二次創作小説(紙ほか)
- Re: 【ダンボール戦機W】バン×ハルと失われた過去 ☆番外編☆ ( No.610 )
- 日時: 2013/06/10 16:35
- 名前: レッド ◆mAzj/Mydf. (ID: hSo8a19A)
第6章の続き(バン視点)
リンのように虐待を受けた子供たちは想像以上に心の傷を負っている。
初めて会った時は心を開く勇気がなかったので、何も言えない状態になっていた。
俺ですら、リンの過去を知るまでに時間がかかった。それでも、リンは素直で優しい子だ。
いつも酒を飲んで帰ってくるたびにリンは起きて、出迎えてくれた。高3になっても変わらない。
「兄さん…」
「俺が何を言いたいのか分かってるよなぁ?」
リンを抱きしめたまま、ヒックと呻きつつも顔を顰めた。彼女には辛い思いをさせたくない。
兄の諒平に会いたいという気持ちに駆られていたせいで、誰にもいえなかったんじゃないか。
ただ、リンには山野家の一員であるということを忘れて欲しくない。それは俺も同じだ。
「リン、お前さぁ…何か明るく振舞ってねぇ?」
「…っ、何でそんなことが------------------」
どうして分かるのか、ということを察した俺はリンを見て視線を合わせてみる。
当時、中3だったハルと同じような目つきをしていた…そんなことよりもリンの様子がおかしいのは何となく察していたつもりだった。
「分かっちまうんだよ…ハルと似たような感じだったからさぁ〜」
「バン兄さん…」
「今まで俺が気付かなかったことなんてあると思うかぁ?」
リンに問い詰めると、ガクッとうなだれるようなしぐさを見せて顔を顰めた。
やっぱり、図星だったのかぁ…っていうか、俺が力になってあげたいというのもあったからだ。
いつも素直で大人しいリンの心は今も癒えないままなのか…それとも、素直じゃないハルと比べて違うものなのかも分からない。
「ねえ、兄さん…」
「なんだぁ〜?」
「さっきはごめんなさい…」
河川敷に居た時のことを思い出して謝ってきたリンは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
そんなことを気にしていたのか、と思いつつも苦笑したのと同時にリンを抱き寄せる。
「いいって…俺は別に気にしてねぇからよ」
「えっ…」
「まぁ、お前がそんなことをするとは思わなかったけどなぁー」
ヘラッと笑いながら話す俺の様子を見て、リンは今まで強張っていた顔を緩ませて頷いた。
目の前に居る妹のリンは…俺にとっても、大切な家族の1人なんだ。いつも辛い顔をしていて、誰にも話すことができなかったのを覚えている。
「兄さん…」
「まぁ、しょうがねえけどな…」
リンの背中をポンポンと叩きながら笑う。心の傷が癒えるようになるまで力になって支えてあげるつもりだ。
その思いを込め、リンの背中をあやすように眠らせる。少し経って、寝息が聞こえてきた。
(やっぱり、心の傷は思ったよりも深いな…)
諒平に会わせてやりたいのは山々だが、どうすればいいのか分からなかった。
リンのことを考えるのは後にしよう…そう思いながら、深い眠りにおちていった。
***
リンと健太のケンカから二日経ったある日の夜、【Dective bar】という酒場で酒を飲んでいた。
マスターの数野修一と話しながら、酒を飲む時間は格別となっている。数野はどれだけ飲んでいるのか、というような顔をしていた。
「バン…お前、どれだけ飲んでるんだ?」
空になった5本の酒瓶を見て、目を見張りながら呆れていた。本当に飲みすぎだと突っ込みたくなる。
いつの間にか知らない間に飲んでて、気付いたら6本目に入っていた。ハルに迎えに来てもらった方がいいかなって思ってしまう。
「飲み過ぎだろ、バン!」
「んー…飲み過ぎても良いだろォ、これくらいならいけるってー」
「はぁ…ハルちゃんに連絡しておくからな。全く、世話の焼けるヤツだ…」
数野はCCMを持ちながら、画面を開く。ハルに迎えに来てもらうっていうことで決定だな。
