二次創作小説(紙ほか)

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.1 )
日時: 2012/12/19 19:47
名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)

第1話「過去の世界で大波乱!?」


「う、うわあああああぁぁぁぁっ!!」
自分でも驚く程の大声を発して雷夢は飛び起きた。身体を起こし、周りを見ると、草原ではなくいつもの自分の部屋だった。時計の針は6時半を指していた。
「はぁ・・、はぁ・・。なんだったんだ・・今の・・夢・・。」
まだ脂汗と動悸は止まらなかった。しかしなんという夢だろう。自分が何処かも分からない草原で龍の雷で殺されるなんて。
「ふう・・。顔洗ってこよ。そうすれば落ち着くだろ。」
雷夢は洗面所に向かうため部屋のドアを開けた。
ヒュッ!
ガァァァンッ!!
いきなり頭の上にフライパンが降り下ろされた。
「ーーーーーっ!!」
声にならない叫びが雷夢の中で響いた。
「朝っぱらから何大声出してんの雷夢!!」
フライパンを降り下ろした犯人は雷夢の母親、黒鳥千代子だった。さすがに寝起きにフライパンはやめてもらいたかった。
「ご・・・めん・・。ちょっと悪夢見て・・飛び起きた。」
未だに頭の痛みが退かない。昔、黒魔女だった母親のフライパンには痛みを持続させる効果でもあるのだろうか。
「まったく、下で朝ごはんの支度してたらいきなり大声したから何かと思ったら、そういうことだったのね。こっち来なさい、薬塗ってあげるから。」
薬を塗らせる原因を作ったのはそっちではないのだろうか。へちゃむくれの分際で。
「いいよ、時間経てば退くだろうし。」
「いいから来なさい。ルキウゲ・ルキウゲ・コントラーレ!」
母親がそう唱えると同時に、雷夢の身体は何故か母親の後ろをついていっていた。もちろん雷夢がそんなことをしようと思ったわけではない。
「えっ!?ちょっ・・どういうこと母さん!?」
「『コントロール魔法』よ。嫌でも来てもらうわよ。さっき、心の中でへちゃむくれ言ったお仕置きにむちゃくちゃしみる薬塗ったげるから。」
どうやらさっきの心の声は母親に筒抜けだったらしい。
そのまま雷夢は己の不幸を呪いながら母親に連れられて頭部に激痛が走る薬を塗られて絶叫するのだった。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・。」


Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.2 )
日時: 2012/11/29 20:49
名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)



「にしても、さっきの痛みが嘘みたいだな。」
雷夢は頭を擦って思った。つい先程まで薬を塗られた部分に走った激痛はとっくの昔に消え去っていた。恐らく母親の薬を塗っていなかったらまだ痛がっていただろう。一体何をしたのだろうか母親は。
「雷夢ーー!朝ごはん出来たわよーー!」
下の階から母親が読んでいた。
「わかったー!今いくよ!」
雷夢は先程準備しておいたランドセルを片手に持つと、急ぎ足で階段をかけ降りていった。


「そういえばさ、父さんまだ戻って来ないの?」
雷夢は口にパンを頬張りながら質問した。
雷夢の父親の黒鳥京は、雷夢がこの世に生を受けた時から海外で仕事をしており、未だに雷夢は父親を知らないのだ。いや、顔は母親が見せてくれた時が度々あったので知っている。つまり、話すことでしか分からない父親の本質を雷夢は知らなかった。
「んーーっ・・・。確かそろそろ海外での仕事が終わるってこの前言ってたわ。けどまだ数ヶ月先だって・・。京も雷夢に会いたいなら黒魔法使ってさっさと仕事終わらせたらいいのに!私だって会いたいのに・・。」
「はぁ・・。僕が父さんに会うのはまだまだ先ってことか・・。」
そう言って雷夢が朝食のパンに再びかじりつこうとした時だった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「雷夢、ちょっと出て。パン増やしといてあげるから。」
「わかったよ・・。」
渋々雷夢は玄関に向かった。
ピンポーン。ピンポーン。
またチャイムが鳴った。
雷夢は玄関に着くと急いでドアの鍵を開けた。
「はーい、どちら様でおごぉ!?」
「チョコ!チョコは居るか!?」
一瞬で開いたドアに額をぶつけ、更にドアと壁で挟まれた。
「ど、どうしたの雷・・夢・・?」
母親はその来訪者を見て硬直していた。その来訪者と言うのは、黒コートを、羽織った女性だった。恐らく母親よりは年上だろうか。
「も・・・もしかして・・・ギュービッド・・?」
雷夢はその名前に覚えがあったが、よく思い出せなかった。
「ああ、そうだよ。・・久しぶりだな、チョコ。」
「ギュービッドぉ!!」
何故か母親はその「ギュービッド」と名乗る女性の胸に飛び込んでいた。
「ほんと、久しぶり!!会いたかった、会いたかったよぉ!!」
「うぉぉ、俺もだぜチョコ〜!!」
「あ、あのさ、感動の再会の間に申し訳ないけど、母さん・・。」
雷夢はやっとこさドアと壁の隙間から這い出し尋ねた。
「この人誰?見る限り、久しぶりに会ったみたいだけど・・。」
「あ、雷夢。この人はギュービッド、私の子供時代の時の黒魔女インストラクターよ。」
「あ、思い出した!確か、ダジャレ好きな性悪黒魔女って言ってたよね母さん。」
「ってお前、子供いたのかチョコ!?てか、お前子供に私のことどんな感じで教えてんだ、このへちゃむくれ!」
「ご、ごめんギュービッド。でもいったいどうしたの?」
「実は急用があってここにきた。話をしたいが、今時間あるか?」
「あるけど・・。ここじゃなんだから入って。奥で話しましょ。」
そう言うと母親は急ぎ足でリビングに向かっていった。
「あ、そうだ。えっと・・・雷夢って言ったか?」
「あ、はい・・。そうですけど。」
「お前にも話しとかないといけないことがある。お前もこい。」
ギュービッドはそのまま奥のリビングに去っていった。もちろん雷夢もその後に続いた。


Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.3 )
日時: 2012/12/02 14:44
名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)



「さて、話すとするか。私がここに来た理由を。」
雷夢と母親の千代子はリビングのテーブルに座り、ギュービッドの話を聞くことになった。
「結論から言う。チョコ、お前は命を狙われている。」
ギュービッドの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「えっ・・。どういうこと、ギュービッド?」
母親はギュービッドの言ったことに少しばかり戸惑っていた。
「チョコ。ロベを覚えているか?」
「忘れるわけないわ。あんな異端審問官!」
雷夢が見ると、母親からは隠しきれない怒りが見えていた。
「か、母さん。ロベって誰?なんか因縁深そうだけど・・・。」
その雷夢の問いに母親は怒りを押さえつつ答えた。
「ロベっていうのは・・・。私が生きてきた中で、トップを争うぐらい最低な男よ。自分が育てた黒魔女や黒魔法使いの出来が悪いと、すぐにその人を捨てて、そのことが無かったことにする。そんなことを何回も繰り返した男。あの男のせいで自ら命を絶った人もいるんだから!」
「落ち着け!チョコ!」
「あっ、ごめん。」
どうやら母親の怒りを爆発させるほど、ロベが最低な男というのは雷夢はよくわかった。
「話を戻すが、ロベが再び魔界を支配しようと動きだした。」
「な、なんですって!?」
「しかも、異端審問官という地位を捨ててまでだ。それほど今回は本気らしい。」
「あ、あの男・・・・っ!!どこまで支配欲が強いのよ!あれだけ罰を与えたっていうのに!」
「で、ついこの前悪魔情から、そいつらが自分達の計画の妨げになる黒魔女や黒魔法使いを殺しにかかっているっていう情報を手に入れた。つまり、チョコ。お前も狙われる可能性がある。」
「な・・・・っ!?とことん最低だわ、あの男!!」
「しかも、その人物に関わった奴らも殺すらしい。つまり、お前の息子。雷夢もお前と同じように狙われる訳だ。」
「雷夢まで・・・。どうすれば・・。私は黒魔法で対抗できるけど、雷夢はまだ黒魔法を覚えていないのに・・・。」
「大丈夫だ。策はあるから安心しろ、チョコ。」
するとギュービッドはコートの中から何か取り出した。よく見ると、黒色のスマホだった。
「雷夢、あれ『スマホ』じゃなくて『ス魔ホ』。魔界のスマホよ。」
「なんか胡散臭くない?」
そう言っている間にギュービッドは何処かに電話をかけていた。
「・・・あっ、おいリット!お前今からこっちに急いで来い!・・・ゲームの最中で今いいとこぉ!?今すぐ終わらせて早く来い!さもないと黒死呪文かけるぞ!!・・・わかったならさっさと来い!」
電話が終わったらしく、ギュービッドは耳にあてていたス魔ホをの画面をタッチした。
「タッチじゃなくてタップだ!覚えとけ!」
「は、はい・・・。」
「ところでギュービッド、誰に電話してたの?」
そう母親が尋ねるとギュービッドは自信ありげに答えた。
「ちょっとな。そいつが来たら教えてやるよ。」
ダン!
すると、二階で何かが落ちたような音がした。
ドタドタドタッ!!!!
「おわぁぁぁぁぁっ!!!???」
続いて何かが転げ落ちる音と叫び声。
ドスーーーーン!!!!!
「ノォォォォ・・・・。」
最後に一際でかい着弾音と掠れていく悲鳴。
「おっ、来たか。」
すると、音のした方から声が聞こえてきた。
「テテテッ!なんで瞬間移動魔法使った先が階段なんだよまったく!!」
そして奥からギュービッドによく似た黒コートの女性が表れた。
そしてギュービッドが紹介した。
「紹介するぜ!私の娘のギューリットだ!」

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.4 )
日時: 2012/12/02 18:12
名前: ふーか (ID: zhnbqHwV)

はじめまして!ふーかです。
このお話、すごく面白いです!
頑張ってください!

