二次創作小説(紙ほか)
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.178 )
- 日時: 2013/05/31 20:02
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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第7話「〜恋のバトルは天破狂乱!?〜」
穏やかな陽射しが射し込む昼休みの教室。11月4日という冬マッシグラーな時期のはずなのに、何故こんなに陽射しが暖かいのだろうか。あれか、地球温暖化か。
雷夢はそんなことを思いながら、手元のオカルト本を手に取った。その時、後ろから風が吹いてきた。微風クラスの風だが、PM2.5の影響で窓は全て閉ざされている。となると、この風の発生源、その真実はただひとつ。
「きゃあっ! エロスト、止めてください!」
「へっへっへ〜。アテナのパンツは真っ白け〜」
スカートを捲られ悲鳴をあげるアテナの後ろで、一人の男子が足を振っていた。
「大島 祐也」(おおしま ゆうや)。第2小サッカー部のエースストライカーで、サッカーの大会では右に出るものはほとんどいないと言われる男だ。しかしこの行為を見て分かる通り、強烈に変態なのだ。それ故付いたあだ名が「エロス」+「ストライカー」で「エロスト」なのだ。
あいつが何故足の素振りでスカート捲りができるのかというと、足にサンバイザーを改造した追加パーツを装備しているのだ。それで得た風でスカートを浮かせているらしい。
「うぇっへっへ。まだまだぁ!」
「ちょっ、まっ、らめぇぇ!」
エロストのスカート捲りは激しさを増す。しかし、そろそろ神もお怒りになるはずだ。いくら神の鉄槌が下らないとぬかしても、いつかはきっとそれが落ちるのだ。
「ワルイ男子、アリス、ユルサナイネ!」
その声と共に、宙に影が舞ったかと思うと、エロストの腹にドリルキックが撃ち込まれ、エロストは豪快に吹っ飛んだ。
「アリス・ファミリオン、イルカギリ、エロイ男子ハ、サカエナイネ!」
ご存じ、格闘娘のアリス・ファミリオン。以前雷夢と共に不良軍団を蹴散らした猛者でもある女の子だ。
「ありがとうございます、アリスさん!」
「アリス、エロイ男子、ユルセナカッタネ。アテナさんの、ヤクニ、タテテ、ヨカッタネ!」
「またあんた達、朝っぱらからばか騒ぎして……バッカじゃないの?」
教室の戸を開けて、ツンデレ女王麗奈が入ってきた。
「おはよ、麗奈」
「……おはよう」
「麗奈がくれたオカルト本、結構役にたってるよ。ありがとう!」
「役にたってるなら……よかったけど……。でも、あんたに感謝されても、全然嬉しくないんだからっ!!」
デレるだけデレて、麗奈は頬を紅く染めながらそっぽを向いてしまった。何か悪いことでも言っただろうか。
ガラララ……。
「はーい、席ついて〜。ホームルーム始めるよ〜」
清井先生の声が響き、クラスメイト全員が席についた。これから雷夢の1日が始まるのだ。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.179 )
- 日時: 2013/06/04 22:10
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「それでは、皆さんにお知らせがあります」
清井先生は出席を取り終えると、出席簿を置いて話始めた。
「今度の金曜日の遠足ですが、行き先は鷹井山に決定しました!」
『おぉーーっ』
何故みんなこれ程までに反応が薄いのだろうか。普通なら行く先が決まればそこそこの反応はあるはずだ。
「あのさ、麗奈。なんでみんな反応薄いの?」
雷夢はこっそりと小声で麗奈に話しかけた。
「はぁ……あんた何も知らないのね。鷹井山は頂上までの道程が長いうえに標高が高いから小学生にはキツいのよ。まぁ、頂上からの眺めが最高っていうメリットがあるけど」
「そうなんだ……ありがとう」
「別に……あんたなんて…………」
意外にもツンが無いデレで済んだ。
『ただいまぁ!』
……………………。
返事が無い。まぁ、ギューリットは仕事に出掛けているので当然と言えば当然のことだ。
「じゃ、取りあえず修行でもしてるか」
「ええ〜、アニメでも見ましょうよ〜。今日は私の好きなマギの再放送があるんですよぉ……」
「おおっ、それは我も見たかったのじゃ!」
「あれ、アテナとテトってアニメ好きだっけ?」
今まで一緒に暮らしてきたが、この二人がアニメに執着しているところなぞ見たことがない。
「いや〜、実は人間界のアニメは結構魔界や天界でも人気でして。こっちに来てからは毎日見てますよ」
「我も人間界のアニメが大好きでのぅ。本場で見れて幸せなのじゃ……」
そう言うと、アテナとテトは両手を顔に当ててうっとりし始めた。これが本当のオタクというやつか。
「それじゃ、僕は部屋に居るから。僕が好きそうなアニメになったら教えて」
「わかってますよ、雷夢〜さん」
「変なところで伸ばすな。マンムーみたいだろ」
「アテナ殿、そろそろ始まるのじゃ!」
いつの間に移動したのか、テトがリビングからアテナを呼んでいた。少し覗くと、すでにテーブルの上にはファンタグレープとコップがセットされていた。
「それでは、私たちはここで失礼します!」
そう言うとアテナはランドセルを投げ出すと、リビングへと駆けていった。
「あ、そう言えば手洗ってなかった」
雷夢はそう呟くと、洗面所へと向かっていった。
「さてと、んじゃ『エメラルド・タブレット』でも読むか」
雷夢は椅子に腰かけると、本棚から一冊の本を取り出した。これはギューリットがくれた魔の錬金術書で、「少しでもそれの碑文を読んで暗記しろ」とのことなので仕方なく読んでいるのだ。
本当は鋼の錬金術師やら蒼の祓魔師なんかを読みたいのだが、サボるとギューリットのお仕置きが怖いので止めておく。
ピンポーン、ピンポーン。
と、唐突に玄関のチャイムが鳴った。
「はーい、今出ます!」
雷夢は階段をかけ降りると、玄関のドアのロックを外しドアを開けた。
「久しぶりね、黒鳥雷夢」
そこには、かつて戦ったロベの手下、スキュラが笑顔で立っていた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.180 )
- 日時: 2013/06/07 22:01
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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「なっ、何しに来たスキュラ!?」
雷夢が空かさず竹串を構えると、スキュラは慌ててそれを制した。
「待って待って! 私がロベと手を切ったのは知ってるでしょ!?」
「あ、そういやそうだったな」
確かこいつは同じクラスで吸血鬼の雷夢の友人、ルイスに噛まれて魔力を全損失したのだった。それが原因でロベから戦力外通告という名のクビを宣告されたのだった。
「じゃ、何しに来たのさ。そんな学生服着て」
目の前にいるスキュラは、何故か冬服と思われるセーラー服を着ていたのだ。気になって仕方ない。
「ああ、取りあえずこの町に住むことにしたの。で、ここの中学校に編入したってわけ」
「ってことは、もしかしてここに来たのはその報告をするため?」
「そうよ。友達も出来たし、なんだか毎日が楽しいわ」
「じゃあ、家に上がって行きなよ。アテナとかにも話さないと」
しかし、スキュラは首を横に振って否定の意を示した。
「気持ちは有り難いけど、ちょっと友達を待たせてて……。これからイシダヤショッピングセンターのゲーセンに行く予定なの」
「綺羅ちゃん、早く早くぅ!」
スキュラが親指で示した先には、二人の女子中学生が手を振っていた。
「……綺羅?」
「私のこっちでの名前よ。『木浦 綺羅』(きうら きら)って名乗ってるわ」
「なるほど……。結構捩ってるね」
「これ以上待たせるのもなんだから、私は行くわ。あとの三人には教えといてね」
スキュラはサムズアップをすると、待っている友の所へ駆けていった……と思いきや。
「あ、そう言えば黒鳥雷夢。貴方確か小五だったわよね?」
「え、そうだけど……」
「ま、そろそろ恋の一つや二つあってもおかしくないから、赤い糸魔法を教えてあげる」
「赤い糸魔法?」
「そ、誰が誰に恋してるかが一発で分かる黒魔法よ。唱えれば恋している女の子の小指から赤い糸が見えるから、女の子が誰に惚れたかが分かるのよ」
「なんか覚えてても全然使わなそうな……」
実際恋をした事の無い雷夢にとって、恋の話は全くもって興味がない。しかし、実際ミカやテトは自分にキスをしたりしていたので、自分に惚れているのかもしれない。だが知ったところでどうすればいいのか雷夢には分からない。
「ま、いいから覚えときなさい。呪文は『ルキウゲ・ルキウゲ・アモミラーレ』よ」
「わかった、覚えとくよ」
「それじゃ、今度こそ行くわね」
そう言ってスキュラは今度こそ駆けていった。
「と、いうわけ」
雷夢は先程のスキュラとの会話の事をアテナとテトに話した。
「へぇー、あの女そんな生活を……なるほど、そうですか」
「まぁ、元気でいるようじゃし、結果オーライじゃのぅ!」
唯一結果オーライとはいかない顔のアテナだが、渋々結果オーライとしてくれた。まぁ、壺に虫と共々ぶちこまれたり人質にされたりしたので、喜べない気持ちはよく分かる。
と、雷夢はここでふと思った事があった。
「あ、そう言えばリュックサック……人数分あったっけ?」
そう、リュックサック。今度の金曜の遠足で必要なのに、家に人数分のリュックサックがなかったような気がしたのだ。
アテナとテトは雷夢のはの質問を聞いて少しばかり顔が凍りついた。
「確かに……。前に持っていったような持っていってなかったような……」
「我、ちょっと物置を見てくるのじゃ!」
そう言ってテトは二階へとかけ上がっていった。物置は二階への階段を上がってすぐの所にあるうえ、中に入っている物は少ないから確認は容易だ。
案の定テトはとぼとぼ歩いて戻ってきた。
「やっぱり1つしかなかったのじゃ……」
「仕方ない、ギューリットに買ってきてもらおう!」
自分で買いに行かずに他人に頼る。所詮、クズはクズなのだ。
自分でも意味不明な事を思いながら、雷夢はス魔ホの電話帳を開いた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.181 )
- 日時: 2013/06/13 22:11
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「ただいま〜」
電話を掛けて数十分。ようやくギューリットが仕事を終えて帰ってきた。
「お前ら、リュックサックはこれで良かったか?」
そう言うとギューリットは、背中に背負った三つのリュックサックを床に降ろした。色はシンプルな赤、白、青の三色。それぞれ所々に黒い生地が顔を覗かせている。
「ありがとう、ギューリット! えっと、じゃあ……これで」
「それなら私はこれです!」
「となると我がこれじゃのぅ」
このような感じで選んだ結果、雷夢は白、アテナが赤。そしてテトが消去法で青になった。テトには悪い気がしたが、テトは笑顔でそれを背負ってみたりしているので特に心配は無さそうだ。
「あ、それとこれも持ってけ」
そう言ってギューリットが取り出したのは、きれいに巻かれたビニール質の物体だった。
「……なにそれ?」
「なにって寝袋に決まってるだろ」
「なんで寝袋が必要なのさ。キャンプに行くんじゃないんだから必要ないでしょ」
するとギューリットは急にきょとんとした顔になった。
「え、お前らキャンプに行くんじゃないのか?」
『遠足だよっ(ですよっ)(なのじゃっ)!!』
雷夢達はギューリットに三人同時にカウンターを食らわせた。こんなことをやったのはいつぶりだろうか。いや、そうじゃない。
「まぁ、別に今回使わずにいずれキャンプに行った時まで倉庫にしまっておけばいいか」
「何言ってんだ雷夢。備えあれば憂いなしだ、持ってけ」
「いや、さすがに荷物になるから……」
「大きさも重さも自由自在、しかも余計なリュック内のスペースを奪わないらしいぞ」
「寝袋要らないよ」
「持ってけ」
「いや、だから……」
「持ってけ」
「ちょっ……」
「持ってけ」
「…………わかったよ」
とうとう雷夢は折れた。ここまで言い寄られると折れざるをえない。逆に言えばよく自分はここまで耐えられたものだ。さすが自分、誉めてやりたい。
「じゃあ取り合えず持っていくけどさ、その代わり弁当はちゃんと作ってよ」
「わかってるよ、まったく……。アテナとテトの分もちゃんと作るから、金曜日は楽しみにしとけよ!」
「おおっ、楽しみです!」
「豚肉のしょうが焼きを所望するのじゃ!」
「じゃあ僕はトマト以外ならなんでも」
「オッケーオッケー、久しぶりに腕がなるぜ! それじゃ、まずは今日の晩飯から作るか!」
そんなふうに意気込むと、ギューリットはキッチンへと姿を消した。
「じゃあ、またアニメの続きを見ようかのぅ」
「確か次はアクセルワールドでしたね、楽しみです!」
それに続くように、アテナとテトはリビングに消えていった。当然雷夢はエメラルド・タブレットの続きを読むため、自室へと足を運ばせた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.182 )
- 日時: 2013/07/04 20:06
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
ザァーーーーッ!!