時計を見れば、夜11時ちょうど…もう少し酒場に居たい気分だ。そう思いながら、酒瓶を持ってコップに酒を注いだ。
6本目の酒を飲み終えた頃には右手で酒瓶を持ったまま、カウンターに突っ伏して寝ていた。
「-------ン、バン起きて!」
ユサユサと肩を揺り起こす声がしたのと同時にハルが迎えに来たようだと悟る。
涎を垂らしたまま、眠そうに目を開ければ…心配そうに顔を覗き込んでいるハルの姿が目に映った。
「--------ん〜…?」
「あー! バン、また飲みすぎ!!」
「なんだ、ハルかぁ〜」
「全く、もう…『なんだ』じゃない!」
どれだけ飲んだの、というような顔をして呆れていたハル。酒瓶を見れば、空になった6本が転がっている。
流石に飲み過ぎちまった…と言いようがなく、かなり飲んで寝ていたみたいだ。
「気付けば、いつも酔っ払って!」
「別に良いだろォ…酒を飲んでれば落ち着くんだよ」
「落ち着くどころか、ベロベロに酔っ払って…」
ハァ〜ッと言いながら溜息をつくハル。その様子だと連れて帰るのが決まりだ。
代わりにハルがお金を払ってくれたので、彼女に手を貸してもらいながら歩きつつも店を出た。
外に出ると、真っ暗になっていた…ハルは右肩に俺の手を寄せて握りながら、左手で背中を支えている。
「…本当に信じられない、何本飲んだの?」
「んー…6本?」
「はぁー6本も!?」
本当にどれだけ飲んだんだ…というようなしぐさを見せて驚くハル。
ベロベロになるまで飲んだのも久しぶりだ…こりゃ、ハルの家にお泊り決定だ。
「ぅん…まぁ、飲み過ぎてもいいかなーって…」
「このバカ…まったく、ホントに世話が焼けるヤツ!」
ハルは呆れながら、文句を言う。しょうがないから、家に泊まらせるというしぐさを見せた。
背負われながら歩いているうちに睡魔が来て、深い眠りに落ちていった。
***
数分後、住宅街に入ったのを機に目を覚ますと…ハルの背中でおぶさられたまま、かなり寝ていたことに気付く。
「んー…?」
眠そうに唸りながら、重い瞼を無理やり開けて見る。気付けば、ハルの家の前までやってきていた。
ハルは右手で俺の右手を握ったまま、背中を支えていた方の左手でドアを開ける。
「よいしょ、っと…」
ベロベロになった俺を床に寝かして、ドアを閉める。ハルは脱ぐ前に俺の靴を脱がせた。
かなり酔っ払ってて、思考が追いつかないまま眠りこけそうになる。靴を脱いだ後、ハルが上がって俺の目の前に来たかと思えば顔を叩く。
「バン、ここで寝たら風邪引くよ。2階に行こう」
「ぅん…」
眠そうに目を擦りながら、重そうな瞼を開けて起きる。ハルに手を引かれながら、2階に通じる階段を駆け上った。
2階に着き、ハルの部屋に入ったのと同時にフラフラ歩きながらもベッドにダイブして倒れこむ。
「バン、私のベットで寝ないでよ!」
ハルに突っ込まれながら、眠そうに見つめる。そういえば、ハルは心を開いているんだよな。
俺に対しては、いつも気にかけてくれるし…酒を飲み、寝ていたときは起こしてくれるからありがたかった。
「なぁ、ハル…聞きたいことがあるんだけどさぁー」
「何よ…急に?」
Lマガを持ってきて、ベットの下に座り込んで読もうとしたハルはムッと顔を顰めた。
そんなにふてくされなくたっていいだろ…リンのことを思い出して、ハルに聞いてみた方がいいと思ったからだ。
「リンってさぁ、明るく振舞ってるようにしか見えなくねぇ?」
「そういえば、確かに見えるわ。リンはいつも素直なのに、明るく振舞うんだよねー」
ハル自身も中3の時、兄を亡くしているので1人ぼっちでいた孤独による寂しさが分かる。
空手部の後輩であるリンには誰よりも気にかけていた…妹のように可愛がってくれるハルはいつも優しく接している。
「でも、なんで急に?」
「一昨日、リンが健太とケンカしただろ?」
「あぁ、アレね…どうりで傷つきやすくなったのかなぁ?」
リンの気持ちを考えれば、傷つきやすいのは確かだ。ハルも兄を亡くしたときは荒れていたから分かる。
心の傷は想像以上に深く負ってしまっている…リンの兄である諒平に会わせるか悩んでいた。
