二次創作小説(紙ほか)
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.242 )
- 日時: 2013/11/22 21:01
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
第8話「〜レッツゴー、南の島!<その1>〜」
「『ああ、バアルよ。我は乞う。汝のその知識と武勇、ソロモン72柱を統べる力を。ソロモン王の手足となりしその力、我に与えたまえ……』」
遠足の騒動から一週間たった金曜の朝早く。雷夢は自室の机に向かい、手にした本に書かれている一文を詠唱していた。
この本は「ソロモン王の悪魔」という魔導書のような教科書で、かの有名なソロモン72柱の悪魔の召喚に関する詠唱がこと細かく記載されているのだ。もっとも、召喚にはそれぞれに対応した専用の魔方陣を描かなければいけない為、詠唱しかしていない現状では召喚出来ない。ちなみに、今の文節はソロモン72柱の中でも最も巨大な悪魔、バアルの召喚詠唱である。
「さて、と。一通り『ソロモン王の悪魔』は読んだし、また寝るとするか……」
雷夢は教科書を閉じ、ベッドに横になろうと布団をめくった。
「むにゃ…………うー……にゃー………」
よだれを垂らしながら寝ているテトがいた。
「おまっ……!? いつからそこで寝てる!!?」
「ひぁう!? ひゃ、ひゃひふふほはあいふおほぉっ!?」
両手で思い切り頬を左右に引き伸ばしてやると、テトは眼を覚ました。どうでもいいが気持ちいい餅肌であった。
「もっかい言うけど、お前いつの間にベッドに潜り込んだ。ちょっと前に僕が起きた時にはいなかったよな?」
「……猫の忍び足を甘く見ない方がよいのじゃ。雷夢殿に気配を悟らせずベッドに潜り込むなど朝飯前じゃ」
「よし、わかった。そんじゃお仕置きな」
雷夢はそう言って枕元からヘアブラシを取り出し、テトの尻尾をとかし始めた。
「ひぃっ!? ら……らいむどの……やめっ……! そ……そこだけはぁ……」
その瞬間、テトは頬を朱色に染め、四肢を力無くベッドに投げ出した。
「ドアの貼り紙見なかったのか?」
雷夢が指差した方向には、部屋の出入り口のドア。
そこに書かれているのは。
<テトに対する警告>
・雷夢のベッドに潜り込んだ場合、尻尾マッサージ1分の刑に処する。
遠足の一件以降、やたらテトがベッドに潜り込むようになったので、一昨日から施行したのだ。無論、例外は殆ど無い。
「という訳で、尻尾マッサージ続行するぞ」
テトの方に向き直ると、再び雷夢は尻尾マッサージを再開した。
「こ……こいびとにこんな事をして……ただで済むと……にゃっ!?」
「僕はお前と麗奈の思いは受け取ったけど、恋人になった訳じゃないからな。ほい、終了」
「ううっ…………。しかし、この仕返しはいつかはきっと役に立つはずじゃ……」
「何の役に立つんだよ」
仕方無く、四肢に力が入らないテトを部屋に戻し、雷夢はようやくベッドに潜り込んだ。
案の定眼が冴えていた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.243 )
- 日時: 2013/11/03 20:40
- 名前: ノヴァ (ID: 8uCE87u6)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「おっ。起きたか雷夢」
「おはよ、ギューリット」
二度寝から目覚めダイニングに降りると、ギューリットがキッチンから顔を出した。辺りに漂う甘い匂いとフライパン独特の油の音から察するに、今日の朝食はフレンチトーストらしい。現にギューリットが顔出ししているスタンドには食パンが5〜6枚、皿の上に重ねてあった。
「あれ、アテナとテトはまだ起きてないの?」
「まだ寝てんじゃないのか? あいつら起きない時は全然起きねぇからなギヒヒヒ!!」
「全然起きなくて……」
「悪かったのぅ……」
いきなりの背後からの台詞に雷夢が振り向くと、そこには額に青筋を立てたアテナとテト。
「お、お前らいつからそこに!?」
「『まだ寝てんじゃないのか?』の辺りからです」
「さっきの台詞は全部耳に入っておるからのぅ……」
要するに先程のギューリットの発言は丸聞こえだったらしい。
「わ、悪かった悪かった!! お詫びにフレンチトーストいっぱい焼いてやるから!」
「あ、フレンチトーストですか。なら許します」
「承諾早いなおい」
「我もフレンチトーストは好きじゃし、許してやるとするかの」
どうもこの二人は物に釣られやすいらしい。もしやイシダヤショッピングセンターでの一件、アテナはスキュラに何かで釣られたから捕まったのではないのか。テトも雷夢の女体化の際スキュラに操られていたが、下手するとその時も何かに釣られたのか。後で詳しく聞いておかねばなるまい。
「ほい。先に焼いといたから、冷めない内に食えよ」
色々考えている間にギューリットがフレンチトーストの乗った皿を差し出した。程よく味が染み込んで美味しそうだ。
「それじゃお先にいただくのじゃ!」
「あっ、抜け駆けは許しませんよ! ほら、雷夢さんも早く食べないと無くなりますよ」
「マジか。ならいただきます」
無くならない内に頬張ってみると、見た目通り味の浸透率が全体的にバランスよく、どんどん胃の中に収まっていく。油っぽさも殆ど無く、胃もたれも心配無さそうだ。食欲が後から際限なく溢れてくる。
「おおっ!? どんどんお腹に入っていくのじゃ!」
「やめられない止まらないですね! ドラッグでも入っているんですかね?」
「ごめん、その台詞で食欲失せたわ」
******
そんなこんなで朝食を終えて学校に行くと、何やら教室が騒がしい。あれか、また転校生が来るパターンか。
「おはよ、雷夢くん」
「おはよう、麗奈。てかなんでこんなに騒がしいの? また転校生でも来るとか?」
「違うわよ。けど、一大イベントがあるのは確かよ」
「……一大イベント?」
「あら、雷夢さんもいらしてたのですね」
その声に呼ばれそちらを向くと、いつの間にか未來が立っていた。
「ん、どうかしたの未來?」
「はい、少し伺いたい事がありまして。明日からの4連休は空いてますか?」
「三連休? 別に空いてるけど……」
何故11月に4連休があるのかというと、今度の月曜は勤労感謝の日で休日、火曜は第2小の創立記念日で休みなのだ。実際は土曜が創立記念日らしいのだが、火曜日に繰り下げたらしい。
「ならよかったです。ではこれを差し上げます」
そう言うと未來は何かを差し出した。受け取って見てみると、どうやら招待状らしい。
それには達筆でこう書かれていた。
<招待状>
貴殿、黒鳥雷夢様を11月22日から4日間の間、フェニックス・アイランドへご招待します。
鳳 未來
「フェニックス…………アイランド?」
聞きなれない地名らしき物に雷夢が首を傾げると、未來は頗る笑顔で告げた。
「フェニックス・アイランド。鳳家が所有する、年中常夏の南の島です!」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.244 )
- 日時: 2013/11/03 20:42
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「南の島ぁ!?」
ちょっと待て。今こいつは南の島を自分の家が所有していると言っていた。恐らく別荘なのだろうが、島単位の別荘を持つとはスケールがでかすぎる。
「でもなんでこんな急に。常夏の島なら12月の方がよかったんじゃないの?」
「いえ。12月は連休が無いうえに、冬休みは年越しの大掃除などで皆さんもお暇がないと思いまして。ですから4連休があるこの時期に皆さんをお誘いしたんです」
要するにクラスの皆の事情を第一に考えた結果なのだろう。雷夢にしてみても、11月に行こうが12月に行こうが変わらない気がするので構わない。
「それでも結構キャンセルされる人が多くて……。招待できたクラスの皆さんのリストがこちらです」
未來はそう言って一枚の紙を差し出した。受け取って見ると、シャーペン書きで男女別に事細かく名前が記されていた。
「えっと、僕ら意外には……。騎士に春夏……千鶴に麗奈……頼音、亮、麗奈、春音……。ってなんで僕が女子の欄に入ってんだおい」
「あら、すみません。後で訂正しておきますね」
「全く……。えっとまだまだいるってことは結構来るんだね」
「ええ。招待するのなら大勢の方が楽しいですし、こんなに集まって本当によかったです! では今夜12時、鳳邸でお待ちしてますね」
最後に元気の詰まった笑顔を見せると、未來は自分の席に戻り穂香と何やら話始めた。きっと打ち合わせでもしているのだろう。
と、その時。雷夢は謎の強烈な視線が自分に注がれているのを全身で感じ取った。
「(な、なんだ今の視線…………っ!?)」
すぐさま辺りを見渡すも、それらしき視線を向ける者は見当たらない。
となると、残すは死角となる真後ろの席−−。
「ふっふっふっ…………。黒鳥雷夢……」
物凄い眼でこちらを睨む白馬騎士(しろうま ないと)がそこにいた。
「のわっ!?」
驚きで椅子から転げ落ちそうになるのを、机と足の踏ん張りを効かせ堪えた。
白馬騎士。やたら古典的な貴族のような立ち振舞いの少年で、時に演劇のような言い回しになりかける喋り方が特徴。別にどうという事はないが、何か上から物を見られている気がするのが否めない。
「な、なんだよ騎士……」
「黒鳥雷夢……。私は機嫌が悪いのだ。理由はそう……お前のその顔だ」
「なにさりげなく悪態ついてんだおい」
「お前のその顔……。いつ見ても、私が愛する大形くんにそっくりなのだ! それが気に食わん!」
「…………ホモか」
「男が男を好きになって何が悪いのだ! 大形くんも私を変な眼で見るだけで、何も嫌がってはない!」
「充分引かれてるぞそれ」
よくもまぁ父も変な奴に好かれたものだ。もしや海外に行ったのはこいつから逃げるためでもあったのではないのだろうか。
「それゆえ、お前が大形くんの子供と知った時にはいい意味で気絶してしまったではないか」
「なっ……!? お前どうしてそれを!?」
瞬間的に雷夢は騎士の顔を部屋の隅に寄せた。何こいつはさらりととんでもないことを口走っているのだ。そもそもどこ情報だそれは。
「今まで黙っていたが、私はクレープという黒魔法使いなのだ。白馬騎士は仮の名前でしかない。お前の出生を調べるのも、『どこでもビデオ魔法』でいくらでも分かる」
「勝手にプライバシーの侵害してんじゃねぇよ」
それにしても、まさか自分達以外にも魔界関係者がクラスにいたとは想像だにしなかった。下手すると他にもいそうで怖い。
「愛しの大形くん……その子供が目の前にいる……。それだけでも私は至福の時を味わえる……」
「お前人間以前に黒魔法使いの階段、数十段踏み外してるよな」
「しかし、私が純粋に愛するのは大形くんただ一人! そこでだ、大形くんの息子であるお前に頼みがある」
「なんだよ」
「お前の父親である大形くんのこの時代の写真を譲ってはくれまいか? 報酬はいくらでも出すが……」
「……悪い予感しかしないけど、それ手に入れてどうするつもりだ?」
「大形くんのその写真をhshsするのだ。寝る前も、起きた後も、休み時間にも……」
「変態退散っ!!」
騎士改めクレープのその言葉が終わりを告げる前に、雷夢の竹串が火を噴き、クレープの意識存続の終わりを告げた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.245 )
- 日時: 2013/10/02 20:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: JK5a7QPr)
ノヴァさんへ
早速クレープを登場させてもらってありがとうございます!
