気にしている様子はなかった。これも何年も前から変わらない。

「まだです、証拠がない。憶測だけで特定するのは不可能です」

「じゃぁ、俺達はどうすりゃいいんだよ」

 八雲は報告書を机において、天を仰いだ。

「今はなんとも言えません。とりあえず現場に」

「行くんだな?」

 八雲の言葉に、後藤が付け足した。八雲は何も言わずに立ち上がり、玄関へと向かう。それに後藤もついていった。
 後藤刑事、これじゃぁどっちが刑事かわかりませんよ。石井の心の声も空しく、早くしろと後藤に促され、急いだ。転んだ。

Re: 絆された想い / 第一章[02] ( No.3 )
日時: 2010/04/25 03:46
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 海雲が教室に入ると、ざわざわと生徒達が騒いでいた。友達同士でおしゃべりをするのは普通だが、明らかに様子がおかしい。

「あ、海雲ちゃん!」

 海雲に気付いた友達が近づいてきた。

「おはよう、雪ちゃん」

 朝一番の笑顔を浮かべ、挨拶をした。
 雪は名前の通りなのか肌が白く、ショートヘアーを外はねにした可愛らしい女の子だ。服装も綺麗なワンピースを着ており、どこかお嬢様オーラが出ている。愛くるしい笑顔で微笑みかけられると、同じ女の海雲もたまに見とれてしまう程だ。学芸会でもいつもヒロイン役。大人になったらどんな女の人になるんだろう。

「おはよう。あのね、噂聞いた?」

「噂?」

「うん。一丁目の千蔵アパートの近くの話」

 一丁目といえば学校から少し離れ、街の中でも孤立している場所だ。海雲の家は二丁目にありたまに通るのだが、同じ街とはいえないような寂しさを持っていた。そのためか通り魔などの被害が多く、連日ニュースでも“一丁目”と言うワードをよく聞く。
 しかし、学校で噂になるような事はニュースで見ていない。ふるふると首を横に振ると、雪の目が輝いた。

「ほんと?!じゃぁ、私が教えてあげる。こっちにきて」

 雪に手を引かれ、グループの中に混ざる。女子たちが海雲に挨拶を交わし、席に座るように促した。
 カバンを脇に置き、丁度近くにあった自分の席に腰を下ろして雪が話すのを待つ。

「じゃぁみんな揃ったし、教えてあげる。──実はね、一丁目の千倉アパートの近くで、幽霊が出るの! 頭から血を流した怪物みたいなので、名前を呼んでくるんだって! それで、名前を呼ばれてつかまった人は、皆地獄に連れて行かれちゃうの……!」

 目に力をこめて話し終わった雪は、周りの友達を見回す。
 感想を求めているようだ。

「うっそだー!」

「幽霊なんていないって、パパが言ってたけど」

 しかし、周りの子供たちはわいわいと否定的な感想をこぼしていく。雪は嘘をつくような子ではないが、海雲も幽霊などは信じられなかった。
 人とは死んじゃったら天国に行くから、海雲達がいる世界には残らないんだよ。そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
 チラリと雪を見ると、悲しそうに俯いていたからだ。皆で嘘だ何だと必要はない。

「雪ちゃんは、幽霊見たの?」

 海雲の問いかけに、雪は首を横に振った。どうやら噂で聞いただけらしい。

「あったりめーだろ! 一丁目なんて、そういう噂ばっかりじゃねぇか!」

 急に海雲の前に男の子の顔がズイッと近づいてきた。
 不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。

「でも、私、聞いたの。雄介君は聞いてないの?」

「ガセだよ、ガセ」

 そういってカラカラと笑う雄介。彼は雪の幼馴染らしく、一丁目に住んでいる。髪が少し長く、癖毛。同じ一丁目に住む雪はお嬢様オーラが出ていると言うのに、雄介は小汚い服とどこか貧乏くさいイメージがあった。
 隣にいても似合わない二人だが、誰よりも仲がいい。少なくとも海雲はそう思っていた。いいな、幼馴染。