もし、諒平に会わせておけばどうなるか分からない…実の父親に顔を合わさずに済めば大丈夫だ。
「多分な…ハルはどう思う?」
「どう思うって…何が?」
「リンに兄貴を会わせるってこと…」
ハルの目が大きく見開かれる。それ、本気で言っているのか…というような顔をして驚きを隠せない。
- Re: 【ダンボール戦機W】バン×ハルと失われた過去 ☆番外編☆ ( No.611 )
- 日時: 2013/06/11 21:43
- 名前: レッド ◆mAzj/Mydf. (ID: hSo8a19A)
リンの気持ちを考えても、兄に会わせても良いのかと思ってしまう。
虐待を受けてきた子供たちは孤児院で育ってきた…もちろん、リンもその1人だ。
心を閉ざした子供たちは大人を信頼できるかどうか分からない。俺もリンを見てきて、こんなに辛い思いをしたのだと気付く。
「リンを…兄貴に会わせてあげたいんだ」
「お兄さんがいたとしても、いつ会えるか分かったもんじゃないわ!」
「あぁ…俺が会わせてもいいって思うなら、リンは心の傷を癒すことができるんじゃないか」
俺はリンを兄に会わせることが良いかもしれないって思った。
兄に会わせるとしても、リンがどんな思いを抱いていたか知りたい。
虐待を受けてしまったリンの心は一生、治ることはないだろうと思っていた…そんなことも気にせず、耐え難いということもあったのではないか。
「確かにそうかもねぇ…でも、リンをお兄さんに会わせるにしては大胆すぎじゃないの?」
「どうして、そう言えるんだよ…俺が何をしても問題ないはずだろ?」
「いや、問題あるよ…実の父親に虐待されたことで、まだ心の傷が癒えていないわ」
ハルに言われて気付いた…そういえば、実の父親がいたことを思い出す。
そうか…だから、リンは実の父親に会いたくないという思いを抱いていた。
ただ、リンは父親に対して複雑な思いを抱いていたのではないか。そう考えれば、納得がいく。
「まぁ、実の父親に会うとしても…リンがどんな思いを抱いてるか聞いてみたいんだよな」
「バン…その気持ちは分かるけど、リンのことを気遣うのも大切だよ?」
「そんなこと言われなくても分かってらぁ…リンは俺の大切な家族だ」
ヒック、と呻きながらもベットの下にいるハルを見た。ハルは心配そうに気遣っている。
リンの事で悩んでいたのもあるだろうけど、ハルは俺を見てきたから分かっているつもりだ。
ふと、冷蔵庫があったのを見つけて立ち上がる。それに気付いたハルが思わず突っ込んだ。
「ちょ…人の冷蔵庫を勝手に開けるなー!」
「なんだよ、別に良いじゃんかぁ…」
ウィーッと呻きながら、右手で冷蔵庫を開けると…缶ビールが1本入っていたのを見つけて取り出す。
冷蔵庫のドアを閉め、ベットに戻って座った。缶ビールのプルトップを開けて飲む。
「バン、いくらなんでも飲みすぎじゃあ…」
「うるせぇ、これくらいにして寝るから良いだろォ〜?」
「飲み過ぎだよ、まったく…バン、いつも飲むと寝ちゃうからなー」
ハルはしょうがないというような顔をして笑う。幼馴染なのに、何でも分かってしまう。
俺が酒を飲み始めたときから知っていたので、酔っ払いの扱い方には慣れている。
文句を言っても、俺の話を聞いてくれるハル…いつも素直じゃないけど、幼馴染でありたいと思っていた。
「バン?」
ハルは読みかけのLマガを開けて、両手で持ちながら読んでいたが…俺の様子がおかしいことに気付く。
缶ビールを煽って飲んでいた俺は右手で口についた汚れを拭いながら、顔を顰めていた。
やっぱり、ハルには隠し事できてもバレてしまうんじゃないだろうか…そう思いながら、缶ビールを煽るように飲んだ。
「さっきから黙りこくって…急にどうしたの?」
「なぁ、ハル…お前さぁ、ヒョウちゃんが居ない時は寂しいと思ったことなかったかぁ?」
かつて兄だった人見氷介のことを思い出し、ハルに問いかける。俺の言いたいことを理解しているが、首を傾げていた。
ハルは何のことかと思っていたが、ようやく俺の言っていた意味が分かったらしい。
