二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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鬼畜眼鏡 御堂×克哉編
日時: 2012/04/19 16:47
名前: 鬼畜あんちくえ (ID: l1OKFeFD)

 暗い夜だった。
 昼間は憩いの場となる広い公園も、今は静まりかえっている。時折風が吹き、木々の梢がざわめくだけのその場所に、佐伯克哉は項垂れてベンチに腰を下ろしていた。
 何度目かのため息をついて、手にしていたビールの缶を軽く揺する。まだほとんど口をつけていないそれは重い。もう一度ため息をついて、克哉は一口だけ飲んだ。
 沈んだ表情だ。おおよそ力というものを感じさせない瞳と気弱げな口元を除けば、特徴らしい特徴もない。どこにでもいる平凡な顔立ちの若い男。克哉を一目しただけならば、誰もがそう評するだろう。事実、彼が勤める営業代行会社——株式会社キクチ・マーケティングの社内では、おおよそそんな風に言われている。もっとも、佐伯克哉という人物を噂するほど、彼に興味を持つ人間もそういないのだが。
 だが、ほんの少し注意して見れば、細く繊細そうに見える顔は十分整ったものだし、立ち上がって背筋をきちんと伸ばせば、長い脚とあいまってすらりとした身長だとわかる。
 しかし万事において控えめな性格もあり、社内での評判も勤務評価も、お世辞にも高いと言えない。望んで勤めたはずなのに、入社三年の今になって、営業という職は自分には向いていないのではないかとさえ思い始めているぐらいだ。
 今日も営業先ドラッグストアで店長と、よりにもよってオーナーの奥さんを怒らせてしまった。いつも店に置いてもらっている商品の注文数を増やしてもらいに行ったのに、駐車場でボール遊びをしていた子供が、特売品に積み上げられたトイレットペーパーの山に突っ込んできたのだ。泣き出した子供に、その母親が慌てて駆け寄ってきた。
「子供が遊んでるんだから、ちゃんと見ていてくれないと困るわ」
 そう店長に毒づく派手な女性をたしなめようと、思わず克哉は口を開いた。
「でも、子供をこんな狭い駐車場で遊ばせておくのは危ないですよ・・・」
 その女性が、オーナー夫人だと知ったのは、かばった相手の店長に困り顔で告げられてから。
まだ泣き喚く子供を連れ、ぷりぷり怒りながら彼女は去っていった。その時はまだ、克哉も店長も苦笑いするぐらいの余裕はあった。だから、場を取りなおすつもりで、なにげなく彼に言った。
「すみません。よけいなことを言ってしまって。でも、あのトイレットペーパーも、高く積みすぎで危なかったですよね」
 

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