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.5 )
日時: 2012/12/05 20:08
名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)


「ってギュービッド子供いたの!?」
母親は雷夢にとってどうでもいい事実に驚愕していた。恐らくすぐツッコミが、
「お前、それさっきの私のセリフのパクリだろ!」
帰ってきました。
「どうも!ギュービッドの娘のギューリットだ!」
さっき出てきた黒コートの女性が自己紹介した。どう見ても親子と言えるくらいギュービッドと似ていた。
「てか、母さん聞いてねえぞ!この家に階段あるなんて!」
「うるさい!お前が階段なんかに瞬間移動すんのが悪いんだろ!このバカ娘!」
「なんだと!?もう一回言ってみろこのアホ親!」
「誰がアホ親だ!・・いいさ、何回でも言ってやるよこのバカ娘アホ娘バカ娘!!」
「なんか増えてんぞこのアホバカマヌケ親!!」
「お前こそ増やしてんじゃねぇかこのアホバカマヌケおたんこなす娘!!!」
「も、もう!二人とも喧嘩やめて!」
母親が仲裁に入るも、黒コートの黒魔女親子は聞く耳持たずだった。
「しかたないか・・・母さん。どいてて。」
そう言うと雷夢は二人の喧嘩を尻目に、腰に付いたホルスターを取りだし、ふたを開けた。中にぎっしり詰まっているのは、無数の竹串。
それを雷夢は両手にたっぷり持ち、そして大きく振りかぶった。
「おりゃあ!!」
「あでぇ!?」
「いでぇ!?」
雷夢の投げた竹串は一本も外れることなくギャーギャー騒いでいる二人に刺さり、一瞬でそこに黒魔女剣山を作りあげた。
この間わずか5秒だった。
「な・・・に・・!?チョコ、いったい何が・・。」
「実は雷夢、小さいころから竹串で遊んでてね。今じゃ狙ったところに外さず当てられるのよ。さすが雷夢ね。」
「い、いったい貴女子供にどんな教育してんですか・・千代子さん・・。」
雷夢が幼いころからされていた教育。それは、「好きなもので好きなだけ遊ぶ」だった。
「つまり、僕が好きなものとして好きなだけ遊んでいたのが、竹串なんです。てか、そろそろ話戻さないと。」
「お、おう。わかったぜ・・・。」
黒コートの親子は再び刺されたくないのか、急いで椅子に座っていた。
「つまり、こいつを雷夢のインストラクターとして一緒に行かせるってわけだ。実力も私と同じで折り紙つきだぜギヒヒヒ!」
「私は別に構わないけど、黒魔女インストラクター協会には連絡したの、ギュービッド?」
「大丈夫、大丈夫!後でちゃんと事情説明しとくから。」
「じゃあ、ちょっと待ってくれ母さん!10秒で戻るから!」
いきなりギューリットが慌て始めた。
「10秒じゃダメだ!8秒で戻ってこい。」
「ええ!?たっくも〜!ルキウゲ・ルキウゲ・ムオベーレ!」
そう言ったとたんにギューリットの姿は消えていた。
「えっ?ギューリットどこ行ったの?」
「『瞬間移動魔法』で家に帰ったんだよ。あいつのことだ、何しに行ったかは大体分かる。」
「よいしょお!!」
青白い光と共に、ギューリットが再び現れた。何やら白い紙袋を持っていた。
「ぎりぎりだな。全くお前のゲーム好きにはあきれるぜ。」
「いいじゃん別に!で、過去に行って住む家はどうすんの?」
「んじゃこれでキャッシュで買え。私が稼いだ1億1000万だ。大事に使えよ!」
そう言うとギュービッドはコートの中から黒いアタッシュケースを取り出した。いったいどこにそんな物が入るスペースがあったのかが分からない。
「どうせ、『大当たり魔法』でインチキしたんでしょ。多分カジノで。」
「な・・なぜわかった?」
「それ犯罪に限りなく近づいてますよね。」
こんなお金使うのを躊躇しそうだ。
「雷夢、こっちのことは心配しないで行きなさい。こっちでは父さんの所に転校したってことにするから。」
「あ、ありがとう母さん!てか、てんやわんやで決まっちゃったな・・・。」
「よし、んじゃ行くぞ!雷夢はさっき瞬間移動魔法の呪文は聞いたな?」
「うん、ムオベーレ・・だっけ?」
「そうだ。ところで雷夢。いつの時代行きたい?」
過去に行くと決まった時点で雷夢も行き先を決めていた。
「母さんが黒魔女やってた、2012年!」
「よし!行き先決まりだ!ギューリット、わかったな?」
「おう!わかってるぜ!千代子さん任しといてくれ!」
「あ、そうだ、雷夢これ!」
母親が渡したのはホルスター入りの大量の竹串だった。
「もし、追手が来たらこれで追い払いなさい!」
「ありがとう!」
「行くぞ、雷夢!呪文しっかり唱えろよ!」
そしてギューリットと雷夢は一緒に目を閉じ、唱えた。

『ルキウゲ・ルキウゲ・ムオベーレ!!』


Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.6 )
日時: 2012/12/04 18:22
名前: 小梅   (ID: a2Kit7un)

この小説、すごーく面白いデス\(^o^)/
頑張って下さい!

ちなみに私も「鋼の錬金術師〜もう一つの物語
いうの書いてます。

良かったら読んで下さい(*´ω`*)

更新待ってます♪

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.7 )
日時: 2012/12/04 23:37
名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)



「よし、着いたぞ雷夢。」
「う・・ん。」
雷夢が目を開けると、そこはどこかの公園だった。幸いにも周りに人はいないようだ。
「よし、まずはこれから住む家を買うぞ!んじゃ雷夢、お前はこのあたりで暇潰しとけ。その間に私は不動産屋に行って家を探してくる。」
「あ、うん。それはいいんだけど、その格好はちょっと・・・。」
改めて見てみるとギューリットは黒コートを着ている。こんな格好で町を出歩くのはさすがにやめてもらいたかった。下手すれば警察沙汰にもなりかねない。
「あのな、私だってそんくらいの常識は頭に入ってんの!ルキウゲ・ルキウゲ・スベスティーレ!」
ギューリットがそう唱えると、瞬く間にギューリットの格好が変わっていた。さっきまでは黒コートだったはずが、今はTシャツの上にジャケットを羽織って、下はジーパンを履いていた。
「これなら文句ないだろ?」
「うん、確かにさっきよりはましだよ。」
「んじゃ、行ってくっから!」
そう言うとギューリットは走って公園を出ていった。
「さて、暇潰せって言われてもな・・・どうしよ。」
そんなことを呟いた時だった。
「ねぇ、君!」
突然後ろから話しかけられた。振り向くと、雷夢と同じ位の年頃の女の子が立っていた。
「君、この辺じゃ見かけない顔だけど・・・。」
「あ!え、えっと僕は黒鳥雷夢。今日この町に引っ越して来たんだ。」
雷夢は必死でアドリブを聞かせた。
「へぇ、そうなんだ!私は『尾丘おおかミカ』、よろしく!」
「あ、うん!こちらこそよろしく!」
「あ、そうだ!君のこと、なんて呼べばいい?」
「え?うーん・・・。別になんでもいいよ。」
特に自分ではあだ名を思い付かなかった。
「じゃあ、『ライム』でいい?」
「うん、いいよ。」
「ところで、ライム今日引っ越して来たんなら、家の手伝いはいいの?」
いきなり今直面している問題を突かれる質問をされた。返答を考えに考えた結果、雷夢はこう答えた。
「えっと、実は僕、母さんと離れて姉ちゃんと暮らしてて。でこっちに来たはいいけど、住む場所まだ決めてなくて。今姉ちゃんが不動産屋に行って家を探してんの。」
自分で作っておいて苦しい作り話だった。こんなので納得してくれるだろうか。
「へぇ、そうなんだ。早く見つかるといいね!」
すんなり信じてもらえた。
「あ、そうだ。遅れたけど、私のこと『ミカ』って呼んでね!」
「あ、うん。わかったよ、ミカ。」
「おーい!雷夢、家決まったぞ!」
そんな声がしたかと思うと、公園の入り口にギューリットがいた。
「あ、ライムのお姉さんですね!こんにちは!」
「は?お姉ぇぇい!!?」
「あ、ちょっとミカ待ってて!」
雷夢はギューリットを引っ張ってミカから少し離れた。
「おい、なんで私がお前の姉ちゃんなんだよ。」
「い、いや実は・・・。」
雷夢はギューリットに事のあらましを伝えた。
「なるほどな。それだったらお前とこっちで住みやすくなるかもな。」
「でしょ。じゃあ、ギューリットは『黒鳥リト』って名前で、大卒ってことで。」
「よし、わかった。」
ひそひそ声での会議を終え、再びミカの所へ戻る。
「どしたの?いきなりお姉さん連れていって。」
「いや、今度住む家が決まったから、どんな家か聞いたんだよ。」
「そうだったんだ!じゃあ私、家の用事があるから帰るね!」
「じゃあね!」
ミカは二人に手を振ると、走って公園を出ていった。

「で、これから住む家ってどんなの?」
雷夢とギューリットは公園を出て、住宅街を歩いていた。
「おう、結構でかいぞ。しかも二階建てだし、部屋もたくさんあるらしいぞ。楽しみにしとけ!」
雷夢はその言葉に嘘偽りが無いことを祈っていた。
「おっ、あれみたいだな。」
ギューリットが指差す方向を見ると、ごく普通の二階建ての家だった。
黒い屋根に白い壁、ベランダもついているようだった。
「この家結構良さそうだけど、いくらしたの?」
「ああ、なんだかんだで8000万だったぞ。安いのか高いのかわかんないけどな。」
雷夢にとっても安いのか高いのか分からなかった。
そんな会話をしているうちに、玄関に着きギューリットが鍵を開ける。
「よし、今日は出前で飯済ませて昼から家具買いに行くぞ!」
その前に雷夢にはしておきたいことがあった。
「ギューリット、ちょっと自分の部屋決めてきていい?」
「ああ、いいぜ。出前来たら呼ぶからゆっくり選んでこい。」
「オッケー!」
そう言って雷夢は玄関を入ってすぐの階段で二階に上がった。見ると、部屋が5つほどあった。
「えっと・・・。ここでいいかな。」
雷夢は階段から一番近い部屋に入った。
ガチャ。
扉を開けると至ってシンプルな作りだった。クリーム色の壁に大きな窓が二つ付いていた。雷夢はそのうちの一つを開けてみた。
ガラガラ・・。
「おっ、結構いい眺めだなぁ。」
そこからはこの家の近辺を一度に見回せるほどの景色が広がっていた。
コンコンコン。
「ん?なんだこの音?」
急にどこからか何かを叩くような音がした。どうやらもう一方の窓の外かららしい。
「いったいなんだろ?」
雷夢はその窓を開けてみた。
ガラガラ・・・。
「あ、やっぱり!!」
なんとそこには、窓から身をこちらに乗り出したミカがいた。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.8 )
日時: 2012/12/06 21:14
名前: ノヴァ (ID: 8uCE87u6)



