二次創作小説(紙ほか)
- 第43話 ( No.132 )
- 日時: 2013/03/24 19:01
- 名前: 時橋 翔也 (ID: B6N9vk9k)
「………」
すると視線を感じて磯崎はギャラリーのほうを見た そこにいたのは、悲しげにこちらを見ている車イスの従妹
「聖歌!?…来るなって言ったのに…」
「キャプテンよそ見するな!」
だが夜桜に言われ、ハッと我に返る そうだ、今はそれよりも試合に集中しないといけない
「…裏切ったことを後悔するんだな!」
少し考え、磯崎は剣城に向かって強めのシュートを放った キック力はエースストライカーの夜桜よりも高いのは分かっていた
「…!?」
剣城は磯崎のシュートの威力を上手く削ぎ、ボールを奪う だがこのとき感じていたのは、大きな違和感
シードの養成施設でみた磯崎の本気シュートは、こんなものではなかったはずなのだ
だが剣城は駆け出すも、瞬く間に敵に囲まれてしまい立ち止まる
いくら剣城はサッカーが上手いとはいえ、サッカーとは元々チームプレーだ、一人で切り抜けるには限界がある
ましてや化身を封じられた状態ならなおさらだ
「剣城こっちだ!」
凛とした高めの声が響いた 反射的に剣城は向こうにパスを出すと、そこにいたのは左目が使えない海音
パスを受け、海音はかけ上がっていく
「くっ…!」
元々目が二つあるのは距離感を掴むためだ その一つが使えない今、距離感が全く掴めない
すると後ろから敵の選手が二人ほどやって来る まるで象のように海音に突進していき、二人は同時に海音に体当たりしてプレスした
「エレファントプレス!」
「ぐわああァッ!!」
強力なプレスでボールを奪われ、海音は地面に倒れこむ 肩が激しく痛み、少し動いても骨に響くような激痛が走った
「くっ…そ…」
それでも海音は立ち上がる 手首と左目、この二つからの出血で貧血状態だが、海音は気に止めず身体に鞭を打つように走り出した
「海音くん…!」
ベンチで葵は心配そうに海音を見つめる 海音の身体は誰よりもボロボロなのに誰よりも必死だ
茜もカメラで写真を取りながら、試合の行く末を見守っていた
「…皆、これでも動かないの…?」
悲しそうに茜は動かないメンバー達を見た
剣城はシードでありながら一人で戦う
海音は自らが傷つくのもいとわず力の限り戦う
神童と天馬はそれをサポートし、三国は敵のシュートから雷門ゴールを必死に守っている
それなのにまだ、勝敗指示に従うつもりの者が多いのだ
「………」
すると茜の横で水鳥がゆっくりと立ち上がった
「水鳥ちゃん…?」
「……」
もしかしたらあいつならば、こんなときでも気楽なのだろうか 同じクラスで腐れ縁のような…友であるあいつなら
そんなことを考えながら、水鳥はずっと感じていた思いを雷門イレブンに向けて叫んだ
「お前ら何も感じないのかよッ!!!!」
水鳥の思いが渇となり雷門イレブンの隅々にまで染み渡っていく
あの日、フィフスセクターに反抗する事に関して激しい口論になり、様々な皆の思いもよく伝わってきた
雷門の名誉、栄光、誇りを守るためにも、雷門中学校の未来のためにも、フィフスセクターに従わないといけないと感じている皆の責任感や不安も全て、全て
フィフスセクターに従わなければ、何が起こるかわからない もしかしたら皆でサッカー出来なくなるだけでは済まないかもしれない それは水鳥自身もよく分かっていた
だが仲間が傷つくのを見て見ぬふりして、自分のサッカーへの思いや感情を殺してまで守った名誉や誇りに、なんの意味がある?
…サッカーとは、皆で一つなのだから
「お前ら海音達があんなに頑張っているのに…見て見ぬふりするのか!?お前らが守りたいのは名誉なのかよ!?
…違うよ、お前らが本当に守りたいものは………
……仲間だろ!!?」
「……!」
その言葉を受け、車田はハッと気がついた そうだった…名誉を守るよりも先に守りたかったものは……こうしてサッカーが出来る『雷門イレブン』という仲間だった
すると向こうから夜桜がボールを奪いこちらに駆け出してくるのが見えた 勝敗指示に従うならばこのままなにもしないのが最善の手だろう
だがもはやそんなつもりは無かった 車田は覚悟を決めていた
まるで炎のように熱を思いきり放つ そしてそのまま車田はまるで蒸気機関車のように夜桜に突進していった
「ダッシュトレイン!!」
「うわああッ!」
その威力に夜桜はボールを奪われ吹き飛ばされる
幼馴染みの名を叫びたくなるのをこらえ、海音は車田を見た 他の皆も同じだった
「…そうだったな、本当は…仲間が守りたかった」
車田は言った フィフスセクターに従うことばかりに気を取られ、その事をすっかり忘れていた
「倉間!」
そしてボールが倉間の方へと渡る 少し照れくさそうにも、倉間は海音を見た
「……海音、やっぱり俺とお前は相容れないかもな、それでも…仲間を守りたい気持ちは変わらない」
「倉間先輩…」
倉間がそんなことを言うなど、思いもしなかった
するとそこに敵がやって来る ボールは奪われてしまったが、その行く手にいたのは、天城
天城は右手を地面に叩きつける 途端に敵の目の前に巨大な城壁が立ちはだかった
どこへ行こうとも城壁に阻まれ、ついには敵を囲んでしまった
「ビバ!万里の長城!!…俺だって仲間が傷ついて黙っていないド!」
敵からボールを奪い、続いて浜野へとパスする
どうやら浜野も決意したようだった 前からやって来る選手を見て浜野は一度止まり、ボールを踏みつけてまるでピエロのようにボールの上に乗っかって海のようなフィールドを駆け抜ける
「なみのりピエロ!!」
予測出来ないその動きに翻弄され、敵はあっさりと突破を許してしまった
浜野は海音と天馬を交互に見た
「…君達が戦おうとしているのは、大きな敵だよ…いい?」
「もちろんです!…今さら答えなど必要無いだろう?」
海音とレインは浜野に言いながら笑って見せた その笑顔に浜野も安心したようだった
「み…皆さん…」
周りを見ながら速水はオロオロする 確かに仲間を守りたいという思いはある
だが、フィフスと戦うことの不安が拭いきれない そんな優柔不断で勇気がない自分が、速水は大嫌いだった
「磯崎!…これは…」
「……ああ」
話しかけた夜桜に磯崎は頷いた
そして夜桜を見る
「言っただろう?俺の策略は必ず成功するとな」
ちらりと聖歌がいるギャラリーを見つめた
…最後に見られて、良かったかもしれない