二次創作小説(紙ほか)

AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(5) ( No.221 )
日時: 2014/12/20 07:50
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=ifCWN5pJGIE

 冷や汗を滝のよう垂れ流すウィルが、恵玲の髪が舞い上がるほどの勢いで脇をかすめ、4歳年下の部下に駆け寄っていく。

 漆黒のセミロングの髪が勢いを失い、あるべき位置に戻り始めると、程なくしてか細い色白のうなじを覆い隠した。二人に背を向けたまま、恵玲がもう一度ため息をついた。今度は軽く、でも僅かに寂寥を込めて。

——みいちゃん、能力を強くするって言い出してから元気なかったしな。

 こんなに元気いっぱいの水希の姿を見るのは何か月ぶりだったろう。
 徐に深更の冷気を深く吸い込んだ。体と心の隅々まで、清々しい気持ちで満たされていく——。
 少し後ろから聞こえる二人のやり取の内容が、よく聞こえてくる。リーダーの狼狽ぶりと、後輩が心底困惑している様子がなんとも微笑ましい。
 
——よし。

 今回はあの娘に塩を送ろう。みぃちゃんが全快になったら、その時はわたしも全力で張り合っちゃうからね。
 膝上のハイソックスで防寒は完璧という口実で、この酷寒のなかでも逞しく着用しているミニスカートを軽やかにはためかせながら、二人の方に向き直ると、ちょうど向かう先のほうで、数名程度の歓声と拍手が聞こえてきた。
 恵怜がそちらを一瞥すると、ふと店のショーウィンドウの向こうの時計を気にした。

 もう23時半だ。親友は彼氏との時間を満喫して、家に帰ったところだろうか。それとも今帰途についているところか。
 明日は根堀り葉堀り聞いてやろう。顔を仄かに赤く染めて楽しげに語る友人の顔を、瞼に浮かべながら、二人に声を掛けた。

「ねぇ、向こう行ってみようよ!」



 二人の危険なサンタクロースがいた場所から人々の歓声と拍手。そして、光曳の目の前で盛り上げっていた中高生の3人組が、その方に走り去っていった。
 二つの事実を総合すると、完全に危険は過ぎ去ったということなのだろうか。

「みなさん、向こうでとても盛り上がってるみたいですね」
「……」
「お城で舞踏会をしていたころを思い出しますわ」
「……」
「束の間でいいから、あの頃をもう一度……」

 少女は伊達に900年もの歳月を過ごしてはいなかった。髪の毛を威嚇で舞い上がらせる程度の魔力しか持ち合わせることのできない人間共の世界で、最弱の烙印を捺された魔物が作り出した武器に形は無かった。
 男の背中から漏れる逡巡を見透かしたかのように、恨めしさたっぷり、色気たっぷりの溜息ひとつ。そして男の背後にもかかわらず、物憂げに流し目を決めたのは、眼前のヲタクが背中についた心眼で少女の気配を感じ取り、Retinaディスプレイも驚きの精緻さで、彼女の様子を己の脳裏に再現している習慣を巧みに利用した、ダメを押す一撃であった。

 間もなく、3人の中高生の50メートル後を、少女と野獣の黒影が追随していった——。



2014年12月24日 23時30分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点から1ブロック南——

 僅か1ブロックを進んだところで足を止めたのは、先頭を行く荒木恵怜だった。それを見て即座に二人の麗牙光陰の仲間が前進をやめる。イルミネーションの南側(有楽町側)の端まで、恵怜たちの場所から4ブロック、約200〜250mあり、そこにいる人々の顔は点かごく小さな丸にしか見えない。だが、それでも小さな二つの人影が、何か見覚えのある形に、そしてそれが知り合いの影だという確信に至るまでには殆ど時間を要さなかったのである。

——ストップ、ストップ!

 恵怜の声が後続の麗牙の仲間の意識にダイレクトに響く。間隔を詰めて走っていた二人が、恵怜と真横の反対側の歩道にウィル・ロイファーが、そして水希がやや後退して恵怜と同じ側の沿道の建物に体を寄せる。ECの能力者間でしか聞き取ることのできない遥声ヒアが発せられ、恵怜を除く二人に、一気に緊張が張りつめる。

 遥声は聞こえないが、前の3人が突然止まったので、光曳とメクチも様子を窺うべく歩道の脇に寄り、止まっていた。ただ、光曳に限っては、前が止まらなくとも、既に酸欠と激烈な動悸のために、歩みを止めるのは時間の問題であった。

——ごめんっ。大したことじゃないんだけどね。

 少年が瞼を半分おろし、氷のように冷たい眼差しを右に向ける。それを見るなりツインテールの少女が、遥声でリーダーを牽制すると、リーダーが身ぶり手ぶりで必死の釈明をする。会話の聞こえない後方の二人が、少年の挙動不審さにすこし後ずさりした。

——なぜか亜弓がいるの、風也と一緒に。私たちには気付いてなさそうだけど、こっちに来てる。

 今度は二人の視線がリーダーに集まる。ウィルと水希が恵怜と居合わせているところを見られるのは勿論避けなくてはならないが、恵怜だけであっても、今夜は会うべき時ではないのは明らかだった。全員未成年という重たい制約付きで、この時間帯にイヴを愉しめるところはあるだろうか。
 確かに事態は大したことではないが、なかなか対応が面倒になりそうだった。

