二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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『指輪物語』二次小説    第一部   
日時: 2012/08/09 23:00
名前: ウルワルス (ID: fS.QmYjo)

第1章  誕生祝い



時はホビット庄暦1456年5月10日の夜、ところはホビット村の宴会広場−−−


「−−−ちょっとここらで休もうか−−−しとしと降るは雨の音−−−」
広場にはたくさんのテーブルがあり、その一台一台に所狭しと料理が並んでいる。そして広場のほぼ中心に置かれたひときわ大きなテーブルの上で、3人の若いホビットが良い声で歌いながら、料理を踏まないよう巧みなステップで踊っており、周りの者達が囃したてている。
 彼らは理由もなくお祭り騒ぎをしているのではなかった。この日は、テーブルの上で歌い踊っている若者達のうちの1人の、33歳の誕生日なのである。33歳という年齢は、ホビットにとっては子供と大人の区切りを成す重要な歳だった。

「−−−でもやっぱりビールが最高だ!」
そう歌い終わると若者の1人がぱっと跳び上がり、隣のテーブルの上に見事に背中から落下した。周りからは笑い声と拍手が巻き起こった。彼が、この誕生祝いの主役であるフロド・ギャムジー。庄長サムワイズ殿の息子である。
「ずいぶんと派手にやったなあ、フロド。せっかくの料理が台無しだ。」
そう言ってフロドの横にやってきたのは、先程まで彼と一緒に歌い踊っていたセオデン・ブランディバック。「偉丈夫」と称される館主メリアドクの息子である。
「構わないじゃないか、セオデン。このパーティーはフロドのために開かれているんだから。それに、まだ食べられる。」
いま1人の若者が2人のいるテーブルの上にやってきた。彼の名はファラミア・トゥック。セイン・ペレグリンの息子である。
「ファラミアの言うとおりだよ、セオデン。さあ、食べよう。」
そう言ってフロドはテーブルの上に散らばった料理を食べ始め、セオデンもそれに倣った。周りからは再び笑い声と拍手が巻き起こる。ファラミアだけはテーブルの上に立ったまま、こう話し出した。
「では諸君!我が親愛なるフロド君の33歳の誕生日というめでたき日にあたって、僕の方から1つ面白い話を聞かせて進ぜよう。」
その場がわっと盛り上がり、「いいぞ、ファラミア!」という声があちこちで上がった。
「かつて僕の父は当時3つだった僕を連れて、ここにいるフロド君の父上サムワイズ殿とセオデン君の父上メリアドク殿と共にイシリアンはエミン・アルネンにある、ゴンドールの執政ファラミア閣下の館に滞在したことがあった。もっとも、エミン・アルネンとはどこのことか知っている人は少ないだろうが。」
聴衆は笑いながら「その通り、その通り!」と応じる。
「どうか諸君、これから僕が話すことを信じてくれ。これはかの高潔なるサムワイズ殿から直接お聞きしたことなのだから。
 執政閣下との夕食の席で、僕の父はなんと言ったと思う?トゥック家の家長として、またセインとして、今は常に重々しい雰囲気を纏っているペレグリン殿はこうおっしゃったそうだ。『ファラミアはまだおねしょが治らなくて・・・。』」
これには大爆笑が巻き起こった。ちょうどビールを飲んでいたフロドは、危うく吹き出しそうになった。
「ちなみに、奥方のエオウィン様も爆笑なさったそうだ。もっとも同席していた家臣の方々は笑うに笑えず、近衛隊長のベレゴンド殿などは自分の頬をつねることで何とか笑いを抑えたそうだが。しかしそこを執政閣下に見られてしまい、そのせいかその月の俸給は普段より少なかったということだ。」
「ははは、こいつは傑作だ! 見ろ、ペレグリン殿が苦虫をかみつぶしたようなお顔をしておいでだ。」
と、セオデンが言った。

