二次創作小説(紙ほか)

第39話 ( No.128 )
日時: 2013/03/24 18:50
名前: 時橋 翔也 (ID: Y4EbjjKp)


『…聖歌、俺がいなくても…しっかりしろよ?』


これは兄に朝言われた言葉だった

始めは何かの冗談なのでは無いかとも思ったが、兄の目は真剣だった
そしてその兄はギャラリーの聖歌の目に映っている フィフスセクターに支配されたサッカーをぶち壊すと兄は語っていた

「………」

聖歌は視線を落とし、自分の足を見つめた 決して二度と動くことはない、その足を

「兄貴…頑張って」


——————


試合がもうすぐ始まろうとしていた

磯崎は隣の夜桜にすれ違いざまそっと告げた
「…あれをやるぞ」
その意味を伝えるにはこの言葉だけで十分だった もちろん夜桜は小さく頷く
すると万能坂のGKは訝しげに二人を見た あの二人ははっきり言って信用出来ない フィフスセクターの未来のためにしっかり見張らねば

海音は夜桜の方を見た 信じろという言葉にどのような意味があるのか、イマイチよく分からなかった
いつものように海音は『力』は使わない 使わなくとも戦力は大体わかる 化身使いは夜桜とGKだと
そして試合開始のホイッスルが鳴り響き、剣城からのキックオフ の筈だった

剣城は本来隣の海音に渡すはずのボールを、思いきりバックパスした

「うわっ!」
いつもの三国ならば止められたかもしれない だが余りにも不意討ち過ぎて三国はゴールを許してしまった
無情にもホイッスルが鳴り響いた
試合開始わずか五秒 雷門は点を取られてしまったのだ
「雷門は…俺が潰す!」
剣城は海音を睨みながら言った 海音は剣城を悲しそうに見ているだけだった
「……」
これが君の選択なんだね
届かぬ言葉を心の奥底で投げ掛けると、海音は剣城から視線をそらした

『…やるのか?』
「まあね」
海音は頷いた そしてキックオフの為のボールを受け取り剣城と場所を入れ換えた
そして剣城とすれ違いざま
「後悔するなよ」
海音…レインはそう呟いた その言葉が剣城に届いたのかはわからない

ホイッスルがフィールドに鳴り響き試合が再開される
海音はボールを前に蹴りそのまま駆け出した
「………」
剣城がそこに近づく ボールを奪われる可能性を感じた海音は一度立ち止まり、辺りを見回すとすでに周りは敵に囲まれていた
「お前は…俺が潰す」
剣城は思いきりこちらを睨むとポケットに手を突っ込み背後から紫色のオーラを出し始めた
それは剣城の意思によって甲冑の騎士へと形成され、瞬く間に化身へと変化した
「剣聖ランスロット!!」
「来たか…」
海音は苦々しげに呟いた

あまり使いたい手では無いが、皆を守るにはこれしかない
海音は一度目を閉じながら深呼吸をすると、『力』を使う為に赤いつり目に変化した
「海音…!」
遠くで見ていた夜桜は呟いた まさか『力』を使う気か?
夜桜の予想は適中した レインとリンクした海音は右手を上げそこに冷気を集中させ始める 集中した冷気は周りの水蒸気をかき集め、海音の手のひらに小さな氷の刃が完成した
切れ味は夜桜がよく知っていた 鉄やコンクリートをいとも容易く切り裂いてしまう切れ味だ

「なんだあれ…!」
周りでも声を上げた 目の前に氷の刃を作り出した超常現象を起こす選手がいるのだから無理もない
「それで人を刺す気かよ!」
剣城はそう言いながらボールを奪おうと海音に突進していく 本当に刺すつもりなのかは定かではないが、何もしない訳にはいかない
だがその時海音は不適に笑い、


作り出した氷の刃を自分の左腕の手首に突き刺した


「海音…!?」
それを見ていた天馬から血の気が引いていく 周りもざわめき始めた
「なっ…?!」
剣城も驚きのあまり立ち止まる
痛みで顔をしかめる海音の手首からは血がボタボタと滴り、この上無いほど鮮やかだった
「いっ……!!」
氷の刃は海音の力が無くなり水蒸気に戻って消える 途端に海音は右手で刺した部分を抑えると膝をついた
容赦なく血は海音から出ていき視界が眩み始める 貧血で倒れそうなほど出血は酷かった だがこれは、昨日剣城を傷つけた報いかもしれないと海音は耐える

夜桜は辺りを見回した そろそろ救護の者がやって来るだろう
にしても何故幼馴染みがこのような行動を取ったのかわからない 気でも狂ったか?
救護の存在がちらほらし始めたのに気づいた海音は痛みをこらえ立ち上がる
痛いのにも関わらず………海音は 笑っていた

「…いくぞレイン、レベル3だ」

海音はそう言うと、出血している左腕を思いきり振り上げる 血が空中に飛び散りそれが光っているように見えた
すると海音の背後から紫色のオーラが出てきた 剣城同様オーラは形成され、栄都戦以来の青いツインテールの女騎手が姿を表した
「氷界の覇者レイン!!」
「化身…?」
剣城は海音を睨む 海音は化身を制御できないはずだ、ましてや出血している身体で…

海音はボールを持って駆け出した すると以前は吹き飛ばしていた選手を痛め付けることなく抜いていく
「海音…?」
以前と違う化身の使い方に天馬は目を見開いた
剣城もこちらにやって来る海音に身構える 自分はシードだ、化身対決で負けるわけ…だがまたしても海音は不可解な行動を取った
海音は剣城に近づくと化身をオーラに戻した

なめているのか?そう感じた剣城は腹が立った
「潰してやる!!」
再起不能にする勢いで剣城も海音に突進していった 二人の距離が縮まったその時だった

剣城におかしな力が加わり、化身…ランスロットが蒸発するかのように弾けてしまった
「なっ!?」
戸惑う剣城を抜くと、海音は再び化身を形成すると向こうに見えた敵選手を素早くかわす 化身を出している事で海音の能力が高まっているのだ
栄都戦とは違い、暴走していない ちゃんと操作できている
思わず出血している手首に目を向けると、すでに出血は止まっていた

自らの血を使い化身を無理矢理操作している 下手をすれば命の危機にもなるのに

このままシュートを決めてやる!そう思い海音はどんどんゴールへと迫っていく
すると海音の目の前に、本来FWの磯崎が立ちはだかっていた
気にもせず海音は磯崎の横をすれ違う だがすれ違いざま 海音は

「……!」

あることを確信させる磯崎の発言と貧血が重なりゴールに迫る途中に化身が消え、海音は転けたように地面に倒れた

「海音っ!」
天馬はすぐに海音に駆け寄る ボールは取られたがそんなこと気にしない 今は海音の安否が重要なのだから
「…やっぱりうまくいかないか」
血が止まった傷跡を見て海音は呟く リンクは解除したので雰囲気も戻っている
海音は立ち上がった 貧血で立ち眩みがするが気にしない

戦いはまだ、始まったばかりだった