二次創作小説(紙ほか)
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.10 )
- 日時: 2012/12/30 13:36
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
4 新たな加勢
「放せって言ってるだろ!!!」
そこは森の中だった。ボロボロになった一人の少女が、両手を縛られて、身動きの自由を奪われていた。全身は傷だらけで、少し動くことでさえも体に負担をかけてしまうのに、自分を拘束している二人を睨みつけて、抵抗をしていた。
「いい加減にして。あたしたちは、これ以上アンタを傷つけたくはない」
落ち着いた声で言ったのは、そのうちの一人の少女だった。藍色に近い紫色の長い髪のツインテール。菫色の吊り目。片手には巨大な鎌を持っている。表情はあまり出ていないのだが、雰囲気からして、明らかにこの状況を面倒だと思っている。
“月風かがり”、それが彼女の名前だ。
もう一人の少女の名は、“星宮そら”。水色の腰まである髪は、風が吹くたびに綺麗に揺れる。明るい青色の優しい目は、捕まっている少女に、警戒しなくていい、と安心させているような暖かさが込められている。
「おとなしくついてくれば、何もしないよ」
しかし、そらの言葉はちっとも信じてはもらえなかった。それどころか、ますます少女は警戒心を増し、暴れ続けようとする。
「お前らウィンスの言葉なんて、信じられるか!!」
「あっそう、じゃあ好きにれば?」
淡々と返事をしたかがりは、そのまま少女の腹を一発殴った。「うっ…」と小さな声を上げたあと、少女は意識を失って、おとなしくなった。
「かがり、やりすぎだよ…」
「こうでもしなきゃ、あの人のもとに連れてけないよ」
「それはそうだけど……」
そらは気絶している少女を見つめた。その顔はとても苦しそうで、誰かに助けを求めているようだった。まるで、ずっと闇の中をさまよっていた哀れな者のようで、心が締め付けられる感じがした。
「影使いフレイミア……。謎が多すぎる……」
「うん、そうだね…」
フレイミアの相棒であるレイジュは出てこなかった。いや、出てこれない、というのが正しい言い方だ。かがりとそらが彼女の腕につけた物が影響して、レイジュは今、閉じ込められている状態なのだ。
すると、かがりがフレイミアを抱き上げて、自分の背中にゆっくりと乗せた。当然だが、目を覚ます気配はない。
「かがり、担げるの?」
「まぁ、軽いからね」
「じゃあ、行こう!!
————————————フェアリー王国に!!」
そらの元気な声が、森の中で響き渡った。
☆
「今日も様子は変わらないのか?」
開いていた病室の扉。ノックをせずに勝手に入ってしまったことに、少しだけ後悔をしつつも、一郎太は座っている少女にそっと声をかけた。突然で驚かせてしまったのか、肩が微かにビクッと動いたのだが、こちらに顔を向けると、彼女は優しく微笑んだ。
「一郎太くん、仕事は大丈夫なの?」
「……あぁ」
はっきり言うとこの状況下で、仕事をするなんて無理な話だ。精神的に落ち着かず、全く集中できないところを呆れたラティアが、休むようにと一郎太にったのだ。最初は大丈夫、などと無理をして続けようとしたのだが、さすがにラティアに睨まれるということになってしまえば、抵抗ができるはずもない。
そして、真っ先に来たのは、ここだった。
「まだ目を覚ます様子はないけど、体調は随分と安定してるよ」
「そうか……」
冬花の目のすぐ下には、薄くクマが出来ていた。昼間は守の様子を見に来たり、まだ怪我を負っている人たちの治療をしたり、そして、夜になれば、城中を駆け回って、王国軍について調べたり……。彼女はもう一週間もまともに寝ていないのだろう。それでもまだ、一刻でも早く円堂たちを元の場所に戻すために、ずっと動いていた。
「少しは休んだほうがいい。守が起きる前に、貴女が倒れてしまったら、元も子もない」