「まったく、あの馬鹿息子が。」
広場の隅に設けられた小さなテーブルについていたセイン・ペレグリンは、そうは言ったもののそこまで不快そうな様子はしていなかった。
「ファラミア閣下のように物静かで気品にあふれた人物になって欲しいと思い、名付けたというのに。」
「父親が君では、その息子がファラミア閣下のようになるのは無理というものだよ、ピピン。」
と、館主メリアドクが応じる。
「確かにファラミア坊ちゃんにはお調子者なところもありますが、立派な人物ではあると思いますだよ、ピピンの旦那。」
と、庄長サムワイズが言った。彼ら3人は、自分達だけの時は昔と同じように呼び合っている。
「おらやメリー旦那にはとても礼儀正しく接してくれますだ。それに、このパーティーの企画から会場設営、どんな料理を出すかを考えることまで、主にセオデン坊ちゃんと、ファラミア坊ちゃんがやってくれたんでしょう?使用人に的確な指示を与える姿は立派なもんでしただ。なあ、ゴルディロックス。」
と、サムワイズは傍らに立っていた娘のゴルディロックスに話しかけた。
 それまで机上で話すファラミアの姿をじっと見つめていた彼女は、はっとしたように父達の方に目を移した。
「え、あ、はい。私も、ファラミアさんはすごく良い人だと−−」
「ゴルディロックス!」
その時、会話の対象であるファラミアがこちらに駆け寄ってきた。
「僕と一緒に踊らないかい?」
見ると、若い男女達によるダンスが始まっていた。
「ファ、ファラミアさん。でも私、ダンスは苦手で−−」
と、ゴルディロックスは真っ赤になって言ったのだが、
「大丈夫、僕がリードしてあげるから。」
そう言うとファラミアは、サムワイズら3人に軽く頭を下げ、困ったようなうれしいような顔をしているゴルディロックスを連れて離れていった。
「私の息子と君の娘が一緒になれば、私達の仲はより緊密なものになるな、サム。」
と、ペレグリンが言った。
「そうですね、ピピンの旦那。相手がファラミア坊ちゃんならおらも大歓迎ですだ。」
と、サムワイズも言った。

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Re: 『指輪物語』二次小説    ( No.14 )
日時: 2012/06/24 13:36
名前: ウルワルス (ID: AzyLAkTK)

 1時間後、ラーヴァタは馬上の人となり、寵臣ヴァフランを含む5人の供を連れて、王宮の外に繰り出していた。

 元来ハンドの民衆は王を神聖視しており、王の方でもそれを是としていたため、民衆にとって王は遠い存在だった。しかしラーヴァタは、王都内を散策したり地方に巡幸したりして民の陳情に直接耳を傾けるなど、できる限り民衆との接点を持とうと努めていた。当初は驚き畏れ入っていた民衆達も、自分達の王に対して親しみと敬愛の念を抱くようになっていた。
 もっとも、北ハンドの特に東部では事情が違った。この地域では、マシュバールを総本山とする「ウーヴァタの祭司」達が、依然として民衆への影響力を保持していた。彼らは、ウーヴァタを否定し、彼らの教団を解体しようと目論むラーヴァタ王と対立しており、彼らの影響下にある者達も王のことを良く思っていなかった。

「奴隷市場が賑わっているようだな。」商業地区にやってきた時、ラーヴァタは不快そうに言った。
「大方、良い奴隷が入ったのでしょう。」と、ヴァフランがやはり不快そうに言った。「王宮に雇い入れることで、その者達を救ってやるべきだと存じます。」
「もっともだ。」

 しかし、その時競りにかけられていた3人の奴隷は、ラーヴァタやヴァフランの予想を遙かに超えていた。
 そのうちの1人は、肌が白く金髪で背が高く、西方の人間であることは明らかだった。
 他の2人は身長が3フィート強しかなく子供のように見えたが、顔立ちは青年のものだった。彼らは、冥王サウロンに滅びをもたらしたかの偉大なるフロドと同じ種族、ペリアンナスなのだろうと、ラーヴァタは思った。



 
 エルボロン、セオデン、ファラミアは、競りにかけられながら絶望感に苛まれていた。
 エルボロンは、ゴンドール執政の子息であることを奴隷商人に明かしていなかった。軍に売り戻されてゴンドールに対する人質として利用されるおそれがあったし、そもそも言葉が通じるかどうか定かではなかった。
 そして、エルダリオン王子を守れなかったことがエルボロンを苦しめていた。

