二次創作小説(紙ほか)
- 第38話 ( No.120 )
- 日時: 2013/03/20 20:17
- 名前: 時橋 翔也 (ID: j.vAWp8a)
もともと万能坂とは坂の名前で、万能坂中学はその坂の上に存在する
民家が多く眺めもいい田舎な雰囲気の万能坂だが、坂がきついのとカーブが多く道が狭いのもあり、キャラバンで近くまで来ると万能坂からは歩くこととなった
雷門メンバーから不評の声が上がったのは言うまでもない
「つ、疲れたド…」
「ホラ頑張れ!」
車田は汗だくな天城にそう言った 疲れたのはみんな同じようだった
「これじゃあ…試合する前にばてるよ」
天馬は額の汗を拭いながら言った 確かにその言い分は正しいだろう
すると海音は幼馴染み現在中二からのメールで『まずい、登校初日で足が、足がああああぁ』というメールを貰ったのを思い出す
確かにこれなら当時意味不だったこのメールの内容が理解できるだろう
万能坂中学はまだ先にあるようだった 海音は試合が楽しみであり、不安でもあった
するとちらりと剣城の方を見てみる 疲れている様子もなくただ歩いていた 皆から少し離れて
「………」
剣城はボクを再起不能にする気だ でも簡単にやられる訳にはいかない
そう思っていた時だった
向こうに車イスの少女が見えた 歳は海音よりしたに見える 長い茶髪をして足首位の白い長いワンピースを着た少女で、万能坂を大変そうに登っている 確かに万能坂は車イスで進むにはかなり酷だろう まして幼い少女が
「…君大丈夫?」
海音は少女の車イスに近づき、取っ手をつかんで押し始めた 少女は海音を見上げる
「ありがとう…ございます」
「海音どうしたのその子」
するとさらに天馬もやって来た 海音は天馬を見る
「なんだか大変そうだったから手伝ってたんだ…ボクは雪雨海音、君は?」
「緑菜聖歌」
少女は二人に言った 第一印象は綺麗な名前だなという感じだ
「俺は松風天馬!…ところで君も試合見に来たの?」
「うん、兄貴が出るから」
聖歌と名乗る少女は頷いた 恐らく兄貴とは万能坂の者だろう
「兄貴ったら…お前は試合に来ると辛い思いするだけだって言って、試合に来るなって言うから今日こそ来たの」
「辛い思い?」
「…私、昔はサッカーしてたの」
聖歌は海音に言った その言葉に剣城が少しだけ反応する
「でも、足が不自由になっちゃって…もうサッカー出来ないから…」
「………」
剣城は聖歌を見つめる 車イスのその姿が優一と重なった気がした
すると万能坂中学の校門が見えてくる 万能坂は元々田舎な学校なので、周りには林ばかりそびえている 校門は前開で、そこから様々な人々が行き交っていた
「聖歌は…ポジション何?」
「FW …信じられないかもしれないけど、これでもエースストライカーだった」
聖歌は海音に言った 車イス生活をしているせいなのか聖歌の身体は華奢でエースストライカーが務まりそうな体格は持ち合わせていなかった
だが海音は円堂の言葉を思い出す もしかしたら聖歌はテクニックタイプのストライカーだったのかもしれない
雷門メンバー達は次々と校内に入っていく
「…足が治ったら、またサッカーしたい?」
天馬の問いに、聖歌は顔を背ける 酷く悲しそうだった
「私は…もう二度とサッカー出来ないけど、またしたいな…」
すると聖歌は取っ手をつかむ海音を見た
「ここまでありがとう…私はギャラリーに行くよ 試合頑張って」
「うん!じゃあね」
雷門メンバーと違いギャラリーの方へ進んでいく聖歌の背後で二人は手を振った 二度とサッカー出来ない…その言葉が少し引っ掛かった
「…聖歌ってそんなに足が悪いのかな…」
天馬は小さく呟いた
田舎な学校なのに校舎はそれなりに立派で、ギャラリーも満席に近いように見える
万能坂は古くからあるサッカーの名門であり、全国優勝とはいかなくても地区予選優勝なら何度もある強豪だ
