二次創作小説(紙ほか)

Re: カゲロウデイズ 挿絵あり 【混濁リザルト】執筆中 ( No.118 )
日時: 2013/11/20 21:33
名前: 麻香 (ID: ctVO2o7q)

≫Story*??? 〜闇色リコール〜

「………はい?」

お父さんが“外の顔”で対応に出る。
時間は深夜に近い。ぼぅっとした頭の片隅で、少し、悪い予感がした。

「夜分遅くにすみません。私、——さんの担任の———と申します。」

悪い予感は当たったらしく、聞こえたのは、昼間に私が振り払った担任の声だった。
ここから玄関は見えない。お父さんがどんな顔をしているかも。
お願い。お願いだから、余計なことは言わないで。
この形だけの“平穏”を壊さないで。

冷たい床に寝そべりながら、そんなことを願う。
でも神様はそんな私の小さな願いさえ聞き入れてはくれなかった。

「……………なんのご用ですか。」

「あの………娘さんの背中の傷についてなのですが————」

バタン。がちゃり。
扉が、閉められた。

玄関に続く廊下から、ぬっとお父さんが現れた。
顔は………見れない。お父さんが怒っているのが解りすぎるほどに解ったからだ。

「………………言ったのか?」

主語はない。
しかしわたしの背中の傷を指していることは明らかだった。

「……………言って…………ないよ。」

「お前と俺以外に誰が“それ”を知ってるって言うんだよ。」

「……………違う…………わたしは………」

「お前が言ったんだろう!?」

伸びてきた手がわたしの頼りない首を掴む。
気管から空気が締め出されていく。
苦しい。痛い。

「…………ごめ………なさ…っ」

「お前が、お前が、お前がっ!あの時も今も!全部お前が悪いんだっ!」

玄関の方から、私の名前を呼ぶ声と、扉をバンバンと叩く音が聞こえる。
担任はおそらく自分で解決しようとしたのだ。
警察に頼らず。お父さんを説得して。わたしを助けて感謝されたりして。
そんなドラマみたいな理想の先生像に憧れて。
わたしの“平穏”だった“日常”を粉々にしてしまった。

「ぅ………あ……」

苦しい。痛い。苦しい。苦しい。痛い。苦しい。………………怖い。

わたし、死んじゃうんだ。
そう思うと、死ぬのが————消えるのが、怖くなった。

別にわたしが死んだところで誰も気にしやしないと思ってたのに、何よりも誰よりもわたしが気にしているのだった。

天国とかそんな夢世界なんて存在しない。
人は死んだら、その瞬間に無くなってしまう。
なにも感じない、なにも考えない、ただの無機物になってしまう。
そのことが怖かった。

わたしは結局変われない。
運命ってやつだ。

生まれた時から死ぬ時までの人生は神様が決める。
“世界のバランス”の為に、幸せな人と不幸な人がいる。
神様が計算の帳尻を合わせるために、幸せな人の幸福の為に、不幸な人は切り捨てられる。
簡単に、残酷に、容赦なく。
そんな世界だ。

だけど、どうしようもなく怖かった。
無くなってしまうのが怖かった。
もうお母さんを思い出せなくなるのが怖かった。
また死ぬのが、怖かった。

嫌だ。まだ死にたくない。
またあんな風に、誰にも見てもらえないまま消えていきたくない………………!


——————目を開けろ。


声がした。

——————消えたくないのなら、目を開けろ。

反射的に目を開けていた。

最初は涙で滲んで何も見えなかった。
ゆっくりと、涙が目尻から滑り落ちた。目の焦点も定まって「くる。お父さんと、目が、合って——————

「っ、うわあぁあっ!!」

突然お父さんがわたしから飛びのいた。
驚く暇もなく、口から強引に入ってきた空気にむせる。

なにが起きたのだろう。わからない。
わからないけど、体は自然に、というか本能的に玄関の方へ動いていた。
“逃げる”という選択肢を選んでいた。

よろめいて転びながらも玄関の扉にすがりつき、開ける。
外から入ってきたのは、夜の冷気と、町明かり。
今まで扉を叩きつづけていたのか、つんのめるようにわたしを抱きとめた、泣き腫らした顔の担任。
それと、遠くから響いてきたパトカーのサイレンの音だった。