二次創作小説(紙ほか)

AsStory 〜10(9)話『ひかり、在れ』〜 ( No.227 )
日時: 2015/01/03 10:38
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)

 弾丸がアスファルトにめり込む音をわずか数cm離れたところで聞いているのに、飛び散った無数のアスファルトの破片が顔面の皮膚に突き刺さっているのにびくともしない巨躯の頭を、軍靴で全く手加減せずに蹴り飛ばす。その音の大きさと仕打ちの酷さに、ウィルと水希、そして静がわずかに声をあげて息を呑んだ。

 人工頭髪を五分刈りにした頭皮がぱっくりと裂け、真っ赤な筋が2本3本と瞬く間に増えていく。陸軍中尉に遭遇してから、突如流血を見続けさせられている静が、胃袋から突き上げてくるものを抑え込もうと上体をびくつかせる。だが驚くべきことに、背高で緑色の宅配車が配達先を目指し、無謀にも対岸の道路をゆっくりと走り、丁度駅の正面の当たりで止まった頃には、名仮平の傷の流血は止まっていた。

 そして、虫の息であった巨人が、たった今呼吸するのを思い出したかのように、鼻から深く息を吸い込み、顔の周りのアスファルトの隙間に積もった粉塵を吹き飛ばしながら息を吐いた。舞い上がる粉塵の靄の大きさと、息を吐き終えるまでの時間の長さに、域七を除く居合わせた人間全員が、巨人兵士の身体的能力の高さを見せつけられていた。

 並の日本人の3倍はあると思われる巨大な二つの掌を、重たげに地面に突き立て、さらに重たい膝を左、右とつくと、地面を揺るがすうめき声と共に立ち上がった。まだ視界がぼやけ、平衡感覚もまともに戻っていないが、敵味方を問わず、彼らの肌にかかる場の緊張の圧力が一気に高まった。

 直接その様子を見ることができない新堂も、背中に夥しい量の冷や汗を流していた。間近で奴の存在をじっくりと味わうのはこれが初めてだった。人間の気配がしない。完全に野獣だ。何も知らないで背後に気配を感じたら、迷うことなく振り向き様に撃ち殺している。

——本当に、こいつが味方になるのか?

 MP5の2つのグリップを握る拳に、力を篭めた。


「私は…任務を…、二つの・・・任務を・・・完遂せねば、ならない…」頭部の傷口を押さえ、右足を引きずりながら半歩進む。

「己が軍に居残るために…残された……唯一の道」

 白目を剥いたまま、新堂の1歩右後方で立ち止まった。

「授受の妨害——」

 左右の眼球が本来の向きに戻ると、飢えに荒ぶるヒグマの様な唸り声を漏らし、10メートル先の覆面の大男の背後にある、小さな四角い箱を凝視する。ABが右腕をわななかせながら、M500を新堂から名仮平に向ける。名仮平が顔を背けた。「そして・・・・・・」朦朧とした双眸が、ウィル・ロイファーを捉える。

「ECの・・・身柄の・・・確保」

 静の懐の中で、灼髪の少女の顔が一気に青ざめていったのに気付く者はいなかった。ウィル・ロイファーは、頬を一度ひくつかせたが、それ以上表情が動かなかった。出来損ないの二等兵の早まった言動に、域七が露骨に非難の視線を向ける。

——先に片付けるのは。

 鋼の頭蓋の巨身兵が、再び横たわるもう一人の巨身兵に目を向けた——。


二〇一二年一月二十日 午前9時22分 上り方面ホーム——

 階上に続く階段の奥、2階のホームへの出口付近から男女数名の声のような音が一瞬響き、直ぐに消えた。その後に悲鳴が続かなかったので、余程注意して乗客たちのほうに耳をそばだてていない限り、空耳にしか聞こえなかったかもしれない。
 しかし、事件は続いていた。悲鳴だけではなく、他のあらゆる声も消えていた。
 1点を中心に波紋を描きながら、人々が眠るように、力なく倒れていった。程なく、ホームに溢れんばかりに押し寄せていた人々は全て、光を失い、意識を失っていた。
 中心が人波をゆっくりと押しのけ、階段を階下に移動していく。 一歩、一歩。中心が階段を一段下に移動すると、倒れる人々の前線が一歩前進した。

