二次創作小説(紙ほか)

Re: カゲロウデイズ 挿絵あり 【奔走アピア】執筆中 ( No.86 )
日時: 2013/06/14 19:33
名前: 麻香 (ID: qdhAso1A)

≫Story*Ⅰ 〜奔走アピア〜

08)新メンバー……らしい。


そこからは————特に言うこともないので簡略化して話そう。

男たちからナイフを奪うことに成功し、流れは急変した。
というのも突然現れたキドに硬直してしまった男たちをセトが一瞬にして片づけたのである。
さすがいつもバイトで体を動かしているだけあって運動神経は良い。
急所を疲れてあっけなく気絶した男たちを置いて、オレたちは同じく気を失っている少女をメカクシ団アジトに運んだ。
………あまりのあっけなさに不満に思う人もいるだろうが、ザコキャラとはそういうもんだ。

ちなみに男たちには、キドが警察を呼んでおいた。
あとは警察が男たちの素性を調べ上げ、ザコキャラよろしく簡単に刑務所の仲間の元へ送りこんでくれるだろう。
————ってかオレ、見せ場が全くねぇ!!

まぁそれはともかく。
問題は目の前の少女である。

「………………」

「…………………えっと……?」

「………………」

「………………」

マリーの看病により目を覚ました少女。
特に怪我もないらしいのだが。一言もしゃべらない。気まずい。

綺麗な方だと思うその顏を前髪で隠すようにうつむいている少女の目は、今は普通の黒い瞳である。
が、相変わらずその顏には一片の表情もない。
感情が。脈絡もなく、跡形もなく、抜け落ちて。

「あ……えー………。その、お前が男たちに襲われていたのは、どうやら俺たちが原因みたいで…………すまなかった。」

「………………」

素直に頭を下げるキドにも、少女は目もくれない。
なにが面白いのかただひたすら床の一点を見つめるのみ。
再び、なんとも言えない空気が流れる。

「………ところでさ、キド。この子メカクシ団に入るらしいよ〜。」

「そうか……………はっ!?なんでっ!!?」

「いやぁ〜。暇だったからメカクシ団の活動内容とか教えちゃってさ〜。まぁ本人も良いって言ってるみたいだし、良いんじゃね?」

「お前はお前はお前はお前はッ!!メカクシ団の秘密事項をどれだけ暴露すれば気が済むんだ!!!」

「え〜、キド怒ってる?そうだね〜。キドは昔、裏で動く秘密組織みたいなマニアックなヒーローに憧れてたから痛い痛い!」

目の前で行われるキド&カノのコント(?)にも無反応。
ここで、気を利かせたモモが少女に話しかける。

「あのね、そんな無理に入らなくても大丈夫だから。とりあえず、名前……教えてくれる?」

と。モモの優しい言葉遣いが功を奏したのか、少女がようやく目を上げた。
遠慮がちに、というかゆっくりと一つずつ言葉を選ぶように、話し始める。

「私は…………ツキヒ、リオといいます。満月の月と炎の火、里に桜で月火里桜。」

少女、改めツキヒとやらは小さくはないものの低く聞き取りづらい声を発する。
とはいえ。あたりまえのことだが普通の少女の声だった。
耳を疑うほど綺麗な声ではなく、その逆でもなく、普通の、ごくありきたりな音。

「そっか、ツキヒさんだね。私は如月桃。知ってるかもしれないけど、一応アイドルやってます。で、こっちがメカクシ団団長のキドさん、その隣がカノさん、セット……じゃなかった、セトさんで——————」

モモが一人一人を指して紹介していく。
が、ツキヒは聞いているのかいないのか無表情。
やがてオレの番が回ってきた。

「こっちは如月伸太郎。ヒキニートでオタクで…………私の………兄。うん。」

「おい————」

なんでそんな嫌そうなんだ、とツッコむことはできなかった。
それまで無表情・無関心だったツキヒが、がばっと顔を上げたのである。
大きな瞳が真っ直ぐにオレを見る。
感情までは読めないものの、明らかにオレに対して何か関心があるらしい。

「………キサラギ、シンタロー……ですか…………?」

「あ、あぁ…………」

オレの名前に聞き覚えがあるのか?
しかしオレには月火里桜なんていう知り合いがいた憶えはない。
そもそもこんな特殊なオーラの奴、一度会ったら絶対忘れないだろう。

「……………オレ、お前に会ったことあったっけ—————」

「ひ、ひえええええええええっ!!!」

ばっしゃあああん。

オレがツキヒに質問するのをさえぎるように、突如としてツキヒに大量の茶色い液体が振りかかった。
一瞬の出来事。はっと我に返ると、ぐっしょりと濡れている無表情のツキヒと、その近くで床に倒れて涙目で震えているマリーが目に入った。

「ちょ、駄目だってマリーちゃん!」

「ああああ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………」

「……………」

どうやらマリーが飲み物を運んでいて転んだらしい。
もはやメカクシ団の恒例行事である。ちなみにオレも何回かやられた。

しかも飲み物というのは熱々のココアだったらしく、モモとマリーにタオルで擦られているツキヒからは湯気がたっている。
それでも、無表情。
オレに見せたあのわずかな感情は、一瞬で消え去ったようだ。

「………あの。メカクシ団、入ります。」

「…………は?」

すでに脈絡とか理由とかを一切無視したツキヒの一言。
あまりに突然すぎて何のことか分からず、オレや他の一同は固まった。

「よろしくお願いします。」

そう言ってツキヒは、無表情に、頭を下げた。