二次創作小説(紙ほか)
- 第36話 ( No.114 )
- 日時: 2013/03/18 08:55
- 名前: 時橋 翔也 (ID: 0T24nVPU)
そしてあっという間に放課後になる
サッカー棟の部室には反抗派の五人しかいない 他の者は明日試合だというのに誰一人として来ていなかった
「…海音大丈夫?顔色悪いよ」
すると先程の海音を案じた天馬は海音の顔を除きこんだ 実際顔色は良いとは言えない
海音がシュートした所は大穴となり、部員が触れられないよう円堂によってテープが貼られていた
「…皆があんな風に思ってたなんて」
俯きながら三国は言った その気持ちは四人も同じだった
「でもきっと先輩達も分かってくれますよ…」
少しでも明るい雰囲気にしようとしたのか、信助はそう言った
天馬は円堂を見た
「監督…」
「…俺は皆を信じている、きっと本当のサッカーに気づくと」
円堂は言った 時だった
ドアが開かれ、剣城が突然部室に入ってきた
「剣城…」
海音が少しだけ反応する だが剣城は気にも止めず円堂の目の前にやって来た
「…俺を明日試合に出せ」
単刀直入に剣城は円堂を睨みながら言った そこに礼儀と言うものは感じられない
すると神童が反射的に慌てて言った
「ダメです監督!こいつを出したら相手に有利なプレーをする!!」
ただでさえ五人しかやる気が無いのに、剣城まで敵に回せば勝てる確率は低い
すると剣城を見ていた海音は胸が痛むのを感じた 顔には出ていないがいつもに増して酷く寂しげな剣城を見るとなんだか悲しくなる
「そうです!剣城はシードですよ!?」
「監督!」
神童に続くように三国と信助も言った もう見ていられなくなり、気づいたら海音は剣城を庇うように前に立っていた
「ち…ちょっと待ってください!剣城からサッカーを奪うなんておかしいです!!」
「海音…?」
天馬は自らの親友を驚いて見つめた 剣城も同じだった
「海音何でそんなやつを庇うんだ!」
「だって…」
「…わかった 剣城には試合に出てもらう」
そして円堂は剣城や五人に言った
さらに驚いた顔で神童は円堂を見つめる
「か…監督?!」
すると剣城は海音を見た 何故自分を庇うのかわからなかった
「………」
「剣城、試合頑張ろ」
海音は笑顔で言った 相変わらず無邪気だ
「…ふん」
ドアに近づき、そのまま剣城は部室から姿を消した
剣城がいなくなると、五人は驚いて円堂を見つめた
「円堂監督!何で剣城を出すんですか!?」
三国は言った
「勝つつもりじゃないんですか?!」
「勝つつもりだから剣城を出すんだ」
円堂は静かに反論する 勝つつもりだから、その意味が分からない
「…実はメールには、剣城が試合の鍵になると記されていた…俺はそれを信じようと思う」
円堂の言葉に五人は顔を見合わせた メールとはイオからのだろう
「………」
剣城は一体どんな試合をするのか、海音には大体予想は着いていた
——————
海音が自分を庇った事が頭から離れないまま、剣城は兄がいる病院にやって来る ここ最近毎日来ているので部活は大丈夫なのかと兄に心配されたが、何とかごまかしていた
「………」
よく考えたら、海音は剣城を何度も助けようとしていた 優一が部活で自分はどうなのか訪ねたときもだ あの時本当の事を話せば優一は深く傷つき悲しむだろう
そんな顔見たくないが、実際に自分はそれに値する事をしているのもわかっていた
病院に入り、お決まりのルートを通って剣城は優一の病室に向かう いつもに増して嫌いな薬品の香りが強い気がした
この前は直矢の病室に行っていたが、今日は検査もあるし行かないだろう 剣城はドアが開かれた優一の病室に入ろうとした時だった
「何で…動かないんだよ!」
とたんに優一の声が聞こえてきた 剣城は優一の病室を除いてみると、優一がベッドの上で自分の足に向かってそう言っているのが見えた
「どうして動かないんだ…もう一度俺をフィールドに立たせてくれよ…」
「………!」
胸が苦しくなる そして思い出すのは、かつて元気にサッカーをしていた優一の姿だった それなのに…
「夢だったんだよ!世界のフィールドに立つのが!!」
「…くっ…」
剣城は耐えきれなくなり、病室に背を向けて優一に気づかれないよう歩き出した
そうだ、優一をもう一度フィールドに立たせる為に、海音を潰さないといけない
例えどんな手段を使っても…!