遠足を翌日に控えた木曜日。この日は生憎の雨だった。しかも土砂降りである。
「すごい雨ですね……。明日は大丈夫でしょうか?」
土砂降りの外が映る窓をアテナは寂しげな顔で眺めていた。
「多分大丈夫だよ。明日は晴れるって天気予報でも言ってたし」
「そうじゃそうじゃ! 今くよくよしても仕方が無かろう。明日晴れになるのを祈るのじゃ!」
その言葉を聞いたとたん、アテナの顔が明るくなった。
「ですよね! よし、今日帰ったらてるてる坊主を作ります!」
「ならば我も手伝うのじゃ!」
雷夢はそんな二人を見ていると、なぜか心が安らいでいく感覚があった。この二人を見ているだけで、心が風に溶けていきそうな感じだ。
しかしその安らぎはアテナの背後を見た瞬間消え失せた。
「ふっ、今はアリスはいない……。ならばいつ捲るんだ? 今だろ……!」
アテナの背後には、足にスカート捲り専用パーツを装着したエロストが構えていた。既に腰を屈め、いつ足を振り上げてもおかしくない。しかも今アリスは野暮用で不在なのだ。
しかし、こんな時にも戦士はいるものだ。
「アーアアーッ!!」
ドゴォッ!!
「いーんふぃにてぃーーっ!!?」
突然誰かの蹴りを喰らい、エロストは目測五メートルは吹っ飛んだ。背後で起こった出来事に気付き、アテナが後ろを向いた。
「おう、アテナ! またお前エロストの標的にされてたぞ!」
エロストを吹っ飛ばしたこの男気溢れる少女の名は「菜葉 春音」(さいば はるね)。かなり野性的な少女で、一家総出で年中サバイバル生活を営んでいるらしい。それ故身体能力はかなり高く、垂直跳び2m(床から指先ではなく、床から足の底まで)、50走6.9秒、シャトルランを往復100回という超人さだ。しかしミカ曰く、料理は大胆かつワイルドな物しか作れないらしい。
「ありがとうございます、春音さん!」
「いいってことよ! 俺もターザンキックの練習が出来たからな」
「ターザンキック? あ、あのロープか」
見ると天井から一本のロープが垂れ下がっている。恐らくあれでつけた勢いでエロストを蹴り飛ばしたのだろう。
「うぐっ……!」
と、苦し紛れの表情でエロストが立ち上がった。
「くそっ、春音が居たのを忘れていた! これでは一日一回は女子のパンツを見るという俺の信条が果たせない!」
なんということを信条にしているのだこいつは。
「俺のスカート捲りライフはまだ始まったばかりだ!」
そろそろ雷夢もプッツンしてしまいそうだ。電磁砲を使う少女にジャッジメントしてもらえないだろうか。
「はい、席ついて〜!」
いつものように清井先生が入ってきた。今日一日何も起こらなければよいが。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.183 )
- 日時: 2013/06/20 18:25
- 名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「まだ雨か……」
雷夢は放課後の通学路を、アテナとテトと帰りながらそんなことを呟いた。
今日一日、雷夢の願いが通じたのか本当に何もなかったのだ。しかし相変わらず天気は土砂降りだったが、まぁ何もなかっただけ良しとしよう。しかし傘を指していても身体が濡れるのはどうにかならないものか。
「雷夢さん、ちょっとイシダヤショッピングセンターに寄って行きませんか?」
「イシダヤショッピングセンター? 何しに行くんだよ」
「ちょっとてるてる坊主の材料を買いに行こうと思って」
そういえば、朝、アテナとテトは明日の為にてるてる坊主を作るとか言っていたのを思い出した。
「てるてる坊主なら適当な紙で丸めた紙を包めばいいじゃん。あとはそれに顔書いて吊るせばいい話だし」
すると、アテナとテトが急に顰めっ面になって雷夢に迫った。
「雷夢さん! てるてる坊主はちゃんと作ってあげないと後が怖いんですよ!」
「例えば折角作ったのに当日が雨で、怒ってそのてるてる坊主を叩きつけようとしたら目から血が流れたりしたんじゃぞ!」
「どこの怪談話だよ! 怖いわ!」
雷夢はオカルトは好きだが、怪談物には滅法弱いのだ。
「だから、てるてる坊主と言えども丹精込めて作ってあげないといけないんですよ!」
「そうなのか……。ごめんな、適当なこと言っちゃって」
「いいのじゃ、雷夢殿が分かってくれればそれでよい」
「あ、でも僕は一緒には行けないぞ。黒魔法ドリルやらないといけないから」
実は最近やっていない黒魔法ドリルが溜まりに溜まっているのだ。このままでは雷夢が劇場版でへこたれたサイヤ人の王子見たいになってしまうので、少しでも片付けていこうと思ったこの頃であった。
「そうですか……。ならテトと二人で行ってきますね!」
そう言うと、アテナとテトは土砂降りの中を駆けていった。あとには雷夢一人だけが残った。
「じゃ、僕も帰るか」
そう言って雷夢が歩き出した時だった。
「……あんたもこっちだったのね」
突然後ろから聞き覚えのある声で呼び止められたのだ。後ろを振り向くと、案の定、麗奈が傘を指してこちらを見ていた。
「あ、麗奈もこっちだったんだ」
「別に。ちょっとこっち方向に用があっただけ。あんたと一緒に帰ろうとなんて思って無いから」
「そっか。なら途中まで一緒に行かない? 一人じゃ心細くってさ」
「……別に構わないけど」
麗奈は渋々といった表情で雷夢の誘いに答えた。
「じゃ、早速行こうか」
「勘違いしないでよ! 別にあんたとなんてってきゃあっ!?」
すると突然、土砂降りに似合わない突風が吹き、麗奈の傘を吹き飛ばしたのだ。
「あっ……傘が!」
麗奈は傘に向かって手を伸ばしたが、既に傘は空の彼方に飛ばされてしまっていた。
「麗奈、早く入って!」
雷夢は反射的に麗奈を自分の傘に入れた。しばらく麗奈は、状況が読み込めていないようだったが、すぐに顔が朱色に染まった。
「ちょっと、なにしてんのよ!?」
「傘に入らないと風邪引くだろ。家まで送るから、案内してくれる?」
「うっ、わかったわよ……。そこの角を右に曲がってくれる?」
「わかった、右だね」
雷夢はその後も麗奈の指示に従って歩いていたが、一向に麗奈の家に着く気配がない。しかも何やら同じ場所をぐるぐる回っている感覚さえ感じる。一体、どうしたというんだ。
「……もっちょっとだけ、このままでいたい……」
脇で何やら麗奈が何かを呟いた気がしたが、すぐに次の指示が入ったので雷夢はその先を考えることが出来なかった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.184 )
- 日時: 2013/06/20 06:02
- 名前: ソラ ◆Xk2Y3a6f4k (ID: O35iT4Hf)
麗奈ちゃんデレたww
ツンデレってかわいいですよね
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.185 )
- 日時: 2013/06/20 20:56
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
ソラさんお久し振りです!
確かにツンデレっていいですよね!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっ、ここが麗奈の家?」
麗奈にあちこち周らされながら、ようやく雷夢は麗奈の家に到着した。表札にも「津出」と確かに記されていることから、間違いは無さそうだ。
「ここよ。ありがと、送ってくれて」
「別にいいよ、お礼なんて。それと、ちゃんとすぐに風呂に入った方がいいよ。風邪引いたら明日の遠足楽しめなくなっちゃうからさ」
「要らない気遣いありがとう」
そう言うと麗奈はぷいとそっぽを向いてしまった。
「……でも、そんな所に惹かれたんだけどね」
「えっ、なんか言った?」
「別に何でもないわよ!」
そう言ってずかずか歩いていくと、麗奈は玄関のドアを荒っぽく閉じた。
「ふぅ……」
麗奈は風呂の湯船に浸かって一息ついた。しかし、あいつ……黒鳥雷夢と別れてから、胸の動悸が止まらないのだ。
だが麗奈はこの動悸の理由のことなど既に分かっていた。
「やっぱり、あいつのこと……好きになっちゃったんだなぁ……」
どうしても彼のことを考えると、こう、胸が熱くなってしまう。そう、それはあの時。彼が転校してきて、自分の席の隣に座ってすぐ。即座に怒ってしまったあの時からなのだ。実際それに気付いたのは、知らないうちに彼の為にオカルト本を買って、プレゼントしたときにその気持ちに気づいたのだ。
しかし、このままではこの熱さで自分がどうにかしてしまいそうだ。どうすれば、この熱さから解放されるのだろうか。
そして、しばらく考えた結果。麗奈は一つの答えにたどり着いた。
「……決めた。明日、あいつに告白してやるんだからっ! どんなシチュエーションでも、絶対!!」
そう高らかに宣言した麗奈は、早速明日の計画を練りに風呂を後にした。
「っていうことがあったんだけどさ」
ただいま黒鳥家一同は晩飯の真っ最中。雷夢はアテナ達と別れてからの経緯を説明していた。
「なるほどなぁ……。恋愛ゲーだったら、そこから恋に発展していくフラグになるんだけどな」
「恋愛ゲーと一緒にしないでよ、こちとら恋愛経験ないんだから」
「まぁ、恋愛を経験すれば青春スイッチオンですから、一回くらい経験した方がいいですよ」
「じゃあ、アテナは恋愛経験あるのかよ」
「………………」
「………………」
「……ないですけど」
「やっぱ無いんじゃないか」
一体こいつは何を理由に先程の言葉を放ったのだろうか。
「じゃあ、テトはどうなの?」
すると、テトは急に頭を伏せて黙りこくった。
「どうした、テト?」
「……まぁ、無いことは無いのじゃ」
「へぇ、誰に恋したんですか? 教えてくださいゃんくっく!?」
「あまり聞くなよ。そう言うのはプライバシーに関わるだろ」
アテナの眉間に水平チョップを食らわせると、アテナは眉間を押さえながらテトに首で謝罪の意を示した。
「じゃあ、我は風呂に入るからおいとまするのぅ」
そう言うと、テトはダイニングを後にした。
「やっぱり、雷夢殿は優しいのぅ……。それでこそ我の殿方にふさわしいのじゃ」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.186 )
- 日時: 2013/06/21 17:34
- 名前: Dr.クロ ◆m1RYkHhkGM (ID: /PtQL6mp)
- プロフ: http://www.pixiv.net/member.php?id
バトスピの方をお願いします
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.187 )
- 日時: 2013/07/04 13:47
- 名前: 雪だるま (ID: XiCwuimA)
もう辞めちゃったんですか?
