二次創作小説(紙ほか)

Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.12 )
日時: 2013/01/05 18:34
名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)

6 郁斗VSイナズマジャパン

「勝ち負けの判定は、お前たち全員を抜いて、俺のシュートがゴールに入ったら、俺の勝ち。そんで、もし俺がボールを取られたら、イナズマジャパンの勝ち、でいいよな?」
「あぁ!」

いつも通り気合を入れなおすために、両手を強く叩く円堂。
フィールドに妙な緊張感が漂い、マネージャーたちが固唾を呑んで見守る中、郁斗は深呼吸をした。

「開始は、郁斗のペースでいいぞ!」
「あぁ、そうさせてもらう」

始まりはいきなりだった。郁斗の短い言葉の直後、彼は地面を蹴り、前衛のもとへと突っ走った。
スピードとボールコントロールは相当いいようで、動きに一切の乱れが見られない。以前、守が言っていた通り、郁斗はかなりサッカー上手だということは、確かなようだ。

「豪炎寺、虎丸!!」

鬼道の声が響くと同時に、呼ばれた二人は郁斗に向かって走る。たちまち、郁斗の表情が硬くなり、真剣な眼差しでスライディングを仕掛けてくる虎丸を飛び越え、第一間はクリアした。しかし、攻撃はおさまることはない。次には豪炎寺が郁斗の前に立ちはだかる。

「修也が相手だと手ごわいよな」
「悪いが、俺はあいつとは違うぞ」

豪炎寺がボールを取ろうと、郁斗の足元に自分の足を伸ばす。咄嗟に郁斗は反応して、ボールを後ろで高く蹴り上げて、そのままジャンプして、空中で見事にキャッチした。
数秒遅れて、豪炎寺も跳びあがって、郁斗にまとわりつく。

「さすがだな。でも、ここは抜けさせてもらう!!」

気がついたころにはもう遅かった。あと少しでボールに届くというところで、郁斗は巧みに操り、風をも切り裂くような速さで、豪炎寺を抜いた。

「アイスグランド!!」

思考が豪炎寺からフィールドに戻る前に、吹雪からの思わぬ参戦に少しだけ戸惑い、感覚を失ってしまったが、一瞬にして体制を立て直して、間一髪のところで回避した。

「今のは危なかったな」

頭上で一度ボールのコントロールを整えてから、地面に落として、もう一度ゴール前の円堂を目指して蹴り始める。そう簡単に行くはずもなく、次は両側から挟み撃ちに鬼道と風丸が郁斗に挑む。
スライディングと上空からのガード。残されているルートは一つしかない。
郁斗は無謀にも、ボールを前方に力強く蹴るが、その先には壁山が立っている。このまま取られてしまう、と外野の女子たちは思っていたのだが、予想はすぐに破られることとなった。
急に郁斗の走りが早くなり、壁山がボールを取る寸前で、その間に入り込み、再びボールの主導権を手に入れた。

「ザ・ウォール!!」
「げっ、そんなのありかよ……。でもっ!!」

大きく厚い壁が目の前に立ちはだかる。少しだけ後退りをした郁斗だが、右足に精一杯の力を入れて、ボールで壁を粉々に蹴り破った。あとに残されているのは、円堂だけだ。

「行くぞ、円堂!!」
「あぁ!絶対に止めてやる!!」

膝で軽く蹴り上げ、標準を円堂に合わせると、力強くボールを蹴り飛ばした。
郁斗のシュートは、光のごとくゴールへと突き刺さるように、円堂に襲いかかる。その威力に動じることはなく、落ち着いた様子で円堂は腰を低く落とし、両手を前に突き出した。

「ゴットキャッチ!!!」

必殺技を使っても、シュートの威力が和らぐことはなかった。なんとか両足で踏ん張るものの、体全体がその力に押されている。歯を食いしばり、腰に力をいれて、押し返そうと粘る円堂。そして、ゴールに入る直前で、見事に円堂は郁斗のボールを止めてみせた。

「あぁ、負けちゃったか」
「でも、こんなシュート打てるなんてスゲェよ、郁斗!!」

円堂の言葉は偽りではない。実際にボールを受け止めた両手が、微かに震えている。その感覚から、円堂は言葉にならぬ感激を受けた。短かった勝負だが、郁斗が全力でやっていたこと、サッカーに対する熱い気持ち、その全てがボールから伝わってきた。

「やっぱ、楽しいな。サッカー!」

満面の笑みで郁斗はそう言うと、円堂に手をさし伸ばした。

「これから、よろしくな。円堂」
「あぁ!こちらこそ、よろしく、郁斗!」

いい終わると、円堂も郁斗の手を強く握り返した。



「…仲がいいのはいいけど、それ以上に重大なことが」

ここでこの場の空気を壊す一言を発したのは、秋だった。
いつの間にか、郁斗の側まで来ていたことに驚いたのは束の間。その感情は、すぐに恐怖へと変わった。
秋の指差す場所に郁斗は視線を向ける。その先には、まるで地獄から復活した悪魔のような笑みを浮かべた夏未がいて、大股でこちらに向かって歩いてきている。

「やっべ…」

悲鳴にも似た小さな声。郁斗の顔がだんだんと青ざめていく。しかし、隣に立っている秋は助けようとするどころか、面倒になりそうだと考え、その場を何事もなかったかのように去っていく。

「郁斗?退院したのはいいけれど、まだ激しい運動はダメだって、言ったはずよねぇ?どーして、わからないのかしら?それとも、二度と歩けないよう足をへし折ることでもしないと、言うことが聞けないのかなぁ?」

「あっ、いや……だって、たまには体を動かしたいなって…ハハッ…」

さっきまでの威勢はどこに行ったのやら、急に声が弱々しくなり、後退りをする郁斗。逃げようとする彼の腕を、夏未の手は電光石火の速さで捕らえるのに成功した。微かに聞こえた不快な音を、円堂たちはなかったことにしようと黙っていた。

「なな夏未さん、痛い!!!」
「家に戻りましょうか。さて、罰ゲームは一体なにがいいかしら?」
「まだ一回目だろ!!ここは情けというものを……って、もっと力を入れるな!!マジで折れるぅぅ!!」
「アンタの性格をよく理解している私が、一回目だからって許すと思ってる?どうせまた抜け出して、サッカーやるんでしょ?だったら、最初から怖い思いをさせたほうがいいじゃない」

フフフッと黒い笑みを浮かべながら、泣き出す寸前の郁斗を引きずり、夏未は家に戻っていく。去り際に郁斗が口パクで円堂たちに「また来る」と言ってくれたのは、かなり嬉しいのだが、これ以上関わったら彼の二の舞になりそうで、想像しただけでもとても恐ろしい。

「…私はやめた方がいいって言った」

ボソッと呟いた秋に、円堂たちは苦笑いを浮かべるのであった。