 不意に、よく通る朗々たる声が響いた。競りに熱中していた奴隷商人と客達は瞬時に静まり、声の主に対して跪いた。
 声の主と思われる人物は、美しい馬具をつけた立派な馬に騎乗しており、頭上には宝石をちりばめた黄金製の冠を戴いている。背後には、やはり騎馬である5人の供を引き連れていた。彼こそが、ハンド王ラーヴァタに違いなかった。
 ラーヴァタ王は奴隷商人と話し始めたが、話はすぐについたようだった。
「そなた達の身柄は、予が買い取った。まずは王宮で身の上話を聞かせてもらおう。」と、ラーヴァタは3人に流暢な西方語で言った。


 3人は、謁見の間へと通じる王宮内の一室に連れて行かれた。3人を部屋まで案内したヴァフランという若い貴人は、合図があるまで待っているようにと、王と同じく流暢な西方語で言うと立ち去った。
「さっきまでと比べると、状況は随分よくなったね。」と、ファラミアが言った。「エルボロン、君が何者であるかが明らかになれば、ハンド王は僕達を奴隷として使おうなどとは思わないはずだ。ヌアンを経由してゴンドールに戻ろう。来た道はハラドリムとの戦場になっているだろうから。」
「いまいましいハラドリムのやつらめ!」と、セオデンが言った。「だけどファラミア、きづいていたかい? 僕達を奴隷商人のところに連れて行ったあの軍人は、ハラドリムじゃなかった。肌の色からして、あいつはヴァリアグだったし、同じようなやつらはハラドリムほどではなかったけど結構いた。
 僕が思うに、ゴンドールが知らない間にハンドがハラドリムを征服し、ゴンドールを攻撃させているんじゃないかな。」
「その可能性はありうる。今の時点で正体を明かすのは危険だろうな。」
 エルボロンがそう言ったとき、部屋の扉のあたりで声がした。「もう謁見の間に進んでもよいとのことだ。私についてくるがよい。」
「私は『ヒャルメノストの守備兵バラン』だと名乗る。君達も私に合わせてくれ。」エルボロンは小声でホビット達に言った。


 謁見の間には、4人の人物がいた。1人はもちろんラーヴァタ王で、玉座に腰掛けている。玉座のやや左奥にもう1脚椅子があり、王女と思われる美しい姫君が座っていた。エルボロンは、しばしの間彼女から目を離すことができなかった。
 2人の両側には、高貴な風貌をした青年がそれぞれ立っており、王女の左隣に立っているのがヴァフランだった。王のやや右奥には、端正ではあるがどこか陰湿な顔立ちをした青年が立っていた。
 

Re: 『指輪物語』二次小説    ( No.15 )
日時: 2012/06/24 15:51
名前: ウルワルス (ID: AzyLAkTK)

「そなた達は西方出身の自由の民だと見受けたが、いかなる理由で奴隷商人の手に落ちたのだ?」と、ラーヴァタが言った。
「私の名はバランといい、ゴンドールの南部国境を守るヒャルメノストの守備兵でした。」と、エルボロンは答えた。「この2人は北の国出身のホビット族ですが、やはりヒャルメノストの兵士であり、私の友人でもあります。
 今から20日ほど前になりますが、私達3人は休暇をもらい、ハラドの地に狩りをしに行くことにしました。しかし狩りに出てから2日目の夕暮れ、我らはハラドリムの斥候に捕らわれ、野営地に連行されました。そこで野営していた兵士の数は、おそらく10万はあったかと思われます。」
「コロナンデがゴンドールに対して大軍勢を派兵したことは、我が国にも伝わっている。援軍を送りたいのは山々なのだが、我が国も東方にウォマワス・ドラスという脅威を抱えておってな。」
「コロナンデですって? そんな国があるのですか?」と、ファラミアが言った。
「ゴンドールではコロナンデの存在が知られていないのか? それでは、やはりコロナンデは近ハラド諸国を支配下に置いたという情報を隠蔽していたようだな。ハラドの商人はよく我が国を訪れるのだが、彼らはそのような情報は漏らさなかった。実のところその情報が我が国に入ってきたのは、つい1週間ほど前のことなのだ。」
「我らが連行された野営地にいた軍の中には、ハラドリムとは違う肌の色をした兵士もいたのですが、それでは彼らはコロナンデの兵だったのですね。」と、セオデンが言った。
「彼らキラン人は、我々ヴァリアグとよく似た肌の色をしている。」と、ラーヴァタが言った。
「さて、そなた達はゴンドールの兵士だったな。予はそなた達に自由を与える。祖国に戻り、コロナンデ軍を撃退できるよう力を尽くすがよい。」
「お待ちください。」エルボロンが言った。今や彼はラーヴァタ王に敬服しきっており、しばしの間なりとも王に仕えてみたいと思っていた。繁栄する王都ティースフォンや、壮麗な王宮に顕れているハンドの文明の高度さにも興味をひかれていたし、美しい王女の存在もあった。
「陛下は我らを奴隷として使役される運命から救い出してくださいました。先程陛下は、我らに自由を与えるとおっしゃりましたな。私は自由な意思から、来るべきハンドとドラスとの戦争において陛下から受けた恩を返すに足る武勲をたてるまで、陛下にお仕えしたいと存じます。」
 セオデンもファラミアも王女も2人の貴公子もひどく驚いたようだったが、ラーヴァタはふっと微笑んで言った。
「よかろう。予も常日頃から西方のことに詳しい臣下がほしいと思っていたのだ。
 ゴンドールの人バランよ、そなたを我が槍持ちに任じよう。」