「まさか、ミカの家がうちのお隣だなんてびっくりだよ。」
「私もだよ!空き家のはずのお隣からいきなり音がしたから、誰かと思って窓叩いてみたんだよ。」
今、雷夢とミカは隣り合った家の窓越しに会話していた。意外にも2つの窓は間隔が狭く、上手くすれば互いに往き来ができるほどだった。
「あれ、けどさっき『やっぱり』って言ってたけど・・・。なんで?」
普通であれば「ええ!?」とかもう少し驚きそうな気がするのだが、先程のミカはそこまで驚いた様子は見せなかった。
「あ〜それはね、確証が無かったんだけど、これのおかげなの!」
そう言うとミカは、自分の頭を指差した。
ぽん。
するとそんな音と共に、ミカが指を差した辺りに耳が生えていた。
「えぇええええぇぇ!!?」
雷夢は目の前で起こったことの理解が出来ず、取り合えず叫んだ。
「耳だけじゃないよ、こっちもだよ!」
ミカが後ろを向くと、履いているズボンの上辺りから尻尾まで生えていた。
「へへ〜、どう?すごいでしょ・・・ってライムぅ!?」
ミカが見ると、意識を手放す寸前で思考停止している雷夢がそこにいた。このままだと下手したら発狂するかもしれない。
「ちょ、ライム?ライムーー!!」
がくがくがく。
ミカが声を掛けつつ雷夢の身体を揺さぶると、雷夢の瞳に光が戻ってきた。
「・・・・・あ〜、うん。大丈夫だよミカ、もう平気。」
やっと本格的に意識を取り戻したようだ。
「って、つまりどういうことなの・・・それ。」
雷夢が尋ねると、ミカは平然と答えた。
「実は私、狼男の末裔なんだ。」
「へ?狼男・・・ドユコト?」
「つまり、私には狼の血が少しだけ流れてて、そのせい・・いや、おかげでこんな風に耳と尻尾が生えたりするってこと。わかった?」
「まぁ、大体は。でも、それでなんで僕のことがわかったの?」
「実は、こっちの状態だと五感とか身体能力が上がるんだ。それで嗅覚を使ったら、さっき嗅いだ雷夢みたいな臭いがしたからそれで。」
「あ、なるほど。」
これで、さっき確証が無いと言っていた理由が分かった。つまり、「雷夢のような」臭いだったからだ。
「まさか、お隣が狼娘とはね・・・。」
「・・・やっぱりいや?私みたいな変な体質なんて・・。」
「いや、その逆だよ。」
「えっ!?」
予想外の返答が返ってきて、ミカは驚いた。
「狼の血が流れる女の子なんて滅多にいないよ!ミカみたいな女の子がいてくれていやどころか、楽しいよ!!さっき、言い忘れたけど・・友達になってくれない?」
雷夢がそう言うと、ミカは顔を少しだけ朱色に染めた。
「あ、ありがとう!私、今までこんなに早く自分を受け入れてくれた友達がいなくて・・。」
すると、ミカがこちらに顔を近づけてきた。
「・・・ありがとう。」

ちゅ。

「え・・・・?」
ミカの唇が雷夢の頬に優しく触れる。
「・・・今の、友達になってくれたお礼・・・・えっと、じゃあ私、そろそろお昼ご飯の時間だから・・・じゃあね!」
そう言うとミカは足早に部屋を出ていった。
「・・・・・うん、僕も友達になれて嬉しいよ、ミカ。」
「おーーい雷夢!出前届いたから食うぞ!」
下でギューリットが呼んでいた。
「わかった、今行く!」
そう言うと、雷夢は胸の中で様々な思いを巡らせながら、階段をかけ降りていった。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.9 )
日時: 2012/12/08 07:48
名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)

今、雷夢とギューリットはテーブルも無ければ何もないリビングに座って、出前のカツ丼を食べていた。出来立てのようで、熱さに相まって美味しさはピカ一だった。
「はふほほは。ほほオホハヒほんはほほほはひひはへはほは。ほはっははへぇは。」
日本語訳すると、「なるほどな、そのオオカミ女と友達になれたのか。良かったじゃねぇか。」と言っているようだ。口に何か入れて喋るのは、聞き取りづらい上にマナーも悪いので止めてもらいたい。
「いいんだよ、そんなこと!取り合えず、食い終わったら家具買いに行くぞ。」
「いや、全然よくないよ。で、どこに家具買いに行くの?」
そう言ったとたん、ギューリットの口にカツ丼を運んでいた手が止まった。雷夢の頭に嫌な予感がよぎった。
「・・・えっと、そうだな・・・・どこ行く?」
「やっぱり決めてなかったんだね。」
やはり、ギューリットはどこに買い物に行くかを決めてなかった。そして二人ともこの辺りには詳しくない。
「どうすんのさ、ギューリット。」
「そんなこと私に聞くな!お前こそどうすんだよ。」
「どうするって・・・・うーーん・・・・・。」
雷夢とギューリットが共々途方に暮れかけた時だった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!どちら様ですか?」
雷夢は玄関に行き、ドアを開けると、そこにはミカが立っていた。
「あ、ライム!あのさ、なんか手伝えることない?お母さんが『お隣さんに色々サポートしてあげなさい』って言ったから来てみたんだけど。」
「えっと、サポート?」
雷夢は奥から顔を覗かせたギューリットを見た。どうやらミカに頼みたいことは同じのようだ。
「じゃあさミカ、どっかに家具とか買える店知らない?僕達、買いに行こうにも場所が分からなくて・・・。」
「えっと、家具だったら『イシダヤショッピングセンター』に行けばいいよ。あ、よかったら私が案内してあげるよ!」
「ほ、本当!?ありがとう、ミカ!!」
これで、家具購入&買い物先の問題も解消出来た。
「よし、ギューリッ・・じゃなかったリト姉ちゃん、行こう!!」
「ま、待て雷夢!まだ私カツ丼食い終わってねぇ!」


「やっと、今日分の家具買い終わったね。ごめんねミカ、付き合わせちゃって。」
雷夢達三人は、ミカの案内の下無事に家具の購入を済ませ、帰宅の路についたところだった。
「いいよ、二人の役に立ったと思えば気が楽だよ!」
「本当にありがとねミカ。」
「そうだな、お礼に晩御飯ご馳走してやるから、今日の夜家にこい!今日はカレーだぁーー!」
「やったぁ!では、お言葉に甘えて夜にお邪魔します!」
「じゃ、私はカレー作りと、お前の母さんにご馳走の許可もらいに行くから、先に帰るぜ!バッハハーイ!!」
そう言ってギューリットは、目にも止まらぬ速さで行ってしまった。
「それじゃ、二人でゆっくり帰ろっか。」
「うん、そうしようライム!」
そう言いながら、雷夢が通りの角を曲がった時だった。
がっ。
「おわわっ!?」
足元の何かにつまづいてダイナミックに転けた。
ごす。
「ーーーーっ!!」
落下地点にあった何かに額を思いっきりぶつけ声にならない悲鳴をあげた。
「ライム大丈夫・・・・ってああ!ライム、足元足元!!」
「あ、足元?」
ミカにそう言われ、雷夢は足元、つまり今さっきつまづいた何かがあるところに目をやった。

そこにはツインテールの女の子が倒れていた。

「って、だ、大丈夫!?」
その女の子に話しかけても返事はない。口元に手をかざすと、呼吸はしている。どうやら気絶しているだけのようだ。
「取り合えず、家に連れていこう!ミカ、その子を僕の背中に乗せて!」
「わかった!」
そう言い、ミカが屈んだ雷夢の背中にその女の子を乗せた。
「よいしょ・・っと。よし、行こう。」
グゥーーーー。
いきなり気の抜けるような音がした。恐らくお腹の音。ミカを見ると、激しく首を横に振っていた。無論、雷夢のものでもなかった。となると考えられるのは。
グゥーーーー。
やはり、この女の子から腹の音はしていた。二人は確信した。

この女の子、行き倒れだ。

「仕方ない、帰ったらカレー食べさせてあげよ。」
カラン。
「ん?」
雷夢が足元を見ると、何か杖のような物が転がっていた。恐らく先程額を直撃したのはこの杖だろう。
「それ、もって帰ろ。その子の物かもしれないし。」
雷夢もそれに賛成し、杖はミカに持ってもらうことにした。
そのまま二人は、出来るだけ急ぎ足で家へと帰った。
「(てかこれ、早く帰らないと・・・。なんだかんだで困るな・・・。)」
女の子のか細い吐息を耳に受け、雷夢は少し顔を赤くしていた。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.10 )
日時: 2012/12/08 23:04
名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)



