二次創作小説(紙ほか)

第46話 ( No.139 )
日時: 2013/03/30 20:55
名前: 時橋 翔也 (ID: xhJ6l4BS)


 フィフスセクター本部の薄暗いホールの中央に剣城は立っていた。立たされているというべきか。
 周りにはフィフスセクターの配下のものたちが並び、剣城を監視するように立っている。

 ホールの一番奥の高めの場所にある玉座、そこには一人の男が座っていた。
 歳は円堂くらい、白っぽい髪をストレートにし青いメッシュが入っていて、少し派手目な服を纏っている。足を組みこちらを見つめるその姿はまさに『皇帝』のようだった。

 フィフスセクターの現時点トップである『聖帝』、イシドシュウジだ。

「………」
 剣城は必死に威圧感に耐えていた。
 まるで全てを見透かすような目に、剣城は視線を背けるしか出来なかった。


「…剣城京介、君は我々を裏切ったのかな?」


 とうとうイシドが声を上げる。剣城はその威圧感に、何も言えなかった。
 契約した相手ではあるものの、こうしてじかに話したことなど無かった。

「お前は命令に逆らい、雷門の勝利に手を貸した。…シードとしてあるまじき行為だ」
 近くの男は言った。剣城もそれは重々わかっている。
 さらに男は剣城が恐れていたことを口にする。

「…今後このような事があれば、君の兄は生きる希望を失うことになる」

「……!!」
 剣城は反応した。まるで傷を抉られたような感じだ。
 イシドは剣城をまっすぐ見た。

「…私は信じているよ…。次の試合で証明してくれたまえ」


「……はい」

 剣城はイシドに一礼した。
 …そうだ、ここでフィフスセクターから契約を破棄されれば…兄さんは…。

 そんな事を考えながら、剣城はホールを周りの配下と共に出ていった。



 * * *



 打ち上げがあった日。
 始めはしんみりしていた打ち上げだったが、夜桜の手品やその他の面白い話のお陰でなんとかお菓子も完食し楽しく過ごすことが出来た。

 そしてさらに次の日の今に至る。

 海音は白いTシャツに指定ハーフパンツの格好で体育館に居る。周りでは同じ格好をしたクラスメート達がサッカーやバスケ、簡易防具の剣道など様々な競技を行っていた。この学校の体育館は馬鹿みたいに広いため、これだけ違った様々な競技をしていてもまだゆとりがある。

 本来ならこの時間帯はまだ二時間目で体育の授業の筈だったが、体育を担当している教師が体調不良で休みのため、こうした自由スポーツが許可されていたのだ。

「………」
 海音は同じく体育館に居る剣城に目を向ける。馴れ合いが苦手な剣城は周りから離れ、一人でただスポーツを傍観するだけだった。

 あのような行動を取って剣城がフィフスセクターから何も言われない訳がない。そう思い海音は何度か剣城に何かあったか訪ねたが、答えは決まって『話すことはない』だった。

 その時。


「…雪雨、バスケやらないか?」

 後ろから声がした。
 海音が振り返ると、そこにいたのはバスケ部の男子が数名立っていた。
「…いいけどどうして?」
「お前の兄さん、あの雪雨直矢さんなんだろ?」
 ああ、そういうことか…と海音は納得した。直矢はバスケの世界では超のつく有名人だ。その直矢が兄だと知ればバスケ出来ると思うのも無理はない。
 まあ、実際に出来るのだが。


 海音と男子達はバスケゴールに移動し、一対二のバスケをすることとなった。海音が攻撃で相手が守りだ。一対二だと不公平に思うかも知れないが、海音はこれでも勝てる自信があった。

「よーい…スタート!」
 掛け声と共に海音はドリブルで走り出しディフェンスへと突っ込んでいく。
 刹那、海音はゴールにダンクシュートを決めていた。

「え?何今の…」
「速い…!」
 見ていた周りの者達からそんな声が上がる。本当のバスケ部員である二人を簡単に抜き去る海音のドリブルを見れば当然だろう。
 サッカー部員でありながらも抜群のバスケの実力を持つ海音は、以前にも何度かバスケ部にスカウトされた事がある。勿論全て断ったが。

「海音くんすごい!」
「お前やっぱりバスケ部来いよ、エースになること間違いないぜ!」
「いや…ボクはサッカー部員だから…」
 確かにバスケは好きだがサッカーも好きだ。

 …でもどちらが好きかと聞かれたら、きっと回答につまるだろうな…。海音はふとそう思った。



 * * *



「…アール、か…」

 放課後、神童達から話を聞いた円堂は呟いた。まさか夜桜がそのような活動をしていたとは…少し驚いている。

「利用されてたのは気に食わねーが、…まあそのお陰で本当のサッカーを見失わずにすんだんだな」
 腕を組みながら倉間は言った。そうだね、と浜野も呟いた。
「でもさー、…あと二人残っているんでしょ?誰なのか気になるよね〜」
「知ったところでどうせ知らない奴だろ」
 隣の車田は言った。確かに言われればそうかもしれない。