「ううん、大丈夫。全然疲れてなんかないよ。それに、みんな頑張っているのに、私だけ休むなんてダメだよ」
「……」
冬花は弱々しい笑顔を浮かべる。一郎太はそんな彼女の表情をみて、小さくため息をついた。
「助っ人を頼んであるから、任せればいい。それに二人は治療魔法を使える」
「ふぇ?」
いきなりの展開に戸惑う冬花。一郎太の言葉を理解しようとしても、頭がなかなか働いてくれない。
そのとき、冬花の体が大きく揺らいだ。そして、床に倒れ込みそうになる。間一髪のところで、一郎太がその体を支えた。
「大丈夫か!?」
「…うん、大丈夫。ちょっと力が抜けただけ……」
「お願いだから、休んでくれ。貴女がまた倒れてしまったら、この国は、どうするんだ」
こんな状態になっても、未だに、「疲れた」という言葉を、一言も言わなかった。また体制を立て直して、守のところに行こうとするのを、一郎太が引き止めて、そのまま病室の外まで、無理やり冬花を連れ出した。
「い、一郎太くん!?」
「さすがに俺が部屋まで連れて行くのは、抵抗があるだろうから、あとはよろしくな」
まるで最初からそこで待機していたかのように、病室を出たとき、目の前には明日香がいた。
「冬ちゃん、ダメだよ。嵐王も心配しているし、少しは休んで。守くんのことは、私といっちーが見てるから」
「……うん、ありがとう。二人とも」
優しく体を支えながら、明日香はそっと冬花を抱き寄せて、彼女の部屋へとゆっくり歩いて行った。
「本当にお前は……どれだけ迷惑をかければ気が済むんだ?」
頭を片手で抱えながら、大きくため息をつく。その視線の先には、未だに眠り続けている守の姿。
幼い頃からそうだった気がする。瞳子からもいろいろと聞いていた。あの中で最も手のかかる子は守だったらしい。活発で好奇心旺盛な春奈もいろいろと手間がかかるが、それ以上に表情をあまり表に出さない守の方が何を考えているのか解らず、対応にかなり困った、とも言っている。
「早く目を覚ませ。このバカが……」
もう一度ため息をついて、一郎太は椅子に座った。
「あぁ、いた」
振り返るとそこには郁斗がいた。ジーンズに黒の長袖で、とてもシンプルな服装になっていた。前日の郁斗を見たときは、さすがに明日香と一緒に口元を隠して、笑ってしまった。夏未の趣味を押し付けられ、赤や白といった派手な服を無理やり着せられた郁斗は、家を出ようとしなかった。彼には悪いが、あの時は本当に面白かった。
「服、変わったな」
「あんなの着てられるかよ……。あと二日でもしたら、マジで発狂する…」
少々顔を青ざめていて、本気で嫌だったようだ。
「でさ、俺がここに来たのはお前に話があったんだ」
「なんだ?」
これまでのちょっとしたお遊びを終わらせ、郁斗は一郎太に向き合うようにして、椅子に座る。表情が真面目になっていた。
「……あぁ、でも、その前に、明日香は何も悪くないから、怒らないでほしい。いや、別にお前がそういう人に見えるわけじゃないんだ。まぁ、そこは勘違いするな」
「説明が回りくどいぞ」
「ごめん……。明日香から聞いたんだ。今、ウィンスに瞳子姉さんがいるって」
「…そうか」
「で、明日香は、一郎太に口止めされてる、と言っていた」
そこまで、強く言った覚えはないのだが。と心の中で思うも、口には出さず、そのまま郁斗との会話を続けた。
「お前が言わなくても、元から、守が目を覚ましたら、夏未たちにも集まってもらって、言うつもりだった。だが、教えるのは瞳子さんが生きている、ということだけ、今の居場所は伝えないで欲しいと言われてた」
「そうか…」
そこで突然沈んだ表情になる郁斗。不思議に思った一郎太は、軽く首をかしげながら、そっと聞いた。
「どうかしたのか?」
—————「守がこうなったのは、俺のせいだ……。だから、分かるんだ。このままにしていても、守は“絶対に目を覚まさない”…」
その時、少しだけ眠っている守の表情が苦しそうに見えたのは、気のせいだったのだろうか。
郁斗の言葉が、一郎太の不安を煽るように、一つ一つ心に突き刺さった。