ガツガツモグモグガツガツ・・・。
「お、おいひい!おいひいでふよこのカレー!!」
雷夢、ギューリット、ミカの三人が見ている中、女の子はただひたすらにカレーをむさぼっていた。
先程、雷夢とミカはその女の子を連れて帰り、家に到着。家に先に帰宅していたギューリットに訳を話して、カレーライスを高速で作ってもらったのだが、出来た途端に起きて今に至るわけだった。
ガツガツモグモグガツガツモグモグ・・・。
「ふぅ〜美味しいですねカレーは!」
「あのさ、君いったいどうし・・・・。」
「あ、すみません。お代わり貰えますか?あと、特盛で!」
雷夢の質問は礼儀を知らないお代わり追加の注文で遮られた。仕方なく雷夢はキッチンに戻り、特盛にカレーを注いで持ってくる。
「あ、すみません。いただきまーす!!」
ガツガツモグモグガツガツモグモグガツガツ・・・・。
再びカレーを口に運ぶ音のソロ演奏がスタートした。
ガツガツモグモグ・・・。
「ふぅ〜。」
三人が見ると、山のように注いであったカレーが何事もなかったかのように消え失せていた。
「よし、今度こそ聞くけど君いったいどうし・・・。」
「あ、すみません。またお代わりいいですか?」
「いい加減に・・・。」
「はい?」
「しろ!(しやがれ!)(してよ!)」
「あぎゃーーーす!!!?」
三人の堪忍袋の緒が力強く切れ、目の前のカレーブラックホールに向かい、三人の怒り+雷夢の竹串10数本がぶつけられた。
「な、なんですかいきなり!?せっかく人がカレーを頂いているのにどうしたんですか?」
「なにあたかも自分の家で食ってるみたいな発言してんだ、飯食わせてる側の身にもなれ!!」
ざく。
「フェレスッ!?」
雷夢は怒りをぶちまけて、さらにもう一本、フルパワーでブラックホール女の額に竹串を投擲した。
「わ、わかりましたわかりましたよぉ!ご、ごちそうさまでしたぁ!」
ようやく、女の子は食べるのをやめた。全く余計な浪費をさせてくれた。
「じゃあ今度こそ聞くけどさ。」
「はい、なんですか?」
「君、いったい誰?」
「あ、申し遅れました!私、『アテナ・アルタイル』っていいます。『アテナ』って呼んでください。」
「へぇ、外国人なんだね!私はミカ、よろしくね。」
「ところで、なんで行き倒れてたの?」
先程から疑問に思っていたことを雷夢はアテナにぶつけてみた。
「実は、用事があってこの町に来たんですけど、お金持ってなくてお腹が空いて・・・って訳です。」
「ほぉ、その用事って一体なんだ?」
「人探しですね。『クロトリライム』って人です。」
「えっ!?誰に頼まれた?」
雷夢がそう尋ねると、アテナの口から聞きたくない人物の名前が出てきた。
「えっと、確か『ロベ』って人です。」
「あのさ、そのロベって人が探してる『クロトリライム』って僕のことなんだけど。」
「ええ!?ならよかったです!じゃあ早速連絡を・・・。」
「でも、それは僕を殺す為だと思う。」
『ええ!?どういうことですか!?(なの!?)」
なぜミカまで驚くのかと思ったが、ミカにはこちらの事情を教えていなかった。
「仕方ない、こっちの事情全部教えるか雷夢。」
「うん、わかった。」

「えっと、つまり雷夢とギューリットさんは未来から来た人で、ロベって人が雷夢の命を奪うために探してるってこと?」
「うん、そういうことなんだ。」
「私よりすごい秘密隠してたなんて・・・腰抜けそう。」
「私もです。たまたま魔界に降りてきただけなのに、まさかこんなことになるなんて・・・。」
「はぁ?魔界に降りてきたぁ?」
アテナがそう言うと、なぜかギューリットが反応した。
「あ、はい。話せば長くなるんですけど・・・。」
アテナの話は本当に長かったのでまとめると、
1、魔界の雲より高い場所に天界という場所があって、アテナはそこから来た修行中の白魔女である。
2、ある日修行の為に魔界に降りたら、ロベという男に話しかけられ、自分を連れてくるように頼まれた。
3、理由を聞く間もなく、『時間巻き戻し魔法』と『瞬間移動魔法』を同時にかけられ、この時代に来た。
とのことだった。
「ったく、ロベの野郎許せないぜ全く!」
確かに、関係のない人を巻き込んで自分を連れてこさせるのはいかんせん許せなかった。恐らく連れていったら「用済み」などと言って殺すのだろう。
「頼むんだったら、タダじゃなくせめて金払えよな!」
どうやらギューリットは全く関係ないところに腹を立てていたようだ。しかもとてつもなくどうでもいいところに。
「それは私も思いましたよ!せめて1000円は出して欲しいところですよ!」
当のアテナ本人もだった。この二人は金のことしか頭にないのだろうか。
「で、アテナは結局どうすんの?僕を連れていく?」
「いえ、事情を知ったので雷夢さんを連れていくのはやめます。けど・・・。」
「けど?」
「私、『時間巻き戻し早送り魔法』使えないんです!」
「なに!?それじゃ未来に帰れないじゃねぇか!どうすんだよ!」
ギューリットが聞くと、アテナは急に頭を下げた。
「そこでです!私をこの家に居候させてください、お願いします!時間早送り魔法が使えるようになるまででいいので!」
そう言うとアテナはさらに土下座までした。こうなると、アテナの所在を決めるのはギューリットになった。別に居候させてもいいと雷夢は思っているのだが、今現在、この家の主人であるギューリットがそれを決める権限を持っていた。
「おお、いいぞ!」
早すぎる了承だった。
「私達の他に事情信じてくれそうなやつは居なさそうだし、好きなだけ居候していいぞ。」
「あ、ありがとうございます!!」
アテナは涙をこぼしながら何度もお辞儀をしていた。
「ところで雷夢とアテナは学校どうするの?」
「あ!?どうすんのさギューリット!」
「この際だから、ミカと同じ学校行けばいいじゃねぇか。それなら、まだいいだろ。」
「やったぁ!ライムと同じ学校で生活出来るんだ、よろしくねライム!」
「こちらもよろしくです、ライムさん!」
「あ、えっと・・・うん!二人ともよろしく!」
なんだかんだで学校の問題も解決したが、これからどんな毎日が待っているのか。雷夢は様々な気持ちを頭の中に巡らせた。
「よし、明日は私達の日用雑貨買いにいくぞ!」
『おーー!!』
そして、新しく増えた家族とも仲良く出来るのか、そんなドキドキも感じていた。


Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.11 )
日時: 2012/12/09 21:29
名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)



雷夢は自分の部屋の新しいベッドで横になっていた。先日から居候することになったアテナの分の家具や、生活必需品の買い出しに一日を費やしたため今日はそこそこ疲れていた。
「ん〜・・・っ。そういえば明日から学校か・・。ギューリットのやつ、編入手続き済ませたのかな?それにしても、いったいどんなクラスなんだろ・・。」
先日のギューリットによると、先生なんかに頼んでミカと同じクラスに入れてもらえるらしい。ミカと一緒ならば少しは安心できる。
コンコン。
「雷夢、入るぞ。」
部屋のドアを叩き、ギューリットが入ってきた。
「どうしたの、こんな時間に?」
ちなみに今は夜の10時、一般家庭なら子供は寝るのを強制させられることもある時間帯だった。
「いや、ようやく家なんかの準備も落ち着いてきたしな、お前が生活の中でやらなければいけないことを始めるんだよ。」
それを言われて雷夢は、もしやと思った。
「もしかして、黒魔法修行?」
「ピンポンピンポーン!ってわけで、お前にこれをやろう!」
そう言うとギューリットは黒コートの中から何かを取りだし、雷夢に渡した。
「黒魔法の教科書だ、しっかり読んでおけよ!それと黒魔法ドリルも。」
「うっ・・・。これが母さんも苦しんだっていう黒魔法ドリル・・っ!」
「ああ、それは修行の合間に宿題として範囲いうから、ちゃんとやれよ。」
「あ、うん・・・。」
「なにぃ?聞こえんなぁ〜!」
どこかで聞いたような台詞と共に、ギューリットがこちらに耳を向ける。
「は、はい!」
「それでよし。んじゃ、今日は基本中の基本の『基本呪文』を覚えてもらう。」
「き、基本呪文?」
雷夢が聞くと、ギューリットが説明した。
「基本呪文っていうのは、黒魔女や黒魔法使いが一番初めに覚える黒魔法だ。主に、死霊という低級魔物の退治や空を飛ぶときに使う魔法なんだよ。基本中の基本だから覚えとけ、てか忘れるな!」
「わ、わかった!」
すると、ギューリットは何故かcampusノートを取り出した。
「違う違う、よく見てみろ。これは『キャ魔パスノート』っ、これに書いた黒魔法の呪文は頭に染み付くっていうノートだよ。」
雷夢がよく見ると、表紙の英語が『campus』ではなく『camapus』になっていた。魔界はこんなに胡散臭い物が多いのか。
「まずはそれに基本呪文、『ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ』と書いてもらう。ちなみに100回な。」
「多っ!?書いたら呪文染み付くんでしょ?」
「あのな、世の中そんなに甘くないんだよっ。そのノートは100回書かなきゃ効果がないのっ!」
「それ効果出る前に確実に覚えるよね。」
「うるさーいっ!いいからさっさと書く!書いたら次は覚えるまで呪文暗唱だからな。」
「わ、わかったよ・・・。」
そんなわけで、雷夢が左手と声帯をご臨終させて、ベッドに入ることができたのは12時を回った頃だった。


「来夢さん来夢さん、起きてください。」
そんな声が聞こえたが、眠気で体が言うことを聞かない。
「んー。起きないですねぇ。」
「アテナ、そういうときはなぁ、これだぜギヒヒヒ!」
「おお、それを使うんですね!」
何やら会話が聞こえてきたが、気にとめないことにした。
がっ。
いきなり誰かに口を強引に開けられた。
ポポポイッ。
そしてその中に何かを放り込まれた。その瞬間口の中に痛みが走った。
「か、辛あぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!!!」
自分でも驚くくらいの叫び声を上げ、雷夢はベッドから転げ落ちた。いつの間にか痛みは鼻にまで達しており、鼻で息ができなかった。
「ほら、起きただろ。」
目を向けると、ギューリットがこちらを見ていた。
「おお、本当に起きましたね!」
さらにその隣にはアテナもいた。となるとさっきの会話はこの二人のものだろう。そしてその話の内容からして、雷夢に何かしたのはギューリットのようだ。
「ひ、ひったい何したの?」
口を真っ赤にして雷夢は聞いた。
「朝練やるってのにお前が起きないから、これ使ったんだよ。」
「何それ?」
ギューリットが自慢気に持っていたそれを雷夢が見てみると、それは袋のようなもので何かが書いてあった。
『激辛!唐辛子のタバスコ漬け』。
「これお前に食わせたら案の定辛さで飛び起きたぜ!むっちゃウケる〜〜!!」
「なるほど!人を起こすには唐辛子を使えばいいんですね!」
「いや、明らかに間違ってるから。にしても、朝練って何、ギューリット?」
「あのな、朝練ってのは『朝』に『練』って書くの!つまり朝に練習するんだよ!」
そのくらい、雷夢でも知っている。そういえば、母親も昔そんなことをしていたことを思い出した。
「ほれ、これが朝のメニュー。」
そう言うとギューリットは何かを書いた紙を突き出した。