夢見たいです!雷夢くんとのやりとり最高でした!
もし・・・大形くんに出会ったらどうなるんでしょうね・・・(汗)
これからも更新楽しみにしています!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.246 )
- 日時: 2013/10/03 22:20
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
そして、本日のイベントを全てすっ飛ばし放課後。雷夢達を含む招待組は、未來からの今後の日程の説明を受けていた。
「では改めて確認しますね。穂香さん、お願いします」
「はい、お嬢様。今回参加する人数は16人。招待された方々は本日夜12時、学校校門前に集合。その後、皆さまを鳳邸にお連れした後、鳳邸自家用飛行機でフェニックス・アイランドへ直行します。くれぐれも遅れることがないようにお願いします」
「えっと、ごめぇん。質問いいかな? いいよね!」
と、招待組の中から手が上がった。相手の問答を許さない即決自己中の台詞から、上げたのは白鷺一子(しらさぎ いちこ)だろう。
彼女は相手の事を意に介さず問答無用で話を進める、いわば自己中心的な性格の少女だ。しかしどこか憎むことができないうえに、ルックスはクラスで1、2を争う程で、皆から煙たがられているということはない。しかし雷夢に言わせてみれば、どこか母親を感じさせる感覚がしてならなかった。
「なんですか、白鷺さん?」
「えっと、鳳さんの家からフェニックス・アイランドまでどのくらいかかるの?」
「だいたい5〜6時間程ですね。ですから飛行機の中で皆さんには眠っていただいて、朝方に到着する形になります」
「ふぅん、そうなんだ! ありがとね!」
ぶっきらぼうに返事を返すと一子は素早く座ってしまった。こいつには他人を思いやる心はないのか。
「では、他に質問も無いようですのでこれで解散にしましょう。では、今夜12時にまた……」
未來の声で解散が宣言されると、皆そそくさと帰宅の路につき始めた。当然雷夢達も同じだ。
「それじゃ、家帰ったら早速支度始めるぞ。遅れるなんてことがないようにしないと」
「そうですよね、まずは何を持っていきましょうか?」
「えっとまず宿題だろ……?」
「DSはまず確定ですよね! それから着替えにゲームカセットに……そうそう、海と言えば水着ですよね! 後でイシダヤショッピングセンターに買いに行きませんと!」
「おぉっ、それはそうじゃのぅ! 雷夢殿を悩殺できる水着を選ばねば……」
どうやらこいつらは宿題そっちのけで遊び通すつもりらしい。日曜の夜に泣く目にあっても知らんぞ。それとテト。絶対に悩殺されないから覚悟しておけ。
「雷夢殿……。我の水着姿を見て悩殺されないと思ったら大きな間違いじゃぞ」
「何勝手に心を読んでんだ」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.247 )
- 日時: 2013/10/05 08:01
- 名前: ノヴァ (ID: BoToiGlL)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「まさか本当に選びに来るとはな」
「何を言っておる雷夢殿。我とアテナ殿がやると言ってやらなかった事があったかの?」
「確かにそうだけど…………」
ここは皆の集う買い物処、イシダヤショッピングセンター。雷夢はアテナとテトに連れられ、そこの水着売り場にいた。
売り場は至って広く、このフロアの内装の約4分の1が水着で埋め尽くされている程で、全てを見て回るには些か骨が折れそうだ。
ここに来た理由は、テトとアテナが今回の旅行で着る水着を買うためだった。
「おおっ、色んな水着がありますね! どんなのを選びましょうか……」
「雷夢殿、こっちで我と一緒に水着を選んでくれるかの?」
「なんで僕も選ばないといけないんだよ」
「それは雷夢殿に見せる水着じゃから、雷夢殿が選ばないでどうするのじゃ」
なるほど、アテナはともかくテトがここに必要としないはずの雷夢を連れてきたのはそういう魂胆があったのか。つくづく自分にぞっこんな元魔獣だ。
「じゃあ早速なのじゃが、こんなのはどうかのぅ?」
延々と続くハンガーに掛けられた水着の列からテトが引き抜いたのは、黒と白を基調としたフリルの水着だった。別にダメとは言わないが、これでよしという気も起きない。そもそも女性の水着を選べなど産まれて初めてだ。
「あー、うん。いいんじゃないかな?」
「………………」
「………………」
「もっと他の感想はないのかのぅ?」
「ごめん、思い浮かばない」
テトには悪いが本当に感想がないのだ。さっきも言ったが雷夢は女性の水着を選べなど産まれて初めてだ。
と、その時。この場から抜け出す最適の方法が雷夢の脳内に潜望鏡を上げて急速浮上した。
「えっと、あのさテト」
「なんじゃ雷夢殿?」
「僕を本当に悩殺させるなら、僕に選ばせた水着じゃなくて自分で選んだ水着がいいと思うぞ」
「そ、それは何ゆえ……」
「僕が水着選んだら、すでにお前が着る水着を見ちゃってる訳だし、効果が薄くなると思うんだ。だけど僕が見ずにお前が選んだ水着なら、どんなのを選んだのか気になって効果は増えると思うぞ?」
そこそこ効いたようで、テトの眼は感心したように開かれている。この調子なら落とせる。
そう確信した雷夢は、続けてこう告げた。
「お前と海で遊ぶの楽しみにしてるから、もっと僕を楽しませてくれよ」
すると、テトの眼に炎が灯った。どうやらやる気スイッチが入ったらしい。
「雷夢殿がそこまで我の水着姿を楽しみにしているとは…………。ならば雷夢殿、先に帰っていて欲しいのじゃ! 我は雷夢殿を悩殺できる水着を極限まで探し尽くすのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雷夢が二三度瞬きをした時には、テトの姿は既に消え去っていた。少し離れた所にある試着室のカーテンが猛烈な勢いで休むことなく開閉されている様子から、片っ端から水着を試着しているのだろう。なんという気の入れようか。
「アテナー。僕先に帰るから後はよろしくなー」
「あっ、はい、分かりました!」
アテナからの返事が帰ってきたのを確認すると、雷夢は軽やかな足取りでエスカレーターへと足を運んでいった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.248 )
- 日時: 2013/10/05 16:19
- 名前: ゆきだるま (ID: A9v/NWj7)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
南の島ですか…
いいですね!
この終わり方からまた何かがありそうです!
雷夢さんが悩殺されたらかなり…
……………想像しないほうが無難かも…
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.249 )
- 日時: 2013/10/05 17:20
- 名前: モンブラン博士 (ID: EshgQrUZ)
ノヴァさんへ
騎士は間違いなく雷夢くんの水着に悩殺されるでしょうが・・・島に大形くんが来て泳ごうとか言い出したら、彼の運命はどうなるのでしょうか(笑)
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.250 )
- 日時: 2013/11/03 20:47
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
カチャカチャカチャ……。
もぐもぐもぐ……。
全員でテーブルの上の主菜である麻婆豆腐をすくい取りながら、雷夢達はギューリットに今夜からの旅行の件について色々説明していた。
「…………というわけでギューリット、僕達火曜の夜まで帰って来ないから」
「なるほどな……。南の島か、私も行きたかったぜ」
「行きたいんでしたら、未來さんに言えば承諾してくれるかもしれないですよ」
アテナの言う通り、未來の性格からしてギューリットの参加も認めてくれるかもしれない。多分保護者的な位置づけで。
しかし、ギューリットはアテナの提案に対し首を横に振り遠慮の意を示した。
「いや、私もちょっと用事があってどうにも行けそうにないんだよな。南の島はお前らだけで楽しんでこい」
「ううむ、それでは仕方がないのぅ……。ってああっ!? 最後の麻婆豆腐がぁっ!?」
テトがすくい取ろうとした麻婆豆腐を、雷夢はタッチの差で掠め取る。テトのレンゲは虚しく空の容器を右往左往するだけであった。
「こういうのは早い者勝ちだ」
「むぎぎ」
「じゃあ麻婆豆腐も無くなった事ですし、急いで旅行の支度を始めましょうか」
そう言われて時計を見ると、時刻は8時24分。風呂に入って急いで支度をしなければ遅れてしまう。
「ならアテナ、先に風呂に入って。その間に僕達は支度するから」
「了解しました!」
背筋を真っ直ぐ伸ばし右手で敬礼すると、アテナは質量を持った残像が出来んばかりのスピードで二階に駆け上がり、数秒も経たぬ内に風呂の方へとすっ飛んでいった。
雷夢とテトもそれに続き、二階のそれぞれの部屋へと駆けていった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.251 )
- 日時: 2013/10/06 14:10
- 名前: あかり (ID: FBVqmVan)
白鷺一子を、さっそくだしてくれて、ありがとうございます!!
