二次創作小説(紙ほか)
- 第45話 ( No.136 )
- 日時: 2013/03/29 21:05
- 名前: 時橋 翔也 (ID: j.vAWp8a)
打ち上げが『楽しみ』ではなく『知りたい』と言う感情で満たされるなど、思っても見なかった
ホーリーロード地区予選二回戦が本来の指示を破り雷門の勝利となった次の日の昼頃 この日は休日で、まさか私的な目的でキャラバンが出ている筈もなく、海音はこの前最高級バスケットボールを買ったせいで残り少ない小遣いをはたいて万能坂行きのバスに乗り、昨日も歩いた万能坂の坂道を歩いていた
打ち上げは車イスの聖歌の移動の事も考え、聖歌の家で行われる事となった もちろん磯崎も住んでいた家だ
坂道を右折し、そこに見えたアパートの階段を上がり聖歌が昨日教えてくれた番号のドアの前でインターホンを押した
「…入るよ…」
勝手に入っていいと聖歌に予め言われていたので、海音は鍵がかけられていないドアを開いた すでに天馬達は来ているとメールをもらった… 確かにそのようだ
「わーすごい!」
「え?今のホントに手品!?」
リビングから天馬と霧野の声が聞こえた 海音は玄関を上がり、リビングにやって来るとソファーの上で天馬と霧野、信助が夜桜のトランプの手品に見入り、神童と三国と聖歌はテーブルの上のジュースを飲みながら話をしていた
「………」
「あ、海音〜!」
テーブルの上のクッキーを掴むと天馬は海音に気がつき、海音に手をふった
「…どしたのこのお菓子…」
海音はまるでオードブルのように並んだ様々なお菓子を指差して言った このようにお菓子を持ってこいと言う指示はなかったはず
「私が用意したの、せっかくの打ち上げだし…」
聖歌は言った 一人で?と聞きたくなったが止めておいた
この日の打ち上げのメンバーは海音、天馬、信助、神童、三国、霧野、夜桜、聖歌の八人 この前天馬達が企画していたサッカー復活組で遊びにいこうと言う計画も兼ねようと言うことと、夜桜と聖歌は聞きたいことがあるしさらに霧野は昨日磯崎に足を怪我させられたため、その事を謝りたいという聖歌の要望 これらが重なりこの意味がわからない人選となった
「夜桜さん!他には?」
「うーん…じゃああれもやるか」
夜桜は天馬にせかされ、ポケットからサイコロを三つ取り出した 海音もバッグを下ろし神童の隣に腰かける
サイコロの色は赤、青、黒の三つ 夜桜は霧野を見た
「…この三つの内ならどれがいい?」
「えっと…赤」
霧野が答えると、夜桜は赤のサイコロを掴み握りしめた
「えーと松風君…だっけ?どれか一つサイコロを握ってくれる?」
「あ、ハイ!」
天馬は頷き、黒を選んで夜桜のように握った
最後に残った青いサイコロを掴み、夜桜は最後に信助に手渡した
「これ持ってて」
「はい…」
信助も両手でサイコロを握りしめた
夜桜は握っていない方の手をあげ、パチンと指を鳴らした
「…はい、もういいよ 二人とも手を開いてサイコロを見てみて」
「……ええ!?」
夜桜に言われ天馬と信助はサイコロを見てみる 確かにサイコロだが、さっきまで持っていたはずの色が反対になっていた
「あれ?俺黒だったのに…何で青?」
「僕のは黒になってる…」
「これで終わりじゃないぜ?…霧野もそのフードの中見てみろよ」
訳もわからず霧野は着ていたパーカーの後ろのフードを探ってみる そこから出てきたのは、驚きの物だった
「え…?赤いサイコロ?」
先程夜桜が持っていたはずの赤いサイコロが霧野のフードから出てきた 夜桜は手を広げるが、もちろんサイコロは無い
「すごいな…魔法みたいだ」
それを見ていた三国は言った こうした手品を間近で見たことなど無かったのだ
三つのサイコロを回収すると、夜桜は海音や神童を見た
「…じゃあ海音も来たし、話そうか…俺達『アール』についてさ」
「アール…とは?」
神童は夜桜を見て訪ねた
「反乱を意味する英単語revoltの頭文字を取ってアール…俺と磯崎を含む五人のシードで構成されたフィフスセクターの内部崩壊を招こうとしているグループさ」