朝のメニュー
1、ベッドを整える。(感染魔法よけ)
2、部屋の掃除。(上に同じ)
3、魔方陣の書き取り又は黒魔法ドリル

「って、毎日こんなことすんの?てか今何時?」
雷夢が時計を見るとまだ5時半だった。
「まだ早くない?もう少しゆっくりさせてよ・・。」
「アホかお前は!朝早くからやっていれば修行の時間も増えるだろ!」
「そうですよ!私なんかもっと早く起きて掃除したんですからね。」
「わかったよ・・・。」
さすがに雷夢も折れた。
「それじゃ、掃除開始〜!」
『おぅ〜!』
そんな掛け声で始まった掃除だったが、想像を越えるほどの重労働だった。
ベッドメーキングでシーツのしわをきっちり取り、枕の形を整えたら、ギューリットに言われ髪の毛も残さず取り除く。これで『感染魔法』というものが防げるらしい。その後は床を掃除機できれいに掃除した。
「よし、終わったな。んじゃ、魔方陣の書き取り始めぇ!」
そして休む間もなく、本格的な修行。
「トホホ、毎日これか・・・。先が思いやられるよ。」
「頑張ってください雷夢さん!私も自分の修行頑張りますので!」
そんなアテナのエールを受けながら雷夢は溜め息を漏らすのだった。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.12 )
日時: 2012/12/10 21:00
名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)



そんなこんなで魔方陣の書き取りを終えた頃だった。
ガラガラ。
「おっはよー、ライム!」
「おはよ、ミカ・・・。」
窓を開けてミカが顔を出した。
「って、どうしたの!?今日から学校なのに元気ないじゃん!」
「いや、朝っぱらから朝練で疲れてさ・・・。朝飯食ったら何とかなるかも。」
「なんだかんだで大変だね、雷夢も。」
「うん、今日はクラスの人との緩衝材になってくれればすごい助かるよミカ。」
「うん、任せといて!」
「おーい!雷夢、アテナ、朝飯できたぞ!」
話をしていると、ギューリットが下で呼んでいた。同時にいい香りも漂ってくる。
「んじゃ、僕はこれで。あ、アテナの方もよろしく頼むね!」
「オッケー、そっちも任せといて!」
そして雷夢は一階にかけ降りていった。


「結構いけるねこれ。」
「だろ、これでも苦労したんだぜ。人間界の料理の作り方覚えたりとか、グロい食材使わずにどうしたら美味くできるか考えたりとか。」
今、雷夢達三人はギューリットの作った朝食を食べているところだった。因みにメニューは目玉焼きに白ご飯と、いたって普通だった。それにしてもグロい食材を使っていたらどんな物になっていたのだろうか。そして使うのは一体なんなのだろうか。
「うん、うまいですね!目玉焼きは半熟でとろけるし、白ご飯も程よい美味しさです!」
「だろ!焼くときの時間もちゃんと計って半熟になるように仕上げたんだよ。めっちゃキテるぜ〜!」
「てか、自分で言ってて自分を褒めるって自己満足じゃない?まあ、うまいからいいけど。」
「そうだ!ニュース見ないと。」
そう言ってアテナがテレビの電源を入れた。それにしても地デジの整備などいつの間にやっていたのだろうか。話に聞いたところ、工事は少しばかり時間がかかるはずだったが。
『めざましセブン!』
テレビから聞こえた音声から、アテナが見ているのは「めざましテレビ」のようだ。これは雷夢も好きなニュース番組だった。
「結構、いろんなニュースありますね。なるほど、『中国で反日デモ発生』ですか・・・。」
そんなわけで三人で朝食を食べながらニュースを見ていると、
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「ライム〜アテナ〜。そろそろ行く?」
どうやらミカが迎えに来たようだ。雷夢とアテナは慌てて歯磨きを済ませ、ランドセルを背負った。
「よし。ギューリット、行ってくるね!」
「私も行ってきまーす!」
「おお、行ってこーい。頑張ってこいよー!」
ギューリットの言葉を後ろに聞きながら、雷夢とアテナはミカと合流した。
「よし、二人とも来たね。今日は私がみんなとの緩衝材になるから任せといて!」
「おお!期待してます、ミカさん!」
そして雷夢達は三人仲良く学校に向かって歩き出した。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.13 )
日時: 2012/12/11 23:08
名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)

「おーい!はやくはやく二人とも〜。」
「ま、待ってよミカ・・・。速い・・・。」
「ミカさん、身体能力人間離れしてんですから・・・自重・・。」
先を急ぐミカに、雷夢とアテナは着いていくことができない。無論、アテナが言ったようにミカの身体能力が人外なこともあるが、二人の身体能力にも問題があった。
母親が運動音痴、略して出版規制の雷夢は、母親のその遺伝子はあまり継いでないものの50m走10秒25の足なのだ。
アテナは先日買い物をしているときの会話で、「私、こう見えて移動は速いですよ!」と自身満々にぬかしていたが、雷夢のほんの数m手前で息を上げている様子を見るとどうやら虚言のようだった。
「は、はひぃ・・・。し、仕方ないです。私が言ったのは杖で空を飛ぶって意味ですので・・・はふぅ。」
「二人とも〜。どうもお疲れ、到着だよ!」
二人が見ると、いつの間にか校門に着いていた。校舎を見ると、4階建ての立派な作りだった。
「そう、ここが第2小だよ。大きくていいでしょ?そうそう、少し離れたところに第1小っていう結構有名な学校もあるよ。」
「あ、母さんが通ってるのはそっちか。こっちのクラスは母さんのクラスに比べたらどんなんだろ。」
「多分、同じくらいのキャラの濃さはあるとは思いますよ、雷夢さん。」
「さあどうかな?先生の所に案内するからついてきて。」
他の生徒に混じり、雷夢とアテナは校舎に入った。ミカの後をついていくと、すぐに職員室に着いた。
「清井先生〜。転校生の二人連れてきました!」
ミカがそう言うと、すぐに誰かが出てきた。
「初めまして。えっと、黒鳥雷夢くんと妹のアテナさんね。私は尾丘さんのクラスの担任の『清井飛鳥』(きよい あすか)よ。よろしくね。」
『は、はい・・・よろしくお願いします。』
雷夢とアテナは少しあぜんとした。その先生がかなりのプロポーションだったからだ。見事な卵のような顔、やさしくかつ活発さが溢れるぱっちりした目、程よい弾力を想像させる唇、ウェーブがかったストレートの茶髪。体型も上から下までバランスよく、文句無しのスタイルだ。
「二人とも、これからよろしくね。尾丘さんは先に行ってていいわ。」
「は〜い。じゃあライム、アテナ後でね!」
そう言ってミカは階段を上がっていった。
「じゃあ、二人とも私についてきて。教室まで案内してあげるわ。」
「あ、はい!ありがとうございます。」
「それにしても、清井先生って美人ですね!」
アテナが、雷夢も言いたかったことを清井先生に言った。
「ありがとう。初めて会った生徒には必ず言われるんだけどね、なぜだか彼氏できなくって。」
こんな美しい人に目もくれないとは、男は
「こんなにきれいな人に目もくれないとは、男はいったいどこ見てるんでしょうかね!」
先に言われた。
「色々楽しそうね、あなた達兄妹って。見てるだけで楽しくなっちゃう。」
ちなみに、雷夢とアテナは一般には兄と妹ということで通すらしい。ギューリットが提案したのだが、これは案外悪くない。
「あら、色々話してたら着いちゃったわね。ここが5年1組の教室よ。」
見るといつの間にか、5ー1と書かれた教室についていた。
「じゃあ、入ったら自己紹介お願いね。」
そう言うと、清井先生は教室の扉を開けた。
「はい、みんな席ついてー。転校生の紹介するわよ、入ってきて。」
清井先生が手招きしたので、二人は教室に入った。素早く教室を見回すと、ミカは教室の左奥に座っていた。
「それじゃあ、自己紹介を。」
「く、黒鳥雷夢です!よろしく。」
「その妹のアテナで〜す!よろしくね。」
自己紹介を終えると、教室の中央辺りに座っていた女の子が立ち上がった。見るからにおしとやかそうな風貌で、こちらに向かいにっこりと微笑んでいる。
「初めまして、私は5年1組学級委員長の『鳳 未來』(おおとり みらい)です。一緒に楽しく過ごしましょうね。」
「あ、はい。こちらこそよろしく。」
すると、その隣に座っていた女の子も立ち上がった。長く伸ばした髪の毛に相反してボーイッシュな服装で男らしい格好だった。
「僕は5年1組学級副委員長の『一路 蘭』(いちろらん)だ。言っとくが、こんな顔だけど男だからな。」
「えっ!?ご、ごめん。今見たとき女の子かと・・・。」
「は〜い。それじゃ二人とも、空いている席に座って。授業始めるわよ〜。」
急いで二人は席に座ると、授業が始まった。ちなみにアテナはミカの隣で、雷夢は一番近かった女の子の隣に座った。
「・・別に、うれしくないから。」
隣の女の子がなにか呟いた。
「え、今何て言った?」
「べ、別に!私は『津出 玲奈』(つで れいな)。あんたそれより早く教科書出しなさいよ!授業始まるわよ。」
小さくかつ、激しく怒られた。これは俗にいう、「ツン」なのだろうか。
「(こりゃこのクラス、キャラ濃そうだな。)」
授業を受けながら雷夢はそんなことを思うのだった。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.14 )
日時: 2012/12/12 20:06
名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)



「あー、疲れた!」
雷夢は小さな声で教室の椅子に座って呟いた。まだ昼休みなのだが、本当に疲れていた。授業が疲れたわけではなく、別の出来事で疲れたのだ。授業が終わると教室の皆から話し掛けられ、質問や雑談の嵐に巻き込まれたためだった。
「私もですよ、雷夢さん。けど皆さんのことを色々知ることが出来ましたし、ギブアンドテイクですよ。」
「まぁ、確かにそうだよな。母さんから記憶レスの遺伝子は継いでないから、全員のこと、早く覚えられるかも。」

「へっくしゅん!」
「どうした黒鳥、風邪か?」
「風邪なら俺の調伏真言で治してやるよ!」
い、いや大丈夫です。なんか誰かに噂されてる気がしただけですから。
「東海寺!お前なんかの呪文で黒鳥の風邪が治るわけないだろ。黒鳥、後で薬持ってきてやるから安心しろな。」
ああ、もう本当に大丈夫だからぁ!!