後書き

 この二次小説中のハンドのイメージとしては、パルティア王国〜サーサーン朝イランがふさわしいと思います。

Re: 『指輪物語』二次小説    ( No.16 )
日時: 2012/08/09 19:26
名前: ウルワルス (ID: fS.QmYjo)

第8章  白の魔法使




 至福の国アマン。この地には心配事など存在しないはずだった。

「ガンダルフ。彼らはまだ全員無事なのですか?」
 エルフ達がトゥーナの丘の麓に建ててくれた屋敷の中で、フロド・バギンズは魔法使ガンダルフの姿をとったオローリンに、友人達の息子達の安否を尋ねた。
「長上王によると、5人とも命に別状はないようじゃ。
 具体的には、エルボロン、セオデン、ファラミアは昨日の夕方、奴隷商人の一行と共にハンドの都ティースフォンに到着したそうじゃ。ハンド王ラーヴァタは正義感が強く慈悲深い人物じゃから、彼が3人を見出すことになれば、わしらはしばらくの間この3人を心配せずにすむじゃろう。
 問題は、エルダリオンとフロドじゃな。彼らは引き続き6人のコロナンデ騎兵により南へと護送されておる。既にゴンドールとの戦争が始まったとはいえ、エルダリオンの利用価値がなくなったわけではない。あやつが2人を解放するとは思えぬ。」
「サルマンもそうでしたけど、なぜ彼らは強大な支配権を欲するのでしょう?」フロドは言った。
「彼らはサルマンと違い、サウロンの手管を深く研究する余りそれに魅せられて権力を求めるようになったわけではないと、わしは思う。
 彼らはナズグルによってモルドール南東の「風の山脈」にあった拠点を逐われた後、それぞれ極東と極南に、すなわちウォマワス・ドラスとコロナンデに向かった。この2国は富強な大国としてヌメノールの文書に記録されておったから、彼らは両国の力をサウロンとの戦いに振り向けようと考えておったのじゃろう。
 しかし、当時は両国とも異民族の支配下にあった。そこで彼らは、それぞれ現地の民を糾合して異民族を駆逐し、指導者として両国の栄光を取り戻した。民は彼らに感謝し、神のごとく崇めた。それで彼らはいい気になり、権力の味を覚えてしまったのじゃろう。
 さて、わしはそろそろ行かねばならん。会議が始まってしまうのでな。
 エルダリオンとフロドのことは心配しすぎるでない。ヴァラールは彼らを中つ国に送ったことでこのような事態が生じたことに責任を感じておられる。2人を救うために必ず何らかの手だてを講じてくださるじゃろう。」




