二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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【ボカロ】 さめざめと泣いた 【他版権】
日時: 2011/10/01 01:56
名前: にわこ ◆ffrmm9ajmE (ID: hAeym9pF)

 彼女が泣いているとまるで世界が泣いているかのような感覚に陥った。ふたりきりの世界で、僕らはさめざめと泣き続けるのだ。

▽aisatsu
はじめましてにわこです。拙い文章でゆったりマイペースにのろのろ更新します。
取り扱いはボカロ/pkmn/inzmとそのときはまっていたり気になっていたりするものを。pkmnは原型+人間が多めです、多分。
休日にぐらいしか更新できないと思いますがよろしくお願いいたします。

▽mokuji
>>1主役になろうよ(グミとレン)/

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主役になろうよ∴グミとレン ( No.1 )
日時: 2011/10/01 01:52
名前: にわこ ◆ffrmm9ajmE (ID: hAeym9pF)

∴グミとレン

 タイトルで惹かれたからと適当に選んできた映画は、主人公の趣味が首絞めだというなんとも悪趣味な趣向のものであった。いっそ殺してしまうならまだしも(いや、それがいいというわけではないが)じわじわと意識が飛ぶ寸前まで嬲ってからまた意識を覚醒させるという、鬼畜というかなんというかとにかくサディスト成分の滲み出る趣味だった。そんな女主人公が繰り広げる探偵劇を描いた映画は、成る程特別面白いわけでもつまらないわけでもない。発想は奇抜であるし俳優の演技は上手だし(外人なので名前すらもわからないけれど)、けれどなにぶんストーリーの進み方が遅すぎる。のったりゆったりした亀と張り合っているのかコノヤロウとでも叱咤を飛ばしたくなる遅さ。全部で二時間半というそこそこに長いこの映画を最後まで見続ける自信は順調に削られていくばかりだ。

「うーん、つまんないね」

 映画が始まってから今までずっと黙りこくっていたグミは不意にそう言葉を洩らしたものだから、驚きでびくりと肩がかすかに強張る。そうだなと同意の言葉を返せばいいのかと迷ったけれど、そうする前にグミが今まで腰をおろしていたソファから立ち上がりどこかへ向かい始めたので結局なにも言えないままで終わった。ちょうど映画の主人公もソファから立ち上がるシーンだったからシンクロしてるなあと何気なしに思っていると、雰囲気を出すためとグミ自ら消していたはずの明かりが唐突にぱちりという聴き慣れた音と共に灯る。いきなりのまぶしい光が眼球の奥がつきりと痛み、ぱちぱちと慣れさせるためにまばたきを繰り返す。少しは面白みを引き立てていたのかもしれない真っ暗という雰囲気が消え去った今、明るみのもとにさらされる映画はもう見る気にはなれなかった。

「どうしたの」

 グミの飽き症はいつものことだけれど普段なら見るのを放棄して眠ってしまうはずだ。それなのにどうして明かりをつけるのだろうか。(そういう気分なだけだったかもしれないけどさあ)ぐるりと身体を反転させて後ろを向くと電気のスイッチのもとに立っていたグミがこちらへと足を動かす。その表情がどこかにへーっとしていて、まあいつものことだけれどだらしがない。表情のことも含めて再度どうしたのと問いかけると、いきなりグミがソファの背、つまりおれのほうへと走り出してきた。

「は、っえ?」
「レーンくんっ」

 何をするのかと呆気にとられたのもつかの間、グミがソファに激突する前に大きくおれの名前を呼びながら跳躍した。軽々とソファと飛び越え(あ、見えた)、少しの遠慮もなしにどすんとソファというかおれの膝の上に着地もとい落下する。ぐわりと下半身と上半身の一部にかけられたその重みに痛みが湧きあがったけれど突き飛ばすわけにもいかないのでそのままでいると、今度は弛緩した頬のグミに肩を押されてとさりとソファに押し倒されることになった。

「レンくん」

 なにが面白いのか酷く愉快そうにグミは謳うように何度もおれの名前を口ずさむ。レンくんレンくんレンくんレンくんレンくん、完全に身体がソファに沈んだとき、不意にグミの両手がにゅっと伸びてきた。存在が忘れられていた大きくもないテレビの画面の中では主人公が助手役の首を絞めようと躍起になっている。もしかして、モシカシテ、藻誌花士手。

「ぇうっ」

 残念なことに見事に脳裏に描いた未来予想図が的中して喉にグミの両指がぬるりと絡みついてきた。ぐいぐいと喉仏を潰す勢いで親指が首筋を圧迫し、ぐずぐずと食道を胃酸が焼いて駆けあがってきた。真っ白もとい混乱に染まりかけた脳内だったけれどもなぜかグミの幸せそうな笑みを見るとすっかり治ってしまった。現金というか甘すぎるというか。

「レンくーん」

 ぐいぐい押される。ぐじぐじ押される。ごずごず押される。ずりずりごりごりざりざりがりがり押される。ぶわっと込み上げてきた邪魔な涙によってグミの笑顔がかすんで歪んでしまい、恐らく半開きであろう唇の隙間からはひゅうひゅうと情けない吐息がただひたすらに漏れ出していく。うん、正直に言おう。めっちゃ苦しくて死にそう。

「ッあ、ぅえ、ぐ、っみぃ」

 黒目がまぶたに引っ込んで白目で泡を吹いてしまう前になんとか首を戒める両指を離してもらおうと懇願し、ようとしたときにはすうっと絡みついていた指先が離れていった。テレビの中では主人公の首絞めから解放された助手が大きくむせ込み涙を散らばしている。おれもそれに習ってむせ込むというか逆流した胃液を吐く勢いで咳き込んで、きっと酷くみっともない顔になっているんだろうと思いながらぐじゃぐじゃに泣いた。まるで今も垂れ流し中の映画を真似ているようだ。そう思ったとき、グミは天使というのも過言ではない笑顔を浮かべて、先程まで首絞めを行っていたとは思えないけろりとした表情で言った。

「ねえ、ふたりで主役になろうよ」

 おいちょっと待て、おれが助手かよ。


主役になろうよ


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