「…もしかして、隼総もアールの一人?」
海音は訪ねてみる 夜桜はああ、と頷いた
「あんまりあいつはアールに入らせたく無かったんだ… あいつは俺達と違ってフィフスセクターを格別憎んでいる訳でも無かった あいつまでエンドレス・プリズンに行く必要は無かったんだ」
「フィフスセクターを…憎んでいる?」
天馬は聞き返す アールとは元々フィフスセクターを憎んでいるものたちで結成されたものなのか
「…俺はさ、…殺されたんだ フィフスセクターに仲間を」
「え?」
海音は思っても見なかった言葉に声を上げる フィフスセクターが人を殺したなら、瞬く間にニュースとなるはずだがそのような事件聞いたこと無い
「……勿論公じゃない、あくまで事故死だった …そいつはフィフスセクターが不正を犯しているかもしれないって得意なインターネット介入を使いフィフスセクターの超機密データベースの介入に成功したんだ…そして見てしまったんだよ、フィフスセクターの秘密を」
夜桜の顔は真剣この上無かった フィフスセクターに友を殺された怒りが痛いほど海音には伝わってきた
「…光良、その秘密ってなんなんだ?」
「…わからない」
訊ねる神童に、夜桜は首を横に振った
「あいつは去年の冬、…雪が降っていたあの日に信号無視した車に引かれた 俺はその時確かに…ひき逃げした車の運転手がフィフスのマークの服を着ていて笑っていたのを見たんだ… あいつは息も絶え絶えで俺に死ぬ間際『フィフスセクターに深く関わるな』…それだけ言って何を見たのかわからずじまいになった」
恐らく夜桜が知れば、夜桜まで自分と同じ
道を辿る…そう考えたんだろう
「でも、犯人は捕まったんですか?」
天馬は訊ねる ああ、でもな…と夜桜は続けた
「捕まったのは俺が見たのと全く違う奴だった…多分替え玉だろうな そして俺の証言など聞かずに無理矢理事件は終わらされた」
そして夜桜は聖歌の方を見た 聖歌は兄を思ってか、悲しげな顔をしている
「だから俺は…磯崎がつくったアールに入ることにした 一度学校を離れ、シードになるため養成施設に入ったんだ」
「…聖歌ってフィフスセクターと何かあったの?」
海音は聞きづらい事だと知りながら訪ねた 聖歌の顔が泣きそうに歪む
「…聖歌は小5で百年に一人の天才って呼ばれたほどのサッカーセンスを持っていたんだ」
夜桜は話始める
「いろんなチームからスカウトも受けてさ…とにかくサッカーが上手かった 俺が戦っても全く勝てなかったし」
「へー…」
天馬は聖歌を見る 女子ストライカーでも百年に一人の天才ならば、どこからでもスカウトが来るだろう
「…聖歌はフィフスセクターからもスカウトが来たんだ でも聖歌は管理サッカーに否定的だったからあっさり断った…そのせいかもな、あんなことが起こったのは…」
「…私ね、フィフスセクターの専属チームに試合を申し込まれたの」
初めてここで、聖歌が口を開いた 悲しげな表情は変えないまま
「このとき近くのサッカーチームのキャプテンでエースストライカーだったの…試合なんてしょっちゅうだったしフィフスセクターでもいつも通りだと思ってた…でも違った」
「フィフスセクターは…試合の中、聖歌だけに集中的なラフプレーを仕掛けたんだ」
夜桜は言った まるであの日を思い出すような目で
「百年に一人の天才がフィフスセクターにとってどれだけの驚異になるかわからないからな、…もはやサッカーでは無かった サッカーをもって聖歌の足を痛め付け、骨まで砕いて血まみれで再起不能にした… 試合は公式戦じゃなかったし審判もフィフスの配下だったから試合を止めようとはしなかったんだよ」
「ひどい…」
信助は呟いた 審判ならばあり得ない行為だ
夜桜は続ける
「俺と磯崎が来たときにはもう遅かった…フィフスは消え、残されたのはボロボロにされたチームと血まみれの聖歌だけ …聖歌の足はもう使い物にならなくて、手術で義足にした…下半身不随にもなっていたから歩くことも出来ないがな」
「……私なの…!兄貴を変えたのは…」