応援してます♪
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.252 )
- 日時: 2013/10/06 22:19
- 名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「あっ、ライム! こっちこっち!」
草木も眠る丑三つ時……ではなく、夜中の11時半。支度を終えた雷夢達が学校を訪れると、校門の前でミカがこちらに手を振っているのが見えた。駆け寄ってみると、どうやらほとんど全員集まっているようだ。
路肩には未來の物と思われる二台のリムジンが待機しており、出発の準備は万端だ。
「えっと……。あと来ていないのはルイスさんだけですね」
「へぇ、ルイスが来てないなんて意外だな」
吸血鬼であるからてっきり夜中であるこの時間の集合は早いと思っていたが、意外にそうでもなかったようだ。
と、頼音が何かを察知した様子で突然星空を見上げた。
「……あっ、来たみたい!」
頼音が指差した方向に視線を凝らすと、無数の蝙蝠がこちらに飛んできていた。面々が驚く中、無数の蝙蝠は一ヶ所に集まり人形を形成していく。そして不意にそれが弾け、中から荷物を持ったルイスが姿を現した。
「呼ばれて飛んでじゃじゃじゃじゃーん!」
謎の台詞を発したルイスは、呆然とする皆を気にも止めず荷物を地面に下ろした。
「…………えっと、これで全員揃いましたね。では、皆さんリムジンに乗ってください。鳳邸までお連れします!」
未來がそう言い終えると同時に、ガチャリと音がしてリムジンの扉が開いた。想像はしていたが、かなり内装は豪華で、至る所が金メッキで輝いている。いや、もしかすると本物の金なのかもしれない。
「それじゃ僕もっておわっ!?」
がし。
リムジンに乗り込もうと雷夢が荷物を持ち上げた瞬間、右腕に麗奈がしがみついてきた。
「雷夢くん、まさか恋人と一緒に乗らないってことないわよね?」
「だから、まだ恋人じゃないって!」
「あっ、麗奈殿ずるいのじゃ! 我も雷夢殿の隣がよい!」
「こらっ、テトもくっつくな!」
これで雷夢は両脇を二人の女子に挟まれたことになる。普通ならこんなシチュエーションは願ってもない物だが、その理屈は今の雷夢には当てはまらなかった。
「なによ! あんたは家でいつも雷夢くんにくっついてるんでしょ! だったら離れなさいよ!」
「それとこれとは話が別じゃ! 麗奈殿こそ離れるのじゃ!」
「お前らいい加減にせんと車乗れないんだが」
低い声で睨みをきかせてやると、二人は渋々雷夢から離れた。しかしリムジンに乗り込んだ途端、またくっついてきた。どうしよう、竹串を刺しておいた方がいいだろうか。
と、全員が乗ったのを確認したのか未來が乗り込んできた。
「では皆さん乗り込んだようですので、鳳邸へと出発いたします」
未來が運転手のメイドに合図すると、リムジンは静かなエンジン音を立てて走り出した。窓の外に映る夜中の町がなんとも言えない雰囲気で、謎の新鮮さを感じられずにはいられない。
いつまでもそんな風景を眺めていたかったがそうともいかず、十数分もすると鳳邸に到着した。
しかしリムジンが止まったのは、以前一騒動あった屋敷ではなくその先。中庭の更に向こうのエリアだった。
そこに広がっていたのは、二本の滑走路。そしてそこには二機の小型ジェット旅客機が並んでいた。
リムジンは滑走路に侵入すると、旅客機の後方で停止した。それに伴い雷夢達も荷物を持参しながら下車する。
「これから皆さんはこちらの鳳邸自家用小型ジェット旅客機、略して鳳邸ジェット機に乗っていただきフェニックス・アイランドに向かいます。トイレなども完備しておりますからご安心ください。穂香さん、皆さんに中の案内をしてくださるかしら?」
「もとよりそのつもりでございます、お嬢様。では皆様、こちらにどうぞ」
穂香の先導に付いてタラップを上がると、これまた豪華な機内が眼に飛び込んできた。椅子は基本の三連タイプだが、前後の感覚が広く取られており、どうやらリクライニングシートのようだ。しかもシートの質感が半端なく、限界まで倒せば最高級のベッドとして扱えそうだ。床も赤い高級そうなカーペットが敷き詰められており、気品の良さを引き立てている。
「荷物はメイド達が保管しにいきますのでどうぞお預けください。では、そろそろ離陸しますので、皆様お座りになってシートベルトをお付けになってください」
穂香の注意に従い、雷夢は近くの適当な席に座った。当然りょうにはテトと麗奈が座る。
と、不意に身体がシートに押さえつけられる感覚に囚われた。恐らく離陸の為機体が加速しているのだろう。その状態がしばらく続いた後、身体の自由が取り戻される。
「では、皆さん。フェニックス・アイランド到着は、明日の午前7時の予定です。それまでゆっくりお休みになってください」
そう告げると、未來は中央に一つ配置されたシートに座り眠り始めた。
「じゃあ、僕達も寝るか……」
雷夢はシートに設置された毛布を取り出すと、シートを倒して横になった。察しの通りテトと麗奈も同様だ。
「それなら……お休み前の…………すぅ……」
「わ……我も……お休み前の…………ふにゃ……」
どうやら二人とも睡魔が限界に達したらしく、少女らしい寝息をたてながら眠っていた。
雷夢もそろそろ限界が来たようで、意識のシャッターが一方的に閉じていく。そうして、雷夢は深い眠りの底へと落ちていった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.253 )
- 日時: 2013/10/08 22:00
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
ミャア……ミャア……ミャア……。
見上げれば広がる青い空には、美しい白雲と優雅に舞うウミネコ。
ザザーン……ザザァ…………。
目前を多い尽くすは、汚れ一つない白い砂浜に、透き通る命の源を蓄えた海。
文句なしの最高級リゾートだ。
『すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
そこに響き渡るのは、鳳邸ジェット機から降り立った雷夢達総勢16名の大合唱。
まさかここまでの豪華さだとは雷夢も想像していなかった。
「すごい! すごすぎますよこれは!」
「本当! 今すぐにでも泳ぎたい!」
アテナと頼音を始め多くの女子が騒ぎ立てる中、未來が全員の前に歩み出てきた。
「皆さん、大変お疲れ様でした。ここが鳳家が所有するプライベートアイランド、フェニックス・アイランドです! 穂香さん、皆さんに島の地図を」
「了解しました、お嬢様」
そう命ぜられた穂香は、皆に一枚の紙を渡していく。雷夢も受け取ってみると、未來が言った通りこの島の地図らしく、島の詳細が事細かく記されていた。
「では、今から鳳家の別荘にご案内いたします。皆さんにはこれから三日間、そこで過ごしていただくことになります。それではこちらに」
未來と穂香の先導の下、雷夢達は別荘とやらを目指し歩き始めた。
しかし、それにしても暑い。年中常夏というのは本当のようで、着ている服の袖を捲し上げても一向に涼しくならない。皆も同じようで、手で顔を扇いだり服の内部に風を送っている姿が目についた。
特にテトは黒っぽい服を着ているせいか、一層暑く感じるらしく、
「ら、雷夢殿…………。物凄く……暑いのじゃ…………」
顔や手足から怒濤のように汗が流れ落ちていた。
「おい、大丈夫かテト? ほれ、水」
「か、かたじけない…………。ごくごくごく…………」
雷夢が差し出した緑茶を遠慮なく煽り、テトは自身の喉を潤していく。そうしてテトから返却されたペットボトルの容器は水の一滴も残されていなかった。別荘に着いたら補給せねば。
と、今まで歩いてきた森伝いの道が突然開けた。
そして、そこに広がっていたのは。
豪華ホテルと見間違うかもしれぬ大きさと敷地を持つ、鳳家の別荘だった。
******
「ひょえぇ……。物凄く広いのぅ……」
第二小の校庭ほどもある中庭を抜け別荘の入り口に入ると、そこはまさしくホテルのようなロビーだった。しかし一般的なそれと根本的に違うのはその広さ。外国の超高級ホテル級はある。二階に続く階段は眩いばかりの装飾が施されており、鳳家の財力が楽に窺えた。
「では、こちらで決めた部屋割りにしたがってそれぞれの部屋に荷物を置いてきてください。二階の向かって左側が皆さんが泊まるエリアです」
未來はポケットから紙を一枚取り出すと、部屋割りを発表し始めた。
「尾丘さん、秋冬さん、久米島さん、上尾さんは一番奥の部屋ですね」
「では、鍵をお渡しします」
いつの間に用意したのか、穂香の手には4つの鍵が乗った盆があり、それを今呼ばれた四人に手渡していく。
「ああ、どんな部屋か楽しみ!」
「うぉぉぉぉっ! 部屋が私達を待ってるぜぇ!」
「インターネットは繋がるよな……?」
「急いで医療品のチェックしなくちゃ!」
四人はそれぞれ鍵を受け取ると、自分達の部屋へ向かい階段を上がっていった。
「続いて、花形さん、ルイスさん、春音さん、白鷺さんはその手前の部屋ですね」
呼ばれた四人は先程と同じく鍵を受け取り部屋へと向かう。
「白馬さん、釣木さん、鈴木さん、アテナさんはその手前の部屋です」
呼ばれた以後の行動は以下同文。
「最後に、雷夢さん、テトさん、月闇さん、津出さんが一番手前の部屋ですね」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.254 )
- 日時: 2013/10/09 16:58
- 名前: ゆきだるま (ID: A9v/NWj7)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
アテナさんと一緒の部屋になった(なってしまった)
鈴木大輝の心の声
(アテナさんは怒ったらすごく怖そう…怒らせないようにおとなしく『倍返し!』とか『じぇじぇじぇ!』のドラマのテーマ曲を耳コピしていよう…)
かなり警戒しているようです(笑)
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.255 )
- 日時: 2013/10/09 22:39
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「おおっ、雷夢殿と同じ部屋なのじゃ!」
「何か裏で示し合わせている気がするのは僕だけか?」
「なんのことでしょうか? では鍵をどうぞ」
穂香が差し出した鍵を受け取ると、雷夢達はそれぞれの荷物を持って部屋へと向かった。
階段を上がりきると、現れたのは全面ガラス張りの渡り廊下。遮光の措置なのか上部のガラスは黒っぽい色をしており、事実暑さはほとんど感じなかった。
「えっと、一番手前だから……。あっ、ここか」
早速、鍵を開けて中に入ってみると、そこは今までとは別の意味で別世界だった。
まず眼を引いたのは、壁の窪みにぴったり設置された大画面テレビ。明らかに市販されている物の中では最高クラスのインチ数だろう。
そしてその前方には、見慣れない質感のテーブルと椅子。少なくとも一般の家庭で使われるような代物では無いことは分かる。
「……すごい。このテーブルと椅子、全部クルミ製」
椅子とテーブルをまじまじと見つめ呟くのは、月闇クロ。無口な性格であるが、かなり知的な少女だ。ロングの銀髪に深紅の眼から外国人のハーフと噂されるが、実際の所は詳細不明である。何でも、普段は情報屋をしているとか。
「え、クルミって高いの?」
「……もちろん。クルミは実から想像出来る通り木本体も強度が尋常じゃない。アメリカの小学校であったイベントの代金の代替として使われた事例もある」
雷夢的には余談よりもその余談の出所が知りたい。アメリカの小学校の事などどうやって知ったのだろうか。
「おおっ、こっちはテラスがあるのじゃ!」
顔を向けると、シルクらしき純白のカーテンを全開にしたテトが窓を開けてテラスへと出ていた。外に出てみると、こちら側から建物の端まで延々とテラスが続いている。クロ曰くこのテラスもクルミ製らしい。
「トイレに洗面所に冷暖房、ソファーにシャワー室……。どんだけ豪華なのよこの別荘……」
「ってこっちには天涯付きベッドまであるのじゃ!」
それぞれの説明が億劫になってしまう程の設備。仮にホテルとして使えば、そこらの宿泊額を大きく上回るだろう。そんな部屋を不特定多数所持する鳳家の総資産はいったい如何程なのだろうか。
『あーあー。テステス』
と、不意にどこからともなく未來の声が流れ始めた。見渡してみると、天井にスプリンクラーと共に装備された小型スピーカーから発されているらしい。
『皆さん、荷物と部屋の間取りの確認が済みましたら、朝食の用意が出来ましたので先程集まった一階ロビーに集まってください。食堂へとご案内します』
「……よかった。ちょうどお腹も空いていた」
「じゃ、急いで行こうか。行くぞテト……」
テトを呼ぼうとベッドの方を向いた途端、雷夢の言葉が職務放棄した。
「にゃあ……。らいむどにょぉ…………すー……すー」
ベッドに横たわり、よだれを垂らして豪快に寝ているテトがそこにいた。
「おーきーろーっ!!」
クロにも手伝ってもらい、テトの両手両足を固定。それぞれの片足で背骨を長押し、強引に海老反りにする。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!? お、起きるから早くその技を止めるのじゃ!!」
どうやら眼を覚ましたようなので、雷夢は背骨クラッシュを解除してやった。いつでもどこでも寝られるというのは、やはり猫要素が強い印なのだろうか。
「よし、今度こそ飯食いに行くぞ」
「おかしいのぅ……。眠気なぞ全くなかったはずなのじゃが……」
「……貧血で気を失ったのかも知れない。……あとで愛から薬をもらってくるから飲むといい」
そんな会話を交えながら、雷夢達は足早にロビーへと向かっていった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.256 )
- 日時: 2013/10/12 22:32