ぜひ続き書いてほしいです!!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.188 )
- 日時: 2013/07/04 14:44
- 名前: ノヴァ (ID: uY/SLz6f)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
雪だるま様
すいません、期末テスト期間で書くのを止めていただけで、辞めた訳ではありません。
本日無事終了したので、更新を再開しようと思います。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.189 )
- 日時: 2013/07/04 15:49
- 名前: ノヴァ (ID: uY/SLz6f)
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「そうだ、天気予報天気予報。明日の天気を調べませんと」
そう言ってアテナはリモコンを手に取ってテレビの電源を入れた。そうしてチャンネルをNHKに変えると、調度天気予報が始まるところだった。
「明日は大丈夫ですかね……?」
「今日の朝だと晴れって言ってたけど、どうだろ?」
雷夢とアテナが真剣な表情で画面を見つめると、程なく解説が始まった。
『明日の東京は、広い範囲で大雨が一日中降る予報です』
「燃え尽きてしまいました……雷夢さん……」
「勝手に燃え尽きんな。てか反応が早いわ」
明日は大雨という予報を聞いた途端、アテナは元々白がイメージカラーの身体を更に白くして意気消沈していた。なぜだか満身創痍のボクサーを容易に想像させた。
「ああ、神様……。明日の天気を晴れにしてくれるなら、私は天界を飛ぶことだってカリブ海の水を飲み干すことだって出来るのに!」
「お前元々空飛べるだろ」
間髪入れずに突っ込んでやると、アテナはナイアガラのような勢いと量の涙を流し始めた。
「えぐっ……えぐっ……どうしましょう雷夢さん……」
「いや、僕に聞かれても……。ねぇギューリッt」
「天気を晴れにする魔法ならあるぞ」
「なんで質問内容話す前に答えられるんだよ」
もしやギューリットはエスパーなのだろうか。いや、黒魔女だ。
しかしそれはともかく。
「明日の天気を晴れに出来るんですか!?」
すぐさまアテナがギューリットの方に身体を乗り出して質問した。
「ああ。今使えば明後日の朝まではばっちり晴れるはずだぜ!」
「なら今すぐお願いします」
見ると、いつの間にかアテナはギューリットの前に移動して土下座していた。一体いつ移動したのだろうかこいつは。
「よっしゃ任せとけ!」
どんと胸を叩いたギューリットは、そう言うと呪文を唱え始めた。
「ルキウゲ・ルキウゲ・ベルテンポラーレ! よし、外見てみろ」
「まさかもう晴れたの?」
怪しみながら雷夢がカーテンを開けると、月明かりが辺り一面を照らす程に雲が消え去っていた。
「マジだ」
「ま、無理して晴れさせた反動で、土日は多分雨がずっと続くだろうな。取りあえずはこれで一安心だ」
「それでもいいです! ありがとうございます!」
アテナは土下座の状態で何回も頭を床に打ち付ける。その勢いといったら、床に小さなへこみが出来るほどだ。どれだけ嬉しいのかが簡単に見てとれる。
「これで明日の遠足はハッピーエンドですね!」
「お前はまず、おでこの深紅の噴水をどうにかしろ」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.190 )
- 日時: 2013/07/04 18:06
- 名前: ゆきだるま (ID: XiCwuimA)
ありがとうございます。ノヴァ様
先程は雪だるまでしたがそれは間違って変換したものです
なので、ここのゆきだるまは、さっきの雪だるまと
同一人物です。
私も黒魔女さんの小説書き始めましたので
駄作ですが読んでいただけると幸いです
この先もこの小説を読んでいきます
がんばってください
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.191 )
- 日時: 2013/07/05 21:42
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「ふぅ、今上がったのじゃ……ってどうしたのじゃアテナ殿!?」
リビングに入ってきた風呂上がりのテトは、アテナを見て「どうしてこうなった」的な顔で驚いた。それもそのはず。アテナの額には大きな絆創膏が二つ、バツ印に貼られているのだ。
「あっ、実はさっきあんたらこうたらうんたらかんたらで」
アテナが言っているのは、先程ギューリットへのお礼の時の事だ。その際、床に頭を連打したせいで額から血が吹き出した為、雷夢が手当てしてあげたのだ。
どうでもいいがあの絆創膏を外したら第三の眼が出来ていないか心配だ。
「あ、そういえば何故かさっきまで降っていた雨が急に止んだ要なのじゃが……」
「ああ、それはギューリットさんのおかげですよ。黒魔法で天気を晴れにしてくれたんです!」
「なにっ、それは本当かギューリット殿!?」
「ほんとにほんとだぜ! 黒魔女初段の私に出来ないことがあると思うか?」
「えっと、自信過剰なところを他人にばらまかないこと、地球に降下している巨大隕石を一人で押し返す、宇宙コロニーを両断する」
「もういい、止めてくれ」
ちょっと明らかに無理な事を雷夢が列挙していくと、ギューリットは机に突っ伏して痙攣し始めた。余程プライドのような物が傷付いたのだろうか。
「そういえば魔界で聞いた話じゃと、鷹井山にはちょっとした伝説があるらしいのじゃ」
『……伝説?』
突然のテトの発言に、雷夢とアテナは同時にテトに聞き返した。
「うむ。その昔、とある黒魔法使いが人間界のある場所で手に入れた、魔法のランプが封印されてあるという話じゃ」
「魔法の……ランプ?」
その単語を聞いて、まず知らない人はいないだろう。それは千夜一夜物語、通称アラビアンナイトという物語の中のある一話に登場するアイテムだ。それによると、その中にはランプの魔神なる者が封印されていて、ランプの持ち主がランプを擦ると出現し、願いを三つまでなら叶えてくれるという物だ。雷夢的には、ハイテンションな青い身体の魔神が出てきてほしい。
「魔法のランプって実際にあるものなの?」
「いや、私はそんなのは聞いたことないぜ」
「私も無いですね」
ギューリットもアテナも知らないようで、二人とも首を横に振った。
「まぁ、二人が知らないのも無理はなかろう。なにせこの話は、今から数千年も前の話だそうじゃし」
確かに、それほど昔の話ならほんの産まれてから10数年のアテナやギューリットが知らないはずだ。もっとも、誰か他人から教えてもらえば別だが。
「ところでそのランプって見つかってるの?」
「それが、見つけるのはおろかそれが封印されていそうな場所すら見つかっておらぬのじゃ。そんな事から、今では単なる伝説になっておるがのぅ」
「そうなんですか……。残念です」
アテナはそれを聞いて、がっくりと肩を落とし溜め息をついた。
「よし、この話は置いといて明日の準備しとけ! そして早く寝る! わかったか?」
『アラホラサッサー!!!』
そんな掛け声をあげると、早速雷夢達は明日の準備に取り掛かった。
明日は何もなければいいのだが。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.192 )
- 日時: 2013/07/10 22:32
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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トントントントン……。
ダイニングから響く包丁の音とテレビをBGMに、雷夢達三人はリビングで寛いでいた。時刻は7時30分。そろそろ学校へ向かわないと行けない時間帯だ。それなのに、肝心の弁当が未だに出来ないのだ。
天気の方はギューリットのおかげで朝から陽射しが輝くほどの快晴だ。昨日の天気予報は大いに叩かれることだろうが、この際眼を瞑ろう。
『弁当マダー?』
「待ってろ、今フルスピードで作ってっから!」
先程からこのようなやり取りを繰り返してばかりで、時間ばかりが過ぎていくのだった。
そして、時計の長針が35分を指そうとしたとき。
「おっし、弁当完成!!」
そんな声と共にギューリットがダイニングから出てきた。もちろん3つの弁当箱も一緒だ。
「よしアテナ、準備はいいか?」
「もちろんです!」
「テト、そっちはどうだ?」
「無論、準備万端なのじゃ!」
「よし、それじゃ……」
『行ってきまーす!!!』
雷夢達三人は大急ぎでリビングを出ると、玄関のドアを思いっきり開けて飛び出した。
そのまま後ろも振り向かず、無我夢中で走り続けること数分、雷夢達は遅刻することなく教室にたどり着いた。しかしそれでもクラスの中では遅い方だったらしく、すでに他のメンバーは全員揃っていた。
「遅いよライム。もうみんな集まってるよ!」
見るとミカが自分の席から手を振っていた。
「ごめんごめん。ギューリットが弁当作るのに時間かけちゃって……」
「そうだったんだ。そろそろ先生から説明あるから、早く座った方がいいよ」
「え、そうなの? 教えてくれてありがとう」
「雷夢殿、急ぐのじゃ! 先生がそこまできておる!」
テトに急かされながら雷夢とアテナが着席すると、タイミング良く清井先生が入ってきた。
「はーい、みんな席着いてるね! それでは早速、今日の日程を説明しまーす!」
そう言うと清井先生はクラス全員にプリントを配り始めた。
<第二小全校遠足日程>
09:00・学校出発
09:15・鷹井山麓行きの電車に乗車
10:00・鷹井山到着後、登山開始
11:00・途中の休憩所にて休憩
11:15・登山再開
11:45・頂上公園着、以後13:30まで昼食を兼ねた自由行動
13:30・下山開始
16:15・学校着、各自下校
「ハードなんだかハードじゃ無いんだか……」
麗奈が言った通り、小学生にはかなりキツいスケジュールかもしれない。頼みの綱は鷹井山の頂上からの景色だけだ。
と、不意に雷夢は隣の席の麗奈の方に眼が向いた。
「……やっぱりこのシチュエーションだったらこの手で……このシチュエーションなら…………」
何やら麗奈は手元のメモ帳を見ながら呟いている。何が書いてあるのかはこちらからは隠れて見えなかったが、よほど大事な事でも書いてあるのかかなりガン見している。
「はーい、それではみんな準備して! 校庭に並ぶよ!」
清井先生の号令が掛かり、雷夢は麗奈のメモ帳の中身を見るのを諦め、リュックを抱えて校庭に向かった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.193 )
- 日時: 2013/07/13 22:16
- 名前: ノヴァ (ID: 8uCE87u6)
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ガタンガタン……ガタンガタン……。
ほとんど狂うことなく揺れる電車の揺れ。これが何とも気持ち良くてたまらない。下手すればこのまま眠りに落ちてしまいそうだ。
雷夢は本能の赴くままに瞳のシャッターを閉じ。
「ほいっ!」
ぽかっ。
「あうん!?」
れなかった。
突然誰かに顔面チョップを食らい、雷夢は意識を現実に戻した。見るとテトが目の前で真っ直ぐに伸ばした手を構えて立っている。どうやら犯人はこいつらしかった。
「雷夢殿、もっちょっとで着くのに寝るとは何事じゃ!」
「いや、こんなぽかぽか陽気に電車に揺られたらさすがに眠くなるよ」
「まぁ、そうじゃが……。居眠りしてたら水中型ロボットしかいない町に着いてることだってあるかもしれぬぞ!」
「無いだろそんな町」
一体今度はどこからネタを仕入れていたのかが気になる今日この頃だった。
と、何故か急に左肩が重くなった。何事かと左を向いた瞬間、雷夢の身体が硬直する。
「すー……すー……すー……」
そこには規則正しい寝息をたて、雷夢の肩に寄りかかっている麗奈がいた。
「な…………っ!?」
その瞬間、雷夢の血液が全身の余すところなく循環した。それに比例し体温も急上昇していく。
このままにしておくと、まだ男が出来ていない雷夢にとって非常にうらやまけしからん事になるので仕方なく起こすことにした。
「麗奈? そろそろ着くよ」
「うっ……うーん…………」
声をかけながら肩を揺すってやると、寝ぼけ眼を擦りながら麗奈が目覚めた。
「えっ、なななんであんた私を自分の肩で寝せてるのよっ!?」
瞬間、麗奈は頬をトマトよりも朱に染めながら雷夢を見つめる。その姿は心なしか喜んでいるようにも怒っているようにも見える。
「いや、そっちが勝手に……」
「せ、せせ責任取りなさいよ!」
麗奈はかなり動揺しているらしく、会話の所々がどもっている。
「じゃあ……昼の弁当分けてあげるよ。それでどう?」
「……わかったわ。けどその時にもう一つだけ条件を出すから、それで勘弁してあげる」
「条件?」
「その時まで秘密に決まってるじゃない! まったく……」
そう言うと麗奈は顔を伏せて黙りこんでしまった。相当怒っているのか、頬が少し膨らみ朱に染まっている。そんなに怒らせてしまったのだろうか。
『間もなく、鷹井山。鷹井山です。お降りになるお客様は、お忘れ物の無いように、お願いします』
不意に電車のアナウンスが響き、同車のクラスメイトが皆出発の準備を始める。どうやらもうすぐ着くようだ。
そんな事を考えるうちに、生徒全員下車完了。
先に6年生が改札を抜けて、登山道へと入っていく。同然その後に5年1組も続く。
さぁ、登山タイムだ。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.194 )
- 日時: 2013/07/16 21:03
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
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しかし意気揚々と登り始めたはいいが、スタート直後から大きな石だらけの道を進むはめになった。不安定で歩きづらいうえに石が足に食い込んでくる。普通の運動靴だから尚更だ。
他の生徒はある程度並びながら、頼音とアテナのように会話を交わしながら歩いたりする人、亮のように一人黙々と歩を進める人など、それぞれ思い思いのペースで進んでいる。
その中で雷夢は、慣れない道に苦戦しながら5年1組の後方を歩いていた。
「お、思ったよりキツい……。テト、大丈夫か?」
「はっはっはっ! 雑魚の石がいくら密集したとて、この我を止める事はできぬっ!」
「あっ、テトさん! 順番をちゃんと守って……」
未來の制止も空しく、テトは金色のオーラのような物を発しながら驚くほど軽やかな足取りで先に進んで行ってしまった。
「まったく、あいつときたら……。どうなっても知らないぞ」
このようなシチュエーションで勝手にはしゃいで単独行動をとると、大概の場合どこかで怪我をするのがオチではないだろうか。漫画やアニメのお決まり故に心配だ。
ドスン!