「私、雄介君のお母さんに聞いたんだよ。気をつけなさいね、って」

「か、かーちゃんから?!」

「うん。呪われちゃうから」

 呪い。そうきいて、雄介はフンと鼻で笑った。

「呪いって……ばっかじゃねーの? そんなのねーよ。怖がりの癖にそういうの信じるから──お化けが寄ってくるんだ」

 声のトーンを下げてそれらしく語る雄介に、雪はびくりと震える。顔を真っ青にした雪を見て、再びカラカラと笑った。

「ほ、本当にいるんだもん。気をつけてね、雄介君……地獄なんて、行かないでよ」

「いねぇっつってんだろ! ……じゃぁよ、放課後、本当かどうか見に行こうぜ」

 苛立ちを隠せない表情で、腕を組みながら言う。雪は首を横に振るが、雄介に頬を抓られ、半ば強制的に首を縦に振った。
 他のメンバーも誘うが、雪以外の誰一人として首を縦に振るものがいない。雄介は雪にしか乱暴をしないために、小さく舌打ちをした。

「んだよ、皆幽霊なんて信じやがって。だらしねーの」

「だっているんだもん」

 懲りないのか、雪がすかさず雄介に突っ込む。

「だぁから、いねぇんだっつってんだろうが! ぶん殴るぞ!」

「ご、ごめんね、雄介君。怒らないで」

 いないと言いつつも、子供なのだからきっと怖いに違いない。海雲もどちらかと言うと幽霊やお化けは苦手だ。以前八雲に遊園地に連れて行ってもらったことがあるが、お化け屋敷だけは入れなかった。もっとも、八雲にも「ここには入っちゃ駄目だ」と怒られてしまったということもあるのだが。
 どうせ雪ちゃんを安心させるために、いないって言ってるんでしょ。雄介の本心はこうだと、海雲は勝手に決め付けた。
 しかし、これでは雪が一人で怖い思いをしなければいけない。雄介がいる為安心だろうが、心細いだろう。
 海雲はゆっくりと手を上げた。

「海雲も一緒に行くよ! 一丁目は海雲のお家の近くだし」

「あぁ……そういや、斉藤二丁目に引っ越したとか言ってたな。よし、じゃぁ三人で行こうぜ。他の奴はいかねぇんだろ?」

 雄介が確認のためにもう一度聞くが、変わらない。「弱虫だな」とため息混じりに吐き捨てるが、誰一人反論しなかった。
 その後、まるでタイミングを見計らったかのように担任の教師が教室に入り、「着席!」と大声を上げた。

Re: 絆された想い / 第一章[03] ( No.4 )
日時: 2010/04/25 04:05
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 八雲たちはリーベ公園の噴水の前にある、献花として置かれたヒルガオを眺めていた。噴水の水飛沫に当てられる花弁が、日光で輝いている。
 事件発生から二週間たった今、後ろでは子供達が元気よく飛び回って遊んでいる。事件のことは記憶からなくなったのかもしれない。

「ここで最初の被害者、行沢春香さんが強姦され殺害されていた場所です」

 静寂ができていた中、石井がマニュアル通りとでも言うように言った。八雲は短く返事をするが、献花から目をそらさない。
 コイツは今、恐らく晴香ちゃんを思い出してる。
 昔、まだ海雲が一歳の頃、八雲と晴香はよくここに散歩に来ていた。八雲と海雲ちゃんはベンチに座ると日向ぼっこをする猫のように眠っていたらしいが、晴香ちゃんはその二人の姿を見るのが好きだって言ってたな。
 その後買い物をして帰宅する最中、この公園のすぐ傍で、晴香は八雲と海雲を庇って蛇行運転する大型トラックに撥ねられて死亡した。
 僕のせいだ、と未だに自分を攻め続ける八雲を見ると、「うじうじするな」と殴りたくなる自分がいるが、それを実行できずにいた。顔に出さずに落ち込む八雲を殴れば、粉々に砕けてしまいそうだったからだ。
 それに加え、被害者の名前がハルカ。しかも強姦殺人。最悪の組み合わせだ。
 後藤はゆっくりと大きく息を吐いた。

「……ここに、何かあるか?」

「誰一人いません。次、行きましょう」

 早口で言い残すと、一人ですたすたと歩いて行ってしまった。いつもだったら文句を言うところだが、あんな奴に言ったっていつも以上に聞きやしない。自分を責め続ける八雲を見れば、晴香ちゃんは泣くだろうに。
 にしても、石井の奴は配慮が足りない。せめて苗字だけにすればいいものを、フルネームで言いやがって。
 後藤が進まない為に立ち止まっていた石井の後頭部を叩き、八雲後を追っていった。
 石井が患部を押さえながらも追っていく。転んだ。

