二次創作小説(紙ほか)

Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.7 )
日時: 2012/12/28 13:22
名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)

2 全ての真実

———まずは何を話すべきか。

単刀直入に守に関してのことを言ってしまえば、状況が理解できていない人たちは、混乱してしまうだろう。だからと言って、あの時の自分の気持ちを言葉にすることはとても難しい。だったら、実際に守の身に起きたことを言った方がいいのだろうか。
そう考えていると、扉を叩く音が部屋の中で響き渡った。

「よっ、修也。随分と早いな」
「元気そうで何よりだ」

はぁと呆れたようにため息をつく修也は、椅子に腰掛けると、二本のペットボトルを取り出して、そのうちの一つを郁斗に投げつけた。

「貸し一つ」
「えぇ〜これだけで…」

ブツブツと文句を言いながら、郁斗はキャップを開けて、中の飲み物を腹の中へと流し込む。
おいしいレモンが買えた、と舞い上がっていた夏未が作った、オリジナルのドリンク。蜂蜜も入っていて、ここにいるときは、ミルクと水しか味わえなかった郁斗にとっては、感動してしまうほど嬉しいものだ。

「ほかの人たちは?」
「いろいろあるからな」
「そうか、修也って暇人なんだな」

勝手に一人で納得していると、カチャッと金属に触れるような小さな音が、隣から聞こえた。

「退院する前に、その頭を斬り落としてやろうか?」
「あぁ、それはご勘弁を…」

一瞬本気で殺されるかと思った。修也が本当に自分の刀に手を伸ばしたからだ。
少なくとも、自分がまだこの国にいたときは、こんなに凶暴じゃなかったはず、人というものは成長すると共に変わっていくのだと、改まって思い知らされた気がする。

「あら、修也ってば早いのね」

もうノックするのが面倒になって、直接部屋に入ってきている。そのあとに数人が遠慮がちに夏未の後を追ってきている。

「まっ、このくらいかしら。残念ながら、嵐王と悠也さんは、どうしても忙しくて、手が離せないんですって」
「了解。じゃあ、話を始めようか」

小さく深呼吸をしてから、郁斗は周りを見渡した。

「まぁ、俺が知っているのがどれくらいかは分からないが…」

そう言うと、郁斗は話を始めた。



「俺との戦闘中に守は様子がおかしくなった。という表現はおかしいな、“本性を現した”と言ったほうがいいか」
「本性?」

夏未が聞き返すと、郁斗は小さく頷いた。

「まず、一緒に暮らしてきたお前たちに聞きたいことがある。たまに、守の体に“異変”が起きたりしないか?」


「………左目の痛みね」


「「「えっ?」」」

後ろの方に立っていたラティアが、数人を押しのけて、郁斗の前までにやって来ると、彼の顔を強い目つきで見つめた。

「そうだ。それが唯一無二の証拠だ。—————守が“完全な人間ではない”ということの」
「どういうこと!?守が人間じゃないって言いたいの!?」
「おい、春奈。落ち着け!!」

今にでも郁斗に殴りかかろうとしそうな勢いで、春奈は大声で怒鳴った。それを修也と秋がギリギリで抑え込んでいる。しかし、春奈は郁斗を睨みつけて、彼に対して怒りをぶつけた。

「ふざけるんじゃない!!勝手に冬花を攫っておいて!私たちを傷つけて!!!それで何事もなかったかのように、国に戻ってきて、守を人間じゃないって言い張るの!?お前はどこまで、守を壊したら気が済むんだ!!!!」

突然、国の戻ってきた郁斗を、春奈は受け入れることができなかった。過去に自分が彼と同じようなことをした事実に対して、目を背ける気はない。自分だって、国や冬花に大きな傷を与えてしまった。
しかし、それでも無理なのだ。郁斗の守に対する劣等感が大きく影響しているかもしれない。それとも、自分と同じような罪を犯した郁斗の姿が、かつての自分を映していた感じがしたからかもしれない。だからこそ、それがとても悔しくて、抵抗してしまった可能性だってある。

「守は悪い人じゃない!!!守がこの国に来てから、私たちはまたあいつから元気をもらったんだ。それをお前が一瞬にして壊した!!許されるはずが—————」


「そんなの最初から分かってんだよ!!!!」


あの戦闘以来、初めて聞く郁斗の怒鳴り声だった。しかし、それは春奈に対するものではなく、今の自分に言い聞かせるような叫びだった。

「守を傷つけて、お前たちも殺そうとして、それで、冬花をアルティスの下へと連れ去ろうとした!!俺は最低だ、そんなの分かってる!どうやってこの罪を償えばいいかなんて、考えられない……。だから、俺は自分の体が治ったら—————」

