二次創作小説(紙ほか)

第34話 ( No.108 )
日時: 2013/03/16 19:58
名前: 時橋 翔也 (ID: EggErFJR)


早く来すぎたかもしれないと海音は思った
海音は誰もいない静かな教室に入り、自分の窓際の席に座る 朝練が始まる三十分前なので、少し本でも読んでいようか

カーテンは閉められていないので容赦なく朝日が教室に降り注ぐ さすがに眩しいと思った海音は近くのカーテンを立たずに手を伸ばして閉めた 一部だけ光が消えた
海音は読書の環境が出来上がると、席の中から小さなライトノベルを取り出した

『悪魔と天使とサッカーと』
そう表紙のタイトルに書かれたその本は全体的に黒い配色で、題名だけではどんな内容なのかはっきり言って検討もつかない
内容はサッカーをメインにしたホラー小説 意外なことに天馬の他にもサッカー少年には大人気らしい

さあ読もうか…しおりを取りだそうとした海音の手が止まった
「あれ…」
海音は隣の剣城の席に目を向けると、驚くほど気づかなかったがイヤホンがついた小さなタッチパネル式の音楽プレイヤーが置かれていた 新品のように綺麗だが新しい型ではない
下駄箱には自分の靴しか見当たらなかったのを考えると、剣城がたまたま忘れていったのだろうか…

気になり海音は音楽プレイヤーを手に取る
剣城が音楽を聞くのが意外すぎて、思わず画面をタッチしてどんな曲を聞いているのか見てみる すまない剣城
「うえ…?!」
驚きのあまり海音の口からそんな声が発せられた
音楽プレイヤーの曲の項目はとにかくボカロ、ボカロ、ボカロ ボカロとは機械音声の歌のジャンルで、確かに世間からサッカーにつぐほどの人気を集めているが、まさか剣城が聞いているとは…
『意外だな』
「うん、意外」

エレクトロニック・ジェノサイド
パラジクロロベンゼン
悪ノ召使
六兆年と一夜物語   など
お馴染みの曲がズラリと並んでいる
さらにとある曲の題名を見たとたん海音はブッと噴き出した おもしろいというか意外すぎる

すると足音が廊下の方から聞こえてきた 海音は急いで電源を切りさっきと同じように席の上に置いて本を開く
本を開いて三秒程で教室のドアが開かれ、中に入ってきたのは予想通り剣城だった
「剣城おはよ…」
「………」
海音は何も言わない剣城を見ると再び本に視線を向ける 笑いが込み上げるが必死でこらえた

剣城は海音の隣に座ると昨日忘れていった音楽プレイヤーを手にとってホッとしたような顔になる やはり剣城の物だったのか…そう考えるとさらに笑いが込み上げる
だが剣城は音楽プレイヤーを手に取ると違和感を感じた 上手く言えないが、隣の海音が何だかおかしい 見た目に変化はないが
剣城は音楽プレイヤーの電源を入れる いつもは一番上までスクロールされている項目がなぜか一番下になっていた

まさか…と剣城は無言で海音を見た
冷や汗を掻きながらもポーカーフェイスを保っているが、おもしろいと顔にかいてある気がした
もう明白だった
「雪雨…」
「どうした…の?」
「見たんだな、コレ」
怒りがよく現れた声の筈が、逆に海音はそう言われると本にしおりを挟むのも忘れてククッと笑いだした

あの曲目を見られて恥ずかしくなった剣城は少しだけ顔を赤くした
「悪かったか!ボカロが好きで!」
「いや別に……でも意外」
海音は笑いながら言った
「特にあれが入っていて…初音ミクの『みくみくにしてや…」
「雪雨ッ!!」
恐らく人生で一番の失態を犯してしまったと剣城は感じた 自分のボカロ好きは誰にも話したこと無いのだ 優一にも

もしかしたら海音に逆に潰されるかもしれない

「ククッ…ヤバイお腹いたい…今日の朝御飯出てくる〜」
「止めろグロい」
「あれ?君もグロいとか言うんだー…」
「殺すぞ」
剣城が本気で殺気を放ち始めた為、流石に海音も笑うのを止めた 試合をする前に潰されかねない
剣城も意外とこういった面もあるのだなと海音は思った いつもは乱暴者な雰囲気しか醸し出していない剣城がまさかこんなものが好きとは…

剣城は思いきり海音を睨んだ
「雪雨…この事他のやつに言ったら殺すぞ」
「殺せるものならな」
海音の雰囲気ががらりと変わる レインの人格だ だがすぐに元に戻ると、海音は黒板の上にある時計を見た
「ヤバイ、朝練始まる…!じゃあね剣城!」
海音は立ち上がり、バタバタと教室を急いで出ていった そんな海音の後ろ姿を剣城はため息をつきながら見つめていた

だがこの時、剣城の中にいつもは絶対にあり得ない感情が芽生えていた
「……?」
罪悪感 剣城は自分が今海音に対して感じている罪悪感の意味が今いち分からなかった

罪悪感など、今まで感じたことなど無かったのに


——————


サッカー棟へと駆け込むと、ホーリーロード二回戦の相手が決まったこともあったせいか珍しくサロンには全員揃っていた
海音は天馬の隣にやって来る 全員いることを確認すると皆の前にいた円堂が話を始めた

「…二回戦の相手は万能坂中学に決まった」
円堂が言うと周りはざわめいた 万能坂と言えばサッカーの名門の一つで、昔は全国一になったこともあるらしい
万能坂ってもしかして…海音はひとつだけ思い当たる所があったが、先に円堂の話を聞くことに専念した
「指示は1対0で負け試合だった」
「…やはり負けか」
予想はついていた神童は呟いた もはや勝敗指示など従う気はないが

「…さらに、その万能坂について円堂さんがメールをもらったらしいの」
「メール?」
海音は円堂の隣の音無を見た 円堂は頷く
「以前と同じ『イオ』からのメールだった」
「イオ…」
天馬は呟く
「そこに書かれていたのは万能坂についての情報だ、…それによるとキャプテンとエースストライカーとGKがシード さらにエースストライカーとGKは化身使いらしい」
「化身使い!?」
三国は驚いて声を上げる シードが三人しかもそのうち二人が化身使いともなれば、もはや反抗派の五人だけで戦うのは厳しい

「…けど俺は指示には従わない!」
円堂は言い切ると、周りの部員達を見渡した
「この調子で優勝を目指すぞ!」
「はいっ!!」
反抗派の五人は声を上げる 円堂が居れば優勝も夢ではない気がした そう考えると頼もしい

だが、そんな明るい雰囲気はいとも簡単に破られた
突然話を聞いていた南沢は円堂に近づき、こう言った


「…監督、俺は退部します」