「あぁ、あのバカ兄貴ね…うん、最初は一人ぼっちになった気分だよ」
「やっぱり…そう来るよな、あの事件のこと忘れてなかったのかぁ?」
「当たり前だよ…兄貴がナイフで刺された時は本当にショックを受けたけどね」
ハルは苦笑しつつも、兄のことを忘れることができなかった。目の前に居た兄をいきなり失ってしまったのだから--------
その気持ちは俺も分かるような気がする…リンだけは気にかけていたから、いつも可愛がってくれた。
氷介を失い、学校では荒れまくって問題を起こしていたが…幼馴染である俺が兄代わりとして接するようになった。
その甲斐あって、ハルの心の傷は少しずつ癒えていった…彼女の愚痴を聞くのは俺の役目だ。
「そうだよなぁ…ヒョウちゃんは天国から見守ってくれてるから、大丈夫だ」
「うん…あの時、バンがいたおかげで少しずつショックが和らいでいったけど…」
「…けど?」
「けど、直紀やコウたちには知られたくなかったのに…ニュースで見たって言ってたようなもんだしね」
「まぁ、しょうがねえよ…犯人は捕まっちまってんだぜ、忘れちまえば良いのになぁー?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ハルはムッとして読みかけのLマガを持ったかと思えば…いきなり俺の頭を叩いた。
顔を顰めながら、右手で頭を撫でていた…いきなり何すんだよっていう感じだ。
「バンのバカッ!」
「何すんだよ、ハル…」
「そんなこと言われても…忘れるわけないじゃない…」
そうだった…ハルは中3の時に起きた事件の事が忘れられなくて、今も覚えている。
ましてや、記憶がないわけではない…心の傷を負い、荒れていたハルは俺と関わることで本来の明るさを取り戻していった。
「そうだった…ごめんな、急にからかって悪かったよ」
「まったく…ホントにからかってくるの止めてよ!」
「あはは、別に良いじゃんかぁー」
一気に缶ビールを煽り、空になったのを見かねてゴミ箱に向かって投げる。
缶ビールは見事にホールインワンし、ゴミ箱の中に入った。たまには、こんなことをするのも良い。
その様子を見ていたハルは頭を抱えながら、思わず溜息をついた。本当に何やってんだっていう感じだ。
「バン…あんた、いったい何やってんのよ…」
「へへっ、たまにはこういうのもありだろォー?」
そう言って、右手を動かしてみた。ふと、眠気が迫ってきた…大きく欠伸してから、ハルを手招きする。
「…何よ、バン?」
これから風呂に入るんだというような顔をして言うハルを見て、思わず抱き寄せる。
突然の行動に目を見張ったハルはカアーッと頬を赤らめて、何をするの…っていう感じで俺を見つめた。
「ちょ…いきなり何するの?」
「風呂なら、明日にしろよぉ…」
「えっ、何でそうなるのよー!?」
「だってさぁ、こんな時間に入るの良くねーって…」
「うっ…でも、電気を消した方が良くない?」
ハルに言われて、部屋の電気がつけっぱなしにしてあったのを思い出した。
寝る前に消して来いって言った後、ハルは素直に俺から離れて降りた。ゆっくり立ち上がり、ドアの前にある部屋の電気のスイッチを消す。
「よし、これでいいかぁ…」
ハルは部屋の電気の明かりが消えたのを確認して、ベットに横たわって寝ていた俺のところに戻ってきた。
俺の隣に横たわり、ハルは苦笑しつつも俺の背中に手を回す。怖いから、一緒に寝たいという感じだろうか。
「ねぇ、一緒に寝るの久しぶりじゃない?」
「そうだな、一緒に寝るのは久しぶりだけど…1人で寝るの怖い?」
「いや、怖くないもん…中学の時と比べたら、今の方がまだマシだよ」
「そっかぁ…それなら良かった、そろそろ寝ようぜ」
そう言ってやると、ハルはコクリと頷いた後に目を閉じた。すると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
ハルの身体の温かさを感じながら、ウトウトしつつも目を閉じる…だんだん深い眠りに落ちていったのだった。