二次創作小説(紙ほか)

第35話 ( No.113 )
日時: 2013/03/18 08:52
名前: 時橋 翔也 (ID: ozdpvABs)


サッカー部員全員が円堂と南沢の方に視線を向ける 南沢の瞳は本気そのものだったが神童の時とは違い悲しさの欠片もない
言うなればずっと退部を望んでいた、かのように
「南沢…さん?」
とうとう倉間が始めに声を上げた
だが南沢は気にせずにサッカー棟の入り口へと歩き出す

「南沢先輩!辞めないで下さい!!」

海音の叫びがサッカー棟のサロンに響いたとたん、部員達に背を向けていた南沢の足が止まった そしてまたかよ…とでも言いたげに南沢は海音を振り返った
「雪雨お前も気づけよ…フィフスセクターに刃向かったっていいことなんてない、むしろ悪い方に進むだけだ」
あれほどサッカーが上手い南沢の発言とは信じがたい言葉だった
すると今度は車田が声を上げる
「けど南沢!今までずっと頑張ってきただろ!」
「サッカーやってたのは内申書のため、…これ以上成績を下げたくない」
南沢は言った 南沢が内申書目的でサッカーをしていたと知って海音はショックだったが、今の時代サッカーとは内申書目当ての道具にもされているのも明白な事実だった

「…本当に辞めるのか?」

円堂は言った まるで何かを問いかけるような眼差しを送りながら
「はい、…さよなら」
だが南沢には伝わらなかったのか、それだけを告げて部員達に背を向け、サッカー棟から去っていった

しばらくの静寂、それを打ち破るのは、南沢と今まで組んでいた倉間だった
「南沢さん…」
「参ったな…今南沢さんが抜けるのは痛いぜ」
霧野は痛々しく言った 今まで雷門のFWは南沢が背負ってきた 内申書目的とはいえ、南沢のサッカーの実力は本物であり高かった それなのに…
「倉間くん…」
「倉間…」
倉間と仲が良い速水と浜野は心配そうに倉間を見た 南沢とずっと組み、ライバルとしても競ってきた仲なのだ ショックは誰よりも大きいだろう

その怒りを打ち付けるかのように、倉間は海音をキッと睨んだ 左目は髪で隠れているので右目だけだが、それでも中々の威力に見える
「…雪雨、こうなったのはお前のせいだろ?」
すると倉間は怒りのこもった声でそう言った 海音は何も言えない言い返せない
「今のサッカーのシステムがおかしいのはわかってた、…それでもずっと我慢してきたのはサッカーがやりたいからだ!俺達からサッカー奪うなよ!!」
「…っ!」
すると海音は中でレインが思いきりうずいたのを感じた だが海音は怒るレインを押さえつけてとうとう口を開く
「…ボクは…本当のサッカーがやりたくて…」

「その結果がこれだろ、雷門サッカー部を潰そうとしてるのはフィフスセクターじゃねぇ、お前だろ!!」

そう言われたとたん、酷いショックと共にレインが出てこようとし始めた

『この下朗が… サッカーを奪うだと?サッカーを裏切っているのはどっちだ!!』

ここまでブチ切れるレインは海音も初めてだった しかしここでレインを出してはならないと海音は胸に手を思いきり押し当て必死に人格を維持した
『俺と変われ海音!あいつを叩き潰す!』
「ダメだ…レイン…」
小さく海音は語りかける

すると今度はその様子を見ていたマネージャーの中から水鳥も声をあげた
「おい倉間!それは言いがかりだろ!!」
「何も知らないお前に何がわかんだよ!!」
倉間も負けじと反論する
とうとう円堂や三国、神童などリーダ格が止めに入った
「よせ二人とも!仲間割れしてどうする!」
「…監督は俺達の気持ちが分からないからそんなこと言えるんです」
すると霧野は円堂に言った
「フィフスセクターに逆らえばサッカー出来ないかもしれない、下手したら雷門だって廃校…そんな責任を俺達に背負わせる気ですか!?」
「そうですよ…そんなの重すぎます…」
速水も倉間や霧野をフォローするかのように言った

「俺が雷門に戻ってきた訳は、フィフスセクターを倒すためだ!!」
すると円堂は宣言するかのように言った
「成績や学校の評判の為のサッカーは本当のサッカーじゃない! だからこそフィフスセクターを倒すんだ!俺達で!!」
「そんなこと出来るわけねぇだろッ!!」
倉間は敬語も忘れて円堂に叫んだ
「相手はあのフィフスセクターだぞ!?返り討ちにあって潰されるのがオチだ!!」

「皆はサッカーがこのままで良いと思うのか!?」
さらに神童も声を上げる 涙目になりながら
「このままサッカーを裏切り続けてサッカーが嫌いになっても良いのかッ!!」
「サッカーを友達見たいに言うのは止めろと言ったのはお前だド!!」
そこへ天城も怒りをぶつけた
「ちょっ…皆さんやめてください!」
天馬は止めに入るが、そこらじゅうで反抗派が討論をしていた そこには仲間という言葉など存在しない 南沢の退部によって放たれた管理サッカーと円堂達のような無責任に勝ちを取るものへの怒りが爆発してしまったのだ
「神童だって感じているんだろ!?俺達がフィフスセクターに刃向かう事でどれだけ学校に迷惑がかかるのか!!」
「霧野こそ管理サッカーを望んでなどいないはずだ!!」
「先輩達やめてください!!」
「元はと言えばお前らがフィフスセクターに刃向かったからだろ!!責任取れるのかよ!!」
「倉間先輩俺は…ッ」



  「いい加減にしろッ!!!!」



そんな叫びがサッカー棟に響き渡った刹那、耳をつんざくような爆音がして部員達は討論をピタリと止めた
見ると声の主は海音だった、さらに爆音がした方を見るとサロンの壁に大きなへこみと共に布のような何かがくっついていた それはあまりのキック力に破裂してしまったサッカーボールだった
海音の上げられた右足とボールのなれの果てから白い煙が立ち上っているのを見ると、海音が怒りのあまり近くに転がっていたボールをシュートしたということになる

「…逃げているだけのカス共が…責任を俺達に押し付けるとは、雷門も随分と落ちぶれたものだな!!」

海音は言った いつものように雰囲気を冷酷そのものに変えている 海音は部員達を睨んだ
「…見損なったよ、名門はそこまで腐り果てたのだからな!」
「海音やめろ!!」
円堂が制止にかかるが海音は気にも止めない
「俺は俺の好きなようにするぞ 評判など知らん、サッカーは道具では無いのだからな!」
海音は吐き捨てると、まるで南沢の後を追うかのようにサッカー棟から姿を消した

部員達は止めることも出来なかった
海音に罵られた事が、頭から離れないまま