「…まあ剣城は知ってるかも知れないが」

 三国がそう言うと、海音はふと剣城の事を思い出す。何か罰を受けたのだろうか…もしそうだとしたら心配だった。


 周りではすでに練習を始めていた。今日は天気が良いため第二グラウンドを使っている。
「海音一緒にサッカーしよ!」
「いいよ」
 天馬に言われ、海音は近くのサッカーボールを拾い上げ天馬と移動する。周りでも個人で練習したりグループで練習したりと様々だ。

 春とは思えない炎天下、海音は天馬と一対一でサッカーをした。サッカーといっても、ドリブルでのボールの奪い合いだ。
「そよかぜステップ!」
「スノーウインド!」
 必殺技を使い、力の限りサッカーをする。炎天下の中でのプレーなので、二人に限らず皆から汗がかなり出てくる。

 やっぱりサッカーは楽しいな…改めてそう感じた。

「暑いね〜」
「うん…」
 額の汗を拭いながら海音は頷く。暑いのは苦手だ。寒いのなら大丈夫だが。

「皆お疲れ〜」
 すると葵と茜が部員達に冷えたドリンクを手渡し始める。炎天下の中でのサッカーだったため、皆の喉の乾きは最高潮に達していた。
「にしても暑いな〜」
「こうした暑い中でのサッカーも中々良いだろ?」
 首に掛けてあるタオルで垂れてくる汗をふきながらドリンクを飲んでいた霧野に、円堂は笑顔でそう言った。

 殆ど汗を掻くこともない海音がタオルで次々と出てくる汗を拭っていた時だった。

「うわあっ!!」
「冷たッ!!」

 そんな声がして向こうを見てみると、水鳥が青いホースを天馬と信助に向けていた。先につけられた器具で本来なら普通の水が細かい霧へと変わり、二人に吹き付けている。
「うわっ!」
 更に水鳥は他の部員達にも次々と浴びせていく。元々冷えた水なので冷たくて気分がいい。

「これなら涼しいだろ?」
 水鳥は言った。確かにこれなら涼しいのは一目瞭然だ。
『…あの少女が雷門復活の引き金だな』
 レインにそう言われ、確かに海音もそうだなと思った。
 …水鳥のあの言葉が無ければ、きっと皆反抗なんて決断しなかっただろう。

「…レイン、ちょっと力を貸して」
『ああ、構わないが…何する気だ?』
「少しね」
 海音は呼吸を整え、右手を少しだけ挙げた。

「…あれ?」
 天馬はホースから出ているものが霧から別のものに変わったのに気づいた。白い粉のようで、手のひらにのせると水となり消えた。
「これって…雪?」
 手のひらに乗っかったものを見つめて神童は呟く。冷たい細かい粉であることからあながち間違いでは無いだろう。

「雪…?」
「え、天馬知らないの!?」
「うん、…沖縄に住んでたから…」
「しかし何故雪が…?」
 神童は一昨日の試合での出来事を思い出し、海音の方を見てみた。
 海音は右手を少しだけ挙げ、目はつり目で赤く雰囲気ががらりと変わっていた。

「…海音、なのか?」
「こっちの方が冷たいですよ」
 海音がそう言ったのが答えだった。


「………」

 剣城は学校の敷地内を歩いていると、皆が練習している第二グラウンドが見えた。万能坂戦では確かに味方をしたものの、正式にサッカー部員の仲間入りするつもりはないしサッカー部に近づく気にもなれなかった。

「あいつら…」
 第二グラウンドではホースから出ている雪で部員達がはしゃいでいた。この前までのあのピリピリした雰囲気は影も残さず消えている…。

「雪合戦出来るんじゃね?」
「浜野くん…、そこまで雪無いですよ。それに海音くんが大変です」

 よく見ると海音が『力』を使っているのが分かった。ホースから水ではなく雪を出せるのは海音位だろう。
 剣城は第二グラウンドの面々を見つめる。馬鹿馬鹿しい、子供みたいだ。そう思いもしたが何より…。


    ———楽しそうだった。


「すごいね!海音って能力者?」
「…まあ似たようなモノだな」
 海音は天馬に微笑んだ。すると信助は海音を見つめる。
「海音大丈夫?また性格変わったりしない?」
「…口調は変わるが、化身を出さない限りは大丈夫だ」
 海音は答える。その口調はレインそのものだった。


 …雷門を変えた蒼きストライカー。

 こいつはサッカーどころか…運命すらも変えてしまうかもしれない。