「いったぁ……!」
ほらやっぱり……ではない。今の声はどう考えても後ろから聞こえてきたのに
間違いはない。雷夢が振り向くと、そこには尻餅をついて倒れている麗奈がいた。
「大丈夫、麗奈!?」
「平気よ、このくらい。さっさと行きま……いたっ!」
泥だらけの手で立ち上がった麗奈は、突然左腕を押さえた。見ると指と指の間から、ほんの僅かだが血が流れている。恐らく先程転倒した時に、石のどこかで切ってしまったのだろう。
「怪我してんじゃないか! ちょっと待ってて!」
「いいわよ別に! このくらい嘗めれば……」
「そういう訳にもいかないじゃん……あ、あったあった」
雷夢はリュックをまさぐり絆創膏と水筒を取り出すと、水筒の口を開けた。
「はい、腕出して。傷口洗わないと」
「いや、大丈夫よこのくらい……」
「だめ! 破傷風にでもなったら大惨事だよ。ほら、早く」
「……わかったわよ」
そう言うと麗奈はしぶしぶ腕を出した。思ったより深く切れているらしく、あまり水で流すと血が固まりにくくなりそうだ。
「少し痛いかも知れないけど、勘弁してね」
トプトプトプトプ……。
「ーーーーーーっ!?」
雷夢が傷口に水をかけたとたん、麗奈は痛みのせいか声にならない悲鳴をあげて苦悶の表情を見せた。
麗奈の事を考え手早く傷口を流し終えると、雷夢は絆創膏を傷口に貼り付けた。
「これでよし。それじゃ、僕は先に行くよ」
「あっ、待って!」
再び歩き出そうとした雷夢を、麗奈は呼び止めた。一瞬、不意を突かれたような表情を見せる雷夢に、麗奈は一つの質問を投げ掛けた。
「どうして、私をこんなに気遣ってくれるの?」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.195 )
- 日時: 2013/07/17 16:39
- 名前: Dr.クロ ◆m1RYkHhkGM (ID: /PtQL6mp)
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そろそろ、バトスピの方もお願いします
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.196 )
- 日時: 2013/07/22 20:34
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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その麗奈の質問に、雷夢は少し驚いた表情を見せた。どうしてと言われても、自分には「困っている人は放っておけない」などという、ごくありきたりな答えしか思い浮かばない。
「ねぇ、答えてよっ!!」
答えの詮索に戸惑い黙りこくっている雷夢を、麗奈は思いの丈をぶちまけるように問い詰めた。見ると、その眼は微かに潤んでいる。
と、その時、雷夢の脳内に一つの答えが稲妻のように迸った。
「……だって、麗奈も僕と同じくらい、僕を気に掛けてくれるから」
「……………………え?」
雷夢の予想外の発言に、麗奈は呆気にとられた表情になる。
「麗奈だって、いつも僕の事を気に掛けてくれるよね。それに、最初に気に掛けて来てくれたのは麗奈の方が先だよ」
「えっ……私?」
「これだよ、これ」
そう言うと、雷夢はリュックから一冊の本を取り出した。その本を見たとたん、麗奈の視線がそれに全て注がれる。
「これ、私があげたオカルト本……」
「こんなに読み応えのある本をくれたからには、お礼の一つや二つくらいしないと、僕の気が済まないんだよ。だからそっちが気に掛けてくれた分、僕も麗奈の事を気にかける。それでギブアンドテイクでしょ?」
雷夢は本をリュックにしまうと、再び麗奈に向き合った。
「……ははっ、確かに。事のきっかけは私ってわけね、あははっ!」
麗奈は雷夢を見るやいなや、満面の笑みで笑い始めた。ここまで笑顔の麗奈は初めて見る。
「それじゃ、早く行かないと。クラスのみんなに置いて行かれるよ」
「わかったわ。なるべく私が転ばないスピードでね」
そのまま雷夢と麗奈は急ピッチで歩を進めると、どうにか5年1組に合流することができた。勝手に列を離れないようにと清井先生から注意されただけで大したお咎めは無かった。
「あっ、雷夢殿! こっちじゃこっち!」
雷夢達5年1組一行が休憩所にたどり着くと、先程スピードを上げて消え去ったテトがこちらに手を振っていた。
「まったく、お前ときたら……。少しは周りを考えろよ」
「まぁ、そんな固いことは言わずに。お詫びと行ってはなんじゃが、あっちで写真撮影にぴったりの場所を見つけたから、皆で写真を撮らぬか?」
「あ、それはいいですね! じゃあ未來さん達も一緒にどうですか?」
「お誘いありがとうございます。では穂香さん、カメラ係をお願いしますね」
「お嬢様の望みとあらば何なりと」
するとその瞬間、すでに穂香の手にはデジタルカメラが握られていた。相変わらず用意周到すぎる。それとやはり穂香はメイド服で、そのせいか道行く観光客が確実に一度は穂香に視線を向けるのが確認できた。
「ねぇ、穂香。流石に遠足の時くらい私服で来たら?」
「そ、そう言われましてもこれが私の正装ですし……。寝間着以外に他の服なんて……」
「あら、それだったら私の服をいつでもお貸ししたのに」
「よし、話脱線するからその話はこの辺で。他には……」
「あ、黒鳥。写真撮るなら混ぜてくれないか?」
そう声を掛けられ雷夢が後ろを振り向くと、大勢の生徒の中から亮が駆けてきた。こんな時でもタブレット端末をいじるところは、流石は亮と言える。
その後、ルイスや頼音、花梨と麗奈も集まり、総勢10人で写真を撮ることになった。
「それでは、絶好の撮影場所に案内するのじゃ!」
そんな得意気なテトの案内で雷夢達がたどり着いたのは、休憩所の端の方に位置する展望台のような場所だった。展望台といっても、転落防止の柵が作られている以外、特に工事がされた様子はなく、自然にできた高台をそのまま展望台にした感じだ。
柵から先の方に眼をやると、なんとも言えない絶景が広がっていた。辺り一面を覆う緑の山々に、遥か遠くに見える町が絶妙にマッチし、言葉に言い表せない。よく見ると近くに湖のようなものも見える。
「それでは、皆さん並んでください」
見ると穂香がすでにカメラを構えていた。それを見て慌てて全員が並ぶ。
「……隣、いい?」
と、麗奈が恥ずかしそうな表情で雷夢の腕を掴んだ。
「別にいいよ。ほら、早く!」
「……ありがと」
「はい、それでは写真を撮ります……笑ってください」
ビキ……ッ!
「ん? なんだ今の音?」
「ほら、早く前向きなさいよ!」
麗奈に肘で叩かれ、雷夢は再び前を向く。他の皆には聞こえなかったらしく、特に変わった様子を見せない。
「はい、撮りま…………っ!」
ビキビキビキッ!!
また先程と同じ音が辺りに響く。今度は皆にも聞こえたらしく、全員何事かと辺りを見回す。
「……あっ!? 雷夢くん、麗奈ちゃ……!」
バゴォォォォォォン……ッ!!
突如一際大きい音が響き、頼音の声を掻き消した。
それと同時に感じる浮遊する感覚。そして一瞬で辺りが暗くなる。
その瞬間雷夢は本能的に察した。
自分達は穴を落ちている。
『わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??』
少し遅れて叫び声を挙げながら、麗奈とテト、そして雷夢は暗い穴へと落ちていった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.197 )
- 日時: 2013/07/19 22:50
- 名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
ポチャン…………ポチャン…………。
「いてて……。どこだよここ?」
あちこちが痛む身体に鞭打ちながら雷夢は上半身を起こして座った。あれからどうなったのだろうか。突然地面に穴が開き、そこに麗奈とテトと共に落ちていったところまでは覚えている。そこから先、どうなったのかは雷夢には分からない。
取り合えず状況確認の為、周りを見回してみたが、どうやら何処かの洞窟の中のようで、所々で地下水のような雫が滴り落ちている。落ちてきたと思われる穴は、すでに埋まってしまい通行不可能になってしまったようだ。
と、ここで麗奈とテトの姿が見えないのに雷夢は気がついた。一緒に落ちてきたはずなのに、辺りには姿が見えない。
「麗奈ーーーっ!! テトーーーっ!!」
麗奈ーっ……テトーっ…………。
……奈ーっ……テ……ーっ……。
雷夢が立ち上がって大声で叫ぶも、声が反響していくだけで声が返ってくる気配がない。
「くそっ! 早く二人と合流して出口探さないと!」
と、歩き出そうとした雷夢だったが、周りがほとんど暗闇ということに今更ながら気づいた。あいにく懐中電灯などを持ち合わせていないため迷った結果壁づたいに進んでいくことにした。
と、その時雷夢の耳が何かを捉えた。
「ぁぁぁ…………」
耳を凝らすと、どうやら誰かの声のようだ。しかも女性の。
「ぁぁぁぁぁぁああああ……」
どうやら声の主はこちらに近づいているらしく、声がどんどん大きくなる。が、何故か雷夢はその声に聞き覚えがあった。しかも自分のクラスメイトの一人に。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ドムッ!