——とりあえず、少し道はずしてやり過ごそう。

 3人が急に進路を変えて、東京駅方面に走り去っていった。残された二人は、全く事情が呑み込めずしばし立ち尽くしていたが、気を取り直して歓声の上がる現場へと先を急いだ。



2014年12月24日 23時30分 丸の内イルミネーション有楽町側入り口付近——

「すみません、すみませんっ。お騒がせしてしまいました」

 過激なサンタクロースのプレゼントの演出に集まってきた人々の拍手に囲まれて、友賀亜弓がお辞儀する人形のように、何度も頭を下げていた。観衆は、彼女を非難するどころか、ボーイフレンドが窮屈そうなプレゼントの袋から出てきたことに感動の雨嵐に包まれていたのだが、亜弓はそんなことお構いなしに、ひたすら頭を下げていた。

 亜弓の手助けのおかげで、無事袋から脱出できた風也が、彼女の顔よりも先に目の当たりにしたのは、二人をぐるりと囲む人垣だった。
 風也は周りの拍手などお構いなしに、露骨に気難しそうな表情を見せると、亜弓の右腕を乱暴に掴んで引き寄せ、人の壁をかき分けて大股で北へと歩き出した。
 亜弓がバランスを崩しながらも、首だけで最後のお辞儀をすると、彼の顔を見上げた。久しぶりに声もかけられそうにないくらいに怒っている。わたしの手伝い方が悪くて風也を怒らせてしまった。

 途中で風也が手を放すと、お互いの間隔を少し開け、彼は前を睨み、彼女は俯いたまま、歩き続けた。静寂の時は尚も続き、大通りまで来て、自動車がほとんど通らない交差点の信号待ちになったときに、やっと沈黙が破られた。風也が亜弓の方に向き直って、静かに話しかけた。


「悪ィ」

 亜弓が少し驚いた顔をして、小さく首を横に振った。「そんな、わたしの手際が悪くて、みんなが集まってきちゃったから・・・」

「そんなんじゃねぇよ」

 亜弓がわずかに口を開けたまま考え込んでいるうちに、風也が再度話し始めた。

「オレ、人に拍手とかされたことねぇからさ。つい、な」

 左手で髪をかきあげて顔を逸らすと、軽く息をついた。「強かったな・・・あのサンタ」」

 何となく言ってみただけのように見えたが、そのために亜弓の思考時間が延長された。そういえば誰が、風也をこんな目に合わせたのだろう。人を袋詰めにするなんてもっての外だが、この人を喧嘩で遣り込める人なんて——。

 横の街並みを見ながら思索に耽っていた風也が、不意に声をあげた途端、凍りついたように動かなくなった。

「風也?」不安にかられた亜弓が、左手で風也の手を握る。彼の手が震えていた。

「そういえば、あのサンタ達、俺とやりあう前に、妙なこと訊いてきやがった」
 風也の右手を握る亜弓の掌に、彼の手の甲の血管の脈動がはっきりと伝わってくる。

「え?」

 何か悪いことを思い出しつつあるのか、風也の顔が見る間に蒼白になっていく。瞳の動きが、必死に何かを求めるように、左右にひっきりなしに振れる。

「風也?何、何を訊かれたのですか?」

 風也が肩で息をし始めた。極冷の環境で、汗をかいている。

「風也?どうしたんですか?ねぇ、かざや!」

 うわの空で彼がつぶやいた。「俺は、あのサンタ達にここに運ばれてきた…」

 亜弓が風也を落ち着けるように両腕を掴み、彼の双眸をまっすぐに見つめてゆっくりと頸を縦に振った。

「そこに偶然、亜弓がいた」亜弓が彼に言い聞かせるように応える。「偶然じゃないですよ。ここで待ち合わせようって……」

「違う!」風也が目を真っ赤にして亜弓を睨みつける。「アイツら、亜弓のために俺を運んできたんじゃない!」

「どういう、こと・・・ですか?」

 風也の震えと恐怖が、亜弓にものりうつりかけていた。亜弓の両手に異常に力が籠められる。

「最初に訊かれたんだ、あいつらに……」

 亜弓の大きな目が、涙でいっぱいになっていた。

 風也が、続きをいう恐ろしさで暫し沈黙し、下を向いた。そして、再び亜弓を見つめると、静かに言った。


「町田に・・・・・・会うつもりはないかって」


 界隈を覆い尽くす黒雲の深奥部で、痛苦に喘ぐように雷が小さく轟いた。

 光は、見えなかった——。






〜2014/12/10 コメ〜
そろそろ真打登場です!あぁぁぁ怖い

〜2014/12/13 コメ〜
>>221
町田登場直前まで追加
>>220 >>221
メクチと光曳のやり取りちょっと修正。。。。

町田も怖いが、メクチもなかなか強烈。。。
リンクはPentatonix "Mary did you know"です。なんか絶望な感じしませんか??歌詞の意味知らないけど。。。(恥)

〜2014/12/20 コメ〜
風也が町田の件について告白する部分の、二人の口調をより原作に近づけました。