二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【ダンボール戦機W】バン×ハルと失われた過去(改) ( No.413 )
- 日時: 2013/02/24 14:50
- 名前: レッド ◆mAzj/Mydf. (ID: CzRhDmzb)
第60章の続き
(ストーリーモード:リン)
でも、なぜ思い出したのかも気になる…バンのことだ、答えてくれても良いのに…。
バンは私を抱きしめて、うとうとしながらも微笑んで言う。
「本当に無事でよかった…でも、何で思いつめてたんだ?」
「兄さん…いつも明るく振舞ってるのかなって思うんだよ」
「お前が?」
「うん…綺羅のこと思って見てたのに、何だろう…この劣等感」
今頃になって感じる劣等感…兄のことが大好きだった昔の自分に対して、何を想っているのか。
私自身、幼い頃からずっと育ってきた生まれ故郷に戻りたいと想っていた…兄の諒平と直登は心の蟠りを癒してくれる、唯一の存在だった。
「劣等感?」
「うん……なんていうか、ちょっと複雑かな。バン兄さんがいるのに、言っても分からないよ…」
「いや、想ったままに言ってみな。そうすれば、何かが変わると思うぜ」
バンに宥められ、思うが侭に言ってみる。きっと、何かが変わると信じて…。
「うん、諒平兄さんと直登兄さんがいて当たり前の日常を過ごしてきたのに……虐待されて傷ついた心を開くのに、どれだけ時間がかかったんだろう」
幼い頃、2人の兄が居て当たり前の日常を過ごしてきた。しかし、心の蟠りを揺らぐ出来事が起きた。
それは…叔父の小海修一による虐待。その虐待は平和な日常を凌ぐものとなり、暴力による虐待を受けてしまうほどになった。
心の傷を負ったのと同時に心を閉ざしてしまった私は誰にも相談できずに居たから……その記憶を思い出すのが辛かったりする。
「でも、バン兄さんのところで暮らすのも良いかなって思ったし……誰よりも面倒を見てくれる人は兄さんしかいないんだもの」
山野家に引き取られたことで、バンと出会えたことが嬉しかった。実の弟である健太と直太のことも気遣っていたからだ。
心優しい兄のところで育って、少しずつ癒えたら良いと思っていた…心の支えは、大切な兄のバンたちだった。
「うん、確かにそうだな……でも、それは違うな」
「違うって……何が?」
バンが否定したことに驚きを隠せずに居たが、その考え方は違った。
「いつも思ってたのは、リンが強がってるところだよ」
「つ、強がってる……?」
「そう……最初にやってきた頃は物凄く怯えてたよね、俺の父さんや母さんが暴力するかもって思い込んでたろ?」
「うっ……どうして、それを……」
健太たちのことを気遣って言うのもありだと思っていたけど、バンの言うことは最も素直なところだ。
心を閉ざしていたことに気付いていたのだろうか……たまには怖くて耐えられない時もあった。
「お前は心を閉ざしていた……それは虐待があったから、誰にも言えないでいたんだろう?」
「えっ……どうして知ってるの?」
バンが気付いていたとは知らずに居たので、相談できなかったのを思い出す。
今まで虐待のことを言えずに居たのに、何で受け入れてくれたのかも分からなかった。
「あぁ、警察に呼ばれてな……その時、お前の過去を聞いて知ったんだよ」
「それで知ってたのね……」
「まぁ……俺が言うのもなんだけど、あの時のこと覚えてるか?」
「あの時……?」
「そう、優ちゃんと一緒に廃墟ビル探検しに行ったことがあったよね」
そういえば、優と一緒に廃墟ビルを探検した……その帰りにバンと話して歩いたことは覚えている。
なぜ、今頃になって話すのか……いったい、どういうことなのかも知りたい。
「あっ……そういえば、探検しに行ったなぁ……」
「うん、帰りがけに歩いていた時さ……リンの首辺りに虐待の痕がくっきり残ってたから気になってな」
バンの話を聞いて、ようやく納得することができた。どうりで虐待について気付いていたわけだ。
最初から気付いていれば、すぐに話せたかもしれない……思えば、バンに言うのが怖かった。
誰にも話せず、心を閉ざしていた……それで気になっていたのだろう。辛い思いをさせたくなかったから、バンたちに話したくなかった。
「えっ……」
「うん、それで警察に事情を話して説明しといたんだ…その時に虐待があったと言う話を聞いて驚いたぞ」
「ごめん……っ、どうしても言えなくて……」
「別に良いんだ…そんなことで強がってないで、お前らしく生きていけば良いさ」
今まで溜まった涙が溢れてきて、我慢ならずに思いっきり流した。辛いことがあっても、バンがいたから生きてこれたのだと気付く。
「兄さん……ありがとォ……」
バンは嗚咽しながら泣きじゃくる私の背中を優しく擦った。
本当に辛い思いをさせたかもしれないという悔しさがあってこそ、生きる証を掴んだ。
「いつでも俺に頼ってくれれば良いから……たまには甘えてな?」
「うん……」
「ほら、いつものリンらしくないぞォ……」
バンは親指で私が流した涙を拭き取って言う。大好きな兄を受け入れておきたいと思った瞬間だった。
ふと思い出したのか、バンはゆっくり起き上がった。ベットの下に置いてある袋を取って渡す。
「これなぁ……お前に渡そうと思ってたんだ」
「えっ、これを……私にくれるの?」
「ああ……遅くなったけど、退院おめでとう」
退院祝いに買ってきてくれたプレゼントを受け取り、慎重に紙を開ける。
そこに現れたのは、可愛らしいクッションだった。私が座りやすいように気遣って買ったらしい。
「ほら、身体の傷も癒えてきたけど……座る時、辛いかもしれないだろう。それで、クッションにしたんだ」
「ありがと、兄さん!」
思いっきり抱きついた私をガッチリ受け止めた。バンの優しさが奏したのか、ついに心を開いたのだ。
山野家の一員であることを誇りに思ったその瞬間、バンは苦笑しながらも優しく抱きしめた。
「俺の大切な妹だから……お前は強がらなくても良い、辛くても俺たちがいることを忘れるんじゃないぞ」
「うん、そうだね……ありがとね、バン兄さん。何か吹っ切れたかも!」
心の蟠りが解放されたのと同時に強がらなくても良いって思えたのは、この時が初めてだった。
何より生きる証をくれたバンには本当に感謝しきれないと思っていいほど、心を開くことができたのだ。