「クソマァーッ!?」
その時、不意に暗闇に一筋の光が射し誰かが雷夢に激突した。その反動で雷夢は一人、ヘッドスライディングを敢行するはめになった。
「あっ、雷夢くん!」
「あだだ……。って、麗奈!」
雷夢が顔を上げると、そこにいたのは他の誰でもなく麗奈本人だった。
「麗奈、一体どうしたんだよあんなに叫んで」
「え、えっとそれは…………言わせないで!」
そう言うと麗奈は雷夢に背を向けて顔を両手で覆った。麗奈をそうさせた出来事を知りたかったが、麗奈の事を考えて口をつぐんでおくことにした。
「それにしても、あんたが灯りも無しに歩くもんだから思いっきりぶつかったじゃない!」
「ごめん、懐中電灯とかそういうの持ってなくて」
「はぁ、それなら仕方ないわね。ほら、私の一本貸したげるから。そのかわり……っ!」
がし。
「……私の隣にいてくれる?」
一瞬、麗奈が何をしているのか雷夢は理解できなかった。しかし数秒程経ってようやく状況を把握した。
麗奈が雷夢の腕に抱き付いているのだ。
「ちょっ、麗奈!?」
突然の出来事に驚いて、雷夢は麗奈を振りほどいた。
「あっ、離れないでよ! 私暗いところ一人じゃ駄目なんだから!」
「え、ってことはつまりさっき大声出して叫んで走ってきたのって……」
「……暗闇でパニクっただけ。悪い?」
「いや、別に」
どうやら先程の麗奈の狂乱ぶりは、暗所恐怖症からきた物らしかった。やはり強気になっていても女の子らしい所もあるみたいだ。それはそれで何故かホッとすることができた。
「私、暗闇が本当に怖くて……誰かにくっつかないと駄目なの。そうしないと、私どうなるか分からない……」
涙で潤んだ眼で麗奈が雷夢に訴える。どうやらこれは演技やそういう物の類いではなく、本気らしい。
「それじゃ仕方ないか。じゃあ腕にくっついていいから、懐中電灯貸して。テトを探さないと」
「あ……りがとう。それじゃ遠慮なく」
麗奈は雷夢に懐中電灯を手渡すと、即座に雷夢の腕に抱き付いた。その途端、麗奈の表情が和らいでいく。
「よし、それじゃテトを探しに……」
「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
雷夢の声は、突如響いた悲鳴に掻き消された。
「今の声!」
「間違いない、テトだ! こっちから聞こえた!」
「早く行こう、雷夢くん!」
「言われなくてもそのつもりっ!!」
雷夢と麗奈は、テトの声が聞こえた方に向かって走り出した。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.198 )
- 日時: 2013/07/26 19:27
- 名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
場所は変わって地上の休憩所。そこの展望台に、生徒や先生などがひしめきあっていた。皆が見つめるのは、展望台に大口を広げた穴だ。その穴には一本のロープが投げ入れられていた。
と、太陽が南中に差し掛かった時、そのロープを伝い彩葉春音が穴から這い出てきた。彼女は、雷夢達が落下していった穴の探索を自ら買って出たのだ。
「春音さん! どうでしたか、穴の中は!?」
「駄目だ。しばらくは降りて行けたが、途中で埋もれちまってる。ここから助けに行くのは無理かもな」
その言葉を聞いて、その場にいた全員が落胆した。
「そんな……。雷夢さんやテト、麗奈さんにもしもの事があったら……どうしよう……」
アテナは胸のペンダントを握り締め、自分の無力さを呪った。別に無力という訳では無いが、これほどまで大勢の人間がいる中でエンジェル・ビットを使用するわけにはいかない。せめて5年1組だけがいる状態ならよかったのだが。
「(雷夢さん……私、どうすればいいんですか?)」
そう心の中で呟いたアテナは、虚空の空を見上げた。
「ら、雷夢殿! 助けて欲しいのじゃーーっ!!」
先程から聞こえるテトの声が、歩を進める度に大きくなってくる。これほど取り乱すなど、ただ事では無さそうだ。巨大な蜘蛛にでも襲われているのだろうか。はたまた、岩の下敷きにでもなってしまったのだろうか。流石に前者はないか。
「ねぇ何、あの光?」
と、麗奈が急に前方を指差した。その先を見ると、暗闇に1つの光が灯っている。風は流れて来ないが、もしかしたら外に繋がっている可能性もある。
「雷夢殿ーーっ!!」
テトの声が再び洞窟内に響いた。が、その声は明らかに麗奈の指差した光の方から聞こえてくる。
「麗奈、もしかしたらビンゴかも。テトの声があっちから聞こえる!」
「私もそう思った所!」
そして雷夢と麗奈は走るスピードを緩めることなくその光の中へと飛び込んだ。一瞬視界が真っ白に塗り潰され何も見えなくなる。しかしすぐに視力を取り戻すと、そこは地上でないことが分かった。
広い空間なのだ。しかも、どこから明かりが入っているわけでもないのに辺り一面が明るい。広さは例えようが無いくらい中途半端な広さで、無理に例えるならホテルの一室の1.5倍くらいの大きさだ。余計分からなくなったが勘弁。
「あっ、雷夢殿ーーっ!!」
またもやテトの叫び声が木霊した。その音の出所を探ると、部屋の端の方でテトがのたうっているのが見えた。
「大丈夫かテト!?」
「雷夢殿ぉ……。やっと会えて嬉しいのじゃ……」
「それより、あんな叫び声挙げてどうしたんだ?」
「じ、実はのぅ、背中に何かが潜り込んで、服の中を這いずり回っていたのじゃ! 気持ち悪くて仕方がなくてのぅ!」
「背中? 這いずり回る?」
何のことだかさっぱり分からない。
「きゃあっ!? 何よこの虫!?」
突然麗奈が後ろで悲鳴を挙げた。どうしたことかと振り向くと、麗奈の足元を何かが動き回っている。パッと見で10対はありそうな細長い足。百足や蜘蛛のように気持ち悪く動き、どこか妖気が漂いそうだ。
「よい……しょっと!!」
雷夢は1本竹串を構え、その得体の知れない虫に投げつけた。竹串は雷夢の投げた勢いのまま真っ直ぐ飛んでいき、寸分も狂うことなく見事命中した。
「なんだ、ゲジじゃないか」
「えっ、ゲジって……。よく言うゲジゲジ?」
「うん、そうそう。多分こいつが天井から落ちてテトの服の中に入ったんだと思う」
かなり心配したというのに、真実はかなりお粗末な物だった。徒労感が半端ない。
「まぁ取り合えず、これで揃った訳だし出口探そう……」
キュルルルル…………。
そんな音と共に、麗奈が頬を赤らめた。
「ご、ごめん。……お腹空いちゃった」
「じゃ、昼飯にしようか。出口探すのはそれからだね」
雷夢が二人に見せた腕時計は、既に正午を過ぎていた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千 ( No.199 )
- 日時: 2013/07/24 10:12
- 名前: ゆきだるま (ID: XiCwuimA)
どうしてなにも明かりがないのに明るいのでしょうか
不思議ですね
ここでロベの手下が襲ってきたら大変ですよ!
雷夢さんたちは無事に地上に戻れるのでしょうか
続きが気になります!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.200 )
- 日時: 2013/07/26 19:37
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
Dear ゆきだるま様
お久しぶりです!しばらくコメントや感想を頂く事がなかったので、ゆきだるま様のコメントは筆者の原動力となります!エンジンは核です。
これからどうなるかは全て筆者の記憶回路の中です。
楽しみに待っていてください!
PS 返信遅れてすいませんm(__)m
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.201 )
- 日時: 2013/07/26 19:46
- 名前: Dr.クロ ◆m1RYkHhkGM (ID: /PtQL6mp)
- プロフ: http://www.pixiv.net/member.php?id
バトスピの方を!!
蘇芳の追加をお願いします
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.202 )
- 日時: 2013/07/26 20:54
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「そういえば、1つ気になってる事があるのじゃが……」
「ん、どうしたテト?」
遠足用のレジャーシートを敷いた時、テトが口を徐に口を開いた。
「何故この辺りはこんなに明るいのかのぅ……?」
確かに言われてみればそうだ。何故かこの辺り一帯は懐中電灯を使わずとも周りが見えるほどに明るい。天井を見ても明かりが射し込んでこれるような隙間はない。
と、雷夢の脳内に1つの仮説が急浮上した。
「もしかしたら……発光バクテリアかも」
「発光……」
「……バクテリアかの?」
「うん、前に読んだ漫画に載ってたんだけど、主人公の医者が一人の女性に出会ったんだ。その女性が探していたのがフェニックスっていう伝説の鳥なんだけど、やっとそれを見つけたと思ったら、発光バクテリアで光っていた普通の鳥だったんだよ」
「それがどうしたのよ?」
「つまり、その漫画に出てきたようなバクテリアがこの辺り一帯にいて、それの光で辺りを照らしてる……ってんじゃないかと思って」
試しに雷夢はそこら辺に転がっている石を1つ拾い、先程来た暗闇の道に投げ入れてみた。すると、その石は暗闇でぼんやりと光り始めたのだ。やはり発光バクテリアがこの辺りの石に付いているらしい。
「そんなことより! 早く昼御飯にするわよ。私、お腹が減って仕方が無いんだから!」
麗奈は相当待ちきれないのか、一人弁当箱を広げ始めた。やれやれといった感じで、雷夢とテトも弁当箱を広げる。
ギューリットの手作り弁当の中身は、至って普通の弁当だった。白ご飯に卵焼き、タコさんウインナー。その他多くのメイン料理の他に、サラダも入っており栄養バランスがしっかり取れている。デザートに市販の小さなチーズケーキも入っているところも抜かりない。
「それじゃ、早速……」
『いただきまーす!!』
三人は合掌して箸を握るとそれぞれの弁当を食べ始めた。が、何故かテトは内股を擦り合わせて落ち着きがない。
「ら、雷夢殿……。ちょっとトイレしてくるのじゃ……!」
「あー、わかったわかった。早く行ってこい。あと、できるだけ離れてな」
「す、すまないのぅ……」
そう言って立ち上がると、テトは暗闇の奥の方に駆けていった。
「雷夢くん、電車の中のこと忘れてないわよね?」
「あ、確か僕が麗奈に弁当分けるんだったっけ?」
危うく忘れかけていたのを、麗奈の一言で思い出せた。もし気づいていなかったらこの先どうなっていくのか、雷夢の知るところではなかった。
「それと私からの命令を聞くこと」
「……それもだったね」
こちらは完璧に忘れていた。
「という訳で、1つ目の命令」
と、麗奈はリュックから水筒を一本取り出し始めた。
「……いったい何やってんの?」
「私と一緒に、これを飲む準備よ」
「一人用のポットでか?」
途端、麗奈は固まった。何故か押し潰されるように心がヘコんで彗星に飛んでいってしまいそうだ。
「…………と思っていたの?」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.203 )
- 日時: 2013/07/29 22:23
- 名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)
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そう言うと麗奈はリュックからストローを取り出した。これがまたマニアックな逸品で、1つのストローが二股に別れハートの形になっている。その方向の喫茶店でしかお目にかかる事が出来ない物だ。しかも麗奈の物は更にストローを数本移植して延長されており、水筒の水を難なく飲める長さと化していた。
麗奈はそれを水筒の口に突っ込むと、その先をくわえた。
「はい、片方くわえて」
「…………つまりこれで飲むってこと?」
「そうに決まってるじゃない! さ、早く!」
麗奈は半ば強引に雷夢の口にストローの先端をくわえさせた。
「ん、結構……美味しい」
雷夢は早速水筒の中身を飲んでみたが、どうやら紅茶やその類いらしい。その証拠にほんのりと辺りに紅茶の香りが漂った。
「でしょ? 今日頑張って煎れて来たの!」
「なにその『事前にデートの約束したから今日は頑張って煎れないと!』みたいな台詞」
すると麗奈の動きが突然止まり、頬を冷や汗が流れた。どうやら図星らしい。図星な理由が全く分からないが。
「か、勘違いしないで! 今日はたまたま紅茶を遠足で飲みたかっただけなんだからっ!」
麗奈は顔を真っ赤にして反論したが、依然として冷や汗は流れ続けている。むしろ更に大量に流れている気がする。
「…………はい、ここまで。もういいわ」
もう少し飲んだところで、麗奈はストローを雷夢と自分の口から抜き取るとリュックにしまいこみ、変わりに自分の弁当を膝に乗せた。
「次。私の弁当を食べて」
「え、何か嫌いなものでもあるの?」
「そうじゃなくって!」
どうやら手作り弁当を食べてもらいたいらしい。