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
『いっただきまーす!!』
100人やって来ても大丈夫そうな程巨大な食堂に、合掌と合唱が響き渡る。
第一回目の朝食は、形容できない程豪華なバイキングだった。
普通なら精々数十品がいいところの料理の数が、こちらは明らかに100を越えている。その料理も幅が広く、汁物は味噌汁からフカヒレスープ。主菜も鮭の塩焼きから世界三大珍味まで揃えてあった。
豪華料理のバーゲンセールかここは。
ちなみに雷夢の皿にはサンドイッチと鶏飯と丼、中華スープが乗っている。
「このTKG海苔巻き、テラ上手いのじゃ!」
器用に箸を使い作り上げた卵かけご飯海苔巻きを口に放り込むテト。こんなに豪華なのだから少しはお高いのを食えばいいのに、何故に庶民的な料理なのだ。あれか、もったいなくて食えないのか。
「雷夢殿はわかっておらんのぅ。料理は人一食分の価値しかなく、それ以上にもそれ以下にもならんのじゃ。よって、我にはこれでぴったりなのじゃ」
言ってる意味が正しいのか不明だが、テトもたまには良いことを言うではないか。
「さて、今度はフカヒレスープでも食べてみるかのぅ」
前言撤回。
なにこいつは自分で口走った名言を自分で撃墜するのだろうか。例えるならせっかくできた立派な木造建築の家に木の棒を一本突き刺して跡形もなく壊すような。
「ここの料理おいしーっ!! いくらでも入っちゃう!」
頼音も天井高く積み上げられた料理を片っ端から食いまくっていた。どうでもいいがあの料理はどうやって皿に盛ったのだろうか。一番上の方にある目玉焼きなど放り投げても届きそうにもない。
それに加え、とてもあの量の料理が頼音の腹に収まるとは到底思えない。まさかマッハ5で動き回る宇宙人のように食ったそばから怒濤のように消化しているのか。
取りあえずは第六感でそれほど腹が減っていると解釈したい。
「皆さん、鳳邸別荘の朝食はお口に合いましたでしょうか?」
と、未來が食堂の中央に立ちマイクを持って話始めた。
「食事が終わりましたら、各自自由に過ごしてもらって構いません。もちろん、監視役のメイドもいますから海で泳いでもよろしいです」
『おぉーーーーっ!!』
瞬間、雷夢達から歓声が沸き起こった。
「雷夢殿雷夢殿、海で我と一緒に遊ぶのじゃ!」
「だめ、雷夢くんは私と遊ぶの! いいわよね、雷夢くん?」
「ああ、もう一緒に遊んでやるから勘弁しろ!」
こっちではテトと麗奈が雷夢に言い寄り。
「ここにはどんな魚がいるのかたのしみだべ!」
「黒鳥雷夢の水着姿…………。溢れる涙が止まらない………………っ!」
「アホ毛のピンピン、止まらないよ! 天気の崩れる恐れは無し!」
「うん、楽しそうだ……」
あっちでは様々なキャラが織り成す謎の台詞が連発されている。
どうも海水浴は一筋縄ではいかなそうな気がする。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.257 )
- 日時: 2013/10/13 12:12
- 名前: くもくも (ID: LV9Enekb)
春夏が少し出ましたね。
早速お天気を調べていて、つい笑ってしまいました。この際、アホ毛の天気予報の仕方をお知らせします。
アホ毛が横に倒れた=向かって右なら嵐、左は雪。
前の場合=曇りが続くけど、雨にはならない
後ろの場合=超常現象が起こりやすいが、魔法でどうにかなる程度
ピンピンが止まらない=天気の崩れるおそれはなし。
ぐるぐる回って落ち着かない=魔法では防ぎようがない超常現象。回るのが早いほど到達する時間が早い。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.258 )
- 日時: 2013/10/18 19:39
- 名前: 濃すぎる緑茶 (ID: A9v/NWj7)
中間テストかなんかで更新中止してるんだね
でもそういうことは親記事かなんかで
お知らせしておいた方がいいよ。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.259 )
- 日時: 2013/10/18 20:02
- 名前: ノヴァ (ID: N.hBywMC)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
すいません、濃すぎる緑茶様のおっしゃる通り、ただいま中間テスト期間のまっただ中で更新ができない状況にあります。
一段落したら、また更新を再開します。
報告が遅れた事を、深く御詫び申し上げますm(__)m
ノヴァ
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.260 )
- 日時: 2013/10/24 19:06
- 名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
一食数千円相当の朝食を平らげた雷夢達は、水着に着替える為一旦部屋に戻ってきていた。食後30分以内の激しい運動は控えた方がいいと世間では言うので、しばらくは時間を潰すのが妥当だろう。
「早速水着に着替えねば! いくら部屋で時間を潰したとて、この我の悩殺願望を止めることはできぬぅっ!!」
「ちょっと、何勝手なこと抜かしてるのよ! 雷夢くんを悩殺するのはこの私よ! あんたは雷夢くんを悩殺出来ないまま海の藻屑となればいいわ!」
「そうかのぅ……? やってみなければわからぬ!」
もっとも傍らで騒ぎ立てるこいつらは最初からそんな気は無いようだが。それと雷夢の悩殺について言い争っている様子だが、そっちがその気ならこっちは悩殺されないように心の整理をするまでだ。敗れたりテト、麗奈。
「……これは興味深い」
部屋の端のベッドを見ると、クロは何かを呟きながらスマホの画面をスライドさせていた。
「何見てんのクロ?」
「……ネットニュースで情報収集をしてたら、こんな記事があった」
クロがこちらにスマホの画面を向けたので、雷夢はそれを覗き込んでみた。
「えっと、なになに……? 『大西洋で謎の巨大イカが目撃される』ってなんだこれ」
記事を細かく読んでみると、スペイン沖の海域で全長数十メートルに達する巨大イカが目撃されたとのことだった。胡散臭いことこの上無い。
「……帰ったら三日国くんにこの情報を売る。彼、この手の情報をいい値で買ってくれる」
「情報を水商売で売ってんじゃねぇよ」
しかし情報を売るクロもクロだが、そんな情報に簡単に食らいつく優馬もどうかと思う。いつか絶対その手の詐欺で大コケするタイプだ。
「……黒鳥くん。情報屋はそんなもん」
「お前将来パパラッチで生計立ててそうだな」
「……そんな俗な事はしない。魔界で悪魔情を越える情報屋になるのが私の夢」
「よしちょっと顔貸して」
何気なく放たれた言葉のICBMを見逃さず、雷夢は瞬間的にクロを部屋の隅に連れ込んだ。
「おいちょっと待て。魔界とか悪魔情とか知ってるって、お前何者だよ」
「……貴方、インストラクターにゲイジング習ってないの? 私、こう見えても黒魔女」
威圧感を乗せた雷夢の質問に、クロは顔色一つ変えず平然と答えた。
しかし、まだクラスに魔界関係者がいたとは想像だにしていなかった。このままいくとクラスの半分が魔界関係者でした、なんてことになりそうで怖い。
「……私、貴方よりは黒魔法の腕は上で、更に先輩。困ったことがあったらいつでも聞くといい。ただし呪文に限る」
「呪文以前に黒魔法ドリルを教えてくれれば心強いんだけど……」
「……黒魔法ドリルは専門外。呪文なら無問題だけど」
どうやら知識に斑のある先輩らしかった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照7千突破!】 ( No.261 )
- 日時: 2013/10/29 20:47
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「で、お前が黒魔女ってことアテナとテトには話したのか?」
「……二人にはここに着く直前に飛行機の中でカミングアウト済み。二人とも驚いていたけど納得してくれた」
「なるほど、ならよかった」
溜め息を一つ吐くと、雷夢はリモコンを手に取りテレビの電源を入れた。左上の時刻表示は8時30分。土曜のこの時間帯のアニメは教育テレビ以外に放送されていないので、仕方なくチャンネルをニュースをやっているものに切り替えた。
「うーん…………。あまり面白そうなニュースはやってないか」
チャンネルを幾度変えれど、やっているニュースは政事や経済、株の値動き等、雷夢にはほとんど得のないものばかり。つまらない、面白くない。
テレビでの暇潰しを諦め、今度はス魔ホを手に取ってみる。画面を待機状態から復活させ、ホーム画面右下に配置した竜の顔をしたアプリをタップする。何でも少し前にユーザーが800万を越したとかで話題になっているソーシャルカードゲームで、雷夢もス魔ホをもらってすぐやってみたのだ。
レベル上げの発展途上なので、これならいい暇潰しになるかもとそこそこの期待を持っていた。
『ただいま、メンテナンス中でございます』
ゲーム内のアドバイザーキャラの無慈悲な声が期待を打ち砕いた。
何故にこのタイミングでメンテナンスが入るのだ。普通なら明け方や昼過ぎだろう。
思いっきり床にス魔ホを叩きつけようとする衝動を抑え込み、雷夢は鞄の中から水着を引っ張り出した。こうなれば時間をかけて水着に着替えるまでだ。
そう決心した雷夢は、着替えの為シャワー室の扉を開いた。
素っ裸のテトがいた。
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 雷夢殿の変態っ!!」
がす。
「がでっさっ!?」
テトの放り投げたドライヤーが雷夢の顔面にクリーンヒットした。
「雷夢殿! 我の着替えを覗くなど言語道断、コンゴ横断、畜生の極み!!」
「着替えてるなら一言言えよ! てかお前は早く身体隠せ!」
羞恥心の欠片も無く仁王立ちでこちらを睨み付けるテトに、雷夢は目をあさっての方に逸らしつつ健全な青少年の為に忠告した。幸いにもシャワー室の窓から入る風で靡いたカーテンでテトの身体の大部分がシークレットだけで済んだ。カーテンフィルター万歳。
「雷夢殿の女装強要拒否権なーし」
「ちょい待ておい!」
雷夢にとって悪魔のような言葉を発したテトは、側のボックスに入っていたタオルで身体を隠した。まずい、これは今回の旅行で雷夢が女装させられるイベントが起きるフラグでは無いだろうか。
「ああもうっ! 僕も水着に着替えたいから、早く着替え……。あっ、トイレ使えばいいか」
「トイレは麗奈殿が着替えに使っておるから使えぬぞ」
危なかった。テトの忠告がなければ、麗奈に何を仕出かされていたか分からない。こうなると着替えに使えるのは、リビング及び雷夢達がいるベッドルームしか無くなる。
「……黒鳥くん。残念だけど私はここで着替える」
雷夢の着替え場所はリビングに決まった。
本日二度目となる溜め息を吐きながら、雷夢はリビングに通じるドアを潜り抜けていった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照8千突破!】 ( No.262 )
- 日時: 2013/10/28 21:37
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「よし、着替え完了っと」
水着への着替えを済ませた雷夢は、大きめのパーカーを羽織りタオル等の荷支度を始めた。羽織ったパーカーは勿論日焼け防止の物であり、色も日光を吸収しにくい白を基調としているため、陽射しに対し絶大な防御力を展開可能だ。日焼けで満足に遊べないなんて事がないように、念を入れて日焼け止めも塗っておいた。結局は泳げば海水で洗い流されてしまうのだが。
『ぐ…………っ! まさかあんたがそんな水着を着るなんて……。正直見くびっていたわ』
と、ドア越しにベッドルームから麗奈達の声が聞こえてきた。
『ふっふっふ…………。これで我が雷夢殿を悩殺するのはほぼ確定のようじゃな』
『まだよ、まだ終わらないわ! あんたのそんな貧相な水着より、私の水着の方が雷夢くんを悩殺するに決まってる!』
『洞窟の件では雷夢殿の足を引っ張る事しか出来なかった麗奈殿に何が出来たか! 常に雷夢殿を動かしてきたのは、一握りの恋人の我じゃ!』
『自分勝手な解釈をするんじゃないわよ!』
ここまでの会話を聞く限り、やはり雷夢の悩殺の件で揉めているようだ。これでもかというほど悩殺されないように気を引きしめておいた。
「おーいテト。お前ら着替え終わったなら早く行くぞ」
『あっ、雷夢殿は先に行っててほしいのじゃ』
意外な返事が返ってきた。てっきり水着姿を見せつけるため出てくるかと思ったのだが。いや、別に二人の水着を見たいとかそういう訳ではない。
『水着を部屋で見せてどうすんのよ! 水着が一番輝くのは海! これは鉄則でしょ!』
「知らんわそんな鉄則」
だがしかし、麗奈の言うことも一理ある。水着を着るのはプールや海なわけであって、部屋の中で過ごす為に着るものでは決してない。つまりは部屋の中で自分達の水着姿を見せるよりも、海で見せた方が魅せられるという事らしい。今上手いこと言った。
「じゃあ、僕は先に行ってるから。ちゃんと日焼け対策しとけよ」
そう言い残して、雷夢は自分達の部屋を後にした。
******
「…………あっ、アテナちゃん? 千代子だけど……」
今あたしはギュービッドに魔界携帯電話を借りてアテナちゃんと電話中。初めて掛けて見たけど繋がってよかったよ。連絡用にってわざわざ家まで来て電話番号とメアドを教えてくれるなんて、アテナちゃんどんだけ優しいんだろう。
まぁ、せっかく教えてくれた電話番号で話すのはギュービッドの修行に対する愚痴なんですが。
『あれ、千代子さんどうしたんですか?』
「うん。せっかく電話番号教えてもらったから、ちょっと話して見たいなって」
『あー……。すいません、せっかく掛けてもらったのに申し訳ないんですけど、私達、今から海に泳ぎにいく予定なので……』
えっ、海? 今は11月半ばの冬。なのに海で泳ぐって、寒中水泳大会でもやってるの?
