二次創作小説(紙ほか)
- Re: カゲロウデイズ 挿絵あり 【奔走アピア】執筆中 ( No.55 )
- 日時: 2013/06/14 19:26
- 名前: 麻香 (ID: qdhAso1A)
≫Story*Ⅰ 〜奔走アピア〜
05)全てが抜け落ちた少女
まあ、ぐだぐだしながらも全員揃ったメカクシ団だったが。
問題はケーキ屋からの帰り道に起こった。
「カノさんっ!さっき録音できたご主人の断末魔、送りましょうか?」
「断末魔って………オレどんな声出してたんだ。知らないだけになおさら怖い……」
「いいね〜。じゃ僕はお返しに、キドがフリルのスカート穿いて鏡の前でおそるおそるポーズとってる写真を」
「ちょっ!?なんでそれ知ってるんだ!」
「キド………それ本当………?」
「いや、その、誤解なんだマリー!それは複雑な事情があってだな…………」
「………うん…………キドも女の子だもんね……そうだよね…………ごめんね。」
「何故謝るっ!?」
と、いつも通り平和な会話をしていると、最初にセトが“異変”に気づいた。
「あれ………なんスかね?」
もう大通りを出て暗い路地に入った頃。
いつも人通りの少ないこの道に、オレたちのちょうど行く先に、今日は数人の人がいた。
………いや別に人が通れない訳じゃないし、人がいること事態はそれほど珍しくはないのだが。
その雰囲気が、異様だったのである。
若いのも中年も入り混じった4、5人の男たち。
その中心に立っている、1人の少女。
この辺りで時々あるナンパの類かと思ったが、どうやらそれにしては険悪なムードだ。
男たちが怒りも露わに少女に詰め寄る。
背の高い大人に囲まれた少女はひどく小さく見えた。
男たちはまだオレたちに気づいてないっぽいが、果たして止めるべきか。
いかにも首を突っ込めば厄介ごとに巻き込まれそうなパターンである。
足を止め、オレたちが顔を見合わせたその時。
少女がなんの脈絡もなくこちらを向いた。
どちらかといえば整ったその顔は幼く見えるが、身長からすると俺と同じ高校生くらいだろう。
染めたというより色素が抜け落ちたような不自然な色の茶髪と、同じく色のない白い肌。
さらに不自然なことにその顔にはなんの表情も浮かんでいない。
こんな状況に陥った人間が浮かべるはずの、恐怖とか、困惑とか、懇願とか。
………なにもない、空っぽの表情。
人間の持つもの全てが抜け落ちたかのような少女。
そしてその、若干ツリ目の大きな瞳が————————赤く、光った。
「………っ!!?」
なんとか振り絞った勇気で踏み出しかけた足が、止まる。
思考が停止する。じっとりした汗が背中を伝う。目が離せない。動けない。
反射的に、本能的に、オレの意思に関係なく、足が一歩下がる。
まぎれもない。オレはこいつに、この自分より背が低くて弱そうな少女に、明らかに“恐怖”を抱いている。
キドに初めて会った時にも、人を殺すような視線で恐怖を味わったが、これの比じゃない。
理由もなく、言い訳の余地もなく、何かを考える隙もなく、ただ純粋に、簡単に、オレはこの少女が、怖い。
「……面白い能力だね、この子。」
「………え?」
後ろにいたカノが小さく、少し震えた声で言った。
能力とはつまり——————モモやキドが持つ、あの、能力……?
だがしかし、そんな恐怖を一瞬で断ち切る出来事が起きた。
「さっさと言え、この野郎っ!!!」
少女を取り囲む大人のリーダー格と思われる男が、そう喚いたと同時に、突然、少女の顔を殴りつけたのである。