「別に食べてもいいけど………………食べなきゃだめ?」
「食べなかったら泣くけど」
見ると麗奈の眼は既に涙がセットアップされているらしく、僅かながら潤んでいた。こうなると雷夢は承諾せざるを得ない。雷夢は泣き落としにとことん弱いのだ。
「わかった、食べるよ」
「本当!?」
「でも少しだけな。そうしないと僕も自分の弁当食べきらないし」
「少しだけでもいいわ。……ありがとう」
早速麗奈は箸を握ると、弁当の定番卵焼きをつまみ雷夢の口元に寄せた。
「……えっ?」
「なに戸惑ってるのよ。はい、あーん……」
もしやこれは、よほど親しいカップルではないとやらないような、あれではないのだろうか。
「早く食べて。じゃないと私……」
「わ、わかったよ! ……あーん」
仕方なく雷夢は身を乗り出して口を開いた。そこに麗奈が差し出した卵焼きが入れられると、雷夢は優しくそれを受け取った。
「………………」
「…………どう?」
「……っ! 美味しい!」
本気で美味しかった。砂糖の甘さと醤油の辛さが程よく調和し、口の中でふんわりと広がる柔らかさ。これを不味いと言えるだろうか。いや、言えないだろう。
「本当!? よかったらまだまだ食べ……っ!?」
その瞬間、とてつもない威圧感を帯びた視線を雷夢と麗奈は感じた。
まさかと思い、雷夢が後ろを振り向くとそこには。
「なにやってるのじゃ……雷夢殿……?」
三白眼に怒りを募らせたテトがこちらを睨んでいた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.205 )
- 日時: 2013/08/07 20:56
- 名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)
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「い、いやテト、これはだな……」
「我が居ない間に麗奈殿とイチャコラと…………許さぬ」
雷夢の主張の耳を貸す様子も無く、テトは嫉妬に支配された猫の形相で雷夢に詰め寄る。
いろんな意味で雷夢は終わった。
「だが、雷夢殿にも名誉返上のチャンスを与えるのじゃ」
「名誉は挽回するものだ」
諺の誤りに突っ込んでやると、テトは自分の弁当を取り出しタコさんウインナーを箸でつまみ、雷夢の口元に寄せた。
「麗奈殿と同じように、我のあーんを食べてくれれば許さんこともない」
「あーんってそんなに大事なものなのか?」
「……女の子に取っては大事なものなのよ。仕方ないけど、この場を切り抜ける為に食べてやりなさいよ」
「わかったよ……」
麗奈に後押しされる形で、雷夢はテトの差し出したタコさんウインナーを口に含んだ。
「……辛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
瞬間、雷夢の口を表現しようのない痛みが襲う。ごり押しで例えるなら、ワサビとタバスコとハバネロと唐辛子にコショウをたっぷり振りかけて一気に頬張ったような辛さだ。あまりの辛さに雷夢はそこらじゅうを転げ回る。
「大丈夫かの雷夢殿!?」
「ひゃ、ひゃいほうふひゃひゃい……」
「はい、これ飲んで!」
麗奈から手渡された水筒の紅茶を、雷夢は一息に飲み干す。
「……っはぁ!! 何なんだよこのタコさんウインナー、辛さが鬼畜過ぎるわ!」
「むっ、これは……」
と、テトが弁当を包みに手を伸ばし何かを拾い上げた。何やら手紙のようだ。
「えっと、『弁当に入ってるタコさんウインナーは辛くて食えないから食べるなよ。他のは大丈夫』ってなんじゃと!?」
「ギューリットのやつ……。帰ったら覚えてろよ」
そもそも辛いと分かっているものを何故注意書を同封してまで入れる意味が分からない。
「ま、まぁ気を取り直して……あーんなのじゃ」
そう言ってテトはポテトのベーコン巻きを雷夢に差し出した。
「まったく……あーん」
頬張ってみると、中々の味だ。揚げたポテトの淡白さに、コショウを振り掛けたベーコンのパンチがいい具合にマッチしている。点数を付けるなら100点満点中の70点というところだろうか。
「……折角いい雰囲気になったのに」
「ん、なんか言った麗奈?」
「何でも無いわよ! それより、あんたは自分の弁当を早く食べたら?」
麗奈に言われて思い出したが、雷夢は自分の弁当に未だ口をつけていなかった。道理で腹が空くわけだ。
「じゃ改めて、いただき……」
と、その時。雷夢の耳が謎の音を捉えた。
ボコン、ボコン、ボコン…………。
何か、岩盤に穴を開けているような音だ。しかも連続で。テトと麗奈もこの音に気付いたのかあたりを見回し始めた。
ボコン、ボコン、ボコン、ボコン…………。
どうやらこちらに近付いてきているらしく、次第に音が大きく響く。
身の危険を感じた雷夢達は一ヶ所に集まり、身構えた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.206 )
- 日時: 2013/08/22 14:48
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
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ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……。
岩を砕く削岩機の掘削音が、人が集まる穴から辺りに響く。先程到着した消防や警察等が穴を塞ぐ岩を破壊しようとしているためだ。何故手っ取り早いのにダイナマイトを使わないのか疑問に思ったが、岩を爆破できるダイナマイトを使うとこの辺り一帯が崩落する危険があるらしい。
その光景を遠くから見ることしか出来ないアテナは、自分の無力さを恨み拳を握り締めた。
「大丈夫か、黒鳥」
そんな様子を心配したのか、亮がアテナの肩に手を置いた。
「……私、どうしても雷夢さんのお役に立てない……」
「役に立ちたいなら、その背中の武器で岩砕いてくればいいだろ」
「それが出来たら当の昔にやってますよ! 久米島さんや鳳さん達がいるだけならまだしも、ここまで大勢の前でエンジェル・ビットを使うわけにはいきません!」
アテナが言う通り、休憩所の辺りに野次馬が集まりつつあった。それに加え救出活動にあたる人々。この大勢の前で謎の技術を使ったエンジェルなんたらを使うわけにはいかないのだろう。要するに誤魔化しが効かない。
「なら見たやつらの記憶を消せばいいんじゃないか? そういうの出来るんだろ?」
「い、いえ……実は私、忘却魔法はまだ未拾得でして」
「なるほど、八方塞がりって訳か」
そう言うと亮は眉間を指で押さえ、何やら黙りこんでしまった。
が、少しして何かを思いついたように眼を開いた。
「そんなに心配なら、祈っとけ」
「え…………」
「言っとくけど、あの三人の事を心配してるのはお前だけじゃない。5年1組も そうだ。誰も三人のこと心配してないやつはいない。だからお前はみんな以上に祈ってやれ。それがお前に出来る精一杯の気遣いだ」
「………………」
アテナはしばらくの間何も話すことはなかった。が、決心に満ちた眼で亮に向き直った。
「……そうですよね! 私もみんなの所で一緒に祈ります! 久米島さん、アドバイスありがとうございました!」
一礼すると、アテナは皆が集まる休憩所内へ駆けていった。
***
『にげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
ちょうどその頃、雷夢達はバクテリアが輝く洞窟内を一心不乱に逃げ惑っていた。背後に迫るのは、動物図鑑には載ってない、Unidentified Mystery Animal 。縮めて、UMA。
全体的に見れば蛇のようだが、明らかに既知のそれではない。その根拠が、雷夢達を追うその移動方法。半身を地中に埋め、尺取り虫の如く身体をくねらせるという縦蛇行をしているのだ。既知生物はこんな移動方法はしない。
そして外見も蛇とは違ったものだった。顔は蛇というより東洋の龍に近い。身体も蛇にしてはやけに薄っぺらい。
「い、いったいなんなのじゃ、あの変な蛇は!」
「知るか! 喋るより脚を動かせ脚を!」
そうしている間にも、謎の怪生物は眼を爛々と光らせながら三人に迫っていく。
「こ、来ないで!」
恐怖に煽られたのか、麗奈は手にした懐中電灯の光を怪生物に向けた。
すると、どうしたことか怪生物は雷夢達を追うのを止め、その場でのたうち始めた。もしかすると、洞窟内で過ごしていたためバクテリアの光はよくとも懐中電灯の光は刺激が強すぎたのかもしれない。しかし何がともあれこれはチャンスだ。
「よし、今の内に遠くに逃げるぞ!」
「言われなくても!」
「そのつもりじゃ!」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.207 )
- 日時: 2013/08/24 15:25
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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******
「はぁ……はぁ……」
「何とか撒いたみたいだな……」
後方から怪生物が追ってこないのを確認すると、雷夢達三人はへなへなと腰を下ろした。
「それにしても何なのよ、さっきの怪物! おかげでお弁当がほとんど食べられなかったじゃない!」
「じゃが、命があるだけ儲け物じゃ。そこまで気にせずとも良かろう」
「こっちは寝坊して朝御飯がパン一個だったから死活問題なのよ!」
きゅるるるるる……。
麗奈の空腹を代弁するように、麗奈のお腹が音を立てた。どうやら僅かにしか食べられなかった弁当では麗奈の空腹は満たせなかったらしい。
「ま、弁当を満足に食べられなかったのは僕たちも同じだし、腹減ってるのは三人とも一緒だよ。現に僕も……」
ぎゅるるるるるるる……。
「腹減ったし」
「……ああっもう! わかったわよ、我慢すればいいんでしょ我慢すれば!」
実際は全然肯定しているように見えないが、麗奈は頬を膨らませそっぽを向いてしまった。つくづく乙女心は御しがたい。
と、急にテトが何かを感じ取ったのか、素早く立ち上がり辺りを見回し始めた。
「どうしたテト、またさっきのあいつか?」
しかし、雷夢の問い掛けに、テトは両手を耳に当てたまま首を横に振った。
「いや、違うのじゃ。この音は………………っ!」
しばらく耳を澄ませていたテトだが、突然何かに引かれるように走り始めた。
「おい、どうしたんだよテト!?」
「今、こっちの方から水の流れる音がしたのじゃ!」
「えっ、マジか?」
咄嗟に雷夢も耳を澄ませたが、特に水の流れる音は聞こえない。恐らく、元魔獣の特性を持ったテトだからこそ聞き取れたのだろう。
それは差し置き、暫しの間走り続けると急に辺りが開けた。
「な、なんだよ……ここ?」
「はわわ……」
「すごくきれい……」
そこは今までと違い、何やら神秘的な光景を醸し出していた。バクテリアで明るくなっているのは同じだが、この場所は光っている箇所が少なくどうにか辺りの地形を確認出来るのが限界らしい。
しかし、その暗さは一つの絶景を造り出していた。
暗闇で僅かに光るバクテリアの光が、まるで無数の銀河を映し出すプラネタリウムになっているのだ。足下の地面も輝き、まるで自分達が大宇宙に浮かんでいるようだ。
ふと遠くを見ると、先程テトが言っていた通り川が流れていた。
「この宇宙に浮かぶ川……。さしずめ天の川か」
「あんたも結構ロマンチックなこと言うのね」
「言って悪いか?」
「別に悪いとは言ってないでしょ」
そんな会話を交わしつつ、三人は川の畔に足を運んでみた。深さは50センチ程だろうか。よく見ると魚も泳いでいる。
「あの魚、捕れないかのぅ……」
「こういう時こそ僕の出番だろ」
そう言いながら、雷夢は同時に三本の竹串を投げた。それらは全て魚のエラをピンポイントで貫き、それにより魚が三匹水面に浮上する。
「……凄い」
「よし、誰か火種になるもの持ってない? この魚焼こうと思うんだけど」
「それなら我に任せてほしいのじゃ!ルキウゲ・ルキウゲ・イルミナーレ!」
テトが呪文を唱えると、左手の人指し指に炎が灯った。ただし蝋燭並。
「で、そのちっこい火でどうやって魚焼くんだよ」
「無論、木炭に決まっておろう」
そう言ったテトの右手には、いつの間にか木炭の小箱が握られていた。
「ちょっと待て、その小箱どっから出した」
「どこって、リュックからに決まってるではないか」
その理屈はおかしい。今テトの右手に握られている、もとい抱えられている小箱は、明らかにリュックに入るぎりぎりの大きさだ。例えリュックに入っても、他の物が入るスペースはまず無いだろう。そしてテトは少し前に同じリュックから弁当を取り出した。
どうなっているのだこのリュックは。
「それより、早く魚焼きなさいよ! 私はお中が減ってるの!」
「しょうがないのぅ……」
テトは麗奈に急かされながら、地面に置いた木炭に火をつけた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.208 )
- 日時: 2013/08/23 18:10
- 名前: ニャーニャン (ID: ad5ZdhUW)
全部読みましたー♪♪
とってもおもしろかったです!!
