二次創作小説(紙ほか)

第42話 ( No.131 )
日時: 2013/03/24 18:59
名前: 時橋 翔也 (ID: TaF97fNV)


前半戦終了のホイッスルが鳴り響く

海音はベンチに行くと真っ先に葵に手を掴まれた
「海音くん腕見せて!手当てしないと…」
「あ、うん…」
海音としてはたいした傷ではなかったが、一般人には大ケガなのだろう 海音はベンチに座り葵は海音の傷の消毒を始めた

海音の腕に包帯が巻かれ終わった時だった
「海音!天馬!…ギャラリーの方で来てほしいと言う人がいるぞ」
向こうから来た霧野にそう言われ、天馬と海音は顔を見合わせる、一体誰だろうか
その答えはすぐに明らかになった

「…車イスの、女の子だった…」
「…!まさか聖歌…?」
海音は声を上げた しかし何故聖歌が自分達を呼んだのか…

海音と天馬は急いでギャラリーへと向かった


——————


ギャラリーの下には少し広い洗面所の様なところがあり、観客と選手が会える唯一の場所だった
それなりに明るいが人気のない洗面所に車イスの聖歌が一人でそこにいた 顔は暗く、今にも泣き出しそうだ

「聖歌!」
洗面所に聖歌を見つけた天馬は声をかけた 聖歌はこちらを向く
「海音さん…天馬さん…」
「…どうしたの?急に呼び出して…」
二人は聖歌に駆け寄る

すると聖歌は目を背けた
「…海音さんごめんなさい」
「え?」
「兄貴が…あんな酷いこと…」
兄貴…の言葉に二人は反応する 聖歌には万能坂に兄が居ると話していた
しかし万能坂に緑菜という名字の者はいなかったはずだ
「…君のお兄さんて誰なの?」
天馬は思いきって訊ねた
聖歌も決心したのか、二人に向き直る

「私の兄貴は…磯崎なの」

「え?」
声をあげるのは海音だった
聖歌と磯崎は見た目は似ていないし名字も違うのだから
「正確には従兄なの、…両親が居なくて、兄貴の家に引き取られたから…」
聖歌は言った そして海音を見つめた

「兄貴は本当はとても優しいの!素直じゃないけど…ごめんなさい、兄貴を変えたのは…私なの…」
「変えたって?」
「…サッカー出来なくなった私の為に…復讐するって…」
すると聖歌はスカートをめくり足を出した その足を見て二人は言葉を失う

聖歌の両足に付いているのは木で出来た義足だった

「聖歌…これ…」
だがその時、試合再開直前のアナウンスが入る 選手はもう行かないといけない
「…じゃあ、行ってくる」
天馬は言った
そして二人は聖歌に背を向け、フィールドへと駆け出した


——————


「…二度とサッカーできないってあの事だったんだね」
天馬は悲しげに言った 海音も頷く
両足が義足となると、例え歩けても超次元サッカーするのはできないのだから

「………」
何故剣城が勝敗指示に背くことに…?神童は至って普通に持ち場に戻る剣城を見つめて思った

「天馬、これ見てくれる?」
「え…」
持ち場に戻る前、海音はポケットから何かを取り出した それは小さなメモだった
天馬はそのメモを見つめる 『revolt』ときれいな字で書かれていた
「……!」
海音から話を聞いた天馬の表情が変わる
だが途端に近くの倉間に早く戻れとせかされ、二人は持ち場に戻っていった

試合が始まる

剣城からのキックオフだが、剣城はパスを出さずにそのまま駆け出した
今まで以上に、鮮やかなドリブルで次々と相手を抜いていく
「………」
海音もその後を追った 剣城は単独でゴールに上がる気だ 元より助けなど借りないつもりか

そしてあっという間にゴールへと迫る GKが化身使いなのは知っている 剣城も化身を出そうとした
「…くそっ!」
海音の化身封じのせいで化身が出せない そうしているうちに、剣城は夜桜にボールを奪われる
剣城は海音を睨んだ