キーンコーンカーンコーン。
いつの間にか午後の授業も終わり、放課後になった。
「さて、と。アテナ、帰るぞ。」
「はいはーい!それでは皆さんさようなら〜。」
クラスの皆と別れて、通学路を歩いている時だった。
「よいしょっと。」
見ると、女の子が何故か机を運んでいた。大変そうだったので、アテナと手伝おうと近寄る。
「ねぇ、君大丈夫?」
「よかったら私たちも手伝おうか?」
「あ、ありがとう。じゃあ、この机を飛行機公園まで運んでくれるかな。」
雷夢は快く引き受け、机を運ぶ。
「しかし、いったいどうして机を?それにその箱、なんか占い道具入ってそうだね。」
「実は私、占いなんかが得意でね。今からクラスのみんなにやってあげようと思って。ところであなた達第1小では見かけないけど、もしかして第2小?」
「うん、僕は雷夢、こっちは妹のアテナ。」
「よろしくね。」
「こっちこそ。あ、着いたわ、ありがとう。」
見ると、そこは雷夢とギューリットがこちらに来たときにいた公園だった。
「よいしょっと、セッティング完了!お礼にあなた達の運勢占ってあげるわ。」
「あ、ありがとう。じゃあさっそくお願いできる?」
「わかったわ。じゃあ二人の運勢を占うわね。」
すると女の子は、あらかじめ置いていた水晶玉に手をかざした。
「うーん・・・。きました!」
「ど、どんなのですか?」
「二人とも ゲーセン行ったら 大波乱」
「えっ、何で俳句調なの?」
「あ、私守護霊が松尾芭蕉なの。そうそう、言い忘れたけど『如月星羅』よ。」
そのとき、雷夢の頭に思い返す事があった。母親のクラスには占い好きの女の子がいたことを。もしやこの女の子がそうなのか。
「あ、早く帰らないと姉ちゃんに怒られるよ!」
言われて初めて思い出したが、帰ったらギューリットが黒魔法修行をすると言っていた。早く帰らないとまずいかもしれない。
「じゃあ、僕たちはこれで!」
「またいつか〜。」
そう言って別れると雷夢とアテナは家に向かい、孟ダッシュを開始していた。

「遅い!どこで雑草食ってた雷夢、アテナ!」
「それいうなら、『道草食ってた』だろ!誰が雑草食うか!」
帰ってきたとたん、ギューリットが間違いを含んだボケ兼怒りをぶつけてきた。無論、雷夢はツッコミで弾き返す。
「まあ、それはいい。んじゃ、二人ともさっさとランドセル置いてこい。」
「いったいどうするんですか?」
アテナが聞くと、ギューリットは鼻の穴を広げて答えた。
「ちょっと今日は家じゃなくて別の場所で黒魔法教えてやろうと思ってな。『大当り魔法』ってやつだ。」
「で、どこ行くの?」
するとさらにギューリットの鼻が大きく開いた。さすがに女として自重してもらいたかった。
「それはな・・ゲーセンだ!」

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.15 )
日時: 2012/12/13 23:17
名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)



時間は3時30分。雷夢達3人はイシダヤショッピングセンター3階のゲームセンターに来ていた。時間が時間なだけに、あまり人は居ないようだった。
「何で修行する場所がゲーセンなわけ?」
「さっき言ったろ、大当り魔法の修行だよ。」
それは雷夢もアテナもわかっていた。つまり聞きたいことはそこではなかった。
「だから僕が言いたいのは、何で大当り魔法っていう実戦に向かなそうな魔法を教えるのかってこと!」
「ああ、実は大当り魔法は魔力の大きさを判別しやすいんだよ。」
「あ、なるほど!」
頭の上に『?』が3つほど浮かんでいる雷夢の隣でアテナが一人だけ納得していた。
「雷夢さん、大当り魔法は使った物事の結果がその人の魔力で大きく変わるんです。」
「えっと、つまりスロットで大当り魔法を使ったときに、使用した人の魔力が大きければコインがいっぱい出て、逆に少ないとその分のコインが減って出てくる・・みたいな?」
「そう、その通りです雷夢さん。つまりギューリットさんは大当り魔法の結果で雷夢さんの今の魔力を計ろうとしているんですよ。」
「おお、アテナ鋭いな。その通りだよ!」
するとギューリットは両替機の前に進んでいって千円札を入れ始めた。
ジャラジャラ・・。
取りだし口に落ちた大量の100円玉を持ってギューリットが戻ってくる。
「というわけで、今日までは息抜き!好きに遊んでよーし!」
「イヤッホーイ!ありがとうございますギューリットさん!さて、どれから遊びますかな〜。」
アテナはギューリットから100円玉を大量に受け取り財布に入れた。しかしアテナは財布などいつ買ったのだろうか。
「ほれ、雷夢も。」
ギューリットが100円玉を突きだしてくる。仕方なく雷夢はそれを受け取った。
「じゃあ、ちゃんと見ててよ。僕の魔力がどれくらいなのか。」
「ああもう、わかってるってーの!」
そう言いつつ、ギューリットは奥の方にあった太鼓の付いたアーケードゲームに向かっていた。全然分かってないではないか。
「んじゃ、僕もなんかやってみるか。」


「あれっ、もしかして雷夢くん?」
ゲーセン内を歩いていて急に声をかけられた。振り向くと、どこかで見た女の子が立っていた。
「えっと・・・。あ、確か『夏野 花梨』(なつの かりん)・・だっけ?」
「そうそう、こんなところで会えるなんて花梨感激〜!」
そう言って顎の下で両手のガッツポーズ。それが語るように、花梨はぶりっ子なのだ。確か両親がファッションコーディネーターで、そのためかいつもかわいい服を着てくるらしい。現に今着ている服も人形が着ていそうな服だった。
「てか、そっちこそなんでここに?」
「あ、実は花梨、こう見えてゲーム大好きなんだ!ここのゲーセンもよく遊びに来るんだよぉ。」
「へぇ、そうなんだ。なんなら一緒に遊ばない?あんまりこういう場所のゲームしたことなくてさ。」
「やったぁ!花梨、うれしいよ〜。あ、このクレーンゲームやってみない?これおもしろいんだよ。花梨もずっとやりこんじゃうぐらい!」
そこにあったのは、中に黒いカプセルが置いてあるクレーンゲームだった。隣のガラスケースに様々な商品が置いてあるところを見ると、カプセルの中にある鍵で商品が手にはいるシステムらしい。
「じゃあ、花梨がお手本見せる〜!」
そう言い、花梨が100円玉を投入口にいれる。
その瞬間、周りの空気が変わった。どす黒く、かつ邪悪なそれに。
「クククク・・・。」
花梨を見ると、うつむいて不敵な笑い声を出していた。
「か、花梨・・・?」
雷夢が呼び掛けると、花梨がゆっくりと顔をあげる。
そして叫んだ。
「さあ、かかってこい!大金食らいのクレーンゲームめ、この私にたてつくとどうなるか教えてやるよ!」
もう、そこにいたのは先程の花梨ではなかった。いつものぶりっ子の欠片を残さず変貌させた、ぶりっ子には必ず潜む、裏の心の花梨だった。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.16 )
日時: 2012/12/15 21:39
名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)

「オラオラァ!行けやアームよぉ!」
花梨は半ば半狂乱に近い状態と化していた。これはもうゲームが終わらない限り元には戻らないだろう。
雷夢がそう思っている合間に、「裏」花梨は黒いカプセルをアームで掴み、取りだし口へと易々と運んでいた。
ゴト。
カプセルが無事に取りだし口から出てくる。
「見たか、金食いのクレーンゲーム!ざまぁ見やがれ!」
そう言いながら花梨はカプセルを開け、中に入っていた鍵でガラスケースを開けた。中から出てきたのはモデルガンだった。
「やったぁ、花梨最高〜!」
いつの間にやら花梨は元のぶりっ子に戻っていた。嘘の如く先程の面影は全くなかった。
「あ、あのさ花梨・・・。」
「ん、どうしたの雷夢くん?」
雷夢は思いきって聞くことにした。
「花梨って、ゲームするといつもあんななるの?」
「え?あ、うんそうなのぉ。花梨ってゲームすると今みたいに理性崩壊しかけちゃうの〜。」
正直すでに崩壊していたような気もしたが、ぶりっ子に免じてあえて口をつぐんだ。
「ほら、雷夢くんもやってみてぇ。」
「う、うんわかった。」
そう言われ、雷夢は100円玉を投入した。そしてボタンを押す。

一回目のチャレンジ。
ぼと。
失敗。
二回目のチャレンジ。
ぼて。
失敗。
三回目
ことん。
失敗。
・・・・・・・・
十回目。
かつん。
失敗。
「全然取れないじゃんこれ!」
あっという間に千円すっ飛んだ。しかもこの十回でカプセルを1センチ以上上げた試しは一度もない。
「絶対クリア出来なく作ってあんだろこれ。」
「そんなことないよ、花梨だって取れたんだもん。」
そう言って花梨と変わる。
「こんなのも取れねぇなんてショボいぞ黒鳥!」
再び裏花梨が出てきた。
「こんなもんこうしてこうすれば・・・。」
ガタン。
いとも簡単に取っていた。このクレーンゲームは雷夢を毛嫌いでもしているのだろうか。
「ゲームがプレイヤーを毛嫌いするわけねぇだろ。悪いのはプレイヤーの腕と経験の無さだ。」
真っ向から否定された。
「じゃあさ、ここにスロットマシンとかある?それなら結構いけるかも。」
「ほぉ、そうなのか。じゃあ、花梨についてきてぇ〜。」
今度は瞬間的に人格をチェンジするという芸当を花梨はやってのけた。