『違いますよ。鳳さんがクラスの都合のついた人達を自分の家のプライベートアイランドに連れてきてくれてるんですよ。もう、そちらとは季節が正反対で。南の島ですし、皆で泳ごうって事になったんです』
へぇ、南の島かぁ…………。アテナちゃんが羨ましいよ。
『あっ、みんなが呼んでますので失礼しますね! お電話嬉しかったです!』
「うん、それじゃあね!」
私がそう言うと、アテナちゃんとの通話は切れた。
「いいこと聞いたねぇ」
「南の島なんて贅沢だねぇ」
むっ、そのアニメ声……。
やっぱり大形くん! てか、いつの間に私の部屋に!?
「黒鳥さんは電話に夢中だったから気づかないのも無理はないねぇ」
「それよりも雷夢くんも南の島にいるなら、是非会っておかなきゃねぇ」
えっ、大形くんどうやって南の島に行くつもり? まさかぬいぐるみ取って瞬間移動魔法使う気!?
「大丈夫だねぇ。ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけだからねぇ」
「帰ってきたらすぐぬいぐるみは着けるねぇ」
そんな事言っても駄目! 大形くんの事は桃花ちゃんにしっかり見てもらって……。ってあれ、大形くんがいない!?
ちょっ、大変! 桃花ちゃーんっ!!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照8千突破!】 ( No.263 )
- 日時: 2013/11/03 19:00
- 名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
別荘を出て中庭を歩き続けること1〜2分。雷夢の目の前に広がるのは、広大な砂浜と果ての無い大海原に続く浅瀬の海。
砂浜は一片の汚れもなく、かといって銀世界ほど白くない美しさ。これ以上に形容できる言葉が見つからないのが残念だ。自分の語彙力の無さに腹が立つ。
海は透き通るような透明度に、サファイアを彷彿とさせる蒼がダイヤモンドのように輝いて、幻想的な風景を作り出している。
こんな形でしか表現のしようがない。
そんな光景が視界の端から端まで続いている。
「あっ、ライム! こっちこっち〜っ!」
その中で、こちらに向かって手を振る人影があった。若干の距離があるため近づいて目を凝らすと、それは水着姿のミカとその同室のメンバーだった。ミカが身に付けているのは、茶色のワンピースタイプの水着。オオカミっ娘なので、茶色の水着のチョイスは正解かもしれない。
「あっ、ミカ達の方が早かったんだ。……他には誰か来てないの?」
「ああ、それなら釣木くんがさっき釣り道具もって岩場に向かってったよ」
「やっぱ釣木は泳ぐよりも釣りなんだな」
釣木千鶴(つりき ちづる)は根っからの釣り好き少年であり、暇さえあれば落合川や電車を乗り継いで海釣りまでしているという。なんでも、父親が釣り堀、母親が釣具店、祖父が釣り船の船長という特殊な周囲の影響らしい。その腕前は大人顔負けで、夏休みにたった一人でカジキを釣り上げたとか。化け物か。
「あっ、ほらあそこ!」
ミカが指差したのは、砂浜の絶景を壊さない絶妙な位置に広がる岩場。その先の方で、日焼け対策万全の千鶴が竿を振っているのが見えた。釣糸がまっすぐ下に垂れているということは、カサゴでも狙っているのだろうか。
「あれ、そう言えばテトちゃんと麗奈ちゃんは? 一緒じゃなかったの?」
「あの二人は海で水着見せるために後から来るって。別に海で見せられようが部屋で見せられようが悩殺はされないけどね」
「ふぅん……。ま、悩殺されてもされなくても、ちゃんと感想はいってあげなよ。そうしてあげないと、彼女二人が傷つくよ」
あの二人と恋人関係になった覚えはさらさら無いのだが、折角のアドバイスなので取り合えず頷いておいた。
と、何故かミカがオオカミ耳を出してピコピコ動かし始めた。
「……あれ? なんか…………聞こえない?」
「ん、そうか?」
試しに雷夢も耳を澄ましてみるが、波の打ち寄せる音以外は何も聴こえないーーいや、何か聴こえる。
どどどどどどど………………。
遠くから何かが走るような音が聴こえてくる。それも半端な勢いではない。
どどどどどどどどどどどどどどどど…………!!
しかも徐々に音が大きくなっている感覚がしてきた。聴覚の誤作動でなければ、それはこちらに何かが近づいて来ているということに他ならない。
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!
「…………ぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉっ……!」
音の聴こえてくる方に目を向けると、謎の砂ぼこりが大量に舞い、その前方を誰かがこちらに向かって走ってくる。その勢いは雷夢の予想通り半端では無く、腕や脚が早く動きすぎて質量を持っていそうな残像を作り出し、手足が複数本生えているように見えるほどだ。
その人影が近づいて来るにつれ、こちらに向かって来る人物が誰なのかが明瞭に見えてくる。やがて、雷夢はその人物が誰なのか認識するに至った。
「うぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉうぉっ!! rrrrrrrぅぁいむくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
クレープという名の変態だった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照8千突破!】 ( No.264 )
- 日時: 2013/11/05 23:30
- 名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「よいしょっと」
今の状態のクレープに関わるとろくなことが無い事を察した雷夢は、透かさず中腰の状態で両手両足を大きく広げ、クレープと相対した。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? 雷夢くん、この私の為に水着姿で抱き締めてくれるというのか! よろしい、ならば私も雷夢くんの思いに答えてやろうではないか! 雷夢くんの圧倒的な性能に心を奪われ、やがて憎しみとなりそして宿命と成り果てんばかりの私のこの愛、全て受けとれぇぇぇぇぇぇぇえんとりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「そい」
無防備にクレープが自分の胸元に飛び込んで来た瞬間、広げた両手で脇腹を固定。同時に身体の重心を後方にずらし自らの身体を傾けさせ、カタパルトの如くクレープの突進の威力を背後に受け流す。そしてそのまま、投げっぱなしジャーマンの要領で抱え込んだ変態を人間魚雷として打ち出した。
その圧倒的な加速力で打ち出されたクレープは、遥か彼方の沖合いに着弾した模様。
腐っても黒魔法使いだ。どうせ無事だろう。
「よし、じゃあテト達が来るまで遊ぼうか」
「う、うん……。そだね」
たった今起きた出来事を無かったことにする適応機制を即座に発動させ、何気無い雰囲気で、雷夢はミカに向き合う。若干戸惑った様子を見せていたミカであったが、それも数秒後には鳴りを潜めていた。
「なら、ビーチなら定番のビーチバレーでもする?」
「おっ、いいねそれ」
「よし、じゃあみんなでビーチバレーしよっ! 春夏ちゃん、久米島くん、愛ちゃん! 一緒にビーチバレーやらない?」
「ビーチバレー!? やるやるっ!」
「あっ、ちょっと待ってよ春夏ちゃん!」
「ビーチバレー…………か。ま、暇潰しにはちょうどいいか」
ミカのお呼びがかかるや否や、愛と一緒に水をかけあって遊んでいた春夏は愛の手を取って駆け出し、亮は手にしていたタブレット端末を傍らに置いていたバッグにしまい込むと、こちらへ向かって歩き始めた。
ちなみに春夏はチューブトップにボーイズレッグ、愛は紺のワンピースタイプのにエプロンを付けた独特の水着だった。例によって愛は背中に巨大注射器を装備している。あんなのを常時着けていて重くないのだろうか。
「亮もビーチバレーとかしたりするんだね」
「さすがにタブレットいじってばかりじゃ駄目だしな。運動しないと身体に毒だ」
「やっぱそうだよな。……よし! じゃあ早速いくぞ、春夏!」
亮との会話を終わらせると、雷夢は足下に転がっていたビーチボールを春夏目掛けて放り投げた。
「おっ、最初は私か! それっ、久米島!」
「今度は俺か……。ほれ、尾丘」
「えっ、私!?」
どうやら自分にボールが飛んでくるのが予想出来なかったらしく、激しく動揺しながらミカはボールを打ち返す。が、当然の如くボールは明後日の方向に飛んでいき、砂浜に落下ーー
「ていっ!」
しなかった。
突然、空中に黒い影が舞い、ボールにオーバーヘッドの一撃。その一撃にて放たれたボールは、誰も反応出来ないスピードで砂浜に着弾した。
「ふぅ……。なかなか気持ちのよい一撃じゃったのぅ」
空中で数回転した後着地したその影は、聞き慣れた口調で腰に手を当てて呟いた。
その影の頭部には愛玩さを感じさせる猫耳。目線を下にずらすと、そこにはしなやかにこちらを誘うような動きの尻尾。
ーー間違いない。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.265 )
- 日時: 2013/11/12 20:07
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「待たせたのぅ、雷夢殿っ!」
くるりとその場で身を翻したその姿は、間違いなくテトだった。
ただ、いつもと違うのはその姿。その身に纏っているのは、黒と白が見事に調和したフリルの水着。よく見ると、足には黒いニーハイの踝から先がないやつを履いている。日焼け防止なのか色気を醸し出すのかは定かではないが。
「テ……テト?」
「どうかのぅ、我が選びに選んだ水着は?」