だがフィフスセクターに管理され始めてから次第に荒れ始め、今強豪とはいえない実力となってしまった
「円堂の兄貴!!」
向こうからそんな声が飛んできた 雷門メンバー全員が向こうを見ると、二人の少年がやって来た
一人は白と黒の髪を前に出して縛り、剣城に負けないくらいつり目の少年 万能坂のキャプテンだった
そしてもう一人は紫色の髪を二つの団子縛りにして目の下に隈が出来ている背が若干低い少年 この少年がさっきの声の主だろう
隈が出来ている少年は嬉しそうな顔で円堂に駆け寄る すると円堂も顔が明るくなった
「もしかして…夜桜!?久しぶりだな!」
「久しぶりじゃん、どこ行ってたんだよ」
夜桜と呼ばれた少年は年の差を感じさせない口調で言った
夜桜を見たとたん、海音も真っ先に声をあげた
「夜桜久しぶり!元気だった?」
「え…?」
だが夜桜は海音を見ても、誰なのか気づかない様子だった
「お前知り合いだっけ…」
「酷いなあ、ボクだよ海音だよ!」
海音は笑顔で言った
夜桜の中の少女と目の前の海音が重なると、夜桜はその場で腰を抜かしてしまった
「かっ、海音…?」
「二年前と変わってなくない?見た目」
「いやいや!どうしたんだよその髪!!」
夜桜は言った ああ、と海音は納得する
「切ったんだよ、案外気に入ってる」
「切りすぎだろ…」
夜桜はそう言いながらゆっくりと立ち上がる すると円堂は夜桜を見た
「夜桜も海音知ってるのか?」
何気なく円堂が訪ねたとたん、嘘だろと言わんばかりの顔を夜桜は見せた
「兄貴海音だぞ?すごく仲良かっただろ!」
「え…?」
円堂はわからないのかそんな声をあげる
それを見て、本当に忘れたんだな…と海音は悲しくなった
すると夜桜についてきた少年も剣城に近づいた 笑顔だが嬉しそうではない
「久しぶりだな剣城」
「…ああ」
剣城は腕を組みながら言った 面識はあるようで驚きはしなかった
少年は夜桜を見た
「光良、そいつと知り合いか?」
「ああ、幼馴染みだよ」
夜桜はちらりと海音を見て頷いた 海音は夜桜の背番号を見て驚愕した
夜桜の背後には、はっきりと10と書かれていた そして10の選手はシードだと円堂が言っていたのを思い出す
「……夜桜、シードなの?」
「………」
夜桜は笑顔をパタリと止め、すれ違いざま海音の肩をトンと叩いた
「後で話す…今は信じてくれ」
「え、夜桜…」
だが質問しようとした海音を無視して夜桜は先にベンチへと歩いていってしまった
しかしその後ろ姿は、どこか悲しそうに見えた
「剣城、…命令は分かっているな」
「…ああ」
剣城は少年に頷く 万能坂は確かキャプテンもシードだと円堂は話していた
すると少年は次に海音の元へとやって来る
怪しげな笑みを浮かべていたが、悪い人という印象は驚くほど無かった
「お前が雪雨か…俺は万能坂キャプテンの磯崎研磨だ」
少年は言った そして手を差し出す
「まあ短い時間だが、試合ではよろしく」
「うん、よろしく!」
海音も特に敵意は見せずに磯崎と名乗った少年に手を握り返す だがとたんにあることに気づいた
「……!」
海音はその事に気づかれないように振舞う そして手を離した
「…ふっ、俺達は容赦無いからな…」
それだけを言い残し、磯崎もベンチに戻っていった
海音はそれぞれメンバー達が持ち場へと向かう中、剣城の方を見た
「………」
『気になるのか?』
「まあね……レイン、あれ使うから準備しといて」
海音が言うと、レインがぎょっとするのが伝わった
『海音…あれってまさか…』
「そのまさか」
『よせ、あれは…』
「まあ、剣城がボクの予想した通りの行動を取ったら、だけどね」
ここから先は聞かず、海音も持ち場へと行った 剣城は南沢の後を継ぎエースストライカーなので海音の隣だ
この後の海音の行動など、誰も予想していなかった