——————
「………」
海音はこの前怪我をした足を見下ろす まだ痛むが、特に気にしていなかった
取り合えず持ってきたサッカーボールを地面に転がし、河川敷のサッカーゴールの前に立った 実はまだ誰にも話していないもうひとつの『特技』があるのだ
「………」
海音はポケットに手を突っ込み、柄の悪くボールをすくい上げた そして思いきりボールを蹴りつけると、目の前のボールが黒い光を放ちながらゴールへと向かっていき、誰もいないゴールに突き刺さる
「…あれは…!」
丁度河川敷を通り掛かっていた剣城はそのシュートを見て目を見開く 何故アイツがあの技を…!
「あ、剣城!」
剣城の存在に気づいた海音は剣城の方を見た 剣城はこちらを睨んでくるばかりだ
「…お前、何故今の技を…!」
「デスソードのこと?」
海音は今放ったシュートの名を言うと、剣城はさらに睨んでくる
「あれは俺の技だ、何故お前が使える?」
「…コピーしたから」
海音は言った 始めその意味が理解できなかった 海音はボールを拾うとこちらに近づいてくる
「ボクは昔から…一度見た技なら見よう見まねで出来るんだよね、まあ火属性は苦手だし、難易度が高いと限界が有るけど」
見よう見まね?あり得ないと剣城は思った
超次元サッカーの技はどれも長い時間を費やし、苦労してなせる技だ それなのに見よう見まねで出来るなど、超次元サッカーを冒涜しているようなものだ
「でも…あまり使ったことないけど」
「………」
海音が他のサッカープレイヤーより優れたポテンシャルを持っているのはわかっていたが、まさかここまでとは…
「…剣城は、サッカー好き?」
すると突然そう訪ねられ、剣城は表情を変えた
「はあ?…嫌いに決まっているだろ」
「……だって君、サッカー上手いしさ…でもどうしてだろ、君っていつも悲しそうなんだよね」
海音は言った まるで自分の心の奥底を見透かしたかのように
すると剣城は今日の朝言えなかった怒りが再び込み上げる
「お前にわかってたまるかよ…俺の気持ちを」
剣城ははっきりと目に見える位の怒りをにじませながら海音を睨む
「お前は光 俺は闇 この二つは決して相容れない…俺とお前は元々相容れないんだよ!なのにどうして俺と関わる!!」
「べ、別にそういう訳じゃ…」
海音は反論するが、剣城には伝わらない
「自分のせいで大切な物を失う気持ちがお前にわかるのかよ!闇に堕ちた者がどんな思いをするのか、お前なんかに分かってたまるか!!」
これは剣城の思いだった それをサッカーではなく言葉で精一杯表す
すると剣城は海音の様子がおかしい事に気づいた 剣城から視線をそらし、昔のトラウマが甦るかのような酷く悲しそうで寂しそうな表情だった いつもの海音ならこんな表情は見せないだろう
「………ごめん」
海音は小さい声でそう言った
「…ごめんね、剣城…」
そう言ったとたん、剣城が声をかける暇も与えず海音は走り去ってしまった
「…雪雨…?」
何故あれほど悲しそうな顔をしたのか
剣城に残るのは、少しの罪悪感だった
『…泣いても良いのだぞ』
「ううんレイン…ボクは泣かないよ」
海音は少し走ると歩き始め言った
「……だって、涙なんてもう…かれちゃったから」