テトがこちらの顔を見つめながら近づくたび、雷夢は頬が熱くなっていくのを感じ取った。
まずい、可愛い。
絶対に悩殺されないと心に決めていたはずなのに、現在の雷夢のテトに対する好感度メーターは針が振り切れる一歩手前まで来ていた。もしここでテトが何かを仕掛けてくれば、確実に雷夢は悩殺されてしまう自信があった。
そう思いふとテトの様子を伺うと、何やら身体を小刻みに震えさせている。まるで何かを我慢するかのような。
「ら……雷夢殿…………」
「ん、どうしたテト?」
が、雷夢の問いに答えることなく、テトは身体の小刻みを維持しつつその場にしゃがみ始めた。
「も………………」
「も?」
「もう我慢できぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「えっ、ちょっ!?」
突如謎の雄叫びをあげたテトは、目視出来ない程の速度の人間魚雷となり雷夢に抱きついた。
瞬間、雷夢のテトに対する好感度メーターが限界を突破しそうになったが、気合いと根性と少々の何かで針が振り切れる数ミリ手前で持ちこたえた。だが、それも長くは続きそうにもない。なんとか離れようと押し退けようとするも、テトは鉄にくっついたネオジム磁石のように離れる様子は無さそうだ。。
「雷夢殿雷夢殿雷夢殿雷夢殿っ!! もう二度と離したくないのじゃっ!!」
「お、おいこらっ! いい加減離れろっ! そもそもこんなことしてたら、麗奈がただじゃすまないぞ!」
そう、雷夢のもう一人の仮恋人、麗奈。テトとは同時に恋のライバルでもある彼女がこの場面を見れば、嫉妬のあまりあの手この手を使ってテトに反撃するに違いないはずだ。
だが、その雷夢の思惑に対しテトは口の端を少しばかり歪めて微笑んだ。
「麗奈殿に頼ろうとしても無駄じゃ……。さっき隙をみてベッドカバーにくるんで縛り付けて来たからのぅ」
「お前一体何やってんだ!?」
「これで雷夢殿と二人っきり……。さぁ雷夢殿、我と一緒にきらめく海へぁっ……!?」
その時、テトが突然顔を朱に染めその場にへなへなと座り込んだ。
「あんたの『ここ』が弱いのは知ってるのよ」
その後ろには、テトの尻尾を怒りと嫉妬の形相で掴む麗奈の姿。その身には紫のセパレートの水着。腰には黄色のパレオを巻いていた。
しかし、今の麗奈はそんな可愛らしい格好からは想像もつかない怒りがオーラとして滲み出ている。
「れ……れいな…………どにょ……?」
「あんた、よくも雷夢くんを独り占めにしようと……っ! しかも私をベッドカバーで身動き取れないように…………許さない……っ!!」
「わ…………わかったのじゃ……れいなどの……。だ……だからその手を……はなして……」
「私の怒り……お返しよっ!!」
「ちょっ…………!? れ……れいなどの……やめっ…………ひゃぁうっ!?」
先程のテトの行為でつもり積もった嫉妬の炎で蹂躙するように、麗奈はテトの尻尾を両手で触り始めた。麗奈の手が触れるたび、テトは頬を朱に染め四肢に力を無くし、抵抗する術を失っていく。
そんな光景が続くこと数十秒。とうとうテトは痙攣するだけで何も発しなくなった。
「おい……大丈夫か、テト?」
さすがに心配になりテトの身体を起こしてみると、その顔は完全に精気を失っていた。眼はぼんやりとして光がほとんど灯っておらず、口からはよだれが一筋垂れている。一瞬魂のような物が頭から出ていそうな気がしたが、呼吸はしているので死んでは無さそうだ。
ここにほっぽり出しておくと熱中症になる危険性があるので、取り合えずパラソルの下に寝かせることにした。
「これも自業自得よ。これに懲りて、雷夢くんの独り占めなんて考えないことね」
「言っとくけど麗奈もやりすぎだ。次にテトにこんなことしたら、麗奈との恋人関係は解消するからな」
「うっ…………わかったわよ。……ごめんなさい」
未だに嫉妬が拭い去れないのか、麗奈は渋々テトと雷夢に謝った。まぁ今回はテトにも非があるから許してやろう。これで万事は解決だ。
「じゃあ、ゆっくり休めよ」
パラソルの下に敷いたシートにテトを寝かせると、雷夢は濡らしたタオルを額に置いてやった。テトは先程の折檻で体力が底を突いたのか、いつの間にか眠っているようですやすやと寝息を立てている。
この機会にと、雷夢はテト面を向かって言えない言葉を耳元で呟いた。
「お前の水着姿、みんなの中で一番だったよ」
その時、テトがほんの少し笑顔になったような気がした。
「何だかんだ言って俺達空気だったよな」
「まぁあの状況で会話に割って入るのも野暮だしね」
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.266 )
- 日時: 2013/11/19 14:44
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「それっ!」
「やったわね……このっ!」
相変わらず燦々と照りつける陽射しの中、雷夢達8人はビーチバレーを心行くまで楽しんでいる。皆の笑顔がいつに無く輝いており、ネット絵師を呼べば数枚は良物の絵が出来そうな光景だ。ちなみにあの後十数分寝かせておいたら、すっかりテトは元気100倍になって復活したので心配には及ばない。
「テトちゃーん、いくよーっ!」
と、ミカが弾いたボールがテトの方に舞い上がった。
「ふっふっふっ……。今こそ、我の秘伝の一撃を見せる時……っ! しかとその眼に焼きつけんぷふぁ!?」
長ったらしく口上を述べるテトにボールは我慢が出来なかったようで、ボールはテトの顔面に無慈悲にクリーンヒット。大きな水飛沫を上げ、テトはその場に倒れ込んだ。
「ぬぅ……ミカ殿! キャラが口上を述べている時に攻撃するなどタブー攻撃にも程があるのじゃ!」
「いや今のは明らかに攻撃してから口上述べてたじゃんか」
「そういうときは言い終わるまで攻撃が届かないのがお約束なのじゃ雷夢殿!」
一体それはどこの業界のお約束なのかが気になるところではあるのだが、話が大幅に脱線しかねないので口をつぐんでおいた。
「ごめんテトちゃん、次からは気を付けるから勘弁して!」
「いや気を付けんでいい気を付けんでいい」
そっちの業界に引き込まれそうになったミカを取り合えず引き戻した。
「おい、そろそろ休憩しないか? いい加減疲れたぞ」
亮はそう言い、額の汗を腕で拭った。確かに、ここ30分程休憩なしでビーチバレーを敢行していたのだ。疲れないはずが無い。
「じゃあしばらく休憩しよっ? メイドさん達がビーチパラソルいっぱい用意してくれたし」
賛成、とそれぞれが疲れを交えた口調で返し、皆ビーチパラソルに向かって歩いていく。無論、雷夢やテトも同じだ。
少しばかり歩きビーチパラソルの下に敷かれたシートに皆が腰を下ろすと、何故か愛は背中に背負った巨大注射器を地面に下ろし、そのピストンを引き抜いた。どうやらあれは物資移動用のボックスだったらしい。が、それよりも眼を引いたのが、愛がそこから取り出した物体。
「はい、みんなこれどうぞ! 熱中症対策のドリンク飲料だよ!」
そう、よく夏場にCM放映が多くなる気がしないでもない、日本人なら一度は飲んだことがあろう清涼飲料水だった。しかもそれを人数分。こいつ、いつの間にそんなものを仕込んでいたのだろうか。
「すんごいひんやりする……飲むのがもったいねぇぇぇぇぇぇっ!」
そんな事を言っておきながら豪快にそれを胃に流し込む春夏がそこにいた。しかしそのひんやりするというのはおかしい。愛の背中に背負われたあの巨大注射器の中に入っていたならば、この陽射しであっという間にぬるくなってしまうはず。となると巨大注射器に冷却装置があるに違いないが、とてもそんなものが装備されてるようには思えない。
「……みんなにぎやかで楽しそうね」
「あ、今来たんだクロ」
雷夢が振り向くと、そこには薄い赤のパーカーを羽織ったクロが立っていた。パーカーの下から覗く水着はスタンダードなビキニ。やはり黒と赤のツートンだった。
「ずいぶん遅かったけどどうしたの?」
「……ちょっと面白い来客がいたから話してた」
「えっ、来客?」
その理屈はおかしい。ここは未來の家のプライベートアイランド。雷夢達は未來のご厚意でここに招かれているのであって、それ以降の来客などいるはずがない。
と、不意にクロの後ろから誰かが出てきた。カールのかかった茶髪、右眼を覆い隠す前髪、軽く閉じ掛けた左眼、そして極めつけは右手にはめられたリスのぬいぐるみ。
その外的情報から導き出される人物は、一人しかいない。
「やぁ、初めましてだねぇ、雷夢くん」
「と、父さん!?」
そこにいたのは正しく、少年時代の父親だった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.267 )
- 日時: 2013/11/19 16:21
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「な、何で父さんがここに!?」
「さっき黒鳥さんがアテナとかいう人と電話で話してたのを聞いたんだねぇ」
「そしたら雷夢くん達がこの島に来てるって聞いたから瞬間移動魔法で来たんだねぇ」
なるほど、そういうカラクリだったらしい。それにしてもアテナのやつはいつの間に母親と連絡先を交換していたのだろうか。
「そうそう、お近づきの印にこれをあげるんだねぇ」
と、父親はどこからともなく釜飯の容器を取り出し雷夢に差し出した。本当にどこからともなくだ。無から釜飯の容器を作り出したといってもいい。
「……ナニコレ?」
「僕お手製の飛行魔法薬だねぇ」
「釜飯の容器はしっかり密封できる仕組みだから、こぼれることはないねぇ」
飛行魔法薬といえばあれか。カタツムリとカナヘビとアオガエルを擂り潰してマツの枯れ葉の焚き火で5時間じっくりコトコト煮たやつか。確かフルーレティ二度目の襲撃の際に使った覚えがある。あの夜の黒歴史は忘れない。
「何かの役に立ててほしいねぇ」
「そうだねぇ」
「うん! ありがとう、父さん!」
