二次創作小説(紙ほか)
- Re: カゲロウデイズ ( No.2 )
- 日時: 2013/01/05 18:38
- 名前: 麻香 (ID: BHyaz.jF)
- プロフ: 漢字読み方「足掻く(あがく)」
≫PROLOGUE 〜幻想リフレイン〜
何度も、同じような夢を見た。
夢の中の場所はいつも違っている。
ある時は、夕陽が地平線に消える前の港。ある時は、薄汚い地下の部屋。またある時は、綺麗な蝶々が飛び回る花畑。
だけど、その夢には、わたしの隣には、いつも同じ女の子がいた。
今日、わたしは暗い路地裏に立っている。
外界の喧騒から遮断された、狭くて、汚くて、落ち着く場所。
「………た………会った…………」
背筋がぞくりとするほどの、重くて暗い声がした。
気がつくと、隣にまたあの女の子が陽炎みたいに静かに立っていた。
「う……久し……り…」
わたしは何故か少しホッとして答える。
でもその声はノイズがかかったように聞き取りづらい。
まるでわたしがわたしじゃなくて、このやりとりをどこか遠くから聞いている第三者のようだ。
「……た………のか?」
「う……き…だっ…………」
内容が全くわからない言葉が交差する。
静かに。退屈に。
女の子は、光さえ吸収してしまうような真っ黒な髪を、真っ赤なリボンで結んでいる。
そのうねった髪から時々見える顔は、驚くほど白くて、小さくて、作り物の人形のようだ。
「何故……人間は、闇の中で足掻こうとする?」
ふいに、その「やりとり」から言葉が漏れ出した。
女の子が発した言葉。
女の子はうつむいて、小さな声で呟いた。
「光なんて見えない。絶望しかない。それならば、諦めてしまえばいい。捨ててしまえばいい。」
小さな言葉はわたしの胸を深く深くえぐった。
諦める?捨てる?全てから……逃げる。
“あの子”のように。
それはとても魅力的な言葉であったが、同時に吐き気がするほどの嫌悪感もあった。
この一線を越えれば、わたしは楽になれるだろう。
目を背けて逃げることができるでだろう。
“あの子”ともう一度笑い合えるだろう。
それでも、わたしは。
わたしは小さく息を吸い、一言ずつ、言葉に変えて出す。
えぐられた自分の胸へ刻み込むように。
「光が見えなくても。絶望しかなくても。それで良いんだ。」
「……………」
「ただわたしは、諦めなかった、っていう証拠が欲しいだけ。逃げなかった、目を背けなかった、って誰かに認めてほしいだけ。」
たとえそれが、無駄な行為だとしても。
世界のことを全部知ってるような顔で、無駄だ、って切り捨てられるのが嫌なだけ。
“あの子”と、心の底から笑い合いたいだけ。
そう思った途端、目の前の世界がぐにゃりと歪んだ。
思わず壁に背中をつけて喘ぐが、意識は遠くなっていくばかりだ。
苦しい。苦しい。それは本当に、突然で。
「ふん。人間も面白いことを言うものだな。」
眩んでいく視界の中、実験動物を見るような女の子の目があった。
赤い。血を垂らしたように赤い、瞳。
その下で、形の良い唇が動いた。
「だがお前は、もう——————」
建物の隙間から見える青い空を眺めながら、わたしは最後に“あの子”の名前を呼んだ。
あーちゃん。
わたしは、ちゃんと闇の中で足掻けていますか………?