 ヴァルマールの門の外側にあるマーハナクサール。この日、ここでヴァラール及び一部のマイアールからなる会議が行われた。
「彼らを放置しておけば、中つ国は圧政と隷属が罷り通る土地となるでしょう。中つ国の自由の民は独力で彼らに抗することはできません。中つ国の未来のためにも、もう1度何らかの手を打つべきだと存じます。」オローリンが発言した。
「しかし、我らが彼らを送り出したのも、中つ国の民を思ってのことなのだ。」長上王マンウェが言った。「しかしその結果はこれだ。彼らだけではない。クルモもまた失敗した。」
「しかし、わたくしは成功しました。そして、わたくしを選んだのは長上王御自身でございます。御自身の判断に自信をお持ち下さい。わたくしを再び中つ国に派遣してくだされば、必ずや期待に添うようにいたします。」
「しかし、オローリンよ。」トゥルカスが言った。「あいつらの支配下に置かれているドラスやコロナンデの民は、あいつらの支配に満足しているのだろう? だったらそれでよいのではないか? 『中つ国は圧政と隷属が罷り通る土地となる』という表現は、いささかおおげさすぎやしないかな。」
「彼らの支配に満足しているのは、彼らと共に支配する側に属している民族だけです。」オローリンは答えた。
「例えば、コロナンデの支配下にあるハラドリムや、ドラスの支配下にあるチェイ人などは重税や軍役に苦しんでおります。
 さらに彼らは今また、ゴンドールやローハンやホビット庄が存在する中つ国北西部に食指を伸ばしつつあります−−彼の地の民がサウロンとの戦いにおいて多大な貢献をなしたことを、よもやお忘れではないでしょうな−−。」
「なるほど、お前の言う通りかもしれんな。」トゥルカスはあっさりと持論を引っ込めた。そもそも彼は中つ国の現状に大して関心を持っていなかった。先程オローリンに反論したのも、ふと思いついたことを言ってみただけのことだった。
「しかし、具体的にどのようにして中つ国の民に救いをもたらすつもりですか? 前回もそうでしたが、マイアとしての力を使うことを認めるわけにはいきませんよ。」ヴァルダが問うた。
「ご心配なく。策は用意しております。今から説明いたします−−−」

 
 

Re: 『指輪物語』二次小説    ( No.17 )
日時: 2012/08/08 22:20
名前: ウルワルス (ID: fS.QmYjo)

 コロナンデ共和国は、高度な文明を誇る極南の国である。
 コロナンデの住民キラン人の10部族は、元来部族ごとに都市国家を築いて分立していた。各都市国家は1人の部族長によって統治されていたのではなく、部族の下部単位である氏族の長の合議によって政治が行われていた。
 彼らの統一を促したのは、ラピュタイク人* の南下だった。黒色の肌をしたラピュタイク人を前にして、キラン人は自分たちが同じ民族であることを意識した。
 ラピュタイク人がキラン人の諸都市を攻撃し、彼らの土地を略奪するようになると、コロナンデ最南端の地−−ということは中つ国最南端でもあるのだが−−コルランにて、各部族から2名の氏族長が出席する会議が開かれ、キラン人の統一国家コロナンデ共和国の建国が決議された。
 コロナンデ共和国はラピュタイク人を撃退し、彼らを沙漠の向こうのサバンナへ追い返した。そして、統一国家の首都としてコルランに都市が建設され、各部族から人口の10分の1ずつが移住した。さらに、一部族につき2名の代表(氏族長)、合計20名の議員からなる最高評議会がコルランに設置され、国政を運営するとされた。
 なお、これと同じ頃に、遥か北西の海上のエレンナ大島では、ヌメノール王国が創建されていた。

 海港都市であるコルランを首都としたことにより、それまで農耕や遊牧、部族間の内陸交易に携わっていたキラン人は、外洋船を建造して海へ乗り出し、ハラドやハンド、チェイとの遠隔海上交易も行うようになった。コロナンデからは乳香や金、ダイヤモンドなどが輸出された。
 海外との交易で富を蓄え、力をつけた商人たちは、それまで氏族長家の者に限られていた政治への参加を要求するようになった。氏族長の側も、経済を握る商人層の協力なくして国政は立ち行かないことを認識しており、氏族長家の者以外でも最高評議会議員になれるとし、それまでは終身だった議員の任期を5年と定めた。さらに、議員の数を一部族につき2名から10名に増やした。
 これにより最高評議会は100人の議員を擁することとなったが、人数が増えた分議事の運行が困難になった。そのため議会のまとめ役として、議員の中で互選された2名が任期1年で就任する執政官職が設けられ、ここにコロナンデの共和政は完成した。建国から約150年が経っていた。


* ゴンドールでは遠ハラド人と呼ばれる。

Re: 『指輪物語』二次小説    ( No.18 )
日時: 2016/03/19 18:11
名前: ウルワルス (ID: nLJuTUWz)