「雪雨!今すぐ化身封じを解除しろ!」
「ええ?!…」
少し考えたが、海音は解除しようと片手を剣城に向ける だがここでレインが語りかけた
『まて、お前が怪我をしてまで発動した化身封じだぞ…簡単に解いても良いのか?』
「…剣城はきっと、嘘はついてないよ」
根拠などどこにもないが、何となくそんな気がした

「おい雪雨!聞いてるのか?」
「解除してほしいなら、ちゃんと頼んだらどうだ?」
レインは海音の身体を使い剣城に言った
「お前は敵なのだろう?易々と命取りになるようなことは戦場で迂闊に出来ないしな」
『ちょっ…レイン…』
レインの中で海音は言った どうやらレインは易々と化身封じを解かせる気は無いようだ
「海音、お前は甘い …では証拠を見せてみろ、お前が本当に我々に味方をするならな」
レインは言った 剣城も何となく意味は理解したようだった
「……見せつけてやるよ」
剣城はレインと海音を睨み付け呟いた

…もし本当に剣城が味方をするなら、あれをやってみる価値はあるかもしれない


夜桜は雷門のDF陣を突破し、雷門のゴールの目の前にやって来る そしてあのメールの情報通り、両手を上げ背後から化身を形成した
四本腕にスティック、帽子、トランプをそれぞれ持った不気味な道化師のような化身だ 夜桜の高笑いはその道化師が始める『ショータイム』の幕開けのようだった

「奇術魔ピューリム!」

夜桜は昔から手品が人一倍得意で、よく海音も夜桜の手品を見ていた この化身も、夜桜の特技から生み出されたものかもしれない

シュートすべく夜桜がシュート体勢に入った 時だった
どこから隙を着いたのか、海音は夜桜からボールを奪った
「何っ!?」
急いで夜桜は振り返り海音を見つめた いつも通り海音は走っていた だが夜桜はあることに気がついた

海音の左目だけ、蒼ではなく金色に光っていた

「…あいつそこまで…!」
幼馴染みの背後を夜桜は痛々しげに見つめた

「一つになって攻めこむぞ!」

神童は海音達に叫ぶ 天馬と信助は頷いた
海音はちらりと剣城を見た フリーだ
「剣城!」
すかさず海音は剣城にパスした 今の海音なら避けることなど容易いが、あえて剣城の反応を見るためパスする

剣城はボールを受け取り駆け出した 途端に海音は剣城に叫んだ

「剣城!左右からスライディングが来るよ!」

その言葉のおかげか、反射的に剣城は本当に来たスライディングをかわした すかさず海音は
「止まって!」
再び叫んだ
剣城が止まると、ボールを奪おうとしてきた選手が勢いあまって転んでしまった
「?!」
剣城は海音を見る まるで未来が見えているかのような叫びだった


「…光良、あれは?」
「ゴッド・アイっていう…海音の能力だよ」
訪ねてきた磯崎に夜桜は説明する
「あの金色に光っている左目で、海音は五秒先の未来を見ることが出来るんだ」
「未来を?」
「…でもあの技は一度使うと…」
そしていいかけて夜桜は止まった 


「うわああッ…!!…いっ…!」


痛々しい声がした 天馬は海音を見ると、海音は左目を押さえて膝をついていた
その左目を押さえている両手から、血が漏れ出しているのがわかる
これこそが、ゴッド・アイの短所だった

「海音大丈夫?!」
天馬と信助は心配して駆け寄る 海音は手を離しゆっくりと立ち上がった
「だ…大丈夫…」
血が涙のように滴る左目を閉じたまま、距離感がうまくつかめない中海音も走り出した

「くっ…!」
海音の未来予知が無くなり、剣城は万能坂の強固な守りを突破出来なくなる
いくら暴力的でも、万能坂の実力は確かだった

「…海音がいないとそんなものかよ」
夜桜はそういい放ち、スライディングで剣城からボールを奪った そして素早く近くの磯崎にパスを出す


ゴッド・アイは今までにもほとんど使わなかった力だった

レインとリンクしなくてもいい長所はあるし、五秒先の未来が見える利点はあるが、一度使えばしばらくの間左目が使えなくなる
長く使えば、失明だって考えられるだろう

「…何故、君はそこまで…」
天馬は一人呟いた