聖歌はそう言いながらスカートを握り、首に刻まれた傷跡をさすった
その傷跡は、サッカーしただけでは到底着くことはない痛々しい物だった
- 第45話 ( No.137 )
- 日時: 2013/03/29 21:07
- 名前: 時橋 翔也 (ID: 8keOW9sU)
「…私ね、死にたかったの」
聖歌の言葉に皆の雰囲気が凍りつく 視線が全て聖歌だけに向けられた
「聖歌…?」
「サッカー出来なくなって…生きてても楽しくないって…」
聖歌は言った
「だから私入院してるとき、カッターで首を切って自殺しようとした!でもあともうすぐって所で兄貴に助けられて…それを何度も何度も!!死にたくて兄貴の気持ちなんて考えずに!!」
見舞いに行くたびに、聖歌が自殺しようとしている これを繰り返すうちに、磯崎は病んでしまいフィフスセクターを憎むようになったのだ
「だから俺も…手品とかサッカー以外で楽しめる事を教えたりしたんだ」
夜桜は微笑しながら聖歌をちらりと見た
「そしたら次第に良くなったよ…手品もある程度出来るようになったし、最近ではバスケもしてるんだろ?車イスのバスケ」
足が使えない以上、足を使うサッカーは出来ないが手を使うバスケなら出来る
車イスのバスケは公式でも認められているのはバスケファンの海音もよく知っていた
「…私のせいだ…兄貴が連れていかれたのは…」
「大丈夫だよ!磯崎はきっと帰ってくるよ!」
海音は聖歌に明るく言った エンドレス・プリズンがどのような施設なのかはわからないが、磯崎が聖歌を一人で置いていくなどしないだろう
「…復讐の為フィフスセクターに…か」
すると霧野は呟いた
「俺と似ているかもな…アールって」
「霧野先輩…?」
海音は霧野のいう意味がいまいちよく分からなかった
すると今度は夜桜が俯いた
「…アールの皆は、全員エンドレス・プリズンに行くはずなんだ、なのにどうして俺だけ…!」
「夜桜…」
海音は呟く 夜桜をエンドレス・プリズンに連れていきたくないと言うのもあるだろうが、…聖歌を一人にしたくないという思いも少なからずあったのだろうと思う
「…あいつ、自分がエンドレス・プリズンに行くのを分かっていたから、彼女も振ったしな」
夜桜は言った え?と周りの皆は夜桜を見つめた
「え?磯崎って…彼女いたの?」
「ああ居たぞ、てかあいつ以外とモテるんだぜ?俺はあいつが小6からの付き合いだが…あいつ卒業式に女子二人位から告られてたし、最近では別の女子から告られてた …まあそいつが彼女だけど」
「嘘ォォォォ!!?」
天馬と信助と霧野は声を上げた 絶叫とも言うべきか
「え?普通じゃないのか?」
「リア充爆発しろ!!」
さらりといった神童に霧野は叫んだ
「…じゃあ夜桜は?」
海音は気になり訊ねると、まるで凍りついたように夜桜は固まった
「いや…そのまあ…気にするなよ、な?」
「……(−_−)」
「わ、悪かったかよ!告られた事なんてねーよ!!」
夜桜が叫んだ 男の黒歴史とでも言えるだろう
すると神童はあることを思いだし、夜桜に訪ねた
「…光良、磯崎は俺達を反乱軍にしたと言っていたが、どういう意味だ?」
「…俺達アールは内側から でもそれだけじゃ足りない…外側からも攻撃が必要だった そこで…雷門を利用することにした」
夜桜は言った 利用?その言葉に天馬は首を傾げる
「利用って…俺達がフィフスセクターに反抗するように?」
「そういうこと」
「…まてよ」
すると今度は三国が口を開いた
「お前らはシードだろ?わざわざ俺達が反抗をしなくても、お前たちが起こせば良かったんじゃないか?」
「…まあ、学校が違えばそうしたかもな」
夜桜は三国を見つめた
「シードはある程度の訓練が修了したら所属する学校が指示されるんだ …そして俺達五人とも違う学校だったし、フィフスセクターの力が強い学校だったんだ」
「なるほど…うかつに動けなかったわけか」
神童は腕を組み納得する
