二次創作小説(紙ほか)

第47話 ( No.140 )
日時: 2013/03/31 14:47
名前: 時橋 翔也 (ID: 07JeHVNw)


 …まだ、誰にも話したことが無いこと。

 天馬はそんなことをふと考えながら、一時間目の授業を受けていた。授業はただ単に眠くなるだけだった。話を聞いてノートを取り、問題を解く…。眠くなるのに十分すぎる原因だ。

 まだこの事は、誰にも…親にも友達にも話したことが無い。

 知られて気味悪がられるのが、嫌われるのが怖かったから。

 それは…。


「天馬〜」

 そんな声が聞こえ、またか…と言いたくなるが天馬はこらえ、声のした方を見てみる。だがそれはいつもとは『ある意味』違ったものだった。

「見えてる?天馬?」

 幽霊、元より霊体、ではあるが…問題はその先だ。

 どうみても、その幽霊は海音だった。


「………」

 天馬は何も考えられず、思考が完全に停止した。約五秒後、再び思考が始動した天馬は海音を見つめる。

「…海音…なの?」
「あ、見えるんだ…」
 海音は言った。今時分が幽霊となっている事などまったく連想させない振る舞いだ。

 すると忘れ物をしたのか先生が教室から出ていき、周りは一気に騒がしくなる。その隙に天馬は海音に話しかけた。
「ちょっと待って!何で海音が死んでるの?」
「いや死んでないよ、身体はちゃんと教室で生きてる。…幽体離脱?って言うのかなコレ…」
 海音は言った。幽体離脱…聞いたことはあるが天馬も本物を見るのは初めてだった。

「…海音授業は?」
「レイン…もうひとつの人格が代わりに受けてるよ」
「ああ…やっぱり海音って二重人格だったんだ…」
「なんか…意識を宙に浮かせたら急に出来るようになったんだよねー…。何でだろ」

 海音は辺りを見てみる。この反応からして、どうやら今幽霊状態の自分が見えているのは天馬だけらしい。
「…天馬って幽霊見えるの?」
「………」
 海音の問いに天馬は俯き、そして心配そうに海音を見つめた。
「……うん、昔から…」
「へー…。知らなかったな〜」
「秘密だよ?…この事は誰にも話したこと無いから」
「わかった、約束する」
 その言葉を聞いて、天馬はかなり安心した。

 すると教室に先生が戻ってきた。同時に一気に教室は静かになる。
「…じゃあ戻るね」
 長居したら天馬に迷惑かかると思った海音はそう天馬に告げ、いかにも幽霊らしく浮遊し窓をすり抜けて消えていった。

「………」
 何だったのだろう、今の。

 天馬はそう思ったが、授業中だということを思いだし、再び黒板の文字を写し始めた。



 海音は浮遊した状態で自分の教室に戻ってくる。普通に自分が授業を受けているのが見えた。
「…戻ったか」
 自分の身体を今使っているのはレインだ。海音が近づくとレインは海音を横目に小さく言った。
「うん…。なんか便利だね幽霊離脱って」
「心配したぞ全く…。早く戻れ、お前は授業をサボっているのだぞ」

 レインに言われ、海音はまるで浸透するかのように自らの身体に入り込む。するとすぐに身体の主導権は海音のものとなった。
「…天馬は幽霊が見えるみたいだよ」
 一応レインは海音の一部なので告げていいと思い、海音は言った。
『にしても…何故いきなり幽体離脱出来るようになったんだ?』
「………」
 そう言われ、海音はひとつだけ思い当たる事があった。

 もしかしたらシュウがあの森に海音を招いたことが引き金となったのかもしれない。

「…今度聞いてみるか…」
『海音?』
「ううん、何でもないよ」

 海音はそう言い、サボっていた授業を受け始めた———。



 * * *



 学校が終わり、次々と教室から生徒達が出ていく。海音はこうして掃除当番も無い日は廊下で天馬や信助と待ち合わせて一緒に部活に行くことが多かった。
 だが廊下に来てみても、二人の姿は無い。

「あれ…掃除当番かな」
 海音は辺りを見回し、二人が来ないのを見て呟いた。
 まあいいや…先にいこうか。そう思い海音が歩き出した時だった。

「…雪雨」

 急に呼び止められ、海音は後ろを振り向いた。次々と生徒がすれ違う中、剣城の姿が確認できた。
「剣城…どうしたの?」
 ずっと海音を無視していた剣城がこうして話しかけるなど珍しい…。

 剣城は睨むように海音を見つめ、そして口を開いた。
「…お前は何故サッカーにこだわる?」
「え…?」
 今さらながらの質問だと思った。
 だがある意味、正当な質問かもしれない。

「何故って…ボクはサッカーが好きだから…」
「…バスケよりもか?」
 剣城に問いただされ、海音は言葉に詰まった。サッカーかバスケか。サッカー部員ならばサッカーだと答えるのが当たり前だが、海音にとって二つとも大切なものだったのだから。
「それは…」
「…お前はバスケットボールを持ってたし昨日のバスケからしてかなりの熟練者だ…。……本当はバスケの方が…」

「そんなことないよ!」

 少し声が大きすぎたかもしれない。周りの生徒達は海音を驚いて見つめた。
「まさか…。サッカーの方が好きだよ?どうしたのいきなり…」
 海音は言うが、動揺を隠しきれていない。
 剣城はこれらを踏まえて、海音に訪ねてみた。


「……お前がサッカーをするのには、何か特別な理由があるんじゃないか?」


「………」
 海音は何も言わない。だが剣城に見つめられ、海音は口を開いた。
「…ボクはサッカーが好きだからサッカーしているんだ」
 それだけを言い残し、海音は剣城に背を向け早歩きで去っていった。

 まるで剣城から逃げるように。

「………」
 剣城は海音のその背中を、ただ見つめていた。