これはこれで良いものをもらった気がする。これでしばらくはホウキ飛行での心配はない。父親のお手製なら尚更効果がありそうだ。
「じゃあ、僕はこれで帰るねぇ」
「あ、もう帰っちゃうんだ」
「早く帰らないと妹の桃に心配かけちゃうねぇ」
一瞬父親に妹がいたのかというのに疑問が浮かんだが、すぐに父親のインストラクターの桃花・ブロッサムのことだと理解した。まさか黙って来ていたとは。
しかし、とにもかくにも過去の父親と無事に会えてよかったーーと、思っていたのだが。
「ねぇ、あれ何!?」
平穏無事に終わると思われたグッドエンドの雰囲気を、ミカの声が切り裂いた。
何事かと振り向くと、ミカが指差す先を雷夢以外の全員が見つめていた。雷夢もその先を見つめると、沖の水上に謎の水飛沫が立っていた。しかもそれは何かが水に墜落したような飛沫ではなく、水面を何かが疾走した後に起きるそれに近い。付け加えると、それはだんだんとこちらに近づいて来ているように見えた。
その時、何か嫌な予感が雷夢の脳裏を過る。
同じ事を考えたのか、ミカも冷や汗を垂らしながらこちらを見る。
「もしかしてだけど」
「もしかしてだけど……」
そしてその予感を裏付けるかのように、水飛沫の先に人影が確認できた。
奇声を上げた人影を。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおがたくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」
クレープだった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.268 )
- 日時: 2013/11/22 23:33
- 名前: ノヴァ (ID: FX8aUA2f)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「ぼ、僕の苦手な人が来たんだねぇ……っ!」
「あの人は本当に苦手なんだねぇ……」
海を疾走してくる変態に、父親は顔を青冷めながら引いていた。
「大形くん、私は君を愛することしか出来ない不器用な男だ! だから、こんな形でしか思いを伝えられない! 君が好きだ! 君が欲しい! 大形くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
クレープという名の変態は、相変わらず謎の言葉をガトリング砲のように放ち続けながら海上を疾走している。バジリスクかあいつは。
「こ、こうなったら……」
背後の父親がそう呟くと同時に、ぽす、と何かが地面に落ちた音。振り向くと地面には右手にはめていたクマのぬいぐるみ。
「全力であいつを止める……っ!」
そして。魔力封印のぬいぐるみを外し、己を解放した父親がそこにいた。
「と、父さん…………?」
雷夢は父親に近づこうとするも、その父親の手がそれを阻んだ。
「みんな、下がってて。僕のこの姿を見たあいつは、お仕置きしないといけないから」
「お仕置きって…………ひぃっ!?」
刹那、父親の言葉に疑問を抱きクレープの方を伺った雷夢は戦慄した。
「きぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ!! 私のかわいい大形くんを奪うとはいい度胸だ! 跪け! 命乞いをしろ! 眼を食いしばれ! 世界の終わり、貴様は裁きを受けるっ!!」
ついさっきまで見る目もないだらしないアホ顔だったクレープが、今では仁王のを彷彿とさせる怒りの形相で迫って来ていたからだ。
その変貌っぷりは、例えるなら普段は無口なのに幼い頃から憎んでいる相手が来た途端に筋骨隆々になって喋りまくる優男みたいな。どうやらクレープは本気の父親が真っ向から嫌いらしい。
「貴様は私の不快を産む源だ! 生かしてはおけん! 私は貴様を許さない!大形くんを奪い私を怒りに走らせたお前を、私は絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そこまで言い終わったクレープは、突如上空にジャンプ。そのまま空中で錐揉み回転したかと思うと、オーラを纏わせた右の拳を突き出し不可視の推進力で押されるように父親に向かって降下し始めた。まるで人間隕石だ。
ここまできて父親が迎え撃たないはずがない。
「ここまでされると、もう手段を選べない……。なら、今楽にしてあげよう」
そして父親はクレープに向かい右手を突き出した。すると瞬く間に黒いオーラが父親の右手に結集。紫電が迸る漆黒の雷球へとその姿を変えていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
父親がさらに力を込めると、雷球がさらに一層巨大化し紫電の放電も激しくなる。
「みんな、伏せろ!」
明らかに漏れなく危険が付いてくると確信した雷夢は、空気となっていた周りのメンバーに防御体勢をとらせる。当然雷夢もそれに続く。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
二人の最高にして最悪の技が、今まさに激突するーーーー
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.269 )
- 日時: 2013/11/24 06:02
- 名前: モンブラン博士 (ID: PVPK2YP2)
ノヴァさんへ
おお!大形くんとクレープがついに会話しましたね!
本気の大形くんと本気のクレープ、勝つのはどちらでしょうか?
更新楽しみにしています!そしてぬいぐるみありの大形くんはクレープに対する苦手意識を変えることができるかも楽しみです!
あと、番外編で大形くんの誕生日ネタを作ってみてはどうでしょうか?
5年1組のみんなや第2小のみんなも活躍させられること請け合いです!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照9千突破!】 ( No.270 )
- 日時: 2013/11/24 11:41
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
>>269
モンブラン博士様、お久しぶりです!
確かに大形くんの誕生日ネタは面白そうですね。取り合えず書くのは他の投稿されたキャラの短編を書いてからでよろしいでしょうか?
書き終えたら絶対書きます!
PS
クレープの台詞、ネタの嵐ですみませんm(__)m
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照1万突破!】 ( No.271 )
- 日時: 2013/11/25 21:35
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「はい、そこまでです」
その時、不意に聞こえた謎の声が二人を静止させた。
が、静止しているには二人の様子がおかしい。クレープの右手に纏われているオーラも父親の漆黒の雷球も、その形状を留めたまま全く動かないのだ。それに加え、二人は筆舌に尽くしがたい表情で身体を震わせている。
「な…………っ!? これは…………」
「い、いったい…………どうしたというのだ…………!?」
その二人の台詞で雷夢は察した。この二人は動かないのではない。
何者かによる外的要因で動けないのだと。
「あらあらお二方。私の前で争うなんていけませんことよ?」
その声と共に聞こえる、純白の砂を踏みしめる音。その傍らに付くはメイド服に身を包んだ少女。
それは第2小5年2組委員長、鳳 未來が来たことに違いなかった。
「ま……まさか二人を止めてるのって……未來?」
「いえ、頼音さんに協力を要請しました。さすがは頼音さんですね」
未來が指差す先には、自室のテラスからこちらに手を振る頼音の姿。左手を突き出していることと未來の台詞からすると、テラスからお得意の第六感で二人を金縛り状態にしているらしい。末恐ろしいぞ頼音。
「か……身体が…………動か……ない……」
「バカな…………たかが第六感されど第六感に……この私の動きが……っ!」
「さて、今のお二方の技がぶつかりあっていたら下手をするとこの島は吹き飛んでいたかもしれません」
相変わらず動けない二人に、未來は緩慢かつ隙のない動きで近づいていく。
「もしそうなったとして、その償いをどうするおつもりだったのですか?」
『うっ…………』
「まさかそのままにしておくわけありませんよね?」
未來の表情は常時笑顔だ。が、その笑顔の奥からは底の知れない凄絶さが留処なく溢れ出ている。
そして雷夢は見てしまった。
身体の前で組まれている未來の手に、青筋が立っているのを。
「ま……まずい……っ!! ルキウゲ・ルキウゲ・ムオベーレ!」
身の危険を察知したのか父親は瞬間移動魔法を唱えた。その瞬間、父親の姿と雷球は虚空に消え去っていた。なんとも締まりのない別れだが致し方ない。
「あら、逃げてしまいましたか。……では騎士さん、今回の暴走を帳消しにする代わりに……」
いつの間にか額にも青筋を立てた未來は、いよいよ溢れ出した禍々しいオーラを身に纏いクレープに歩み寄った。
「お仕置き、受けちゃってください」
未來の笑顔の中の細目が開かれた瞬間。
地上に魔王が降臨した。
その後何が起きたのかは覚えていない。だが、これだけは言える。
気がつくと、ご満悦の未來の目前には上半身が砂に埋まったクレープがいた、ということだ。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照1万突破!】 ( No.272 )
- 日時: 2013/11/30 21:15
- 名前: ゆっき〜 (ID: 9RGzBqtH)
とても面白いです!応援しています♫ノヴァさんの第九話、楽しみにしてます!あと、出来れば、私の小説の方にアドバイスを…したくなければしたくないでいいです。
私のは
新しき黒魔女の物語
デス。まだとても少ないですが、宜しくお願いします!
