二次創作小説(紙ほか)

第48話 ( No.143 )
日時: 2013/04/01 19:04
名前: 時橋 翔也 (ID: cFLcjEJH)


「…どうした海音、悩みごとか?」

 部活の休憩時間、ベンチで俯いていた海音の隣に霧野が座り訊ねた。海音は霧野をゆっくりと見る。

「…先輩はサッカーが一番好きですか?」
「え?……ああ」
 霧野は頷いた。当たり前か…でなければサッカー部になど入らないだろう。
 自分はサッカーも好きだしバスケも好きだ。直矢の影響のせいもあるかもしれないが、どちらかを選べと言われたら…。
「………」

 自分がサッカーをする理由は…きっと———。


「皆さん!ミーティングがあるのでミーティング室に集まってください!」

 屋内グラウンドに葵の声が鳴り響く。ミーティングという単語に、ホーリーロード準決勝の対戦相手を連想させた。
「…行こうか」
「……はい」
 霧野に言われ、海音は頷き立ち上がって共にミーティング室へと向かった。



 * * *



 ミーティング室にやって来ると、海音はいつも通り天馬の隣に座った。海音、天馬、信助は仲が良かった為、こうしてまとまる事が多い。
 円堂は部員が剣城以外全員居るのを確認し、隣の音無からボードをもらって話始めた。

「準決勝の対戦相手…。本来なら青葉学園の筈だったが、突然フィフスセクターによって帝国学園に変更となった」

 周りがざわめき始める。海音も帝国学園は良く知っていた。
 十年前、雷門が日本一となる前までは四十年間無敗を誇る超強豪だった。今でも幾度となく全国大会に出場している名門だ。
「帝国学園は確か…。フィフスの支配下にあるらしいぞ」
「とうとうフィフスは俺達を本気で…」

 だが、もう後戻りは出来ない。
 それは部員達も分かっていた。

「………」
 音無は持っていたボードの紙に釘付けとなっていた。海音は気になり、音無の方を見た。
「先生どうしたんですか?」
「……データを見ると、帝国の総帥が…『鬼道有人』となっているの」
 音無は言った。鬼道と言えば現在はイタリアのプロリーグで活躍している天才ゲームメーカーだ。かつては帝国のキャプテンだったが、円堂と共に雷門で戦った事もある。

「…鬼道有斗は、私の実の兄なの」
「えええ!?」
 音無の言葉に天馬達は声をあげる。余りにも驚愕の事実だった。
「…鬼道がフィフスセクターの支配下にあるとは思えないんだが…」
 円堂は呟いた。かつての友ならそう思うのも無理は無いだろう。



「…帝国学園は攻撃にも守りにも優れたチームだ」

 先程の話とはうって変わり、円堂は皆にそういった
「帝国のようなチームは厚い防御を崩し、一気に攻め上がる戦法が向いているだろう」
 神童も言った。まだ情報は入って来ないが、恐らく帝国にはシードが何人も居るだろう。

 ———そしてアールの一人も。

 神童はキャプテンとして、作戦を立てるべく思考をフル回転させる。すると防御を崩すという点において、ある必殺タクティクスを思い出した。
「そうだ…円堂監督。以前久藤監督と考案した『アルティメットサンダー』という必殺タクティクスが有るんです」

「アルティメットサンダー?」
 海音は聞き返す。どんな必殺タクティクスなのか全くわからない。

「何人かでボールをパスしてエネルギーを溜め、それを最後の一人が相手のDF陣にシュートして守りを崩すんだ」
 三国は言った。
 なるほど、それでアルティメットなのか。海音は納得する。

「…でも最後のボールを蹴るのが成功しなくて…封印されていたんです」
 速水は俯きながら言った。
 強大なエネルギーなだけ、打ち返す力も強くないといけない。アルティメットサンダーの鍵は、強力なキック力なのだろう。

「…わかった やってみよう」
 円堂は頷いた。その声が合図となり、海音達は再び屋内グラウンドへと向かった。



 * * *



 屋内グラウンドで話し合い、バックパスをする四人を決め、初めは神童が最後のボールをシュートすることとなった。
 この必殺タクティクスが出来るかどうかで試合の命運は決まる…。プレッシャーが部員達にのしかかった。

「いくぞ!」

 神童の掛け声と共に五人は動き出した。
 シュートする神童の周りで車田からのバックパスが始まる。
「速水!」
「霧野くん!」
「天城先輩!」
「…神童!」
 四人分のパワーを溜めた雷のようなボールがこちらへと向かってくる。待ち構えていた神童はそのボールを力の限り打ち付けた。

