二次創作小説(紙ほか)

第37話 ( No.117 )
日時: 2013/03/19 20:12
名前: 時橋 翔也 (ID: j.vAWp8a)


気がつくと、海音は見知らぬ森の中に立っていた

空は晴れているのに薄暗く、森の大きな木々は風でかさかさ揺れている 言葉では上手く表せないが、なんだか神秘的な森だった
「…ここは、どこだろ…」
海音は辺りを見回す 少なくとも稲妻町にこんな森は無かった気がする そもそも何故こんな所に居るのかもわからない
…夢なのだろうか
それならこんな所に居るのも、驚くほど冷静なのも理由がつく
だが夢にしては現実味が在りすぎる気がした

海音は胸をトントンと軽く叩き、レインを呼んでみる
「レイン…どうしたら良いと思う?」
だがレインに反応が無かった 海音はもう一度呼び掛ける レインが反応しないのはなんだか不安だった これまではそうだった筈なのに…
「レインどうしたの?レイン出てきて!」

「無駄だよ、この世界には君の意識しか無いから…レインは居ない」

飛んできた声にハッと海音は前を向く そこに居たのは、自分と同い年くらいの黒髪の少年だった 人とは違う何か神秘的な物を感じさせる
「ボクの意識だけ…?」
「そう、邪魔者無しに君と話して見たかったから君をここに導いた… 僕は君を見ていたんだよ海音」
少年に名前を呼ばれた途端、海音は何故名前を知っているのか疑問に思う
「どうしてボクの名を…?」
「君の試合を見ていたのさ、…女の子なのにあそこまでプレー出来るなんてスゴいなって感心してた」
少年はそう言ったあと、でも…と付け加える
「それでも君のサッカーは甘いんだ、それを教えたくてね…」

海音はいまいち少年の言っている意味が理解できなかった
「どういう…こと?」
「君は他の人を傷つけるのが怖くて真の力を出せずにいる、その事だよ」
少年はあっさりと答えを言った
その時、突然少年の目の前に黒い光と共にサッカーボールが出現した
「海音、僕とサッカーバトルしようよ そしたら森の出口を教えてここから出してあげる… 負けたら帰れないよ、いい?」
「選択の余地なんて無いじゃないか…でもわかった、やろうか」
海音は苦笑いしながらも頷いた


——————


少年が提案したのは、至ってシンプルなサッカーバトルとも言えないミニゲームだった
少年が持つボールを少年がシュートするので、それを海音が止めたら勝ち チャレンジは二回までだ

「君のあの『力』はレインとリンクすることで発動出来るんだろう?…君が本当に一人でどれほどサッカー出来るか見せてもらおう」
少年はボールの前に立って言った
そして軽い助走をつけ、思いきり海音に向かってシュートした
「くっ…」
海音はディフェンスの為にシュートを胸で受ける だが威力が強くボールが弾けて向こうに行ってしまった
「うわっ!」
この人、サッカー上手い…
「惜しいねー…じゃあ終わりにしようか」
すると少年は目の色を変え、目の前のボールに強力なシュートを放つ その威力は普通のシュートながらも剣城のデスソードに匹敵する
止められるのか?そんな疑問が海音の中に芽生えたその時

森の茂みの中から白い子犬が飛び出してきた さらに子犬は少年のシュートの軌道に入ってしまった
「危ないっ!!」
反射的に海音は叫び、同時に子犬の前に立つとシュートはすぐ目の前まで迫っていた
海音の周りに冷風が吹き荒れ、肩まで上げた右腕を斜めに思いきり降り下ろす
「スノーウインド!!」
風の刃がシュートに当たり、シュートは次第にその威力を無くしていく
ついに完全に威力を無くしたボールは海音の目の前に転がった

「犬を…庇った?」
少年は驚いて海音を見つめる
海音は子犬を振り返り、温もりがあるふさふさの頭を撫でた
「もうこっちに来たらダメだよ」
クウーンと子犬は鳴くと、すぐに海音に背を向けて茂みの中へと消えていった
すると少年は微笑んだ
「君…面白いね」
「そうかな?」
海音は少年を見た 先程とは違い至って穏やかだ

すると少年は海音に近づいてくる 海音が立ち上がると、そっと手を差し出した
「僕の名前はシュウ、よろしくね」
「シュウか…よろしく!」
海音も笑顔で手を握り返す そして海音はほっとしたように手を話した
「にしても勝てて良かったー…負けたら出られなかったし」
海音が無邪気に言うと、突然シュウは訳も分からず噴き出した
「くくっ…あははは…海音それ本気にしてたの?」
「…え?」
「所詮これは夢の中に過ぎないんだから、出られないなんてあるわけ無いじゃないか」

ああ…やっぱり夢だったんだ…
海音はそう思った次の瞬間、恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていた
「ちょっ…シュウ!騙したな!」
「あははは…いや、まさか本当に引っ掛かるとは思わなくて…」
シュウはまだ笑いが込み上げるのか海音が膨れっ面になろうとお構い無しに笑う 
海音は恥ずかしさも次第に消え失せ、ため息をついた

「ははっ…ごめんごめん海音、怒らないでよ」
「怒ってるわけじゃ無いけどね…」
海音は言った 半分本当で半分嘘だ
すると気になることを訪ねてみた
「…って言うことは、ボクはこのままでもいずれ目覚めるってこと?」
「うん、そうだよ…でも急いで目覚めたいならこのまま真っ直ぐ行った森の出口から出たらいい」
シュウは向こうの道を指差して言った
「また来たくなったらいつでもおいでよ、念じれば来られるから…てか来てよ、また君と話したい」
「…それはいい意味で?」
「そりゃそうさ、君面白いからいい話し相手になりそうだし」
シュウに言われてもあまり誉め言葉に聞こえなかったが、その気持ちは胸の奥底にしまいこむ事にした
「それより今現実では7時だよ、…そろそろ起きた方が良いんじゃない?」
「7時…?ヤバッ!」
集合時間が7時半なのを思い出して海音は声を上げた

すぐにシュウに背を向けて走り出そうとするが、一度振り返って
「シュウまた来るからね!」
そう言うと再び前を向いて出口を目指して一直線に走っていった

「………海音、か」
手を振りながら、シュウは小さく呟いた


——————


差し込む朝日を浴びながら海音はベッドの上で覚醒するとすぐに起きた 確かに時間は7時半 そろそろ着替えないとまずい
「…レインいる?」
『どうした、俺ならいるぞ』
話しかけるとすぐに返答が帰ってきたので海音は安心する 

…きっとあれはただの夢じゃないんだ
そう信じ海音は準備を始めた