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照1万突破!】 ( No.273 )
- 日時: 2013/12/09 19:22
- 名前: ゆっき〜 ◆LdDedkRdUM (ID: uj1WcIuh)
オリキャラ募集します。
青羽亀等(やっぱ かめら)
とんでもないカメラオタク。お小遣いで使うのもほぼカメラ。第二小学校のライムと同じクラス。黒い髪の毛、黒い目。よろしくお願いします(_ _)
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照1万突破!】 ( No.274 )
- 日時: 2013/12/06 15:20
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「そーれっ!」
「よいしょっ!」
父親とクレープの一悶着が過ぎ去った波打ち際で、雷夢達はアテナと他数名を加えビーチバレーに勤しんでいた。ちなみにアテナの水着は純白のビキニ。ミカと同じくイメージカラーとピッタリで相性の効果は抜群だ。
「いくよ、アテナちゃん!」
愛から投げられたビーチボールを、ミカは大きく振りかぶったアッパーカットで打ち返した。そのボールは大きく弧を描き、アテナの下へ。
「まかせてくださいえぃがっ!?」
ボールを弾き返す体勢をとりかけたアテナは、砂に足を取られたのか思いきり転倒。振り抜かれた足で打ち返されたビーチボールは飛んで飛んで10数メートル沖の水面に着弾した。
「す、すいません! 私取ってきます!」
「気を付けろよアテナ。あの辺り急に深くなってるからな」
「大丈夫です、そのくらい承知してますよ!」
雷夢の注意を聞いてるのか聞いてないのか分からない返事をすると、アテナはボールに向かって泳ぎだした。無視できなかったが浮き輪に掴まっているのから察するに泳げないらしい。当然スピードもノロノロ運転で、バタ足で泳いでるのに全然進んでいない。しかしアテナは苦労の末にボールに到達し、それを掴み上げた。
「はぁ……はぁ……ボール投げますよぉ……。よっこいしょぷん!?」
その時突然、ボールを投げようとしたアテナが消え去った。いや、正確に言えば水中に引き込まれたのか正しいのか。
と、再びアテナが水面に浮かび上がった。しかし何やら様子がおかしい。
「ちょっ……げべごぼ……た、たすけ……っ!? い、イカががばぼご……あ、足にっ!!」
ただただ半狂乱になって浮き輪にしがみついて浮き沈みしている。どうやらただ事では無さそうだ。
異常事態であることをその場の全員が悟った瞬間、雷夢は考えるよりも先にアテナに向かって泳ぎだした。
「アテナ、待ってろ! 今助ける!」
「ら、雷夢さん……がばぼご……は、早く……」
アテナは既に浮き輪に捕まるのが精一杯らしく、そうそう長く持ちそうにない。
その時、クロールで近づく雷夢はアテナを水中に引きずり込もうとする生物の全容を捉えた。
巨大な烏賊なのだ。細長い頭部に、10本に別れたうねる足。誰がどう見ても烏賊だった。しかし許容出来ないのはその大きさ。大雑把に見積もっても足を含めないでアテナの同じくらいの体長がある。足も含めると尚更大きい。
赤い体色をしたその巨大烏賊がアテナの足に絡み付き、今にも暗い海の底へと引きずり込もうとしているのだ。
「も……もう…………限界……」
とうとう体力の終わりの時が来たのか、アテナは雷夢の目の前でゆっくりと眼を閉じ水中に引き込まれた。
「アテナ!! このやろうっ!!」
死なせるものかと雷夢は水中に飛び込み、無我夢中でアテナの手を掴んだ。が、巨大烏賊も獲物を逃がすわけが無く、計り知れない力で雷夢ごとアテナを海底に引き込んでくる。
どうにか反撃したいが、竹串は水中では投げても水の抵抗のせいでダメージはほとんど無いに近いだろう。せめて銛のような武器があればよかったのだが、この状況でそんな物があるはずもない。
「(ど、どうする……!? このままじゃ二人とも烏賊の餌だ……)」
そうこうしている合間にも、二人はどんどん海底へ沈んでいく。勢いで飛び出したはいいが、このまま二人とも死んでしまうのか。これでは何の意味も無いではないか。
口内にためこんだ酸素も切れかけ、雷夢も意識を手放そうとしたーー。
「諦めんな二人ともっ!!」
そんな声が突然水上からしたかと思うと、同時に烏賊のアテナを拘束する足の力が緩んだ。その絶好の機会を見逃さず、雷夢は水圧で鼓膜を破らないようにゆっくりと浮上した。
「…………ぶはぁっ!!」
勢いよく水面から顔を出すと、雷夢は肺の中の空気を一旦放出し、新鮮な酸素を供給してやる。
それと入れ換えに、一本の銛を構えた人影が水中に飛び込んだ。雷夢が誰かと確認する間もなく、その人影は水中に消えていった。
「黒鳥さん、大丈夫ですか!?」
声のした方を向くと、穂香が何かに乗ってこちらに近づいて来ていた。どうやら複数人乗り込める大型の水上バイクらしい。あんな物を操縦できたのかあいつは。穂香は巧みな操縦で水上バイクを雷夢達の側へと停車させ、手を伸ばした。
「早く上がってください! 岸へお連れします!」
「あ、ありがとう穂香! 助かった!」
穂香との共同作業でアテナを水上バイクに押し上げ、雷夢もやっとこさ這い上がった。
「お礼は要りません! しっかり掴まってください!」
穂香はアクセルを思いきり入れると水上バイクを急発進させた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜【参照1万突破!】 ( No.275 )
- 日時: 2013/12/07 23:20
- 名前: ノヴァ (ID: .1vW5oTT)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「てか穂香何で水上バイク運転できんの?」
「ハワイでお嬢様に教わりました」
なるほど、と一瞬思ったがそれは明らかにおかしいと冷静になって気づいた。教えてもらったのが未來なら、技術をくれたのも未來なのか。教育の1つもなく他人に教えたのか。
「うっ……げほげほっ!!」
その時、目の前に座らせていたアテナが息を吹き返した。死んでいなかったということが分かって、雷夢はほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫かアテナ?」
「あ、あれ穂香さん……?……私なんで水上バイクに……?」
「お前を助けた後、水上バイクで穂香が助けに来たんだよ。どこで覚えたかは知らないけど」
「ハワイです」
よほど強調したいのか穂香は改めて付け加えた。
その後数秒も経たない内に水上バイクは浜辺に着岸し、雷夢とアテナは砂浜へ降り立った。それと同時に浜辺で自分達の帰りを待ちわびていた面々が駆け寄ってくる。
「大丈夫かのアテナ殿!?」
「す、すいません……。大丈夫ですけど、皆さんに心配かけてしまいっ……!?」
皆への謝罪の弁を述べかけた時、突然アテナは両足を押さえて苦しみ始めた。
「どうしたアテナ!?」
「あっ、すごい血……」
アテナが両手で抱え込む足を見ると、足元の砂に染みができるほどの血が足にできた無数の傷から流れていた。どうやら巨大烏賊に絡み付かれた時に付けられたらしい。
「急いで応急措置しないと……!」
「なら、私に任せて」
愛はそう言って背中の巨大注射器型コンテナを地面に下ろすと、その中からシートサイズのタオルを取り出しその上にアテナを寝かせた。
「ごめん、かなり染みるかもしれないけど我慢して」
「いっ!? ああっ…………がっ!!」
さらに続けてコンテナからガーゼと消毒液を取り出し、アテナの足の拭き取りそれを振りかける。おそらく匂いからしてヨードチンキだろうか。それが振りかけられる度にアテナの顔が悲痛に歪む。我慢だ、我慢だアテナ。
続けてコンテナから取り出されたのは数個の氷嚢。どうやら足を冷やして出血を抑えるつもりらしい。その効果は覿面だったようで、足から流れる血の量が最初に比べてかなり減ってきた。
そして最後に取り出した絆創膏を傷に的確に張り付け、一瞬の内に包帯で両足を覆っていく。
全員が見つめる中、愛はたった一人でアテナの止血と消毒の応急措置をやってのけた。
「ふぅ……。取り合えずこれで安心していいよ」
「あ、ありがとうございます……」
「お礼なんていいよ、私はやるべき事をしただけだし。怪我も多分明日の朝には全快すると思うよ」
「いや、明らかにそれはチート過ぎんだろ。てかお前、どんだけあのコンテナ中広いんだよ。よくあんなに入ったな」
雷夢が見つめる先にはどう考えても注射器型コンテナに入りきりそうにもない量の医療品の数々。アテナの応急措置よりあれをコンテナに詰め込めというのが無理な話だ。
「別にあれなんて飾りだよ。雷夢君にはそれが分からないだけよ」
「いや、僕に限らないだろその疑問」
そんな感じでほのぼのムードが漂い始めた時だった。
ザバァァァァンッ!!
突然沖から巨大な水飛沫が立ったかと思うと、空中に何かが飛び上がった。それはあの巨大烏賊に間違いなかった。
しかしそれ以前に眼を引いたのは、その巨大烏賊が打ち上げられた地点。その水面に銛を構えた人影があったのだ。
逆光でよくは分からないが、大まかな外見は分かる。纏まらず自然体のままの髪。傷だらけの肢体。そして打ち上げられた巨大烏賊を見つめるその眼は。
全てを狩らんと欲するハンターの眼だった。
「たかが烏賊がよぅ……。大自然を生き抜いたこの私に……。勝てるわきゃないだろぉぉぉっ!!」
その宣言と共に放たれた銛は鋭い直線運動で飛翔。無慈悲に烏賊の眉間を貫いた。
海面に墜落しその一撃で息絶えたであろう巨大烏賊を、その人影は泳いで引っ張ってこちらに向かってくる。逆光も衰え、その姿が雷夢にもはっきり認識できる。
銛を携え、烏賊の足を肩に背負い波打ち際に立ったその少女は。
「烏賊の討伐、一丁上がりぃ!!」
サバイバル少女、菜葉春音だった。
- Re: 黒魔女さんが通る!!〜チョコの息子の物語〜 ( No.276 )
- 日時: 2013/12/08 11:45
- 名前: ノヴァ (ID: 8uCE87u6)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
******
「で、これ結局なんなんだ?」
春音が砂浜に水揚げした巨大烏賊に眼を下ろし、雷夢は呟く。巨大な烏賊といえば真っ先に思い付くのはダイオウイカだが、いくらなんでもここまで小さいとは思えない。確か初めて釣り上げられた個体は全長8メートルらしい。
「……多分『レッドデビル』。アメリカはカリフォルニア半島湾内の海に棲息する狂暴な烏賊。あくまで通称だけど、実際襲われて死者多数」
手元のスマホを眺めながらクロが長々と説明をする。
「カリフォルニアって……ここって国境越えてんの?」
「取り合えず赤道付近の島としか言えません。そう簡単にプライベートアイランドの位置を知られるわけにはいきませんし」
もしかしてこれって密入国してやしないだろうか。知らない内に犯罪を犯していそうで怖い。
「多分、どこからか迷い込んだんだろうな。こいつ以外に気配が無かったし、群れで来ているなんてのも無さそうだ」
「よかったぁ……。だったら心配しないで泳げるよ。そうでしょ未來ちゃん?」
「はい、春音さんの言うことが正しければ春夏さんの言う通り普通に遊んでいただいても問題ありません」
「やったぁ、早くビーチバレーの続きするぞぉ! 行くよ、ミカちゃん!」
「えっ、ちょっと待ってよ! アテナちゃん、足の傷ゆっくり休んで治して、また明日から遊ぼ!」
「はい! 明日、楽しみにしてますね!」
砂浜へ駆けていく春夏とミカを、アテナは担架に乗って見送った。
さて、あとはこの巨大烏賊をどうするかだ。さすがにこんなゲテモノを食う気にはなれない。
「おっ、ちょっとその烏賊オラに分けてくんねぇべか?」
と、そこに完全に空気になっていた千鶴が竿とバケツを抱えてやって来た。かなり釣れたらしくバケツはカサゴやキス等の魚で満杯だった。
「別に全部上げるけどさ、いったいどうすんの?」
「いやぁ、ちょっと釣り餌につかいたくてよぉ。さっきまで餌に使ってた甑島産のキビナゴが切れちまって」
「それならどうぞ使ってください。今使わない分は冷凍しておきますね」
「おぅすまねぇな、ならそうしてくんろ。あ、それとこの魚昼飯にも使ってけれ」
そう言うと千鶴はレッドデビルの足を2〜3本ハサミでちょんぎり、そのまま岩場に戻っていった。果たしてあれで成果は出るのだろうか。
『未來御嬢様、昼食の仕度が完了しました』
全く予想だにしないタイミングで数人のメイドが屋敷から歩いてきて未來にそう告げた。
「あら、もうそんな時間に? ところで今日のメニューは?」
『はい、御嬢様がクラスの皆様と楽しめるようにとバーベキューに致しましたが、よろしいでしょうか?』
「ええ、構いません。ならそこに置いてあるバケツの中の魚も使うように調理班に言ってくださるかしら?」
『承知しました』
メイド数人は声を揃えて一礼すると、バケツを持って屋敷に戻っていった。どうでもいいが声を揃える必要があったのだろうか。
「みなさーん、今から昼食でバーベキューをしますのでそろそろ屋敷に戻りますよー!」
「おっ、バーベキュー!? なら、急いで戻って腹一杯食うぞぉっ!!」
「ほら、雷夢君も行くわよ!」
「あっ、麗奈殿だけくっつくなんてずるいのじゃ! 我も我も!」
「あっこら! お前らくっつくな!」
「いいではないか、我の勝手じゃ」
「私もよ」
「あぁ…………もう。勝手にしてくれ」
2つの花を両手に抱え仲間との会話を交えながら、雷夢は屋敷へと帰っていった。
──ところで何かを忘れているような。
「おーい、誰か私を助けてくれー。頼むから、一生のお願いだから。おーい……」
第8話「〜レッツゴー! 南の島<その1>〜」終
〜<その2>へ続く〜