二次創作小説(紙ほか)

Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.9 )
日時: 2012/12/28 23:51
名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)

3 懐かしの場所


———(ぶった斬ればいいんだろ?)


まぁ、そう簡単に行くはずもないのだが。とは思っていたものの、なぜか彼らといると、できるような気がした。
アルティスを倒して、円堂たちを元の世界に戻す。そして—————

「守を……」

ガタンッと突然開かれる扉、足音で誰なのかすぐにわかった。彼女はポニーテールを揺らして、優しい(?)微笑みでこちらに向かってくる。

「まっ、とりあえず、退院おめでとう」
「おう」

歩けるようになるまで結構時間がかかってしまったが、今日でようやく悠也から許可を得ることができた。消費していた魔力も大体元に戻り、晴れて元気になれたというわけだ。
もちろん、まだ激しい運動は控えろ、と念を押されているが、どちらにせよ、今の体力では無理な話だ。無理矢理にもでも体を動かして、もう一度倒れてしまったら、元も子もない。
そして、朝一番から夏未が迎えに来てくれたのだ。他の人たちはいろいろと忙しいらしく、空いているのは夏未だけだったらしい。

「最初に家に戻りましょうか。まだアンタの部屋、ちゃんと残ってるよ」
「本当か!?」
「家具とかはないけど、ベッドはあるわ。それに、もし欲しいなら、城に頼めばいいし」

ヒラヒラと手を振って、早く準備をするように郁斗に促すと、夏未は部屋を出て行った。あらかじめ、持って帰るものなど少なく、荷造りは五分足らずですぐに終わった。

「よし、じゃあ、行きましょうか」

荷物を片手に郁斗と夏未は部屋を後にした。



「へぇ、あまり変わってないんだな…」

賑やかな辺りを見渡して、郁斗は呟いた。
この国を去ってから、七年も経っているというのに、街の形どころか、雰囲気すら全く変わっていないことに、郁斗は内心で驚いていた。それが顔にも出ていたらしく、夏未が小さく笑った。

「まぁね。買い出しの場所も全く変わってないから、今度頼めるわね」
「えっ、買い出しやるのか?」
「守も修也も交代でやっているわよ」

小さく面倒くさそうに郁斗はため息をついたが、夏未には聞こえていなかったらしく、彼女はそのまま家へと直行する。


家の扉の前に立つと、今更だが緊張してきた。自分の前にいる夏未は、普通に扉を開けたのだが、今までに自分がしてきたこと、そして、この中に春奈や修也たちがいることを考えると、体が固まってしまう。

「ほら、早く入らないの?」
「い、いや、入るよ。うん、入る…」

弱く答えると、郁斗は扉をくぐって、家の中へと足を踏み入れた。



———(本当に何も変わってない……)



7年前のあの懐かしき風景は、何一つとして変わっていなかった。椅子も、テーブルも、全て同じ。何より肌から感じる雰囲気は、穏やかなもので、優しく郁斗を受け入れてくれた。

「何泣いてんのよ」
「えっ、俺、泣いてる?」

夏未に言われて、自分の頬に触れる郁斗。たしかに、双眸から流れる涙によって、微かに濡れていた。それに気がついてから、なぜかもっと泣いてしまいたい衝動に駆られた。拭いても拭いても、溢れ出してきて、ついにはその場にしゃがみ込んでしまった。

「男の子がそんなに泣いて……。みっともないじゃない」
「分かってる……分かってるけどさぁ……」


———なんか、懐かしくって…


静かに郁斗の背中を夏未は擦る。それもとても暖かかった。何もかもが自分にはもったいなすぎるくらいの感情だった。
怨み、妬み、憎しみ……。七年前からずっと邪悪な渦に閉じ込められていた、郁斗にとって、目の前に広がる全てのものが、幸せだった。
あのまま、憎悪が赴くままただひたすらに破壊をする世界で生きていたら。こんな気持ち、もう二度と感じることがなかったであろう。

いろんな感情が絡み合う中、ガチャリと静かに家の中の一つの扉が開いた音が響いた。
中から出てきたのは、春奈だった。両目をぱちりと大きく開けて、夏未と郁斗の姿を見つめる。

「あら、春奈。おはよう」
「……郁斗?」

夏未に声をかけられたのも関わらず、春奈は泣きじゃくっている少年の名をそっと呼んだ。
すると、郁斗は涙を吹きながら、顔を上げて、立ち上がった。

「えっと……“久しぶり”、春奈」
「……」

瞬間、春奈の瞳から涙が零れ落ちた。えっ、と小さな声を上げて、郁斗は慌て始めた。別に悪いことを言ったつもりはないと思うが、すぐに郁斗は傍に駆け寄って、次は彼が泣いている春奈の背中を擦る。

「ごめんなさぁい……。郁斗は悪くないよぉ……うっ、いきなり怒鳴ってごめんね…」
「な、なんだ……。そのことか……」

七年経って成長していたとしても、やはり性格はあまり変わらないようだ。あの頃の幼さはまだ少しだけ春奈には残っていた。

「本当に謝るのはこっちのほうだ。傷つけてごめん……。謝って済むようなことじゃないのは解っているけど、今の俺にはそれしかできないから……。本当にごめんな」
「郁斗、おかえりなさい!」

グイグイと雑に自分の顔を拭きながら春奈は言った。その表情に笑顔が戻ったことに安心して、まるで自分の妹を慰めるかのように、彼女の頭の上に手を乗せた。

「さてさて、荷物を置いたら、食事でも作りましょ!それで、守のところにも行かなくっちゃね」

その場の空気を変えるために夏未は明るく言った。そして、適当に荷物をテーブルの上に置いて、キッチンへと向かう。

「ねぇ、その間に春奈は郁斗と部屋を片付けてくれない?」
「は〜い」

短く答えると、春奈は郁斗の手を引いて空いている部屋へと、荷物とともに彼を連れて行った。