 円の中心に、頭のてっぺんからつま先まで光を呑む漆黒の衣装で覆った小柄の少女の姿があった。

——運命の分岐。

——絶望へ続く分岐・・・消さなくては。

——貴方も、消さなくてはならない。

 漆黒のローブから、蒼白のか細い頸を囲むように、ロングの灼髪がこぼれ、胸の辺りに毛先がかかる。


——棚妙水希。


 また一段、階段を降りる。
 深紅の光沢を放つ少女の大きな瞳に、出口の弱い光が入り込んできた——。


二〇一二年一月二十日 午前9時25分 ポイント駅前——

「イーシー、だと?」

 新堂の問い掛けに誰も反応することなく、時間は流れていく。目を醒ましたばかりの巨人が、目線の行く先を変えることなく、また一歩謎の小箱に近づいた。本当は突進して一瞬で片を付けたいところなのだろうが、大男が前進するために、片足を地面から浮かせている僅かな間にも、200kgを優に越える体躯が左右2往復分はブレているところからして、新堂の目と鼻の先にある情況が、大男の全速力であるらしかった。
 現場で活動する警察組織の関係者、もっと言えば、武器を扱う職業に就く人々でで、かのアルファベット2文字で略される組織の凶悪さを知らない者はいない。それだけに、MP5の銃口の先で制止させている少年の様子に、幾つもの疑問が浮かんだが、全て片手で全部を胸に押し込んだ。この沈黙こそが回答なのだ。そんなことは確認済みだ、と。
 もう少しマシな質問を考えるならば、確実に厳罰が処されるリスクを犯してまで遂行しているこの任務が、誰の差し金か、誰がECを生け捕りにし、何を企んでいるのかだ。陸海空を統べる全軍の「内閣」に当たる組織、統合幕僚本部の勅命なのか、それとも軍部の一組織、あるいは一個人の陰謀なのか。
 だが、これは訊く類のものではない。少年と少女の身柄を確保できたら、軍曹どもを騙し討ちにして、東京、中野の薄暗い個室でそれなりの手段と時間を費やして調べるものだ。
 目下、警察代行の二人が今なすべきことは現状を維持し続けることだった。新堂は少年を一歩手前に釘付けにしておき、静は人質になり続け、灼髪の少女の動きを封じておく。2、3分も待てば巨体の陸軍兵の働きによって敵方の手勢が一人減り、警察側が一段と有利になる。

 その間に、名仮平が2歩前進する。水希と静の左を通り過ぎる。呆然と上を見上げる静、敵愾心を露わに上目遣いで睨み付ける水希、そしてい出し抜けにぐいと右下を向いた名仮平の感情の無いしばし目線が交錯する。

「待っていろ。お前は次だ、ECの少女よ」

 ようやく見せた人間らしい表情はにやけ笑いだった。名仮平が喉の奥で笑いながら顔を戻そうとすると、少女の声がそれを制した。

「無理ですよ」

 ふらついていた巨人の足取りが俄かに、平衡感を取り戻す。声のした方を向かぬまま立ち尽くしていた。新堂が一瞬灼髪の少女を一瞥し、すぐに少年の見張りに意識を戻す。少年は表情を必死に保ちつつ、部下の声に耳をそばだてていた。

「あなたの上官、私達が斃しました」

 もっと上の指揮官がいるのかも知れない。陸軍の総勢を知らない水希が、一か八かの勝負に出ていた。声の震えを隠すために、極めて慎重に言葉を絞り出した。

——わたし…達?

 ウィルがその意味を理解しようとしたが、わからなかった。新堂の注意が再度水希に逸れる。

「勲章をつけていました」

「はったりを言……」

「外野、於呼曽、階級は……」少女がどもると、すかさずもう一つの女性の声が続く。「少尉よ」

「部隊の狙撃手に撃たれて意識不明になったから、私が身柄を確保したわ」

 水希が目を丸くして静の顔を見上げる。すぐに表情がもとの険しさを取り戻したが、人質に拳銃を押し付けることはしなかった。

「残念だが、少尉はこの任務の指揮官じゃねぇ。お前たちの状況は何も変わらねぇよ」
 域七が二人を威圧するように、どすの利いた声と、余裕の笑みを作り、応える。求められるシチュエーションは、名仮平が自らの手で失敗することだ。多少手間がかかっても、そうしなくてはならない。何より、現地の指揮官がいなくなったことを奴らに隠し通さなくてはならない。
 少女が域七に反駁しようとしたが、表情をゆがめて言葉を飲み込んだ。急転しかけた戦況を鎮め、域七が密かに胸を撫で下ろす。木偶よ、そのまま任務を遂行しろ。
 域七が前方を睨み付けると、顔を顰めた。名仮平の様子がおかしい。

 状況は全く沈静化していなかった。立ち尽くしている陸軍2等兵が顔を俯かせ、何かをブツブツ呟きつづけている。

「名仮平!任務を遂行しろ!」域七が、怒声を飛ばしたが、名仮平はそれが耳に入らず、呟きを続けていた。だんだんと、大男のつぶやきが大きくなっていく。

「少尉が捕まった。任務は失敗だ。少尉が捕まった。任務は失敗だ。任務は失敗だ。任務は失敗だ…」

「そうよ!何をやっても、無駄なの!」名仮平のつぶやきが聞き取れるようになるや否や、水希が畳みかけた。

 名仮平の声が止まった。域七の呼びかけが全く耳に入っていない。名仮平が全身を打ち震わせている。寒さのせいではない。思い詰め、体を動かすことを忘れてしまったかのようだった。

 しびれを切らした域七が飛び出そうとすると、域七の頭一つ分上のあたりを弾丸の閃光が走った。ABのM500の銃口から煙が漏れていた。図体がでかい方は、どこを狙っても運が良くて気絶程度。ならばABにできる最後の足掻きは、あの軍曹の足止めくらいだった。あとは、奇蹟が起きるのを待つしかない——。





〜2014/12/30〜

今日はコミケ最終日です!(だからどうした)
僕は初日にNHKブースを拝んできました(人多過ぎ)。。。(だから何なんだよ)

やっとクリスマス短編から意識を切り替えられつつあります。。。
短編では手慣らし足慣らし程度しか能力を発揮していなかった麗牙光陰の二人も、ここでは120%全力です。
短編ではメクチとカップル気分でちょっと(どころじゃなく)粋がってる光曳梓も、本編では(未だに)病院のベッドで呆然とし続けているキモオタです。。。そしてメクチに出合ってすらいない。。。。
外野で話進めすぎたな。。。。

ちゃんと書き分けないとね。。。

年末年始休みで何とかしたいなぁ。。。。

〜2014/12/31〜
AM3時過ぎに寝てAM4時30分の目覚ましで起きて、飯食ってうだうだして二次板見たら参照数上がってるって、ここの住人の活動時間帯って。。。。改めて思ふ、大晦日の朝。。。

今年もいい年でありますように。。。(え?)


〜2015/1/1〜
黒服の少女、登場しましたっっ。。。書き手だけ勝手にテンション上がってます。。。。(苦笑)
 登場人物の外観の特徴を、よく確認しておくと、ほんの少し、今後の展開が面白く思えてくるかもしれません。。。(ニヤ)