更新楽しみにしてます!!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.209 )
- 日時: 2013/08/23 18:31
- 名前: Dr.クロ (ID: /PtQL6mp)
バトスピのほうはまだでしょうか
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照四千突破!】 ( No.210 )
- 日時: 2013/08/24 10:23
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
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>>208
ニャーニャン様、コメントありがとうございます!
これからも頑張って執筆していくので、よろしくお願いいたしますm(__)m
>>209
Dr.クロ様、すいません! 何とか書きます!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.211 )
- 日時: 2013/09/02 12:01
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
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******
『ご馳走さま〜!』
テトが焼いた三人前の焼き魚は、綺麗に三人の胃の中に収まった。もっともテトだけは骨まで食べていたが。
「さて、これからどうする? ここで助けを待つ?」
「我はそれに賛成じゃ。無駄に体力使いたく無いからのぅ」
「私は別にどうでも……」
麗奈は半分閉じかかってる眼で答えた。
「……眠たいの?」
「そ、そんなわけ…………くぅ……」
到って強気だが、落ちかかっているのは明白だ。その証拠に、発言に力が入っていないうえ、うとうとし始めている。
麗奈が落ちる程疲れている理由は分かる。本来の目的の遠足の過程で、幾つかの駅を電車で移動し、鷹井山を半分近く登ったのだ。そしてそこから地下の洞窟を走りに走ったのだ。様々な体験で体力が無駄に付いた雷夢とテトはともかく、常人である麗奈が疲れるのも無理はない。
「じゃ、しばらく昼寝しようか。偶然でかい寝袋もあるし」
そう言うと雷夢は、リュックの中から折り畳まれた寝袋を引っ張り出し、それを地面に広げた。ギューリットの言っていた通り、雷夢達三人が入っても充分余裕がある大きさだ。これなら三人仲良く寝ることが出来る。
「わ、私は眠くなんか……」
「なに強がってんのさ、早く入りなよ」
「で、でも……」
どうやら意地でも寝たくないらしい。何故そこまで起きることに執着するのか、雷夢には分からない。
「……あのさ、麗奈。1つ言っていい?」
「何よいきなり……」
「もっと自分に素直になったら?」
「…………は?」
雷夢の発言の理解が脳内で処理しきれて無いのか、麗奈は唖然とした表情で固まっている。
「麗奈は今本当はものすごく寝たいんじゃないの?」
「そ……そんなこと微塵も考えて……」
「ほら、いつもそうやって自分を騙してる。まぁ、ツンデレっていう麗奈の良いとこでもあるけどさ。……けど」
「……けど?」
「もっと自分に素直にならないと、自分の身体を、人間関係を滅ぼしかねない。もちろんツンデレを止めろとは言わない。ただ、人に心配されてとかされてないに関わらず、自分には素直になってほしい」
雷夢は、諭すように一言一言はっきりと、まるで父親のように語った。
が、顔を上げると麗奈はいつの間にか小さな寝息を立て眠っていた。なんだこの骨折り損のくたびれ儲けは。雷夢の言葉はどこまで聞こえていたのだろうか。
しかしこのまま寝せるのも悪いので、仕方なく麗奈を抱えて寝袋の左端に寝かせる事にした。
「さて、僕は一番右端に……」
「あ、雷夢殿。そこは我が寝るから、雷夢殿は真ん中で寝てくれるかの?」
先手を打たれた。真ん中のポジションで寝るということは両側を女子二人に挟まれるということで。雷夢にとっては嬉しいやら恥ずかしいやらだ。
しかし考えても仕方がないので、渋々雷夢は寝袋に入った。無論、間違っても手が二人の尻などに触れぬよう腕は組む。
「それじゃ、おやすみ……」
「おやすみ……なのじゃ」
テトと就寝の挨拶を交わすと、雷夢はゆっくりと意識を手放していった。
「……きて……起きて」
そう暗闇の外から、雷夢を呼ぶ声が聞こえる。その声に応じるように、雷夢は眼を覚ました。その時雷夢の眼に映ったのは、真剣な表情でこちらを見つめる麗奈だった。
「ん、どうしたの麗奈?」
「……ちょっとあんたに言いたい事があって」
そう呟くと、麗奈はこちらに寄ってきた。そして互いの鼻が当たりそうな至近距離まで近寄る。
「あんたさっき言ったわよね、『自分の気持ちに素直になれ』って」
「うん、確かに言ったけど……って近いちかむぐっ!?」
「あんまり大きな声出さないで。隣が起きるでしょ」
あまりの麗奈の接近に大声を出しそうになった雷夢の口を、麗奈は両手で塞いだ。
「で、どうしたの?」
「……だから、私もあんたに素直になろうと思って。だから、もう洗いざらい話す」
すると麗奈は顔を朱に染めながら、はっきりとその言葉を口にした。
「雷夢くん。私、あなたのことが大好きなの」
麗奈のその顔に迷いは無かった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.212 )
- 日時: 2013/09/02 12:13
- 名前: ニャーニャン (ID: mbdcLqiG)
キターー(°∀°)ーー!!
告白だぁぁ!!(*>∀<)/\(^∀^*)
はぁ、はぁ…すみません興奮しましたorz
続きが早くみたいです!
。(^∀^)。タノシミ!ワクワク!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.213 )
- 日時: 2013/09/03 19:34
- 名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)
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「…………………………はい?」
なんなのだこの状況は。洞窟の中で、更に一緒に寝ている女の子から、告白。
あまりにも突然の衝撃カミングアウトに、雷夢の体温は急上昇の一途を辿った。
「『……はい?』じゃないでしょ。答えはイェスなの、それともノー?」
「え…………あ……う……」
まずい、答えが出てこない。麗奈のことは確かに嫌いではない。だが、かといって好きという感情もない。雷夢の中では少なくとも友達としては認識しているが、恋人という風に考えたことは一度だってない。
どうすれば、どうすればいいのだ。
「え、えっとあのさ」
「なに?」
「僕を好きになった理由を教えて。それこそ明確な理由を」
取り合えず、これで麗奈の意見を聞ければそれを糧に答えを見つけ出せる。そう信じたい。
「……あなたが転校してきた時」
「え?」
「あなたが第二小に転校してきた時、あなたは私が怒ったことを素直に受け止めた。そのあとも、ことある毎に私が怒っても、あなたは決して動じなかった! そしたら、あなたの事が頭から離れなくなって……。多分、雷夢くんの誠実さに惹かれたんだと思う」
「…………」
雷夢の心は決まった。
麗奈を受け入れる。
麗奈が自分をそこまで思っているのなら、自分もそれに答えてやろうではないか。もう迷いはないはずだ。
決心した雷夢は、麗奈に再び向き合った。
「わかった、麗奈。麗奈のこくはむぐっ!?」
その時、思いを告げようとした雷夢の口が背後から伸びた手によって塞がれた。
この状況で雷夢の背後にいる人物。
まさかと思い、雷夢はぎこちない動きで背後を伺った。
そこには、物凄い形相でこちらを睨み付けるテトがいた。
「まさか我が寝てる間にイチャコラするとはのぅ……」
「テ、テト……?」
「それに加え、麗奈殿は愛の告白とはのぅ……」
「えっ、ちょっとなに!?」
テトは謎の怒りを募らせながら、雷夢に近づいていく。いったい何がテトをここまで駆り立てるのだろうか。
「雷夢殿は、我と口づけを交わした仲だというのに……」
「なあっ!?」
「な……っ、ちょっとどういうことなのよ雷夢くん!?」
ちょっと待て、テトとキスをしたことなどあっただろうか。まさかそんなことがあるわけ…………いや、ある。
テトがミカと共にスキュラに操られたのを解放した夜。解放の為テトの尻尾を掴んだ罰として、「雷夢の初めてを奪う」という理由で無理矢理した、というよりされたのだった。
「……我だって。我だってのぅ……」
と、その言葉を呟いた瞬間、テトの頬に一筋の何かが走った。
「我……だって……雷夢殿の……事を……うっ、えぐっ……」
暗がりでもはっきりと分かる程、顔をくしゃくしゃにしてテトは泣き始めた。どうやら本気で泣いているらしい。
何故テトがここまで泣き出すのか、雷夢には分からない。いったいどうしたんだ。
と、その時、テトが一際声量を上げ叫んだ。
「我だって、雷夢殿の事が……大好きなのじゃ!!」
「………………」
「………………」
「………………」
『えええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?』
雷夢と麗奈はまさかのカミングアウトに自身の限界を突破するほどの大声を出した。
まさか、ここまできて更なる告白が飛んで来るなど誰が予想出来ただろうか。せっかく心を決めた途端にだ。これではまた振り出しに戻ってしまう。
「雷夢殿は……いつでもどこでも……我に優しくしてくれて…………涙を流してくれた事もあった……。我は……そんな雷夢殿が好きなのじゃ」
「テト……」
ここまでテトが自分を思ってくれているとは想像もつかなかった。流す涙もあって、余計それが伝わってくる。
「雷夢くん……私とテト、どっちを選ぶの」
「それは……」
左には涙の奥の真剣な眼で訴えるテト。右には迷いのない顔で見つめる麗奈。雷夢にはどっちを選べばいいのか分からない。二人の女の子に、こうも迫られれば選べというのが無理だ。
と、ここで雷夢は根本一滴の策を思いついた。
「……ならこうしよう。僕が今から『赤い糸魔法』をかける。それで赤い糸が繋がっていた方の思いを受け入れる」
「えっ、魔法っていったいどういう事……?」
「……実は僕、黒魔法使いなんだ。だから魔法とかも少しは使えるんだ。それでもいい?」
「雷夢くんが普通の人間だろうと黒魔法使いだろうと、私が雷夢くんを好きなのは変わらない。どういう形であっても、雷夢くんのことは大好き」
「我も、もし麗奈殿と同じ立場でもこの気持ちは変わらぬ。それは絶対じゃ」
「…………わかった。それじゃ、いくよ」
雷夢は呼吸を整えると、右手の小指を立たせ、眼を閉じた。
「ルキウゲ・ルキウゲ・アモミラーレ」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.214 )
- 日時: 2013/09/03 18:08
- 名前: ゆきだるま (ID: A9v/NWj7)
やっぱノヴァさんはすごいですね…
こんなにうまく物語を書けるのですから
しかもいつの間にか参照6千も突破とは…
まさにすごいの一言につきます!
雷夢くん告白されちゃいましたか…
いつかは未来に戻らなければいけないんですけど大丈夫でしょうか…
つづきがんばってください!
応援してます!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.215 )
- 日時: 2013/09/03 23:07
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
ゆきだるま様、コメントありがとうございます!
正直、僕なんかよりすごい方々は他にも沢山いますが、僕はそんな人達に一歩でも近づけるよう頑張っています!
このあとの展開は、@もといあっと驚くようにしたいと思います!