   ◆

 すでに車に乗り込んでいた二人に追いついた石井は、素早く運転席に乗ってエンジンをかけた。我々は警察なのに、交差点に路駐なんてしていいのだろうか。
 それに、ここの交差点は晴香ちゃんが死んだ場所。警察が違反している姿を見せたくない。
 石井はいつもより強くアクセルを踏んで、車を発進させた。

「次の現場はどこです?」

 後部座席から聞こえた八雲の声は、少し違うように感じた。やっぱり私以上に、八雲氏は晴香ちゃんの死に敏感なんだ。
 チラリとバックミラー越しに八雲へ視線を送ると、ボーっと窓の外を眺めている。心ここにあらずという感じだ。もしかしたら晴香ちゃんを探しているのかもしれない。

「つ、次は住宅街です。被害者はカップルで、女性は同じく強姦に遭っています」

「住宅街で二人殺し、加えて強姦ですか?」

「はい。少し離れた場所で殺害されたようですが、遺体は移動させられていました。女性の体内から体液が検出されていたと報告を受けましたので、間違いはありません」

 八雲が感じる疑問に報告を受けたことを言ったが、石井も気になっていた。住宅街で二人も殺害し、加えて強姦などとは無理がある。
 土地から一人を不意打ちで殺せたとしても、もう一人が黙っているだろうか? 反撃こそしなくとも、普通は逃げたり助けを呼んだりする。それとも逃げられない状況だったのだろうか。

「被害者に共通点もねぇし、何がなんだかわからねぇ。それに一番最近の奴は手足は切断されて、内臓なんて原形を留めてるものなんてなかったよ」

 後藤は苦虫を噛み潰したような顔で拳を振るわせ、ダッシュボードを殴る。車内が一瞬揺れた。
 今回の被害は、回数を増すごとに酷くなっていった。最初の被害者は強姦の後刺殺だったと言うのに、最近発見された四体目の遺体はばらばらに近い状態に加え、腹を抉られていた。
 あれは人間のすることじゃない。異常だ。石井は現場写真を見たとき、悲鳴を上げながら卒倒しそうになるのを堪えながらそう思った。思い出しただけで恐ろしい。記憶が甦り、イメージされそうになった現場写真を消そうと首を横に振った。

   ◆

「あれって、国枝さんだよね?」

「あ、あぁ」

 コンクリートの壁に隠れながら、雪が言った。
 幽霊が出たと言う噂の場所で、カジュアルな服装の国枝と呼ばれた男が合掌していた。目の前には白いヒルガオの花が置いてある。恐らく彼が持ってきた献花だろう。

「お化けが出るって、知らないのかな?」

「んなこと知るかよ。でも、国枝さんがここにいるってことは、もしかして幽霊って沢木さんなんじゃないのか?」

「あ、そういえば……ここで通り魔に殺されたんだもんね」

 知り合いが死んだことで落ち込みながら話す二人とは裏腹に、海雲はじっと国枝を見ていた。否、実際にはその目にもう一人だけ見えている。
 合掌する国枝の隣でパンク系の格好をした青年が、じっと彼を見据えていた。今にも泣きそうな表情で、唇をかみ締めている。幽霊とは彼のことだったのだろうか。

「ねぇ、幽霊って男の人なの?」

「ん? あぁ、女……って、そしたら沢木さんじゃねぇじゃん」

 真相が掴めたと思った矢先、その推理が崩れた。雄介は落胆し、小さくため息を零す。

「でも、見たのは三柳さんだよ」

「あの酒ババアか。なら噂が本当かも信じられねぇよ」

 二人は海雲がいることも忘れ、勝手に会話を進めていく。まぁ、この二人はいつもそうだ。何だかんだいいながらもいつも二人の世界に入る。
 海雲、邪魔だったかも。

「とりあえず、幽霊もいないし帰ろうぜ。斉藤は俺等と逆方向だろ? また明日な」

 無駄足だった、と来た道を戻っていく雄介。雪は海雲に挨拶したあとにひょこひょこと追いかけていった。やっぱり幼馴染は羨ましい。
 二人が見えなくなった後、海雲は再びコンクリートの壁に隠れながら、国枝を見据えた。やっぱり、見間違いではない。あそこにいる二人の男は生きている人間と死者の魂。
 これはお父さんに言うべきかな? でもきっと「僕には関係ない」とか言うんだろうな。
 海雲は一度深呼吸したあと、国枝の下へ早足で向かった。


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