 それ以後もコロナンデの繁栄は続いたが、第2紀300年代に入るとコロナンデの北東にラピュタイク人の王国ムーマカンが建国され、両国の間にはしばしば戦闘が生じた。ムーマカンのムーマク軍団に対抗するため、コロナンデ軍でもムーマクが使用されるようになった。
 1000年頃になると、コロナンデはヌメノールと通商関係を持つようになった。当時のヌメノール人はまだ堕落しておらず、両国は平和的に交易を行っていた。
 しかし1869年に第12代国王タル=キアヤタンが即位すると、ヌメノールは中つ国の各地を植民地として支配するようになった。やがてコロナンデのすぐ北西に位置するタントゥラクが植民地化され、ヌメノールの勢力は中つ国最南部にも及ぶようになった。
 この頃のコロナンデでは共和政が継続していたが、最高評議会議員の1人であるジィ・インドゥアはヌメノールの脅威に対抗するには強力な指導者が必要だとして、1977年に王を名乗った。しかし大多数のキラン人が共和政を支持してこれに反発したため内乱が発生し、インドゥアは2000年に廃位され、ムーマカンに亡命した。
 当時のムーマカンは既に冥王サウロンの影響下に置かれていた。サウロンは故国への復讐を目論むインドゥアを使ってコロナンデを支配下に組み込むべく、彼に「9つの指輪」の1つを与え、ここに4人目のナズグルが誕生した。
 超人的な力を得たインドゥアは「神君ジィ・アマアヴ*1 の再来」を名乗ってラピュタイク人の支持を集め、程なくしてムーマカンの王位に就いた。インドゥア治下のムーマカンはコロナンデ及びヌメノール領タントゥラクとの戦闘を繰り返し、ついにはタントゥラクの征服に成功した。コロナンデもインドゥアの軍門に降るところであったが、アル=ファラゾーン黄金王率いるヌメノールの大艦隊が中つ国に侵攻するとサウロンの配下は後退を余儀なくされ、タントゥラクも奪回された。
 その後インドゥアは「最後の同盟」戦における主の敗北に伴い一時的に消滅するが、第3紀1050年頃に再び形をとり、1250年にはムーマカンの王位に返り咲く。そして1372年には故国コロナンデを屈服させてムーマカンの属国とした。キラン人はラピュタイク人に隷属し、搾取された。
 だが、遥か北方から救いがもたらされた。イスタリの一員で、ナズグルによって拠点を逐われた「深青のパルランド」が、闇の勢力に対する同盟者を求めてコロナンデに到着したのである。彼はキラン人を糾合し、1800年頃にはムーマカンの支配を打破した*2 。キラン人は大いに彼に感謝し、彼を親しみをも込めて「青鬚様」と呼び、崇敬した。
 パルランドはコロナンデの共和政を尊重したが、最高評議会は連年彼を執政官に選出したため、事実上は彼の1人支配となった。彼の支配のもとでコロナンデはかつての繁栄を取り戻し、さらに北方のラピュタイク人の土地への進出を開始した。かつてコロナンデを苦しめたムーマカンをはじめとしてラピュタイク人の諸国は次々とコロナンデに征服されて属州となり、2300年までに遠ハラド全域がコロナンデ領に組み込まれた。これによりコロナンデ共和国は、近ハラド諸国とウンバールを支配するナズグルの一員アドゥナフェルの勢力と接することとなった。
 3019年にサウロン及びナズグルが滅びをむかえると、近ハラド諸国はゴンドールの宗主権を認めて貢納国となるが、ハラダイク(近ハラド)人はゴンドールを憎んでいた。このためハラダイク諸国はむしろコロナンデの支配下に入ることを選ぶが、パルランドはハラダイク諸国にゴンドールへの貢納を続けさせ、ゴンドールが油断するようにしむけた。また、ゴンドールの友好国となったハンドに警戒されないよう、ハンドへ赴く商人には箝口令を敷き、コロナンデが既にハラダイク諸国を支配下に置いており、対ゴンドール戦の準備を進めているという情報が漏洩しないようにした。
 そして第4紀35年、パルランドは「西方世界」を支配下に組み込むべく、海陸合わせて35万の大軍を進発させたのだった。


*1 ムーマカンの建国者。
*2 当時インドゥアはモルドールに赴いていたため、コロナンデの解放戦争に対処することができなかった。
 
 
 


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