「俺達が雷門を選んだ理由は…まあ偶然五人とも同じ関東地区で関東地区では雷門が強いってのもあるし、フィフスセクターからの干渉も少なかったから……それに、海音がいたからかな」
「え…ボク?」
海音は夜桜を見ながら自分を指差す
「お前は雷門に入るって言ってただろ?…海音は管理サッカーに絶対に従わないだろうし、お前なら雷門を反乱に導けると思った…もしそこまでいかなくても、そこは俺達でカバーできそうだしな」
「カバーって…どういうことだ?」
続いて霧野は訪ねた
その問いに、夜桜は問い返した
「…俺達が何故、ラフプレーをしたかわかるか?」
思ってもみない問いだった
周りの皆が答えられずにいると、夜桜は答えた
「理由は簡単、仲間を守ろうとする思いを奮い立たせるため」
「仲間を守ろうとする…思い?」
天馬は聞き返すが、その意味は大体想像はついた
「仲間が傷つけられれば、普通仲間なら守ろうとするだろ?…俺達はわざとお前らを必要以上に傷つけ、憎まれ役になってでもその思いを引き出した…そこだけは申し訳ないと言っておくよ」
「…でも磯崎は海音の足を…!」
そこで信助は言った 磯崎は試合で海音の足を狙ってスライディングを仕掛けた しかし剣城のお陰で聖歌のようにサッカー出来なくなる事は無かった
「…あれも、剣城を雷門に入れるためさ」
夜桜は信助を見た
「雷門に大体反乱の兆しが見えたら、次にやっかいなのは剣城だ… だから磯崎は今回剣城を試合に出させ、わざと剣城が嫌うプレーで万能坂から離反させた まああれは本気で海音の足を狙ってたけど…」
「剣城が嫌うプレー?」
「…あいつは、よくわからないが養成施設でサッカーが出来なくなるプレーが嫌いだったんだよ」
サッカーが出来なくなるプレー…その言葉が少しだけ海音の中で引っ掛かった
「あ、言っとくけど…磯崎は人一倍ラフプレーが嫌いなんだ 聖歌の事があるからな」
「…それでもあいつは俺達を…」
夜桜に言われ、神童は俯いた そこまでして磯崎はフィフスセクターを…
すると夜桜は近くのスポーツバッグからスパイクを二つ取り出した 両方とも右足で、万能坂の物だった
「…これが万能坂のスパイクの秘密」
夜桜は皆に片方のスパイクの裏側を見せる たくさんの鋭利なトゲがついていた これならスライディングで怪我するのも無理はない
「…んで、これが俺のスパイク」
続いて夜桜は自分のスパイクを見せた トゲはついているものの、先が丸くなっていた
「俺と磯崎はこっそりスパイクのトゲを紙ヤスリで削って、選手へのダメージを減らせるようにしたんだ…霧野の怪我も、鋭利ならその程度じゃないと思う」
「うう…スパイクパネェ…」
霧野は言った 加工によりスパイクだけでも驚異になるなんて思っても見なかった
夜桜は見せたスパイクをスポーツバッグの中にしまいこむと、皆を見た
「…とまあ…アールについては洗いざらい話したかな…」
「アールの人はまだ二人いるよね…何処にいるの?」
海音は訪ねたが、夜桜は首を横に振った
「それは言えない…でもお前らは戦うだろうな」
「…なあ、もし俺達が負けたらどうするつもりだったんだ?」
三国は訪ねた 確かに雷門を奮い立たせても、負けたらそこで終わりだ
「…でもお前らは勝った 負けるかもしれないなんてヤワなチームは俺達は選ばないさ」
夜桜、アールの答えがそれだった
あ、そうそう…と夜桜は続ける
「俺はシードを続ける、そうフィフスセクターから処分が決まった」
「大丈夫なのか?」
「ああ…俺はフィフスに従うふりしながら内部を崩壊させていく」
夜桜は心配する神童に言った
「…無理はしないでね」
「もちろん…ついでにアールの皆も助け出す」
それは夜桜の決意だった
すると今までの雰囲気と打って代わり夜桜は海音や皆を見た
「ほら、お菓子とか湿気るから早く食えよ!打ち上げだし…ここからは楽しもっか」
「あ、うん…」
「うわっ!ジュースこぼれた!」
「あちゃー…天馬やらかしたね…」
「はい、このティッシュ使って」
「ごめんね聖歌…」
「やれやれ… まあ楽しみましょう先輩」
「そうだな神童…」
「…絶対に皆、助け出すさ…必ず」