「ほらぁ、着いたよ!」
花梨についていくと、そこにはスロットマシンが数台か並んでいた。3つのドラムに、側面のレバー。まさに雷夢がイメージしていたスロットマシンだった。
「ようし、それじゃやってみるか。」
「あ、まってまって雷夢くん!」
やろうとしたとたん、花梨に腕を掴まれた。
「まずはあっちのカウンターでコイン貰わないと。100円じゃスロットはできないよぉ。」
「あ、ごめん。さっき言ったみたいにあんまりゲーセンきたことなくって。」
さっそくカウンターでコインを100円と交換して、再び雷夢はスロットマシンの目前に舞い戻った。
「(えっと、確か大当り魔法は『ゲットーネ』だったな・・・。)」
そう思いつつ、コインを投入する。そして丹田に力をいれ、雷夢は呪文を唱る。
「ルキウゲ・ルキウゲ・ゲットーネ!」
パンパカパーン!
ジャラジャラジャラジャラ・・・。
するとファンファーレと共にコインがスロットマシンが溢れだした。
「わぁ!すごいね雷夢くん、花梨びっくり〜!」
「す、すごい・・・。」
自分でやっておいて呆然としつつ、コインをケースに容れまくる。
「ようし、花梨も・・いや、私もやるぜ!」
花梨も裏モードに変貌し、スロットを開始した。
「こっちも負けないぞ!ルキウゲ・ルキウゲ・ゲットーネ!ルキウゲ・ルキウゲ・ゲットーネ!」
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ・・・。
見ると、すでにコインケースは満杯になっていた。
「あ、花梨。このコインってあっちで交換できる?」
「オラオラオラオラオラオラァァァ!!」
花梨は半狂乱で聞く耳持たずだった。
「じゃあ、僕交換してもらってくるね・・・。」
一端ゲームを中断し、雷夢はカウンターへ向かった。受け付けに聞くと、どうやらお菓子と交換できるらしい。なんでもここでこんなにコインを出した人は、つい最近に女の子が一回やってのけただけだという。ぜひとも会ってみたかった。



「お、重い・・・・。」
雷夢は両手に大量のお菓子入りビニール袋を下げ、息を切らせながらゲーセン内を歩いていた。しばらくはこれだけでお菓子代が浮くに違いなかった。
「雷夢!すごいじゃねぇか、そんなにお菓子と交換できて!」
「私もいっぱいぬいぐるみ取りましたよ!みんなかわいいです!」
「ところで、ギューリット。僕の魔力どのくらいかわかったの?」
「もちろんだぜ!そうだな、だいたい・・・。」
ところがギューリットの話は突然途切れさせられた。

「見つけましたよ、黒鳥雷夢さん。」

三人が振り向くと、そこには少しばかり身なりを整えた男性が立っていた。
「誰だ、お前は。なぜ雷夢の名を知っている。」
「おっと失礼。紹介が遅れました。」
ギューリットが聞くと、その男は深々と一礼してこう告げた。

「私は『フルーレティ』。ロベ・ル・プティ様の命により、あなた様をお連れに参りました。」


Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.17 )
日時: 2012/12/17 19:11
名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)


「ロベの手先だとっ!?」
フルーレティという男の一言で三人は身構えた。まさかこんなに早く見つかるとは思ってもいなかった。
「お待ちください、私も紳士ですので手荒な事はしない主義でして。ロベ様にも『黒鳥雷夢は生かして出来るだけ傷つけずに連れてこい』と命令されていますゆえ。」
「ほぉ、じゃあどうする気だ?」
ギューリットが聞くと、フルーレティは悠然と答えた。
「そうですね・・・。では、ゲームで決めましょう。」
『ゲ、ゲーム?』
三人が聞き返すとフルーレティは続けた。
「そうです、あなた方三人と私がこのゲームセンター内のゲームでどれかひとつでも私に勝てたならば、今回は手を引きましょう。」
「・・・勝てなかったら?」
「無論、あなた方三人をロベ様の元へお連れします。まぁ、あなた方が私に勝つなど微塵にも考えていませんがね。」
「むっ!どんだけ自信過剰なんですかねあの人!」
「いいだろう、私たちがお前のそんな自信ぶち壊してやるよ!」
「あ、いい忘れましたがお互いに黒魔法は使わないということで。それでしたら公平でしょう。」
「おう、わかったぜ!雷夢、この勝負絶対勝つぞ!」
「うん、言われなくてもわかってる!」



「では、手始めにどなたからどのゲームで対戦しますか?」
「私がやります!」
勢いよく声を上げたのはアテナだった。
「対戦するのは・・・クレーンゲームです!」
「いいでしょう。では、どのようなルールで?」
「お互いに一回ずつプレイして、多くとれた方の勝ち。で、どうですか。」
「わかりました。ではお先にどうぞ、私は後からでよろしいです。」
「おい、アテナ大丈夫か?」
雷夢はアテナに耳打ちした。
「大丈夫です。これでもクレーンゲームは得意な方なんです。」
そう言ってアテナはクレーンゲームの前に足を進めた。そしてコインを入れゲームがスタートした。
「よしよし、そのまま・・・。」
アテナの操るアームは幾多ものぬいぐるみの上を通り、そして降下する。
がし。
そしてアームは複数のぬいぐるみを挟んで戻ってきて、取り出し口にそれらを落とした。
「やったぁ、3つ一気取りです!」
「なるほど、それだけですか。」
「なっ・・・、どういうことですか!?」
「それでは私の足元にも及ばないということです。では今度は私が・・・・。」
そう言い、今度はフルーレティがゲームを開始する。アームは順調に動いている。
「・・・・そこです!」
そう叫ぶと、フルーレティは↓ボタンを押した。アームが降下し、その爪を閉じる。
「う、うそ・・・・。」
アテナは驚愕していた。それはそのはず、フルーレティが操るアームには今やアテナの時の倍近い数のぬいぐるみが挟まっていた。
どさっ。
「ふぅ、6こですか。まぁまぁですね、これでそちらのお嬢さんとの勝負は私の勝ちです。」
「くっ!雷夢さん・・・すみません。」
「大丈夫だアテナ、まだ雷夢が連れていかれると決まった訳じゃない。」
「そちらの黒魔女の言う通りです。では、お次はどちらで?」
「私だ!対戦ゲームは『太鼓の達人』、レベルは『おに』で曲は『さいたま2000』、これでどうだ!」
「いいでしょう、では今回は同時進行で。」
「わかった、お互いに妨害無しな。」
そう言い、二人は太鼓の達人の前に並んだ。ギューリットがコインを投入する。
『さあ、始まるドン!』
マスコットキャラのドンちゃんの声が響き、演奏が始まった。
・・・ドカドドドカドドドカドンカドドカドカカドカドドドドカドカドドカドカカドカカカドカドドドドカドカカ・・・・!!!
文字で書くとゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど、周囲に太鼓の音が響き渡る。
ドドドカドカドカドコドンカカカカドドドカドンカカカッドドドカドン!!
『フルコンボだドン!!』
再びドンちゃんの声が響き、演奏が終わった。どうやら二人ともフルコンボしたようだ。
『結果発表だドン!』
そして結果発表の画面へ移った。
「なっ、なにぃ!?100000ポイント差だと!?」
「ええっ!?」
雷夢が覗き込むと、ギューリットは903254ポイント。対するフルーレティは1003678ポイントだった。
「な、なぜだ!お互いにフルコンボ出したんだぞ!」
「ふっ、それは簡単なことです。」
「ど、どういうことだ?」
「あなたのプレイを見ると、フルコンボはしていましたが『可』を多く出していた。」
「それがどうした!」
「それに対して、私は全ての音符を『良』。つまり『全良』を成し遂げたのです。」
「な、なに!?そんな・・・バカな。」
ギューリットはそう言うと、落胆しひざまづいた。
「さて、これであなた一人になりましたね。黒鳥雷夢さん。」
「うっ・・・!」
雷夢には勝機が全くなかった。雷夢から見て充分上手いこの二人を、いとも容易くフルーレティは退けた。もっと強いプレイヤーならともかく、ゲームをあまりやったことのない雷夢には勝ち目がなかった。
「(ど、どうすれば・・・。)」
雷夢が勝機を失い、頭がパニックで混乱し始めた時だった。
「あれぇ?雷夢くんどうしたの、こんなところでぇ。」
「な、夏野さん!?どうしてここに?」
雷夢が見ると、太鼓の達人の影から花梨が顔を出していた。
そのとき、雷夢の頭にふと思いついたことがあった。
「なぁ、フルーレティ。」
「どうしましたか?」
「僕が選手交代・・・ってのはダメかな?」
「ほう、別によろしいですが・・・。どちらのお方と交代しますか。」
「わかった、ちょっと待ってくれ。」
そう言い、雷夢は花梨を奥に引き込んだ。
「な、何?どうしたの雷夢くん。」
「実はカクカクシカジカで・・・。」
雷夢は花梨に事のあらましを説明した。
「なるほど、つまりあの人に勝たないと雷夢くんは連れていかれちゃう・・・ってことね。わかった、花梨協力するよ!」
「ありがとう、花梨。ところで、花梨がこのゲーセンで一番得意なのはどのゲーム?」
「ええっとねぇ、一番得意なのは・・・あれ!あれなら誰にも負けないよぉ。」
花梨が指差したさきのゲーム機を見て、雷夢は勝機を見いだした。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.18 )
日時: 2012/12/23 22:46
名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)