『成功するのか…?』
「…いやダメだ!力が足りない!」
 海音の言い分は正しかった。

「うわあっ!!」
 神童はエネルギーが溜まったボールを制御できずに力に弾かれ、倒れこむ。
「神童!」
「大丈夫ですか!?」
 周りの部員達は神童に駆け寄る。幸い怪我はしていないようだった。

「あ、ああ…大丈夫だ…」
 神童はそう言いながら立ち上がる。すると今度はそれを見ていた倉間も手をあげた。
「じゃあ…俺もやってみる」

 二回目は神童に代わり倉間がシュート役として挑戦した。さっきのようにバックパスを繰り返し、大きなエネルギーが溜まったボールが倉間めがけてやって来る。

 FWである倉間はそれなりのキック力も力も持っている。だがボールはその力に勝っていた。
「うわあっ!」
 倒れ込みはしなかったものの、ボールは弾けて近くに転がった。それを見て倉間は自分の実力を思い知る。

 ———この必殺タクティクスは以前、南沢を中心に練習していた。だが南沢のキック力を持ってしても、アルティメットサンダーを完成させる事は出来なかったのだ。
 やっぱり自分なんかでは無理なのだろうか…。倉間は手を握りしめそう思った。

「海音もやってみろ」
「あ…はい!」
 神童に言われ、海音は倉間と交代する形で持ち場についた。

 三度目の正直。再び車田達はアルティメットサンダーのバックパスを始めた。ここから見ていると、このバックパスだけでもチームワークが必要になってくる気がする。
 ———そして最後の人が、皆の思いをシュートに変えて打ち込むのか。

 目の前に雷のボールがやって来て海音はそれを蹴りつける。とてつもないパワーだ…。そう思ったが、海音は『いける』と感じた。
 打ち返すべく、海音はさらにシュートするときのように力を込めた。いけると感じたが、———次の瞬間。


 引き裂かれるような痛みが閃光のように海音の身体を貫いた。



 「うわあああああああああああッ!!」



 高く大きな悲鳴の後、海音は倒れてうずくまり利き足である右足を抑える。まるで鋭利な刃物で何度も刺されたかのような強く鋭い痛みが身体中を駆け巡った。

「海音ッ!!」

 天馬の声が聞こえた。同時に部員達は海音に急いで駆け寄り始める。それは見ていたマネージャー達や先生も同じだった。

「海音大丈夫!?」
「…ひどい怪我だ」
 信助と三国の声が聞こえてきた。葵は救急箱持ってくると言い急いで屋内グラウンドから出ていった。
 海音は自分の足を見てみる。青いソックスからは血がだらだらと滲み、青ではなく紫色になっていた。

 ——天河原戦の時の怪我が今さらになって開いたのか…。のんきに海音はそんなことを考える。

 葵が救急箱を持ってきた時には、すでに痛みもさっきに比べて引き始め、海音はゆっくり辛うじてながらも起き上がる事が可能となっていた。途端にレインが語りかけ始める。
『…海音俺を出せ』
「え?…どうして?」
『いいから早く』

 レインに急かされ、海音は仕方なくレインと交代する。レインは交代すると救急箱を開いた葵を見つめた。
「葵…。手当ては自分でする」
「え?ダメだよ安静にしてないと!」
「手当てくらい自分で出来る…。…貸せ」
 レインははっきりと言い、葵もしぶしぶレインに救急箱を渡した。救急箱の中身を人目見ると、レインは慣れた手付きで次々と包帯やら薬やらを取り出した。

『……!?』
 まるで経験済みのような手付きでてきぱきと傷の手当てを進めていくレインに、海音は驚きを隠せなかった。今までレインはこうして手当てしたこともなかった筈なのに。

 数分後、手当ては終了し、まるで医者がしたかのように足には包帯が巻かれていた。救急箱を葵に帰すと神童はレインを見つめた。
「海音…。お前手際良いな…」
「……まあな」
 レインは神童を少し見つめ、そして視線をそらし海音と交代する。その横顔はどこか…寂しそうにも見えた。

「海音立てるか?」
「…はい」
 円堂に手を差し出され、海音はそれを掴み手を引かれ立ち上がる。途端に鈍い痛みを感じたが、先程の激痛でそんなに痛いとは感じなかった。

 ———迂闊だった。まさか天河原戦での怪我がこうした結果になるなんて。


 そんな海音をよそに、再び周りでは練習の為持ち場へ戻っていくメンバー達がちらほら見え始めていた。