楽しみにしていてください!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.216 )
- 日時: 2013/09/11 22:34
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
雷夢が呪文を唱えた瞬間、雷夢の小指に赤い糸が現れた。その糸は虚空から出現するように伸びていく。三人の視線は、全てこの赤い糸の先へと注がれていた。
が、何故か糸は左右のどちらにも行かず、ただ真っ直ぐにしか伸びていかない。まさかこの二人のどちらも、雷夢の運命の相手ではないのか。二人の女が一人の男を取り合っている間に、傍観していた三人目の女がその隙に寝取るとかそんなんか。相変わらず小学生離れした考え事をするんじゃない自分。
その間にも、糸はどんどん伸びていく。既に長さは雷夢の腰の辺りまで伸びてきているのだが、未だにどちらかに曲がる気配を見せない。
「あっ、雷夢殿! 糸の先っちょが!」
突然、テトが糸の先を指差して叫んだ。その指差す先を見ると、何故か糸の先端が解れ始めていた。そして遂には二つに別れ、それぞれ別の方向に。
そして、テトと麗奈の小指に赤い糸が結ばれた。
「………………」
「………………」
「………………」
『えええええええええええええええええええええええええええええっ!?』
しばしの沈黙の後、本日何回目かの三部大合唱。
いや違う、そうじゃない。
雷夢の小指から伸びた赤い糸は途中で二つに別れ、テトと麗奈の小指に繋がれた。つまり雷夢にとって、二人は運命の相手ということ。
「こ、こんなことって……」
「ど、どうするのじゃ雷夢殿!?」
「どうするっていったって……」
どうしたもこうしたも、雷夢が二人に告げるべき事はただ一つ。
「えっ!?」
「にょわっ!?」
雷夢は二人の首もとに手をまわすと、一気に抱き寄せた。
「ごめん。今の僕には、どちらかを選ぶなんてできない。だから、答えを出すまで時間をくれないかな……。それまで、僕は二人とも受け入れる」
頬を朱に染めた二人の耳元で、雷夢ははっきりとそう告げた。
「…………まったく、しょうがないわね。いいわ、雷夢くんが答えを出すまで、私は恋人ってことでしょ? なら、喜んで待ってあげようじゃない!」
どうやら雷夢の言葉で吹っ切れたのか、麗奈は今まで見せたことのない笑顔で雷夢を見つめた。
「それは我とて同じじゃ! 我も雷夢殿に好かれるよう、精一杯頑張るしかあるまい!」
ちょっと待て、何勝手に二人とも恋人になっている。雷夢は思いは受け入れると言ったが、恋人になるとは言っていない。
「ちょっ! 僕は二人とも受け入れるって言ったけど、恋人になるとは」
「そうだ、先に宣戦布告しておくわ。あんたには雷夢くんは絶対渡さない」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるのじゃ!」
駄目だ、この二人。雷夢の言葉を全く意に介していない。
もういいよ恋人で。
「なら、恋人になった証しに……」
「えっ……?」
何を言い出したかと思うと、突然麗奈は両手で雷夢の頭を包み込み、そして自分の方に引き寄せた。
「れ、麗奈…………?」
「……私の大事なもの、あなたにあげる」
麗奈はそう呟き、雷夢の顔を更に引き寄せ、
互いの唇を重ね合わせた。
「………………これで、本格的に恋人成立ね」
「……あ、うん……そう……なのかな?」
まさかとは思ったが、麗奈にもキスをされた。テトとは違いごく普通だったが、それでも雷夢にとっては衝撃的な人生の一ページになった。
「麗奈殿ぉ……よくも雷夢の唇を奪ってくれたのぅ……。雷夢殿がそんなに好きか!」
「私にはその資格があるのよ!」
いつできたそんな資格。あったところで効力を発揮するのはかなり限定されそうだが。
「……よし、この話はここまで! 早く昼寝して出口探すよ!」
「しょうがないのぅ……。まぁ我も疲れたことじゃし、お言葉に甘えるかの……」
「私も……安心したら……眠く……なっちゃった」
テトと麗奈はそう告げると、早々と眠りについてしまった。
そして雷夢は二人の恋人に抱き締められながら、ゆっくりと意識を手放した。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.217 )
- 日時: 2013/09/15 20:50
- 名前: ノヴァ (ID: 8uCE87u6)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
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「……んんっ……? よく寝た……」
眠い目を擦りながら雷夢は起き上がった。ス魔ホを見ると、時刻は4時半。寝始めたのが1時頃だったので、軽く3時間は寝た計算になる。
「おい、二人とも起きて」
「……あ、おはよう雷夢くん……」
「うぅ……にゃぁ……。おは……なのじゃ……」
両脇の二人の頬をぺちぺち叩いてやると、二人とも目蓋を半開きにして起き上がった。
「よし、それじゃ出口探しに行くぞ」
「まだ眠い。もう一眠り、しようかの」
「寝るんじゃない寝るんじゃない」
寝るという執着から離れないテトの額にチョップを食らわせてやる。
「……ねぇ、あれ……何?」
突然、麗奈が川の方に向かって指を差した。
「ん? あれってどれだよ?」
「ほら、あれ……」
麗奈が指差す方向を仰視すると、うっすらと何かが見えてきた。どうやら祭壇のような物があるらしい。この薄暗さで今まで気づかなかった。
「ちょっと行ってみるのじゃ!」
「あっ、おい待ってよテト!」
雷夢の忠告を無視し、テトは川の向こう側の祭壇に走っていった。仕方なく雷夢と麗奈も追いかけ川を飛び越え祭壇の前に向かうと、三人の目の前に立派な祭壇が姿を現した。
祭壇へ続く道には円錐形の岩が規則正しく並べられており、明らかに人為的に作られた物だと容易に想像できた。
そして祭壇の頂上には。
「…………ランプ?」
近寄ってみると、確かにそれはファンタジー等でよく見るランプだった。先の細まった注ぎ口など、独特の形状がそれを物語っていた。
と、このランプを見て雷夢の頭を何かが過った。
「もしかして、これってテトが言ってた……」
「うむ、間違いない。魔法のランプじゃ!」
「えっ、一体何の話よ!?」
まさかとは思ったが、昨晩テトが言っていた魔法のランプが実在したとは。
「じゃあ、擦ればランプの魔神が……」
「出てくるかもしれぬな!」
「ちょっと! 早く擦ってみなさいよ!」
「わかってるって!」
テトと麗奈に急かされるように、雷夢は雷夢の側面を手のひらで擦った。
が。
「…………出ないな」
「…………出ないのぅ」
「…………出ないわね」
いつまでたってもランプの魔神らしき物が現れない。まさか偽物だったのか。見かけはただの中古のランプだったのか。
「あれ、なんじゃこれ?」
と、テトが足元から何かを拾い上げた。どうやら紙切れらしい。
麗奈と雷夢が覗き込むと、それにはこう書いてあった。
しばらく世界旅行に出掛けて留守にします。
ランプを見つけた方は、後々帰るんで持って帰って大事にしてね。
そんじゃよろぴく(`・ω・)ゞ
ランプの魔神<イフリー>
PS
洞窟から出たい時はランプの乗ってた台を押してね!
『…………………………』
三人はしばらく絶句していた。
何だこの軽い感じの置き手紙は。何でランプの魔神が世界旅行に行くんだ。ランプに縛られている設定どうした。感動を返せ。
「雷夢殿。そのランプ叩き壊してよいかの?」
「私もちょっと変型させたい」
「奇遇だな、僕も同じこと考えてた」
そうして三人は互いの顔を見合わせた。
「こんなもの、こうしてやるっ!」
麗奈は怒りを込めた右足で、思いっきりランプを踏みつけた。
ガキィィィィン…………ッ!
そこそこ大きな金属音が辺りに響いた。
「……………………いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、踏みつけた右足を押さえて物凄い勢いで麗奈が飛び上がった。どうやらこのランプ、生半可の固さではないらしい。
そして、飛び上がった麗奈はランプの乗っていた台に尻餅を突いて着地した。
ガコン。
突如そんな音が鳴り、麗奈が座っている台が僅かながらに下がった。
そういえば先程の手紙に。
ー洞窟から出たい時はランプの乗ってた台を押してね!
まさか、麗奈が尻餅で着地した事で脱出装置のスイッチが入ったのか。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
しかも謎の地鳴りまでし始めた。いったい何が始まるんだ。
「ら、雷夢殿! なんかヤバい気がするのは気のせいかの!?」
「いや、絶対気のせいじゃないっ!」
ドドドドドドドドドドドドド………………。
今度は地鳴りとは違う音が聞こえてきた。まるで何かが大量に流れるような。
「ら、雷夢くん! み、水が!」
「へ、水?」
背後から聞こえた麗奈の声で雷夢が振り向くと。
鉄砲水並みの激流が迫っていた。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
逃げる間も無く、三人は激流に飲み込まれた。激しい水流で掻き回され、どっちが上か分からない。
「(僕、こんなところで死ぬのか……?)」
そんな思いが雷夢の脳内を過った瞬間、雷夢は意識を失った。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照6千突破!】 ( No.218 )
- 日時: 2013/09/19 23:05
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
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暗闇の中を雷夢は漂っていた。感覚でしか分からないが、自分は恐らく水中にいるようにこの空間を漂っているのだろう。
周りを確認しようにも、眼を開くことが出来ない。もがこうとしても、四肢に力が入らない。
ーー……………………ん。……ら…………むさん……。
そんな空間の片隅から声が聞こえてきた。耳にフィルターでもかかったのか、その声をよく聞き取れない。
ーーら………………いむ……さん……。らいむ…………さん……。
しかしフィルターも効力が薄れているのか、次第に声が明瞭に聞き取れるようになっていく。
ーー雷夢さん、雷夢さんっ!!
まさか、この声は自分を呼んでいるのか。
ーー眼を覚ましてください雷夢さんっ!!
その声が雷夢の脳に響いた瞬間、思考がオフからオンに切り替わり、急速に思考が回復していく。
そして思考活性化が最高潮になった時、雷夢は意識を現実に引き戻した。
「あっ、雷夢さん!!」
最初に視界に飛び込んで来たのはアテナだった。
「アテナ……。えっと、ここは?」
「病院ですよ。今、点滴打ってますから右手は動かさないでくださいね」
アテナに言われて右腕を見ると、確かに点滴のパックが管を通して繋がれていた。中身の減りようからして、ここに運び込まれてから1時間程経ったらしい。
「いやー、びっくりしましたよ。突然湖から凄い水飛沫が上がって、なにごとかと駆けつけたら雷夢さん達3人が湖畔で倒れてたんですから」
「えっ、湖?」
「ほら、あれですよ。展望台からも見えたじゃありませんか」
アテナの言葉が正しければ、展望台から数キロ先に見えたあの湖の事だろう。
大きな水飛沫が上がったというから、脱出装置の激流で湖に流されたということになる。よく生きてたな自分。
「あっ、そういやテトと麗奈は大丈夫なの!?」
雷夢は声を張り上げてアテナに問いかけた。自分だけ生き残っても、あの二人が生きていなければ意味がないじゃないか。
「大丈夫ですよ雷夢さん。二人とも先程眼を覚まして点滴打ってますよ」
「そっか。ならよかった……」
二人の無事を聞いて安心し、雷夢は胸に溜まった息を吐き出した。
「それにしても、テトさんはともかく麗奈さんまで異常に雷夢さんのことを心配してましたけど……。何かあったんですか?」
「えっ……えっと……。まぁ色々あった」
まさか洞窟の中で麗奈とテトに告白されたなんて言える訳がない。もしこの事が他人に知れたなら、恥ずかしさで雷夢はそこら中を転げ回っているところだ。
「……雷夢さん、何か隠してますね?」
「…………はい?」
と、雷夢が反応するよりも早く、アテナはどこからともなく杖を引っ張り出した。
「ガブリエ・ガブリエ・スキャナーレ!」
杖を雷夢に向けアテナが呪文を唱えると、杖に付けられた宝玉の上部にスクリーンの如く映像が映し出された。
「これは『心の中を読む魔法』といって、相手の心や記憶を映像として出せるんです」
心を読むと言っておきながら映像を映すのはどうかと思ったが、それを考えている場合ではない。これでは洞窟内での出来事が筒抜けだ。
そして、雷夢の心配をよそに映像が流れ始めた。最初に映ったのは麗奈だ。麗奈しか見えてないことを考えると、雷夢視線で映像は映っているらしい。
『雷夢くん。私、あなたの事が大好きなの』
この瞬間、雷夢は己の不幸を悟った。これでアテナに麗奈との関係が公開上映されることとなった。
そして。
『我だって、雷夢殿の事が……大好きなのじゃ!!』
続けざまにテトのカミングアウトが流れる。
「…………………………」
「…………………………」
暫しの沈黙の後、雷夢は再びアテナの方を向いた。
「雷夢さん…………」
そこには危ない笑みを浮かべたアテナがこちらを向いていた。
「末長く爆発してくださいっ!!」
ごす。
「いっだぁぁぁぁぁっ!?」
アテナの怒りが込められた杖の一撃が、雷夢の脳天を抉った。
後日、この事実が麗奈とテト承認の上で5年1組に知れ渡ったのは言うまでもない。
第7話「〜恋のバトルは天破狂乱!?〜」完
〜第8話に続く〜