「よし、決まったぞフルーレティ。」
「では、どなたと交代するので?」
「はぁ〜い!花梨にま、か、せ、てぇ〜。」
「ええっ!?(はぁ!?)」
花梨が名乗り出たとたん、アテナとギューリットはすっとんきょうな声を上げた。いや、どちらかというと驚いているに近かった。
「おいおいおいおいおいぃぃぃぃ、雷夢!大丈夫かお前は、そんなやつがそいつに勝てるわけないだろ!」
「そうですよ雷夢さん!プロのゲーマーならまだしも、ぶりっ子の夏野さんには無理ですよ!!」
「確かに、そのお二方の言う通りです。早く手を引いた方がよろしいですよお嬢さん。」
「もう!みんなして花梨をバカにして、花梨頑張るもん!!」
「確かに、僕は花梨ならあいつに勝てると思った。だから花梨、お前に任せた!」
雷夢は花梨の肩を叩き、ゲームの勝敗を全て花梨に託した。
「まぁ、いいでしょう。では、どのゲームで対戦しますか?」
「ええっとねぇ、じゃああのクレーンゲームで!」
花梨が指差したのは、中に黒いカプセルが入っているクレーンゲーム。そう、雷夢が先程苦戦を強いられ惨敗した、あのゲームだった。
「あの中のカプセルには隣にあるガラスケースの鍵が入っているんだけど、ただのキーホルダーが入ってることもあるの。」
「それがどうしました?」
フルーレティが聞くと、花梨は自信たっぷりに答えた。
「あの中のカプセルを取って、先に鍵を取った方の勝ちでどうかな?開けるのは二人同時にで。」
「わかりました。では始めましょう、そちらからどうぞ。」
「やったぁ!ありがとうございますぅ。」
そう言うと花梨は100円を手に取り、それを投入した。
「・・・・む?」
「えっ・・・なんですか?」
「なんだこの・・・邪悪な空気は。」
どうやらここにいる全員が感じ取っているようだった。そう、

裏モードの花梨が発する邪悪な気を。

「クックックッ・・・・。面白そうじゃねぇかええ?」
「な、夏野さん・・・・?」
「あ?どうしたアテナよぉ・・・。まぁ、いい。フルーレティとか言ったな貴様。」
「どうかしましたか?」
「いい忘れたが、このバトル一度ミスったらその時点でそいつの負けだ。わかったか!」
「ほほう、勝手にルールを後から追加するなど・・・。ですがその方が面白いですね、いいでしょう。」
もはや二人の間には火花がぶつかり、二人の闘争心がオーラとして背後に見えていた。
「ら、雷夢さん。花梨さんってゲームするとああなるんですか?」
「あ、うん。さっき見せてくれたから別にびっくりしないけど。」
「お前らのクラスっていったいどんなんだよ・・・。」



「そんじゃ、私から始めるぞ。」
花梨は先程100円を入れたゲームの前に立ち、→ボタンを押し始めた。
「そのまま、そのまま。」
そう言いながら花梨は↑ボタンを押す。
「・・・・そこぉ!!」
花梨が叫び、ボタンから手を放す。アームはゆっくりと下降し、落下地点のカプセルをがっしり掴む。
・・・ガコン。
「よしっ!」
無事にカプセルは取り出し口から出てきた。
「では私も。」
続けてフルーレティもゲームをスタートした。
ガコン。
フルーレティも難なくカプセルを取った。
「じゃあ、中身の確認だ。」
ガポッ。
二人が同時にカプセルを開ける。見ると二人とも鍵のようだった。
「一回目は引き分けですね、では続けましょう。」
「言われなくてもそのつもりだ。」
・・・・・・・
「今度はどっちもキーホルダーか!」
「くっ、全く勝負が終わりません・・・。」
すでに二人の勝負は十回目に突入していたが、未だに二人とも同じものが当たり続けていた。しかし突然フルーレティが笑い声を上げた。
「ハハハハッ!わかりましたよ、この勝負私の勝ちです!」
「なっ!?どういうことだフルーレティ!」
雷夢が聞くとフルーレティは悠然と答えた。
「見なさい、カプセルはあと1つだけです。」
全員が見ると、ゲーム内に黒いカプセルはフルーレティの言う通りあと1つしかなかった。
「私の計算では、あのカプセルの中には鍵が入っています。」
「じゃあ、私があれを取れば雷夢達の勝ちってわけだな。」
「ふふふふ・・・・。しかしそう簡単にいきますかねぇ?ご覧なさい、カプセルの位置を!」
「カプセルの位置・・・・あっ!?」
花梨が急にうろたえた。雷夢達が見ると、カプセルはゲーム内の右側の端にあった。
「いったいどうしたんだよ花梨?」
すると花梨は口をゆっくりと開いた。
「あ、あの場所は・・・アームが届かないんだ。つまり、あのカプセルは取れない。」
『ええっ!?』
雷夢達が驚くと、フルーレティが再び笑い始めた。
「ハハハハッ!そうとも、あの場所のカプセルは誰にも取れない。この私でさえもだ!これでそちらの負けは決定です!」
「・・・・『私でも取れない』?なら、それを取れば僕達の勝ちってわけだな。」
そう言いはなったのは他の誰でもなく、雷夢本人だった。
「なっ!?雷夢お前っ・・・。」
「ほぉ、あれを取ると言うのですか?」
「ああ、そうだ。」
雷夢は自信を込めて言い放った。
「何をバカなことを!いいでしょう、取れたら私は素直に帰りましょう。」
「言ったな?男子に二言なしだ!」
そう言って雷夢は100円を入れ、ゲームを始めた。
「(雷夢の野郎、いったいどうする気だ?)」
花梨がそう思っている間に、アームはカプセルに一番近いところまで迫っていた。雷夢がボタンを離し、アームを降下させた時だった。
「今だっ!!」
そう叫ぶと、雷夢は腰のホルスターから竹串を取り出し、取り出し口からゲーム内に投擲した。
「なっ!?いったい何を・・・。」
予想外の出来事に驚愕しているフルーレティを尻目に、雷夢の投擲した竹串はゲーム内を幾度となく反射し、そして。
カンッ!
反射の末、竹串はカプセルの後方に命中しそれを前方に押し転がした。当然その先にあるのは下降してくるアーム。
ガシッ。
アームは自分の方に転がってきたカプセルを簡単に掴み、取り出し口へ戻ってくる。
ガタンッ!
そして、取り出し口からカプセルが転がり落ちてくる。雷夢が取り出し、中身を見ると鍵が入っていた。
「や、やったぁ!!私達の勝ちです!」
「うおおっ!めっちゃキテるぜ雷夢〜!」
そう言われアテナとギューリットに抱きつかれた。
「ええい!貴様貴様貴様ぁ!明らかに今のは反則だろう、今のは取り消しだ!」
物凄い剣幕でフルーレティが罵ってきた。今までの紳士さが欠片もないほどだ。
「えっ、僕は反則なんてしてませんよ。」
「貴様よくもぬけぬけと!」
「だってあなたが言ったじゃないですか、『黒魔法はお互いに使わない』って。僕は黒魔法なんて使ってませんよ。ただ、竹串の反射角度を計算して投げただけなので黒魔法は使ってません。」
「く、くそう・・・。」
「さあ、フルーレティ!今すぐ魔界に帰りやがれ!」
「ぐっ・・・・。え、ええい!こうなれば力ずくでぇぇぇ!!!」
そう叫ぶや否や、フルーレティがこちらに突進してきていた。

Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の話〜 ( No.19 )
日時: 2012/12/19 23:12
名前: ノヴァ (ID: uY/SLz6f)


「来るぞ!雷夢、アテナ、気を付けろ!」
そう言われ、花梨も含めた4人は身構える。フルーレティは怒り狂いながらこっちに向かってくる。
「ハハハハッ!くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!」

プルルルルルル。プルルルルルル。

『!?』
今まさにフルーレティがこちらに飛びかかろうとした瞬間、鳴り響いた場違いな音にその場にいた一同は硬直した。恐らく携帯の着信音だろう。
誰の物かと雷夢が全員を見る。アテナは首を横に降る。花梨に目を向けると、同じ動作をした。
「わ、私じゃないぞ!」
ギューリットは雷夢が見る前に否定した。
「僕でもないよ・・。」
雷夢が否定した結果、他に考えられる人物は1人だけだった。
「わ、私のか!?」
フルーレティが懐に手を入れス魔ホを取り出すと、画面が点滅しているようだった。
「ええい、肝心な時に!はい、もしもし!・・・なんだ、スローネか。今いいところだ、話は後で・・・。」
そこまで言って、フルーレティが話すのを止める。
「な・・・っ!ロベ様が・・・くっ、仕方ない分かった!」
ス魔ホの画面をタップすると、フルーレティはこちらを向いた。
「ちっ、お前達!今回は私の負けだ、潔く帰ってやろう。」
「さっき全然潔くなかったよな。」
「だな。(ですね。)(うんうん。)」
「ええい、うるさい!」
雷夢とギューリット達がツッコミをいれると、フルーレティはくやしながらに反論した。
「ロベ様から呼び出しがかかってな、今回は諦めるが次は無いと思え!ルキウゲ・ルキウゲ・ムオベーレ!」
フルーレティが呪文を唱えると、瞬く間にその姿は消え失せていた。



「あ〜、今日はほんっっっっっとに疲れたな。」
「けどいい経験になりましたし、何より遊べて本当に楽しかったですよ!」
夕日が照らす住宅地の道路を、花梨と別れた雷夢達は歩いていた。今日は色々と大変な1日だったとつくづく思う。
「そういえば、あの星羅・・・でしたっけ?あの子の占い当たりましたね。」
「あ、確かに『二人とも ゲーセン行ったら 大波乱』って言ってたけど、言われてみれば確かに当たってるね。」
「ん、なんの話してんだ?」
「いや別に、ギューリット。」
「お、そうだ!さっきいい忘れてたな。」
「何を・・・・。あ、僕の魔力!フルーレティのせいで聞いてなかった。」
思い出せば、ギューリットがその事を話そうとしたときにフルーレティがやって来た為にその事を聞いてなかったのだった。
「お前の魔力は大体、黒魔法使い6級レベルだな。まだまだ駆け出しの魔法使いだな。」
「うーーん。ま、これから修行頑張ればいいかな。早くレベル上げてロベに対抗できるようにしないと。」
「そう、そのいきですよ雷夢さん!私も頑張って行きますからお互いに頑張りましょう!」
「よく言った二人とも!じゃあ、明日からキバっていくぜーー!」
『おおーーっ!』
夕焼け射す住宅街に、雷夢達三人の声は響くのだった。

第1話「過去の世界で大波乱!?」終
〜第2話に続く〜