そこで郁斗は口を閉じた、両手を強く握りしめて、春奈を射抜くように強く見つめる。

「なんでもない、忘れてくれ……。お前が俺を受け入れられないなら、それでも構わない。だけど、この話だけは……」



———「ごめん、頭を冷やしてくる……」



郁斗の言葉を遮って、春奈は部屋を駆けだした。それを追いかけようとしたティアラを、後ろからラティアが首をゆっくりと横に振って、そっとしておくようにと静かに伝える。

「郁斗、ごめん。春奈、最近ちょっと心が不安定なのよ。でも、心配しないで、すぐにまた元気になるでしょうから。だから、話を続けて」

夏未が優しく言うと、戸惑いながらも郁斗は頷いて、話を続けた。

Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.8 )
日時: 2012/12/28 13:22
名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)

「守はホムンクルスに似たようなものなんだ。完全な人間ではない、というのはそういう意味だ」
「で、守を創りあげたのが、“アルティス=スロード”ね?」
「……あぁ」


ここまで話が進んでくると、ラティアは自分の考えが正しいことに確信を持ち始めていた。おそらく、自分はこの中で一番早く守の異常に気が付いていたであろう。しかし、それを証明してくれる、証拠が何一つとしてなかった。だから、今までずっと黙っていたのだが、これを夏未たちが知ってしまったら、かなり厄介なことになるだろう。

「ちょっと待て、この魔法界で人造人間を完成できる人なんて、いるはずがない。どんなに高等な魔術を使ったとしても、それは不可能だ」

一郎太の言葉に、数人は納得していた。そして、反論を求めるように郁斗を見ると、彼はそっと目を瞑って、言葉を考えていた。

「……あぁ、“不可能”だよ。実際、アルティスだって失敗したさ」
「じゃあ、守は?」
「気に食わないが、アルティスから言えば、守もまた“失敗作”だ。ただこの世界で一番“完璧”に近い存在であることは確かだろうな。守の左目が見えないのは、あいつが完全でない証拠の一つなんだ。だが、守が人間ではない、というのもまた違う」

郁斗の言葉にまた首をかしげる夏未たち。彼の言いたいことを完全に理解できているのは、今の段階で、ラティアと秋だけかもしれない。
はぁっ、とため息をついて、郁斗の言葉に続けて、説明をし始めた。

「守の体は別次元で“ある人物”を元にして造られた。それが“円堂守”よ。でも、元としたのは外見だけであって、心は造らなかった。必要ないからね」
「必要ない…?」

今度は修也が訊きかえした。ラティアは顔を伏せ、少し眉間に皺を寄せる。

「アルティスからすれば、守は自分の人形となればいい。命令すれば、なんでも言うことを聞く。目的のためなら、どんな犠牲を払ってでも、実行させる。そうなればいい。だから、誰かを強く想ったり、大切にしたりする円堂の心はかえって邪魔になる。それに、無駄な魔力を使う必要もなくなるわ。だから、体だけ造ったのよ。でも、やっぱり失敗した」

ため息交じりにラティアは言った。
彼女の言葉を聞いて、夏未の体に理由の判らない悔しさと怒りが駆け巡った。失敗した、それはまさに守を侮辱しているも同然だ。もちろん、ラティアにはそのつもりはないことは分かっている。敢えて言うのならば、この感情はすべてアルティスに向ける牙だ。
同じようか感慨を修也たちも抱いたのだろう、両手を強く握りしめて、顔をそっと伏せている。

「失敗作もまた必要ない。だから、アルティスはフェアリー王国に捨てたんだ。そのあとに、守が死のうが、生きようがもうあいつには関係ない。本当はそのまま放置して、もう一つの新しい人を造ろうとした、そこでまた問題が起きた」

次に郁斗の視線は冬花を捉えた。おどおどしている彼女は、自分が見つめられた理由が解らない。

「守を拾った瞳子姉さんが、あいつの命を救った。そして冬花が、守に人間としての感情を与えた。そうなってしまえば、アルティスからしたら、面白くない。だから、もう一度守を取り返そうとした。それと、大きな力を持っている冬花を我が物にしようと、魔法石を餌として引き寄せる。そして、円堂も手に入れる事ができるかもしれない。円堂が自分の物になれば、守が壊れたとき、円堂を使えば、もう一度チャンスがある……」


「二兎を追う者は一兎をも得ず……。その言葉を知らないようね、この外道は」


鬼のような形相で夏未は言った。もし、目の前にアルティスがいたのであれば、すぐにでも刀を握って、八つ裂きしていたのに違いない。

「これじゃあ、どっちが偽物の人間なのか判らないわね。よっぽどアルティスの方が、イカれてるわよ」

ラティアも夏未と同じような表情で、低い声を使って呟いた。

「なんだ、話は早いじゃないか……」

音を立てずに修也はそっと椅子から立ち上がった。

「要するにアルティスをぶった斬ればいいんだろ?」

フッと今は見えない“敵”に向かって修也は嘲笑った。